表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
141/221

遺物をめぐる戦い

6ー009

 

――遺物をめぐる戦い――

 

「何やってんだ?あいつら?」

 

 戦艦に戻ったヒロは船から望遠装置を使って馬車を監視していた。

 最初は領主のところでうまくやっていたようなのに何故か庭に出てふんどし祭りをやっている。挙句の果てに誰かエライさんをカロロちゃんがぶっ飛ばした様だ。

 

「ほほう、カロロ殿もなかなかに豪胆であるな、あの大きさの男を一発で沈めるとは」

「問題を起こさず帰ってくれば良いものを、一体何があったんだ?」

「そりゃあ、決まっておろう。この手のトラブルを起こすのは一人しかおらんわ」 

 だから一緒に行かせたくなかったんだよな〜。

 

「やっぱりコタロウさんでも止められないのか」

「しかしコタロウ殿よりも大きいのが狼人族のようだし、これはこれで脅威になるようだな」 

 彼らが一度はエルメロス大陸の土を踏んだ事はガーフィーにも話してある。

 彼らが嵐の海を安定して突破出来るようになるのは遠くない将来であることも理解している。交易を行っている間はそれでも良いだろうが、問題はそれが戦に繋がったときである。

 

 あの大きさの人間が軍隊として戦う未来がありえるのだろうか?ガーフィーはその事を脅威に感じていたのだ。 

 万が一にでもエルメロスを侵攻しようとでも考えたら大きな問題になる。

 そんな事をガーフィーと話をしているうちにみんなは龍神殿りゅうじんでんの中に入っていく。

 

「そう言えば医院長殿はこの龍神殿の事を嫌に気にしておられたな」

「おや?コタロウさんが馬車の方に戻っていく、何をするのだろう?」

 コタロウが何かをすると幌の後ろの方がスルスルと動いていき、突然煙を吹き上げた何かが上昇を始める。

 

『馬車の後方からミサイルが発射されました』

 OVISが連絡してくる。監視能力はこいつの方が人間よりはるかに優秀だ。

 

「何じゃあれは、何が起きているのだ?」

「冗談じゃないミサイルだ何を狙っているんだ?」

『中央の建物と予想、爆発力はサイズからしてそれほど強力では無いと推測』

 建物で爆発が起こり煙で周囲が見えなくなる。

 

OVISオーヴィス!緊急降下を行い状況を報告、彼らの救援を行う!』

『了解!』

 ゴクンと音がしてOVISが戦艦から離脱したのがわかる。

 

艦載頭脳コンピューター高度500まで緊急降下!」

 地上は大騒ぎになっている。緊急時の救出体制を取る為に高度を下げる事にした。しかしOVISと違い戦艦は降下そのものにも時間がかかるのだ。

 

  *  *  *

 

 もはや馬車の周囲は戦場の様相を呈していた。医院長はポカポカと『撲殺の魔法』を繰り出し、警備兵はメディナ達と魔法による攻防を始めていた。馬車は取り囲んでいた警備隊を振り払うように走り始める。

 遺物は馬車の最後尾に乗せられており、その部分の幌は折りたたまれている。遺物にしがみついているコタロウはむき出しのままだ。

 投げつけられた槍がプスプスとコタロウのお尻に突き刺さる。

 

「ひえええええ~~~っ!」

 そんな状態でも魔法が当たろうが、槍が刺さろうが全く問題はなかった。しかしコタロウは荒事が苦手なので悲鳴を上げている。

 

「追えーっ!」

「逃がすなーっ!」

 

 狼人族は犬の血を引いているせいで足がはやい。ローグの用意をするまでもなく一斉に馬車を追って走り始める。

 槍を持って走りながら炎弾フィア電気ライデンの魔法を撃ってくるが、流石に光弾フェルガ(ヘル・ファイア)を撃ってくる者はいない。

 そんな事をすれば遺物ごと消滅してしまうからだ。

 

「コタロウさん追って来ますよ、さっさと反撃をしなさい!」

 医院長は居丈高に、コタロウに命じる。

 

「だめですよ〜っ。そんな事したら二度とこの街に来れなくなるじゃないですか〜」

「今更来れると思っているのですか~?」

 コタロウは学者である。彼らの生態観察の為にここに来たのである。それを潰されたので涙目になっている。

 

「医院長先生の人でなし~~っ!」

 

 一時の混乱の後、狼人族の警備隊は体制を整えての追撃に移ってきている。その速度は恐ろしいほどで、時速80キロ近い速度が出ている。

 しかし馬車の走る道はデコボコで、時速60キロ以上の速度を出すと車体が跳ねて乗っていることができない。

 

「うわわっ、ものすごく跳ねちゃう。姉さんしっかりしがみ付いていて~」

「ひいい〜っ!月神ムーよその御慈愛で、天上神ヘイブはその大いなる御心で、我をお守りくださ〜い!」 

 ガルガスは荷物の間に頭を突っ込んで神に祈りをささげていた。しかし現実は非情である。たちまち警備部隊は馬車に追いついてきた。

 

「医院長せんせ~っ、これじゃすぐ追いつかれちゃうよ~」

 コタロウが遺物にしがみついたまま泣き叫ぶ。コタロウが遺物から離れればたちまち馬車から放り出されてしまうだろう。

 

「カロロちゃん!魔法でけん制しなさ〜い」

「おーけい、まかせろー!」

「カロロちゃ〜ん、直撃させちゃだめだよ〜」

 カロロは幌の上にしがみつきファイア・ボールを次々と撃ちだす。しかし流石に狼人族の反応は早い。ファイア・ボールが着弾する前に飛び上がって直撃を躱す。

 警備隊はすでに馬車を囲むように散開をし、馬車に飛び乗ろうと飛びついてくる。

 

「撲殺ー!」「撲殺ー!」

 医院長は右に左に飛び上がりながら、取り付こうとする狼人族を叩き落していく。

 

「いんちょーさんの『撲殺の魔法』は、直撃してもいいのー?」

「それも駄目だよ〜、なるべく穏便に〜っ」 

「ちいっ!なんでこうなった?」

 リクリアは衝撃波バルンガを使い、馬車に飛び乗ろうとしてきた狼人族を跳ね飛ばす。

 

「うわっ、重いっ!」

 メディナに飛びかかって来た警備隊をシールドで防いで馬車から放り出したが、シールドもバルンガも反動が本人に伝わるのだ。

 

「メディナに手を出したら、ゆるさないーっ!」

 カロロはメディナを狙って飛び上がって来た男の腹にファイア・ボールを命中させると、ドカンと爆発して男が吹っ飛んでいく。

 死んでないだろうな〜と、コタロウは祈りを捧げる。

 60キロ以上の速度で走っているのだから、転んだだけでも大怪我のはずなのだが、平気な顔をして立ち上がってくる。

  

「かまわん!魔法を連打して当ててしまえ!」

 追ってくる狼人族から一斉に魔法が放たれた。

 

「いや~っ、そんなことしたら危ないよ~」

 コタロウが悲鳴を上げながらシールドを展開すると、馬車の周囲で一気に爆発が起きて大きく揺れる。

 

「コタロウさん!こっちもファイア・ボールを馬車の周囲にまとめて撃っちゃいなさい」

 物騒なことを平気で指示する、この人本当に医者か?

 

「そんなのまずいよ~っ、死人が出ちゃうよ~」

「みんなを殺したいのですか〜?いいからさっさとやるんですよ~!」

「ううう~~、ボクのせいじゃないよ~」

 ボロボロボロとコタロウの口からまとめてファイア・ボールが零れ落ちて、馬車の周りで一斉に爆発を起こす。

 

「おお~っ!」「なんだ!これは~!」

 これには流石の狼人族も、馬車の周囲から全力で逃げ出した。爆発に巻き込まれないのは流石である。

 

「迎えが来たわよ〜!」

 医院長の声に、上を見ると今まで何もなかった空から戦艦が姿を現して降下をしてきた。

 

「「「おおお~~っ!」」」追跡部隊から驚愕の声が上がる。

「な、なんという美しい船だ!」

 ローグに乗って追いかけてきたゼルファートが感嘆の声を上げる。

 

『彼らを援護できるか?』

『既に乱戦状態で、狼人族を傷つけずに迎撃することは不可能です。本機に攻撃命令を!』

『不許可!これ以上被害を広げてたまるか』

 コイツが攻撃を行ったら何人死人が出るのか分かった物じゃない、対艦戦闘兵器なんだぞ。

 

『まーったくあいつは一体何がしたいんだ?』

『医院長を一緒に送り出したことが最大の間違いの原因です』

『今更言っても始まらん、艦底の収納ハッチを下すぞ、最低地上高まで降下。状況を逐一報告しろ』

 

 全力で走る馬車の前に戦艦の底部ハッチが開いて来る。斜路と地面の間は2メートル位の距離が有るが、道路状態からこれ以上下がるのは難しい。

 狼人族が再び一斉に魔法を撃ち込んでくるが、今度はOVISのシールドに阻まれる。

 

「コタロウさん、ここが踏ん張り時ですよ。あのハッチまで馬車を持ち上げなさい!」

「そ、それは流石に無理で~す」

「それなら馬車の前半分だけでも持ち上げなさい!そうすればハッチに届きますから!」

「わかりました~、やってみま~す」

 

 コタロウが尻尾をピーンと上に伸ばして魔力を込めると、馬車の前輪が持ち上がりウィリー走行を始める。

 するとコタロウのお尻に刺さっていた槍が、ピョンピョンとはじき出されていく。

 

『馬車の前輪が上がっています、私の方から直接戦艦にデーターを送って高さを合わせます』

 OVISの指示で戦艦が少し速度を落とし、馬車に近寄って来る。

『オーライ、オーライ。もう20センチ下げて、ゆっくり後退、あと2メートル。そのまま、そのまま…』

 

 データーを送っても制御はデジタルではなくアナログなのか…? 

 

「ふぐううう~~~ん」

 コタロウが真っ赤になって踏ん張っている。

 

「逃すか!おい、あれをやるぞ」

 追いかけていた警備隊が叫ぶと、一緒に走っていたふたりが槍を捨て両手を繋いで走り始めた。

 

「よし行け〜っ!」

 後方から来た隊員が速度を上げ、繋がれた手の上に足を載せるとその男をふたりの腕が上方に跳ねあげる。

 大きく飛び上がった男は戦艦のハッチにしがみつく。

 

「無断乗車は厳禁じゃ」

 

 頭を上げた男の目の前に獅子顔の男が両手を構えて待っていた。

 至近距離から衝撃波の魔法を撃ち込まれ、狼人族の男はハッチの外に吹き飛ばされた。

 

「よーし、ハッチに乗っかったわよ〜、8輪独立懸架、8輪独立駆動の威力を見せたげる!」

 何とかハッチに前輪が乗った馬車は、一気に斜路を駆け上がり荷室の中に吸い込まれた。

 ゆっくりとハッチを閉じながら上昇を始めた戦艦を、残された警備隊の者たちは脅威の目で見上げていた。

 

「大丈夫か?コタロウ殿!」

 全力で魔力を出したコタロウからは全身から湯気が上がっていた。

 

「あついっ!大変コタロウさんが物凄く熱いわ!」

「み、水……」

「待っていろ!今水をぶっかけてやる」

 ガーフィーが近くにあった水栓からコタロウに水をぶっかけてた。

 ジュウジュウとかけられた水が水蒸気に変わる、体内魔力細胞の過剰消費でオーバーヒートしたらしい。それでも無事なのはコタロウならではのことである。

 

『医院長さん、なんてことをするんですか!コタロウさんが死んじゃいますよ』

 指令室から様子を見ていたヒロが怒鳴る。

 

「ちょっとしたオチャメじゃないの~」

「オチャメでみんなの命を危険にさらされてたまるものですか!」

「そ、そうですよ〜、これで私はもうお尋ね者じゃないですか〜。もうアッカータには戻れませんよ~、どうしてくれるんですか~?」

 ガルガスが涙目で馬車の中から這い出してきた。

 

「やむを得んな、あきらめてカルカロスで生きていくんだ。ワシが力になるぞ、もちろん医院長もな」

 ギロリとガーフィーが肉食獣の目で医院長を睨む。

「いや~っ、もう少し穏便に行くと思ったんですけどね~」

 嘘をつけ!ミサイルまで用意していたくせに白々しい。

 

「こいつはいったい何じゃ?」

 遺物の上ではコタロウが蒸気を上げながら伸びている。

 

「龍神教の呪物です。危険極まりない物ですから回収して来たのですよ~」

 

『アーティファクトですね、おそらくランダロールの技術に近い物では無いかと考えます』

『だったら今になって頃なぜ回収に来なけりゃならん、200年も時間が有っただろう』

 

「も、もう私には何もありません。故郷を無くし仕事を無くし、領主様からの信頼も失いました。この上は皆さんと死ぬまでご一緒させていただきます。この世の謎の最後の一片まで見届けてやりましょう!」

 最後は悲鳴にも近い涙声で叫んでいた。

 

「お、おう。そうか頑張れよガルガス」

 

 破滅したばかりだと言うのに、いきなり思考が前向きになるのはやはり破滅型の性格なのだろうか?とガーフィーは考えた。

 

  *  *  *

 

「ドルストイ、結局あいつらはいったい何だったのだろう?」

 

 警備隊のゼルファートは多数のけが人を出しながら、ひとりも死者が出なかったことに安堵していた。

 ゼルファートは領主職にありながらも屈強な狼人族であった。兵士の後方から追跡に加わっており、天空から現れた大きな船の事を見て唖然としていた。

 

「あの船は何で動いていたのだろう?仮に魔法で動いていたにせよ、あれ程の大きな船を魔法力の集積により動かせるものなのだろうか?」

「実際には全長200メートルの翼竜は飛行しているのですから不可能ではないだろうと思われます」

 

「しかしあれは明らかに人工物であった、だとすれば翼竜に外板を被せたようなものなのだろうか?」

「おそらく翼竜の飛行能力を別の手段で置き換えたと考えるべきでしょう」

「どれほど嵐の外の世界では、技術が進んでいるのだろう?」 

 新天地を求めて船を出してみたが、下手をしたら大地神グランザードの隠し箱を開けてしまったのかもしれない。

 彼らと再会する時までに精一杯あらゆる技術を磨かなくては、我々が彼らに征服されかねない。

 

「良いだろう、龍神の遺物ももう無い。街の近くにあれだけの空き地が出来たのだ。街を拡張し、学校や研究機関を作って学問を発達させようではないか」

「御意、彼らの力に怯えているよりも、我らの力を鍛えるべき時でしょう」

 

 植民地進出よりも内政強化に向かうアッカータであった。大航海時代はもう少し先のようである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ