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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
146/221

天上神からのお告げ

6ー014


――天上神ヘイブからのお告げ――


 医院長の馬車はゆっくりと歩を進め、ベギムの村に到着した。

 

「なにこれ?一体何が有ったのかしら?」

 いくつもの建物が倒壊し木々が倒れ、黒焦げになった畑がいくつも有る。戦争の後でも有るようにみえた。あちこちで残骸を燃やす煙が上がっている。

 

翼竜ヴリトラに襲われたのですよ、私がここに来る事を望んだのはこのためですから」

「シリアさんはご存知だったのですか?」

「そのせいで狼人族と兔人族の台地の間で戦争が起きました。私の大事な人々は無事なようでしたが、こういった理由で探査装甲車の探査が中断していたのです」

 

「それではティグラを迎えに行きたいというのは?」

「半分言い訳のようなものです。実際の状況をこの目で見ておきたかったのです」

 ゴトゴトと村の中心に向かって走っていく馬車である。広場に出るが集会室は跡形もなくなっていた。

 その集会室の前に大きなテントが設置され、そこからティグラが顔を覗かす。それを見たシリアは馬車からポーンと飛び出した。

 

「ティグラー!よかった〜。とても気になって会いたくて仕方が無かったのですよー!」

「おお、シリアじゃないか!この間は助かったよ。おかげで遠征部隊もなんとか死人を出さずに済んだみたいだ。今日は見舞いに来てくれたのかい?」

 ふたりは無事を確かめるように抱き合った。

 

「あの爆撃を見た後は全ての探査装甲車の使用が禁止されたの。次の翼竜の攻撃が有るかどうかわからなかったからなの」

「ああ、それは仕方が無いだろうね。あの人族達はものすごく脆弱だものね」

「戦争は終結したことを市長に言ったんだけど信じてもらえなくてね」

 シリアは苦笑をするが、探査装甲車が翼竜ヴリトラ瘤翼竜ギガンドーグの標的となっている以上、市長としては用心せざるを得ないのだ。

 

「ティグラおばさん?」

 馬車から降りてきたリクリアがシャーマンの顔を見て声を掛ける。

「おお、リクリアじゃないか!台地に行くと出ていったが無事に帰って来れたのかい」

 ティグラの表情も嬉しそうにパッと笑顔に変わる。

 

「はい、行方不明だった妹を見つける事が出来ました」

「おお!、リクリアが翼竜に食われたと言って追った妹御かね!何と無事じゃったのか!それで?その子はやはりどこかの村で育てられていたのかい?」

「いえ、それが、海の向こうの大陸に運ばれて、そこで育てられていました」 

「…そ、そうかい?そうだねえ。草食の翼竜が子供を襲ったという事自体信じがたい事じゃったんだが、やはり天上神ヘイブの采配だったのかねえ」

 

 リクリアはメディナを紹介する。

「初めましてカルカロスの街のメディナと言います」

「カルカロス?はて、何処かで聞いたような街の名前だねえ」

「あの…もしかしたらコタロウさんとお会いになっておられますか?」

「おお、そう言えば!あのコタロウという竜人と同郷の人間なのかね?あの者は故郷に帰ったのかね」

 

「はい、戻ってきています。私はそこで狩人として暮らしています。私は種族の違う両親に育てられました」

「そうかい?あちらの大陸でも異なる種族には寛容なようだねえ、良かった良かった。まあ、あのコタロウを見る限り穏やかな街で育ったとは思っていたんだがねえ」

 

「コタロウさんも一緒に来てはいますが、今は山の上の神殿で待機しています」

「そうかい?黙って帰っちまったからねえ。それじゃそのうち顔を見せるだろう。あんたはお姉さんと違って肉を食わなかったんだね」

「はい、私のいたところでは兎耳族と言って肉を食べられない種族がいたので、私も食べないのが普通だと思っていましたから」

 

「ところで、そっちの人は?」

 ようやく紹介が自分の番になったと思った医院長は、馬車の御者台に駆け上りけたたましい挨拶をする。

「オーッホッホッホッ!私はカルカロス街のバルバラ医院長と申しますわ〜。お見知りおきを〜!」

 

 ★  ☆  ★  ☆  ★

 

「なんだい、あの変態は?」

「カルカロスにある聖テルミナ病院で、医院長をやってるアレな人で馬車の持ち主です」

「病院?お医者さんかね?治すより殺す方の専門じゃないのかねえ」

 流石にティグラの洞察力はシャーマンの枠を超えている。

 

「皆さんがお困りと思って救援物資を持ってまいりましたわ、どうぞお収めください」

「医院長さん、救援物資ってなんですか?」

「日用品雑貨に布ですわ、多少ですがお困りだったでしょうと思いまして」 

 なんか取引に使うとか言っていたが、太っ腹なことに救援物質として使うようだ。

 ティグラがぱっと飛び上がると馬車の荷台に飛び乗りぐいっと顔を医院長に突き出す。

 医院長もかなりな大きさが有るが、ティグラのほうが身長が高く上から見下ろすようになる。

 

「あんたもシャーマンなのか?どうして村の状況を知っていたんじゃ?」

「おやおや?私の美貌を見たいとおっしゃるのかしら?」

 ちらっと仮面の下の顔を見せて胸を突き出す医院長、その言葉にも怯むことなくティグラはじっと医院長の仮面を睨み続ける。

 ちなみに老いたとは言え肉を食った兔人族の女性である、医院長と大きさ勝負は。まあ……うん。

 

「シャーマンにしてはなにか、天上神ヘイブのような波長を感じたのだが、どうやら気のせいだったようだかねえ」

 なかなかに彗眼のティグラである。早くも医院長の恐ろしさに気が付いている。

「こちらに向かうのに手ぶらというのもなんですので、少々土産を持ってきましたのよオーッホッホッホッ!」

「そうかい?それならありがたくいただくとしよう。それであんたは見返りに何を求めるね?」

「いえいえ友好の証ですのでどうぞお納めください」 

 バルバラがそう言うとティグラはテントに向かって大声を上げた。

 

「メイ、シジン村長を呼んどいで!救援物資をもらったよ!」

 テントから小さな犬耳族の子供が飛び出すと、尻尾を振りながらコロコロと村の方に走っていく。

 

「なに、あの子達。かわいい〜っ!ティグラさんのお孫さんですか?」

「兔人族から狼人族は生まれないよ、あの子達はワシの弟子さね」

「私が小さい頃にはあんな子供達と一緒に修行をしていたんだけどね」

「あの頃の子供はみんな大きくなって所帯を持っておるよ。近所の村に嫁いだ者もおるしな」

 

 子供たちに呼ばれて村長シェリクと数人の老人が現れる。老人とは言え狼人族であるから、みんな巨大な人間たちである。

 他に女性もいたが、狼人族は男女の個体差は少なく身長は男とあまり差はない。

 良く鍛えられた体に、医院長の頭ほどの大きさの物が付いており、こころなしか医院長が引いているように見える。

 

「これはこれは、救援物資をいただけるとのこと、感謝に堪えません」

 初老の狼顔の村長シェリクは愛想良い笑顔でやってくる。

「今の村はこの有様でしてな、若者は全員が狩りに出ております。とりあえずの食料を得なくてはなりませんから」

 バルバラ医院長の指示で救援物資を馬車から下ろすと村の方に持ち去っていった。

 

「今回の翼竜の襲撃で村の者にも死人が出まして、何件もの家が壊されてしまい沢山の道具も破壊されました。着るものも不足していたおましたので、今回の援助は非常に助かります」

 リクリアは世話になった狼人族の役に立てたことはとても嬉しいと思った。

 しかしなぜ?バルバラ医院長はベギムの村の状況を知っていたのだろうか?この荷物を仕入れたのは出発前のことだと言うのに?

 そんな疑問はとりあえず考えないことにした。

 

「今は何も有りませんが、せめてものお礼としてお茶でも振る舞わせていただきたい」

 集会室の代わりとなっているテントに案内される。

 テントに近づいていくと、その袖からこちらを覗いている兔人族の女の子の姿が見える。みんなが近づいていくとさっと姿を隠す。すぐにシリアがその後を追う。

 

「エンルーちゃんね、シリアですよ。初めまして」

「シリアおばさん?」

 エンルーはポフンとシリアに飛びついてきた。

 

「うれしい、すごく優しい感じの交感フェビルだったから、会いたかったの」

「今回のことはよく頑張ったわね、台地ダリルにも大地グランダルにも大きな被害が出なくて済んだし」

「でも、翼竜の攻撃で沢山の人が死んじゃったし」

「恨みの連鎖は決して良い未来をもたらさないわ、それよりより良き未来を作っていかなくてはなりませんからね」

 

 テントの中で車座に座るとティグラがお茶を淹れてみんなに配る。

  

「ボロック達の酋長ゲルドはまだ台地ダリルにいましてな、今後の事を話し合っております」

「竜人様はどうなされたのでしょうか?私が村に帰ってきたらすぐにいなくなってしまわれました」

「コタロウさんは一度国に帰って来られたそうですよ、今は神殿におられますわ。そのうちこちらに顔を出されるでしょうね」

 ニッコリと優しい笑顔でエンルーに説明をするシリア、人の扱いに長けた人だとリクリアは思った。

 

「このお姉さんたちは?」

台地ダリルから追放された兔人族の方たちですよ、コタロウさんのお友達です」

「初めまして、元巫女候補のエンルーと申します」

 みんなに向かってぴょこんと頭を下げる。

 

「なにぶんにも最初の攻撃で集会場を破壊されてしまいましてな、翼竜はエンルーを狙ってきたようなので、最初に集会場を狙ったのでしょう」

「子供たちは無事だったのでしょうか?」

「狼人族の子供を甘く見ないでもらいたいものだね。逃げろと言われれば翼竜なんぞに殺されるもんかい」

 子供とは言え狼人族の身体能力の高さ故だろう、実に逞しい種族である。

 

「なぜこんな子供を翼竜ヴリトラが狙わなくてはならないのでしょうか?」

「この子は台地の神殿から放逐されたばかりか、僧兵を使って殺されそうになったことがあってな、普通は考えられない事なのじゃよ。それくらいこの子の巫女としての能力が高かったということのようじゃな。

 その話を聞いてリクリアがすごく嫌な顔をするのは、神殿の醜悪さに辟易しているからであろう。

 

「それが台地ダリルにおける神殿システムの病理なのですよ。龍神ダイガンドと交信を行える者が多くなると神殿を支配できる家が増えてしまうので、それを名家は嫌っているのです。

 私も妹もそうやって台地ダリルから放逐されましたが、逆に瘤翼竜ギガンドーグによって命を救われているのです。妹が何故隣の大陸にいたのかは謎ですが、やはり瘤翼竜ギガンドーグによって運ばれたのではないかと思われます」

 

「わたしはカルカロスの近くの道端に捨てられていたの。それを両親が見つけて、自分たちの子供にすることにしたらしいの。ほら、両親は種族違いで子供は出来ないことがわかっていたから」

「なんか出来すぎた話のようにも聞こえるねえ」

 ティグラはジロリと医院長の方を睨むが、すいっと明後日の方を向く医院長。

 

「確かに瘤翼竜ギガンドーグは相当に知能が高い。その事はシャーマンの間ではよく知られていることさね。何しろ人の言葉を理解し我々と交感フェビルすら行うのだよ。それを利用して台地ダリルの民は彼らを交通手段として使役しているんだ」

「私もかつて瘤翼竜ギガンドーグと言葉を交わしたことがあった。まるで人間のような理性を感じさせる言葉だった」

 リクリアが瘤翼竜ギガンドーグに乗ってエルメロス大陸に来られたのは、翼竜の方からの呼びかけによるものだったのだ。


「様々な謎が有りましてな、翼竜の行動も一貫性がないのですよ。それを調べに酋長達は台地ダリルに攻め込みましてな、その真偽を確かめに行っているのですが、戦後処理に手間取っているらしいようですな」

「確かにおかしいと思います。台地ダリルの巫女は瘤翼竜ギガンドーグを使役できますが、翼竜ヴリトラを使えるのは龍神ダイガンドと呼ばれる存在だけと言われていますからね」

「左様、それ故に今回の事が神殿の指示なのか?龍神ダイガンドの指示によるものか?はっきりさせなければならない事なのです」

 

 それが戦後処理には絶対に必要な事らしい。主犯がどちらなのかはっきりさせなくては今後も同じ事が起きる可能性が有るからだ。

 

「いずれにせよ今日この村に来たのはティグラさんを月に連れて行きたいと思いましてね」

「月へ?あの夜空に輝く月にかね?」

「ほう、シリアさんは天界に住まわれる月神ムーを訪ねる事が出来るのですか?」

 村長シェリクが意外そうな顔をする。原始宗教を信じる種族に宇宙旅行の概念を話すのは難しいだろう。

「私では有りませんがね。この村にも時々訪れる人族が天を駆ける船を手に入れたそうで、私も月に連れて行っていただける事になりました。それで是非友人のティグラにも同行してほしいと思いまして」

 

「そうですか?どのくらいの期間でしょうか?我が村も現在のような状況なのでシャーマンの不在は色々問題が有りましてね」

 だが驚くことに村長シェリクは神の元を訪れる事に何の疑問も示さない。おそらくティグラとシリアに対する信頼が厚いのだろう。

 

「何を言っている?こんな老人をいつまでシャーマンとしてこき使うつもりなんだい?他にも若手がいくらでもいるじゃろうが」

「メイとシジンはまだまだですが、エンルーもおりますしな、ハハハ」

 

 そう村長が言った途端、ティグラの頭に何かがひらめく。

 

「ん?」「あれ?」「およっ?」

「いま、感じなかったか?」

「うん、感じた」

「はい、感じました」

 

「何でしょうか?私には感じられませんでしたが?」

 村長シェリクが不思議な顔をする。

 

天上神ヘイブからの交感フェビルじゃな、わかったか?エンルー」

「はい、私に月に来るように言われました」

「私にもその様に聞こえた、メディナはどうだ?」

「はい、聞こえました」

  

「私はシャーマンでは無いので天上神ヘイブからのお告げを受けといることは出来なかったようですな」

 シャーマン能力者にはみんな聞こえたようである。しかし村長シェリクには聞こえなかったと言う。

 

「どうするかね?エンルー。ティグラと一緒に行ってみるかね?」

村長シェリクさん、私が決めてもいいの?」

「良いとも、我々はエンルーを村の一員と認めたが、それはお前さんの生き方を縛るものではないからね、自分の好きなように生きて良いのだよ」

 

 しばらくエンルーは考えていたようだが、やがて顔を上げるときっぱりと言った。

 

「私、月神ムーに元に行って天上神ヘイブ様のお話を聞いてみたい」

 


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