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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
14/221

探索からの帰還

1ー014

  

――探索からの帰還――

  

 その夜遅くOVISがヒロの元に戻って来た。

 しかしヒロは既に寝ており、のみならずひどくうなされていたので体調のスキャンを行った。

  

「ぐおおおおお~~~~っ、筋肉痛がああああ~~~~っ!」

 疲れて寝入っていたのだが、全身の激しい筋肉痛にもだえ、悪夢の連続であった様である。

 問題が無いと判断したOVISはパイロットが目を覚ますのを待つことにした。

 明け方になり、ようやく筋肉痛が少し治まって目が覚めたのを確認すると声をかけた。

 

『お目覚めですか?戻ってきたので昨日の報告をいたします』

「ひえっ!」

 悪夢の果て、いきなり頭の中のOVISの声である、驚いてつい声を出してしまう。

 

「お前いつの間に戻ってきた、なぜ起こさなかったんだ?」

『高い心拍数、発汗の増加、体温の上昇が有り、肉体疲労による原因と思われる精神的抑圧現象を察知いたしました、よって休息を優先いたしました』

 ヒロにとっては昨日の事である。大宇宙で戦争をしていたら、いきなり竜をぶん殴って、猟師にぶん殴られて、女の子に優しくされた上に、あんな怪物を見た後の筋肉痛で有る。そう言えば饅頭と話をしたような記憶も有る。

 何かとんでもない悪夢を見た様な気がするが、起きた途端全部忘れてしまった。

   

「おまえわざとやっているだろう」

『作戦開始以降肉体鍛錬が不足でした、今後はプログラムの変更を考慮致します』

「そいつはご親切に、筋肉痛はいまだに治っていないよ」

 自我意識の無い人工頭脳のくせにこういった所はやたらと人間臭い奴だ。 

『この惑星での生活はかなりの体力を必要とすると思われます、周囲に住む一般人は主たる移動手段をその足に頼っております』

「あまり俺を追い詰める発言はしないで欲しいな、それで?怪物の報告を頼む」

 OVISの報告によれば、翼竜は町から東へ100キロ程離れた樹海に降りてその辺の樹木をムシャムシャと食っていたそうだ。

 

「あれは草食の翼竜だったのか」

 その付近の樹木が200メートル四方が根こそぎ食われていたそうだからかなりの悪食だ。

 一緒にかなりの量の糞も出していたようだ、鳥と違って飛行中に糞を出すわけでは無いようだ。  

『実際にそうなったら地上には相当な被害が出ます』

…うう~む、天然の爆撃か…考えるだけでもおぞましい。

 

「そういえばメディナ達が翼竜を追って出かけて行ったらしいが姿は見なかったのか?」

『彼らの移動速度から考えても相当な時間差が有ったと推測』

…100キロか、あの翼竜の飛行速度からすると半時間かそこいらだ。人間なら一日以上かかるな、いや狩人であれば半日か?

 ヒロは筋肉痛の痛みすら忘れて考え込んでいた。

『翼竜が飛び立つ頃にはその周囲に狩人達が何人か見かけましたが、近づいては来ませんでした』

 なるほどその近くに住む住民か、OVISは亜空間に入ったままだろうから見られてはいないだろうしな。

 

「食うだけ食ったらそのまま飛び去って行ったのか?」

『はい、方向を変え飛行していきました、追跡いたしましたが海に出たので帰路についたと判断し帰投いたしました』 

 要するに町の上空を飛行して住人を驚かせ、竜を黒焦げにした後メシを食って帰って行ったわけか。

「あの翼竜は何をしに来たのだろう?まさか餌を食いに来たわけでも無かろう」

 ところがOVISは驚くべき見解を示した。

 

『人員の運搬、または威力偵察と推定』 

「なに?どういう事だ!?」

『竜の画像記録を撮ってきています、それをまず見てください。』

 ヒロが目を閉じると頭の中に記録映像が流れ込んでくる。

 翼竜の後ろについて飛行しているようだ。亜空間に入っているので気付かれてはいない。

 OVISがゆっくりと竜を追い越していく。さすがに戦艦級であり、近くで見るとかなり大きい。

 視点が竜の前に来るとその首になにか首輪の様な物が巻かれている。

 

「なんだ、これは?」

 鎖かベルトの様な物に繋がれた、何か箱のような物がその首にぶら下がっている。

「これは、翼竜の一部か?」

『人工物と推定、大きさは高さ4メートル、幅が10メートル位人間が数名乗れる大きさです』

 高さ4メートル幅10メートルと言えども、首の根元の直径が10メートル以上あるのでさほどに大きくは感じない。

 

「人間が乗っていたというのか?」

『未確認ですが可能性大、よって人の運搬又は強行偵察が目的と推定』

 

 箱には明らかに窓と思われる開口が見える。おそらくガラスが使われているのだろう。

 ガラスはこの街でもかなり使われていて一般に普及した技術の様だ、冶金技術や服装の技術から見ても驚くほどの物では無いと考えられる。 

「そうか、そういう事か……」

 だとすればあの翼竜は何処か遠方から人間を運んできたという事になる。それはとりもなおさず翼竜を使役する種族がいる事を示していた。

 そしてそれはあの箱を作る技術と合わせて考えると、少なくともこの街と同程度以上の技術と言う事になる。

 

「こいつらは何処からやってきたんだろう?」

『不明、この惑星の概要がわかりません、地図の入手を考えてください』

「明日狩人組合で聞いてみるか?」

 だが、ここは人類連合に所属する惑星では無くヒロは全くの部外者である。 

「こんな事を組合の方に言う訳にもいかないだろう、メディナ達が調査しているかもしれないしな」

 とは言えどうもこの惑星には余りにも異常な事が多すぎる。獣とのキメラ体の人類とか、竜人とか、極めつけはあの翼竜である。

 あの怪物に乗って飛行する種族がいるという事は、この世界に飛行機は存在していないのだろう。

 

 あんなものの存在する世界で自分はこれから生きて行かなくてはならないのか、救援は当然のことに期待はできない。 

 ただでさえ体力的に大きく劣ったヒロである、機械文明の恩恵は限りなく少ない世界に思える。

 OVISの力を借りて生きて行くにせよ目立つのはあまり良くない。

 この惑星で埋もれるように生きていかなければ、1回の喧嘩で命を落としかねない事は良くわかった。

 そう考えた途端に再び筋肉痛が襲って来る。あちこち変な所が痛むみたいだが、腱を痛めていなければ良いが…。

 

 まあいいや、そんな事は後でいいから、とりあえず今日は一日寝ている事にしよう。

『肯定、今は肉体的疲労の除去に努めるべきであり、判断は状況を見極めてからの方が良いでしょう』

 せっかく戦争を生き延びたのだから、それ位の権利は十分に有ると思った。

 ヒロはその日も全身筋肉痛で一日中ホテルで休むことになる。

 昼頃に筋肉痛を押して食事の為に外に出たが、街はすでに落ち着いている。

  

 少しごたついているようだったが、組合は人の出入りを見ていると業務は普通に行っているようだ。

 そもそも猟に出て夜明かしをして来る狩人も多いのである。上空の危機よりも今日の飯の方が重要なのは言うまでもないだろう。

 まだ筋肉痛は続いているし何より疲労感がなかなか取れない。何とか食事をした後夕食用のパンと干し肉を買ってホテルに戻り、その日は何もしないでベッドに横になっていた。 

 

「オーヴィス、言語サンプルは十分にそろったか?」

 部屋の中に入ってもOVISは亜空間の中にいるので何の問題も無く部屋の空間と重なっている。

 周囲の人間には俺が独り言を言っている様に見えるだろう。

 あるいはメディナの様に俺の背中に巨人の霊が取り付いている様に感じるのかも知れない。

 

『日常会話に不自由ない程度にはそろいました』

「それならとりあえず会話が成立する位には訓練をしてみるか」

 ベッドに横になりながら会話の練習を行う事にした。

 会話は意外と単純で不明瞭な発音も少ないので単語を覚えれば割と簡単であった。

 そんなことをしているうちにいつの間にか眠っていた。

 

 目が覚めると明るくなっていて、筋肉痛が落ち着いてきたのでヒロは狩人組合に顔を出す。まだ組合内はざわついた感じがある。

 おそらく翼竜の情報を聞きに来たのだろう、まだあの翼竜が近くにいれば狩猟先で出会いたくは無いだろう。

 あの翼竜が人の手による飛行を行って来たであろうことは、まだヒロだけが気付いた事かもしれない。

 まさかそんな事を此処で話したところで信用されるわけもない。

 メディナ達が調査に出かけたのだからその帰りを待った方が良い。

 

 せっかく来たので先日アラークが教えてくれた見習い先の件を聞いてみる事にした。

 ヒロの登録をしてくれた受付嬢がいたので彼女に尋ねてみると、意外な事にあの夜のうちにアラークはヒロの就職先に関してチームを紹介してくれていたらしい。

 受付嬢も良く知っているチームで、非常に手堅い仕事をするチームだそうだ。 

「まだアラークさんは戻っていませんが、ヒロさんが良ければ紹介いたしますよ」

 アラークがそんな事をしてくれるとは意外な気持であったが好意に甘える事にした。

 すると見習いの場合は分け前は他の人の半分だと言われたが、とりあえず収入が無ければ話にならない。

 そのほかにもいくつかの仕事の斡旋も出来るらしいが、おそらく狩人が一番収入が良いだろうと言われる。

 

 大型魔獣を一人で殺せる魔法の能力はすごく高く評価されるそうだ。金プレートと言うのはそれ程に権威の有る物らしい。

 実際、ヒロを迎え入れたいとするチームもたくさんあるらしいのだ。

 話を聞くと様々だったがそれに比べると、アラークの紹介してくれるチームはだいぶランクの落ちるチームのようだ。 

「ただですね、やはり大型ばかり狙っていても結局は地道な狩りの能力が無いと先が続きませんからね」

 受付嬢は若くて覇気のあるチームは自力以上の獲物を狙う傾向が多くて怪我や失敗も多いらしい。

 この二人は地道すぎる仕事をする為に、逆に組合内での評価は高いそうだ。むろんそれは弱小チームと言う意味での評価では有るが。

 

「アラークさんはあなたを素人と見切っているようですから地道な修行を勧めているのでしょうね」

 随分きつい事を言う人だと思ったが確かにそうだろう、訓練をせずに戦争に出かける様なものだ。

 十年以上訓練をして来た仲間達も、ヒロのいた戦場ではその95パーセント以上が死んだ筈だ。

 

 ヒロもその中に含まれるはずだったが奇跡的に生き残ってしまった。そのおかげで今は途方に暮れている。 

 良くも悪くもヒロは訓練を欲している。アラークはヒロの能力を理解したからこそ自分のチームに入れずこのように小さなチームを紹介した。

 おそらく受付嬢のいうとおりなのだろう。

 あの獅子顔を信じてこのチームを紹介してもらう事にする。

 

「わかりました紹介をお願い致します」

 受付嬢は調整をするから明日以降毎朝組合に顔を出すように言われた。

 チームに話を通して顔合わせをしてくれるらしい。ヒロは了解してその日は宿に戻った。

 

    ◆    ◆    ◆

 

 その夜にアラーク達が調査を終えて帰還した。

 

「成程、あの怪物は海に向かって飛び去ったと考えられるのか」

 狩人組合の組合長である獅子族のボルジェルドが報告を聞いて安堵の表情を浮かべる。 

「翼竜の飛び去った方向にある二つの街に対して早馬を送っています。今日中には返事が戻ると思いますがふたつの街で目撃情報が無ければあなた方の報告の裏付けになります」

 リシュリーは兎耳族の女性で、獅子族の様な力も、犬耳族の様な能力も無いが、実務に優れ高い知性と調整能力を持った秘書である。

 組合の実質的な仕切りは彼女が行っているともっぱらの評判である。

 

「竜人殿がかなりひどい負傷をされたようでしたが、容態はいかがでしたか?」

 先日の事を思い出す、無敵の竜人様が全身黒焦げにされしょぼくれて巣に帰っていった姿は忘れようもない。

「はいメディナさん、さすが竜人様で肉体的には問題ないようですが…かなり自信を喪失されておりましてね…」

 その言葉を聞いた全員が渋い顔をした。いくら竜神でもあの大きさにはなすすべが無かろう。 

「一応あの後すぐ聖テルミナ病院のバルバラ医院長がシスター達を連れて治療に行ったようですけど」

「ほう?そんなにひどい怪我だったのか?」

 竜人は人間の中でも特別な存在である。空を飛び口から炎を吐き出し、狩人がてこずる大型の魔獣を一撃で倒す。

 

「いえ、竜人様ですからかなり焦げていましたが火傷そのものは時間がたてば治ります。むしろ痛みなどを取り除く程度の治療だったと思われます」 

「竜人様の傷の痛みを取る為だけの治療…ですか?」 

「ほら、前の日に顔を腫らして来たじゃないですか」

 なるほどとアラークは納得する、そもそもめったに怪我をしない竜人が連続して怪我をしたこと自体が異常な事だったのだ。

  

「竜人様が痛みを感じる状況はあまりありません、むしろ精神的なサポートの要素が大きかったように私は思っています」

「そういえば黒い巨人の事を竜人殿は言っておったが、あの翼竜と言い2日続けて災難で有ったな」

 無敵の守護神である竜人のプライドをズタズタにされたのだから、それはおおごとなのだろう。

「ただ…それを行うのがバルバラ医院長と言うのもいささか問題なのですが…」

「うむ…なんか傷口に塩を擦り込んでいなけりゃ良いんだがな」

 アラークが渋い顔をしてこめかみを押さえる。

 

「それで?あの翼竜に関する情報はほかに有ったのか?過去の記録とかなんとか?」

「はい、私もその後すぐに我が街のコンブリッグス大学のコタロウ教授の所に行って意見を伺いました。あの方は魔獣研究の第一人者ですから」

 そういえばコタロウさんはあの怪物をギガンドーグと呼んでいた、さすがリシュリーさん押さえるところは押さえている。

 

「その結果いくつかの街での目撃報告が有りまして、ギガントーグと名付けられておりましたが生態は一切不明です。」

「なるほど、コタロウ殿は王都の大学でも教鞭を取られておりますからな」

「今回の様に竜人様との交戦が有ったのは初めての様ですが、過去には目撃だけで被害報告は有りません」

 

「糞の投下はどうなのでしょうか?」

 アラークはやはりそこいら辺に興味が有るようだ。あんな物に天から降ってこられたらたまらない。 

「それも今のところ報告されていません、人のいないところに落としたか、今回の報告ではちゃんと地上に降りて食後に出しているようですね」

「うむ、突き出しだ。ワシらと変わらんな」

 アラークがつぶやいてナシリーヤに蹴飛ばされていた。

 

「あんなものに頻繁に飛んでこられては高速宅急便の運行にも支障が出ますから」

「うむ、竜人殿もしばらくは飛べんじゃろうからな」

「あ、それは問題ありません、竜人様ですから。それに奥さんもおられますから。…ただ……。」

 リシュリーは少し口ごもる。やはり竜人様の怪我は思った以上に重いのだろうか?

 

「それでは今回の調査に対する報酬です」

 話を中断するとリシュリーはまとまった金をテーブルの上に載せる。今回の探査の報酬である。それをリーダーのアラークが受け取り、後でみんなに分けるのだ。 

 

「あ、メディナさんにはちょっとお願いがあります」

 帰り際にリシュリーが声をかけると、アラーク達はチラリと振り返ったがすぐに出て行った。

「なんでしょうか?」

「あなたに折り入ってお願いが有りまして…」

 再び椅子に座ったメディナにリシュリーは話を続ける。

 

「実は昨日、竜人様の所に様子をうかがいに行きましてね…ほら、真っ黒に焦げちゃってましたから」

「お会いになれなかったのですか?」

「その時にバルバラ医院長が治療に来てくれたことを知ったのですよ、顔と両手に包帯を巻かれていて翼もすっかり飛幕が無くなっていましてね」

「包帯ですか?痛々しいですね…」

 

「そうなんですよ〜、奥さんにもお会いしたんですけど、旦那さんなんかものすごく落ち込んで誰にも会いたくないと言われましてね…」

「…それで…私ですか…?」

「あなたはほら〜、カロロさんと同級生だったしずいぶん仲も良かったみたいだから、どうかな〜と思ったのですよ?」

 あのお父さんはカロロちゃんの事を溺愛してたからな〜。

 最強種族の竜人があんな醜態を娘の前に晒したら、生きて行くのがつらくなるかも知れないと思う。

 

「でも、さっきバルバラ医院長が手当てをしに行ったと…」

「まあ…その…あの人はアレ《・・》ですから…セラピーにはあまり向かないかと…」

「あ~っ…確かにあの人はアレ《・・》ですからね~、そう言う所有りますから」

 妙に納得してしまう、余程バルバラ医院長は人望が無いようだ。

 初等科の学校に通っていた頃、親友になったカロロの兄であるコタロウさんにはずいぶん親切にしてもらった事がある。

 採取した糞の事も有るし、どうせコタロウさんの所へ行こうとは思っていた。

 落ち込んでいるお父さんの役に立つかどうかはわからないが、竜の巣に行けば会うことができるだろう。

 

 メディナが秘密にしている本当の能力を引き出してくれた家族である、力になれればなりたいと思った。


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