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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
140/221

龍神の祠

6ー008


――龍神の祠――


「いやいや、カロロ殿があれ程の強者であるとは予想もつきませなんだ」

 

 頭をさするドルストイ、体に異常はなくコブが出来ているだけであった。この男も十分に人外だと言えるだろう。

 

「オーッホッホッホッ!早速見させていただいてありがとうございます♡」

 

 祠を囲む壁の入り口の前で馬車に乗った医院長は奇声を上げている。その横には領主とドルストイがローグに騎乗しており、後ろには警備部隊の人間がずらりと並んでいた。

 

「かなり厳重ですのね~」 

「龍神の遺物と言う言葉が独り歩きしましてな、何に使えるのかもわからんものを盗もうとする輩が多くいまして、仕方なく壁を作って警備を行っているのですよ」

 

「この壁の中にはどんな物が入っているのですか~?」

「ガルガス卿は見たことが無いのですか?一応1年に1度は解放して中が見られるようにしてあるのですが」

「わたしはずっと測量を行っていまして、あまりこういう物には興味がありませんでしたし」

 

 祠を囲む壁は高く、入り口には厳重な扉が付いている。もっとも狼人族の能力をもってすればこの程度の壁では何の役にも立たないと思われた。

 

「この壁は侵入を防止する物ではありません。逃亡を許さない為の物です。遺物が如何なる厄災をもたらすかわかりませんからな。遺物を盗もうとする不埒な輩は厳罰に処する必要があります」

 

「誰にも見せずに秘匿しておくと余計に妄想が膨らみますから、時々開放して住民に見せておけば無理にこれを盗もうとは思わないでしょう。この祠を壊し、中の遺物を取り出すまでに警備の人間は犯人を取り囲むことが出来ますからな」

 

 入り口の横に大きな石碑が建てられており、そこには翼竜が遺物を持って現れこれを封印するように語ったとされる事が、絵付きで描かれていた。

 馬車は外に留め置かれ、みんなが中に入ると後ろからついてきた警備部隊の人間が壁の中に散開をする。

 壁の中はかなり広く、中央に石を積み重ねた一辺が10メートル程の建物が作られていた。

 

「あれが祠ですの?」

「なんか殺風景ですね~、中に入っているのはこんなに厳重にしなければならない程の呪物なんでしょうか~?」

 

「遺物です」ドルストイがギロリと睨んでコタロウの言葉を訂正する。

 

「その遺物さん、何か悪さをしたのー?」

「今の所は何も、500年間何も起きませんが、盗賊は無数に襲ってきましたな。それだけで十分な厄災ですが」

 ドルストイはニッコリ笑いかけてカロロの質問に答える。何なの?このコタロウに比べての差別的態度は?

 

「伝承によりますと遺物は3メートル程の球体であるとの事、ご先祖様はそれを石の壁で囲み祠を作りました。しかしそれでも遺物を盗み出そうとする輩は後を絶たず、建物の外側に更に石を積んで囲みました。屋根はべトンを固めそれすらも2重に作ってあります。無論中に入る入り口は存在せずに建物の下の地面は固く固まっています」

 

「成程、固いですね~」

 医院長は祠の壁をコンコンと叩いている。

 

「その石は天然の固い石で作られていますから壊すだけでものすごく時間がかかるでしょう。遺物を守る為に我らが先祖が作った物です。鬼神であっても外に出るのは至難の業だと思っていますよ」

 やはりこの領主も龍神の遺物はかなり怪しい物だと思っている様だ。まあ翼竜と言えばこの大陸最強の存在だろうし、草食なので人を襲う事も無いのだが、その大きさだけで人々に畏怖を伝える存在なのである。

 

「コタロウさん、馬車の所に行って御者台にある赤いボタンを押してくれませんか?透明の蓋が付いていますからそれを突き破って押してくださいな」

 医院長は何やらおかしなことを言う。

 

「ハイ、わかりました」l

 それでも素直に医院長の言うことを聞いて、警備隊の頭上をパタパタと飛んで止めてあった馬車のところに行く。

 御者台の所に行くと、なるほど肘掛けの所に大きな赤いボタンが見える。肘掛けに埋め込まれたボタンの上には透明な板がはめ込まれていた。

 

「これを押せば良いのかな?」

 

 そう思ってコタロウは前足の爪を立てると、簡単に透明の蓋は破れてボタンが押し込まれる。

 何が起きるんだろうと思っていると、馬車の幌が後ろの方からスルスルと折りたたまれていく。

 

「へえ〜っ、こんな仕掛けが有ったんだ」

 

 面白そうに動く幌を見ていると荷台の後方の板が跳ね上がる。なるほど、この馬車にはこうやって何かを収納してあったんだ。

 これで医院長先生は一体何をするつもりなんだろう?などと、のどやかに考えていると跳ね上がった板の下からポン、ポンと大きな魚のような物が跳ね上がる。

 

「ふえっ?」と首をひねったコタロウの目の前で魚がいきなり煙を吐いて上空に飛び上がっていくではないか。

 

「ひええええ〜〜〜っ」

 

 ブシュウウ〜〜ッと上昇をするミサイルを見て慌てて医院長のもとに飛んでいくコタロウ。

 その瞬間危険を察知したリクリアとメディナは、ポーンと飛び上がりその場から逃げ出す。見事な危機察知能力である。

 兵士たちも外で起きた異常に気づき上昇していくミサイルを見ている。

 

「医院長さ〜ん、なにか変なことになってますよ〜。一体あれは何ですか〜っ」

 コタロウが医院長の所に涙目で駆けつける。なにかとんでもない事をした予感がする。

 

「みなさ〜ん!ここは危険ですからすぐに祠から逃げ出して下さーい!」

 医院長が大声で怒鳴るが、何が起きているのか理解できない警備隊員は右往左往している。

 馬車から飛び上がったミサイルが噴煙をたなびかせて祠の上に落下してくる。

 

ボッ、ボッ、ボッ、ボボーン!と祠の上部で爆発が起きる。

 

「「「「「ひええええ〜〜〜っ!」」」」」

 

 周囲に展開していた警備隊員が爆発で吹き飛ばされた。

 

「な、何が起きたんだ?」

 

 吹き飛ばされたドルストイが周囲を確認しようとするが、爆発に伴う煙が辺りに充満し視界が奪われている。

 領主のゼルファートは爆発の影響はあまり受けなかったが、周囲にいた警備の人間によって退避させられ、出口の近くに誘導された。

 

 やがて煙が晴れてくると破壊された祠が見えてくる。祠の上半分は破壊され遺物と思われる物が半分露出していた。その周囲には多くの狼人族が倒れており、怪我をしてうめいている。

 

「コタロウさん、今です。あの遺物を持ち上げなさい」

「えええ〜っ?そんなことより負傷者の救出を…」

「狼人族が怪我くらいで簡単に死ぬわけ無いでしょう!」

 

 露出している遺物と思われるものは3メートル程の球形でその外部にはロープ状の物が何本も繋がっていた。

 医院長はむんずとコタロウの尻尾を掴むと遺物目掛けて放り投げた。

 

「いやあああ〜っ!?」

 

 ブンブンと回りながら球形の遺物に叩きつけられ、ベチャッとばかりに貼り付く。相変わらず謎仕様の医院長の超怪力である。

 

「カロロちゃん!ガルガスを捕まえて馬車まで運んでおきなさい!」

「アイアイサー!」

 カロロは倒れていたガルガスに飛びつくと、そのままぶら下げてビュンとばかりに馬車まで飛んでいく。

 

「ひやああ〜~~っ!」ガルガスの悲鳴が遠ざかっていく。

 兄と異なり、意外なほど冷静で察しの良い妹である。医院長の恐ろしさをコタロウの横で見てきたので耐性が有るのだろう。

  

「コタロウさん!その遺物を持ち上げて馬車まで運ぶのですよっ!」

「えええ〜っ、まずいでしょう。それは本当にまずいでしょう~!」

「私の言うことが聞けないとでもおっしゃるのですか〜!」 

 医院長の背後から何やら恐ろしげな気配が迫ってきた。これを殺気と言うのだろうか?そう思ったコタロウは肝を縮ませる。

 

「いえっ!持ち上げます〜!」

 

 コタロウが獲物を持ち上げるのは力では無く、竜人族が空を飛ぶのと同様に魔法力で持ったものを持ち上げているのだ。

 したがってその持ち上げる力は肉体的能力より遥かに大きいものになっている。

 コタロウが遺物にしがみついていると、コタロウと一緒に遺物が浮き上がり始める。その周囲から、崩れ落ちた瓦礫がバラバラと落ちていく。

 

「ぐぐっ!なんだ?何をやっている?」

 

 ドルストイはカロロとの戦いで頭を打たれた上に、再度の衝撃でグラグラする頭を抑えて立ち上がる。すると目の前でコタロウが遺物と共に徐々に浮かび上がり始めるのに気が付いた。

 

「おのれ竜人!貴様の目的は最初からこれだったのか?」

「違いますよ〜、誤解で〜す。成り行きですから〜っ」

 遺物に取り付いて飛び上がろうとしているのだから誤解のしようが無いとも思うのだが。

 周囲では比較的被害の少なかった衛兵達も起き上がり始める。

 

「遺物が盗まれるぞ!全員で取り押さえろ!」

 

 その言葉に状況に気が付いた隊員が一斉にコタロウの方に駆け寄るが、メキメキッという音がして、ズボッとコタロウが遺物と共に空中に飛び上がった。

 コタロウよりも一回り大きい遺物にくっついたままプカプカと浮き上がったその姿は、馬糞にしがみついたフンコロガシの様であった。

 

「おのれ!逃さん!」

 警備部隊が一斉にコタロウにしがみつこうとしたが、そこに大きな声が響き渡る。

 

「ボクサーツッ!」

 いつの間にかドルストイの上空に飛来していた医院長が、手に持った杖によって「撲殺」の魔法を仕掛ける。

 

「ぐはっ!」そのまま白目を向いて倒れるドルストイ。


「撲殺ー!」「撲殺ー!」「撲殺ー!」「撲殺ー!」「撲殺ー!」「撲殺ー!」

 バコッ!  バコッ!  バコッ!  バコッ!  バコッ!  バコッ!  

「ぐあっ!」「あがっ!」「いぎっ!」「うぐっ!」「えげっ!」「おごっ!」

 

 兵士たちの間をぴょんぴょん飛び回りながら、その頭に杖を使って『撲殺』の魔法を仕掛けていくと、白目を向いた兵士たちがバタバタと倒れていく。

 

「いんちょーせんせーっ、殺しちゃ駄目ですよ~!」涙目で訴えるコタロウ。

「狼人族がこの程度で死ぬものですかーっ!さっさと遺物を馬車に乗せなさいーっ」

「はいい〜っ?」

 

 ポヨポヨと空中をフンコロガシのように移動するコタロウに対し、医院長が飛び上がって思いっきり蹴りを入れる。

 

「あひえええ〜〜っ」

 

 蹴飛ばされたコタロウはクルクル回りながら馬車の方に飛んで行く。非情なる医院長の一撃で、なんとか遺物を馬車の上にそっと下ろすことに成功した。

 

「医院長先生、コタロウさんになんてことするんですか〜?」

「コタロウ殿、あんたもなかなかやるもんだな」

「いやいや〜っ、止めてくださ〜い。もう街には帰れ無くなりますから〜」

 ガルガスが完全に涙目である。

 

「ふぎゃーっ、みんな怒って追いかけてくるーっ」

「撲殺ー!」「撲殺ー!」

 追ってくる警備隊を、医院長はパコーン、パコーンと杖を使った『撲殺の魔法』で倒しながら馬車に戻ってくる。

 

「魔法使い殿!これは一体どういうことだ!」

 馬車の近くまで退避してきていたゼルファートがローグの上から怒鳴る。

 

「オーッホッホッ!みなさんが持て余していた呪物を処理して差し上げるのですよ」

「おのれ!何を愚かな事を言う!龍の遺物をいかなる邪悪な用途に使用するつもりだ!」

 ゼルファートが両手を前に出して炎弾フィアを馬車に撃ち込む。

 

「あぶない!」

 メディナがそれをシールドで防ぐ。

 

「おお、なんと!わが炎弾フィアを魔法をもって防ぐとは」

「全力で走るわよ!落ちないようにしがみついてなさい!」

 

 驚愕の表情のゼルファートを尻目に、医院長の声が響くと全力で馬車が走り始めた。



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