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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
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竜人族のカロロ

1ー015

  

――竜人族のカロロ――

  

 私の名はカロロ、竜人族の娘なのー、舌の形が悪いのか、あまりうまくしゃべれない〜。

 同い年の子供達と比べても体が小さいのでどうしても幼く見られてしまうけど、メディナとは親友で同い年なのー。

 キャピキャピで可愛い盛りの17歳の乙女なのーーーっ。

 

 だけど竜人族は成人するのに500年かかるから、肉体的には5ヶ月の赤ん坊相当なんだってー。

 身長が10メートルを超える竜人族も子供の頃には人間達より小さい時期があるの〜。

 子供の時期だけが人間たちと一緒に暮らせる時期なの、だから同い年の子供達とお話が出来るのが凄くうれしかったのー。

 

 メディナに会ったのは学校の初等部に入学した頃なのー。

 入学したころはみんなと同じくらいの大きさだったからすぐにみんなと仲良くなって、その時同級生にいたのがメディナだったの。

 最初の頃はみんな仲良しだったの、カロロは人気者になったのー。でもやっぱり竜と人とは違っていたの。

 

 お昼はみんなで輪になってお弁当を食べるの。でも種族ごとにお弁当の中身は違っていたの。

 肉を食べられない兎耳族の女の子のお弁当は芋や野菜だったし、犬耳族の女の子は焼いた肉とパンをフォークで食べていたの。

 でもカロロのお弁当はバスケットに入れられた大きな肉の塊だった。カロロのお母さんは体がもの凄く大きいので細かい事が出来なかったの。

 別にそれでも問題は無くて大きな肉を口に突っ込んで歯で噛みちぎっていたら、みんながものすごく引いていた。

 

 獅子族の男の子達は同じような食べ方をしている子もいたけどなー、でもメディナが黙ってカロロのお肉をナイフで切ってくれたの。

 小さく切られた肉を口に放り込んでいくと口も手も汚れない、これがきっと行儀のよい食べ方なんだと思った。

 でもカロロがナイフを持つとぽっきりと折れてしまった。しかたなく肉の塊を自分の爪でスパスパと切って口に放り込んだ。

 すると女の子たちから距離を取られてしまう、なぜかメディナちゃんがため息をついている、不可解なのー。

 

 そう言った子細なすれ違いは有ったものの、種族間の偏見や争いはあまり存在はしていない。世の中はそんなものだとみんなが思っていたからである。

 ただ人間は自分たちと違う物を忌避する傾向が有るという事はお兄ちゃんに言われていた。お兄ちゃんも子供の頃は苦労したみたいなの。

 カロロが完全に浮いた存在であることは仕方がない、カロロは竜人族で有り成人すれば身長が10メートルを超える怪物になるからなの。

 

 それは魔法の訓練を始めた頃から顕著になって来た。

 学校では低学年から魔法の授業が有る。自分の意識をコントロールして魔力の操作を行える様に行う精神の訓練なの。

 魔法は生活を行う上で火を起こしたり風を送ったり出来て非常に便利な物だったからなの。

 そこでは魔力とは魔獣の持つ魔力細胞をエネルギー源として使われていると教えられる。これが体内に入る事により魔法を使える様になるそうだ。

 

 精神を集中し心のイメージを明確にすると魔法が形を表す、早い子供は幼少時から魔法を出せる子供もいる。

 みんなが校庭に丸くなって座って魔法を出す練習をする、万一魔法が発動しても周囲に被害を出さないためなの。

 最初の頃は手の中に光を出すイメージを作り、何人かの子供の手のひらにぼうっと小さな光が現れる。

 しかし中には手のひらから炎が上がる子供もいる。

 この時代、光と言えばランプであるので、魔法はイメージなので子供には光と炎の区別がつきにくいのが原因と言われている。

 服に燃え移ると危ないので、急いで先生が子供の手に防炎布を被せて魔法を止める。


 一般的に肉を食べない兎耳族は魔法を使えないとされているが、実際は滋養の為に肉のスープを飲むことは珍しくはないので兎耳族でも魔法は使える。

 ただ武器として使える程の強力な物では無くせいぜいがマッチ代わりの火の魔法か、懐中電灯代わりの光の魔法がせいぜいなのである。

 重要なのはイメージであり、光なら光を、炎なら炎を、風なら風の魔法を的確にイメージとして使える事が重要なの。

 わずかでも魔法を使えれば、生活上の利便性は非常に向上するのでそれなりに重要な授業だったの。

 

 カロロは魔力量は大きいので、手のひらにできた光球はギラギラと周り中を照らし出す、さすがに竜の子だとみんなに言われる。

「はいはい、カロロちゃん。そんなに大きくしないでうんと光を絞る練習をしましょうね~」

 大きすぎる魔法はあまり良くない、コントロールが出来ていない証拠だと言われた。

「はーい、頑張るのーっ♪」 

 これが炎の魔法だったら、周囲の子供達に危険が及ぶと冷や汗ものの先生である。すすすっとさりげなくカロロの周りから子供達を引き離した。

 カロロは竜人族だから、子供であっても驚くほど大きな魔法力を持っている。大人になればブレスを吐き出し、周囲を火の海に出来る程の生き物だからだ。

 驚いたのがメディナちゃんである。手の中の光球はカロロにも負けないくらい強い光を放っていたのだ。

 

「これはすごいですね、メディナちゃんももう少し光を絞る練習をしましょうね~」

「う~ん、小さくなれ~っ」

 光は急速に光量を減らして小さな光の球になる。

「すごいわーっ、メディナちゃんはすごく魔力コントロールが上手ね~」

 先生に褒められて少し得意になるメディナちゃんであった。

 重要なのは光でも炎でも自由に強弱をつけられる様に訓練することにある、その為の精神集中とイメージの練習である。

 特に炎と光と風の魔法は、一般生活でも使用ができる便利な魔法なので学校でもこれに関しては力を入れている。

 電気の魔法はあまり使いみちがない。魚を取るのに便利らしいのでこれができる子は川で魚取りに使って、周りの子供たちをしびれさせて先生に怒られていた。

  

 例外なのがヘル・ファイアと呼ばれる光の魔法で有るが、一部の獅子族しか使えない強力な魔法だが、狂暴な大型魔獣でも一人で倒せるほどの威力がある。

 ただし体中の魔力細胞を消耗してしまい、しかも強度のコントロールが全く効かず、使った後は魔力不足で動けなくなると言う使い勝手の悪い魔法でもあった。

 もちろん竜人族は使えない、もし使ったら街一つを灰燼に帰すると言っていた。灰燼って何だろう?どちらにしても良いことではなさそうだ。

 

 男の子達は力に憧れヘル・ファイアの練習をしていた。流石に体が小さいので出来る子はいないが、学内ではそれを厳しく禁じていた。

 しかしヘル・ファイア以上の魔法が有る、それが竜人族のブレスである。

 カロロは幼くとも竜人族だったのでブレスの魔法は使えた、無論それを使ってお肉を温める程度しか使いみちは無かったけど。

 それでも口から炎を出す子供を恐れるのは自然な気持ちだと思う。

 魔法を見せる度に周囲の友人たちとの違いをはっきりと見せつけることになり、距離が少しづつ広がっていくのを感じていた。

 それは竜人が受け入れなければならない業のような物であった。

 

 それと同じ悩みをメディナは感じていた。

 

 最初は魔法の力が強くコントロールもうまくできたメディナは先生に褒められるのがうれしくて一生懸命頑張った。

 その結果獅子族の子供並に強い魔法も使えるようになってきた。

 兎耳族の友達はすごく褒めてくれたし他の種族の子供達も羨望の目で見てくれていた。

 しかし魔法の威力が他の種族を超えるようになると、兎耳族の子供も何かおかしな物を見るような目つきになってきた。


「メディナちゃん少しおかしいと思わない?」

「お父さんが犬耳族のせいかしら?」

 疑問が有らぬ噂を呼び、事態は悪化して行く。すると徐々に友達がメディナから距離を置くようになってくる。

 自分達と異なる者を遠ざけるのは子供の本能のようなものである。


『メディナちゃん、肉を食べているんじゃない?』

『お父さんが犬耳族だしね』

 兎耳族は肉を食べられない、消化が出来ないのだ。それ故に肉を食べない事が兎耳族の戒律の様になっていて肉食を忌み嫌う風潮があった。

 メディナにはその理由がわからなかった、メディナは家でも肉は食べていなかったのである。

 だから自分の何が悪いのか見当がつかなかったのだ。

 

 カロロの魔力はひとり桁が外れていたが、その容姿と相まって多少距離を置く子供もいたのは仕方がないと思っていた。

 何しろ竜人族の大人といえばひとりで一国の軍隊を相手に戦うことの出来る怪物なのである。恐れと羨望の入り混じった感情がみんなにはあったのだろう。

 そう言った状況の中、みんなから孤立してきた者同士、何となく寄り添うようになるのは必然であったと思う。

  

 自分が子供達の中でも異質な者であると気が付いていたカロロは、努めて明るく振舞いみんなと仲良くすることに努めていた。

 逆に魔法力をアピールすることで、仲間から外されているメディナを目立たなく出来ると考えていた所もあった。

 そう言った訳で魔法のコントロールも最近はうまくなったカロロは、みんなの前ではっちゃけた魔法を使えるようになってきた。

 

「やっほーっ♪」

 今日も校庭で口から出したファイアボールでお手玉をしている。周りを取り囲んだ同級生が喜んではやし立てる。

 同じことをメディナがやると皆はメディナから遠ざかってしまうと言うのに。

 ところが火の玉で遊んでいたカロロのドレスに火がついて燃え上がってしまったのだ。 

「あややや~っ!」

 全身が火だるまになったカロロは慌てて火を消そうとする。

「危ない!」

 近くで見ていたメディナは慌てて前に飛び出すとカロロに向けて風の魔法を放った。

 カマイタチとなった空気の刃はカロロの体に食い込んでいくと燃えている服をズタズタに切り裂いた。

 

「痛っ!」

 カロロの体に弾き飛ばされたカマイタチが周りにいた女の子の腕に当たって血しぶきが上がる。

 ところが燃えていた服がボロボロになって脱げ落ちたカロロは、傷ひとつ無く平気な顔をしている。

 

「だ、大丈夫!?」

 メディナは慌てて怪我をした少女の所に駆け寄る。

「カロロ悪い、こんな事になると思わなかった。すぐに保健室行く」

「カロロちゃんは何ともないの?」

「カロロ竜人族ー、こんな事で傷付かない」

「いいから早く保健室に行きましょう」

「いいわ、私達が連れて行くからメディナちゃんはカロロちゃんを見てあげて」

 怪我をした娘はみんなに保健室に連れていかれ、メディナとカロロはその場に残された。

 後でカロロとふたりで先生からたっぷりとお説教をされた。

 

「メディナ悪くない、メディナはカロロ助けようとした」

 カロロの言葉に先生は大きなため息をついていた。

 カロロは竜なので怪我をしなかったが他の子はそういう訳には行かない。

 魔法は常に使用場所に注意しなくてはいけないと言われた。もし他の子にこんな事をすれば怪我では済まないのだ。

 メディナは魔法の使いどころが間違っていたと言うのだ。

 

 ある日トイレで同級生が話をしているのを偶然聞いてしまう。 

「メディナちゃんおかしいよね、兎耳族があんな魔法を使える訳がないもの」

「そうよね、まるで魔獣みたい」

「家で肉でも食べているのかしら?」

「そうでもなければあんなに魔法が使える訳がないもの。」

「だとしたらちょっとねー」

 

『魔獣みたい』

  

 その言葉がメディナの心をえぐったようだ、自分がみんなからどのように思われているのか分かったからだ。

 竜人族のカロロの魔法が強力なのは当たり前の事だ。しかし種族の中で最弱の兎耳族は弱いのが当たり前なのだ。

 当たり前から外れた者はみんなから仲間外れにされる。兎耳族の友達もメディナを気味悪がって距離を置くようになってきた。

 メディナは友達と話す事も少なくなり孤立していった。

 

「メディナ元気なーい」

 そんなメディナをみていたカロロが声をかける。 

「何でもないよ……」

「仲の良かった友達、今一緒にいなーい」

「…………………」

 あの一件以来あまり友達との仲はうまくいっていなかった。

 声をかけてくれた友達も徐々に減っていき、最近ではメディナを遠巻きにしているような感じすらあった。

 

「メディナ悩み、わかるーっ」

「ありがとうカロロちゃん。でもこれはカロロちゃんでもどうにもならないから」

「メディナお兄ちゃんに悩み聞くー、お兄ちゃんカロロに色々教えてくれるー」

「あ〜っ、でも無理よ、竜人族のお兄さんじゃ私の悩みはわからないと思うから」

「カロロ病院に行った〜、聖テルミナ病院、バルバラ医院長相談に乗ってくれた〜っ」

「で、でもあたし病気と言う訳じゃないから…」

 

 バルバラ医院長と言えば兎耳族のお医者さんで、毎朝聖テルミナ病院の前をお掃除しているのは知っていた。

 背が高くて胸の大きな女の人で、何故かいつも仮面で顔を隠している怪しい人だとクラスでも囁かれていた。 

「医院長さんお兄ちゃんといっしょにカロロ育てたー、今でも色々お話ししてくれるーっ。メディナお兄ちゃんと話するー、医院長さんの事聞くー」


 その日メディナはカロロに引きずられて龍の巣に連れて行かれた。


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