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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
139/221

カロロの序列勝負

6ー007


――カロロの序列勝負ガント――


 ゼルファートは街の安全と安定を守るのが仕事である。

 

 アッカータは常に外部の人間の侵入が有る国である。それは移民となって生産人口を増やしてくれるメリットも有るが、同時に犯罪の温床にもなる。

 多様な文化や知識は街に様々な刺激を与えてくれるがそれは同時に毒にもなりうるのだ。ましてや未知の高度な文明種族との会合は用心をしなくてはならない。

 

 自らの軍事力に優位性が有ればそれで良いが、優位性が無ければ相手からの侵略に備える事になる。自国の最新鋭艦が突破できなかった嵐の海を突破して来た船である。

 技術の概念を超える飛行する船と言うのは、敵に回せば脅威以外の何物でもない。

 通常は交易を通じて相手の国の強さを探り対処を決める。その為に交易団というものが存在しているのだ。

 

「オーッホッホッ!ようござんすよ。その代わり貴国にある翼竜の呪物を拝見いたしたいですわね〜」

「呪物?」ドルストイの顔が険しくなる。

 

「すみません、誤解が有る様ですが、翼竜の遺物です」

 訂正をするガルガス、まさかこの局面でこの話が出るとは思わなかった。彼の背中に嫌な汗が吹き出す。

 

「あれは500年前に翼竜がこの地に運んできた物で、龍神教の遺物と言われております。我が国で封印しておくようにとのお告げが有った物でして、今は石造りの家屋に納めており中身は見えないようになっております」

 

「お告げ?シャーマンのですか?」

「いえ、瘤翼竜ギガンドーグがご先祖様に直に語りかけたと記録にはあります」

 

「結構ですわ。外から眺めるだけで充分です」

「それは警備部門として承服いたしかねます。あれは呪われた遺物とされており500年の間、祠に封印されその後誰も見た者はおりません。ましてや外部の人間にその様な事は承服できかねます」

 

 警備部長のドルストイが異議を唱える。呪物を否定しておきながら、呪われた遺物と認めているそうである。

 

「あれはそんなに危険な物なのか?この500年間何も起きてはいないではないか」

「我々の不断の努力があっての事!なにもないのが当たり前の状況を作ってくればこそのことでございます」

「おやおや〜、それはおかしいですね。このコタロウさんは龍神教の始祖である竜人の子孫、言ってみれば遺物の継承者。その人間にその様な発言をされるのは見過ごすことができませんねよ〜〜っ」

 

 この医院長はどこでそんな話を仕入れてきた?

 

「そう言えば、アッカータの山麓をその竜人が口から出した光の槍で貫いたのが龍神教の成り立ちとのこと。そのまん丸い竜人にも始祖の血が混じっているかもしれないぞ」

 

 はい、間違いなく、完全に、まるっと受け継いでいます。と心のなかで叫び声を上げるコタロウである。

 

「ばかな!この様なコロコロしたまるで鍛えられてはいない種族が、仮に血が繋がっていようとも、その様な力などある筈も御座いません」

「あああ〜〜〜ら、ものすごい自信ですこと。コタロウさんの真の実力すら見抜けない愚物が、神にも匹敵する竜人様を語りますか〜〜?笑止千万、愚かしいにも程があります事よ〜〜っ」 

「医院長さ〜〜ん、そんなに挑発をしないでくださいよ〜〜。決闘でも申し込まれたらどうするんですか〜〜」

 

 こんな埒も無いことで、相手を死なせちゃったら困りますよ〜〜?既にコタロウの心は悲鳴を上げている。

  

「決闘?面白い!そのまん丸の体でワシに勝てると思うなど片腹痛いわ、増長するなよ小僧」

「まあまてドルストイ。相手はまだ子供ではないか。その様にいきり立つことではないぞ」

 

 ドルストイは身長3メートルの巨人である。2,3メートルのコタロウは子供に見えても仕方がない。本当はコタロウのほうが遥かに年寄りなのだが。

 

「医院長さん、コタロウさんは優しいんですよ。いくら相手が弱くても絶対にコタロウさんは喧嘩なんかしませんよ。そんな挑発なんかしないであげてくださいっ!」

 

 いやいやいや、メディナちゃん!それは火に油を注いでいるからさ〜〜っ。

 

「ワシが弱いだと〜っ?小娘〜〜〜っ、聞き捨てなら〜〜ん。ワシがその饅頭トカゲの負けるとでも言うのか?」

 

 ああ〜〜っ、完全に目が逝っちゃっているよ。それにしても饅頭トカゲとは随分酷い事言われてないか〜?

 

「うむ、コタロウ殿。警備部長はわが町で行われる序列勝負ガントで勝ち上がってきて、その地位を手に入れた男だぞ。それほど弱い人間ではないと思うが?」

「領主様、我が名誉のためにその饅頭と序列勝負ガントを所望したい」

 

 なんと、ここでも狼人族の序列勝負ガントは健在だったんだ。


「これ、ドルストイ。弱いものいじめはいかんぞ。警備部隊の名誉に関わるであろう」

 

 なんだかんだ言ってこの領主さんもかなり挑発しているな〜〜。

 

「いいわよ〜〜、コタロウちゃんが勝ったら翼竜の遺物を見せていただくわ、それで良いかしら〜〜?」

 

 ちょっとまって、医院長さん勝手に話を進めないでよ。この人殺したいんですか?

 

「いかがでしょうか、領主様。ご命令を」

「良かろう遺物の見学を掛けて序列勝負ガントを許可する。コタロウ殿それで宜しいか?」

「オーッホッホッ!ようやくコタロウさんの実力を認めてくださったのですね〜っ。もちろん宜しいですとも、これで交渉は成立ですわよ〜」

 

 止めてくださいよ〜、一体何の交渉ですか〜〜っ!

 

 …………………………

 

 というわけで領主館の中庭でドルストイとコタロウによる序列勝負ガントを行うことになった。

 

「この戦いはゼルファートが見届ける正式な序列勝負ガントとする。双方一切の武器を持たずその肉体のみを武器として戦うこととする」

 

 領主の宣言でコタロウとドルストイの周りを人垣が囲む。この辺はカルカロスのふんどし祭りと変わらない。

 

「いやいやいや、まずい。本当にまずいですよ〜〜」

「おにーちゃん、手加減できないのー?」

「だめだよーっ、お兄ちゃん不器用なの知ってるでしょう。第一ボクの爪はナイフを切り裂く爪だよ〜。下手したら殺しちゃうよ〜」

 

 大型魔獣並みの力を持つ狼人族であるが、コタロウはその大型魔獣をサクッと狩って食料にしている竜である。殺さない様に手加減する方が難しいのだ。

 

「わかったーっ、それじゃカロロが相手になるーっ。カロロなら全力出しても死なないよーっ、たぶんー」

「あ〜、その手があったね〜♪」

 

 渡りに船、よからぬ事を考えるコタロウである。

 

「それではコタロウ殿、準備はよろしいですかな」

 

 ドルストイは既にふんどし一丁の臨戦態勢である。隆々と盛り上がる全身の筋肉に、濃いめの胸毛が無駄にダンディである。

 片やポヨンポヨンのトカゲであり、周囲の人間の目にも勝敗は明らかであった。

 

『これは勝負にならんな~』

『なんでドルストイ殿は序列勝負ガントを受けたんじゃろうか?』

 周りから野次馬の無責任な囁き声が聞こえる。

 

「あの〜、ドルストイさん。お願いが有るのですが~」

「なんじゃ?命乞いする位ならさっさと負けてしまえ。そうすれば殺しはせんぞ」

 意気揚々と答えるドルストイである。自分が負けるとは欠片も思ってもいない。

 

「ボクだと手加減が出来ないので~、先に妹の相手をしてもらえないでしょうか~?」

「ぶいい~っ!」

 コタロウの横にピヨピヨと浮きながら、サムズアップでドルストイを挑発する。なかなかの貫禄である。

 

「な、何を言っとるか〜!臆したとはいえおのが妹を戦いの場に引っ張り出すとは何たる腰抜け、何たる非道。人間の風上にも置けんわ~」

 

 いや〜っ、完全に悪人扱いですね〜っ。

 

「い、いや。コタロウ殿。それは余りにも竜人としての矜持が疑われるぞ」

 流石に領主からの突っ込みまで入る。

 

「あ~っ、カロロも竜人族ですから~、これでもかなり強い子なのですが~」

「貴様!貴様!このワシに、その様な華憐で可愛い、竜の幼子と戦えと言うのか?貴様には兄として妹を守ろうと言う気概も無いのか~」

 

 どうやらドルストイとゼルファートは趣味が合うらしい。

 

「華憐で可愛いんだって~」

「あのおっさん、見る目があるーっ♡」

「いや〜、多分、目がオカシイのでは?」

 カロロは尻尾でコタロウの頭をひっぱたいた。

 

「あの〜っ、申し訳ありませ〜ん。自分の力不足の為でして~」 

 頭を抱えて詫びを入れる。ますますコタロウの評価が下がる。

 

「ヘイ、ベイビー。ビビッてんじゃねーや、さっさとかかってこんかい」 

 プカプカと浮かびながらサムズダウンをして挑発するカロロ。なかなかに役者である。

 

「うぐぬぬぬぬっ!」 

 

 顔を赤くしたり青くしたり、信号機になりそうなほど顔色を変えるドルストイ。

 なんて可愛いんだ、思わず抱きしめて頬ずりをしたくなる。しかし自らの立場がそれを許さなかった。

 にへらっ、と笑って目尻が下がりそうになるのを鉄の意志でこらえる。

 

「手加減をしてやるつもりだったが、こうなっては是非もない。良かろう、その娘の相手をした後に貴様をボロカスにして畳んでやる。逃げられると思うな!街中の衛兵を総動員しても貴様を追いかけてたたき潰してやるからな!」

 

 重罪犯者並みの扱いである。コタロウは何をした〜?

 

「わかりました、妹が負けたらボクが相手をしますから~」

「とはいえ、この様な幼き者とまともに戦うのも戦士としての矜持に反する」

 

 ドルストイはカロロを見る。可愛い!可愛すぎる!こんな可愛い生き物と戦うことなど、出来ようはずもない。

 体に比べて大きめの頭、短い手足。幼子が着る様なワンピースのドレスを着てドルストイの前に浮いている。これはもう破壊的な可愛さである。庇護意欲は最高潮に膨れ上がり、それはゼルファート以上である。

 

「やむを得ん、それではカロロ嬢にお相手願おう」

 

 ドルストイは身長3メートル、体重は200キロ超。一方カロロは身長130センチ、体重はせいぜい40キロ。見ただけでその勝敗は明らかであった。

 

「よーし、行っていいの~っ?」

 

「待たれよ、その前にルールを決める。どう考えてもお嬢さんとそれがしでは公平な戦いにならぬ。勝ったところで某の不名誉にしかならぬのだ。そこで某は手を後ろに組み一切の反撃も回避もせぬ。カロロ殿は如何なる攻撃でもよろしい、ワシに一発だけ入れていただきたい」

 

「あ、カロロちゃん、魔法は駄目だからね。ふんどし祭りと一緒だから~」

「うん、わかってるーっ」

 

「その一発で倒れれば某の負け、耐えて立ち続けていれば某の勝ち。それでよろしいか?」

「わかったーっ。おじさんはうごかないーっ。カロロは一発だけ尻尾でおじさんを殴るー」 

「結構。それで私が倒れればお嬢さんの勝ち。さもなくば次はコタロウ殿が相手をする事になりますぞ」 

 

 そう言ってドルストイは殺気のみなぎる目でコタロウを睨む。いや〜っ、コワイ目で見ないで〜、と医院長の後ろに隠れるコタロウである。

 

「魔法使い殿、勝ち負けに関係なく空飛ぶ船を見せていただきますぞ。よろしいか?」

 流石に領主である。状況に流される事なく本来の目的を見失ってはいない。

 

「オホホホ、もちろん結構ですわよ~」

「よろしい、では序列勝負ガントを始め!」

 

 ドルストイは両手を後ろで組むと両足をしっかりと踏ん張って姿勢を正す。顎を引いて上半身への打撃に備えている。カロロ相手とは言え決して侮ってはいない。

 ドルストイの前でプカプカ浮いていたカロロは間合いを図るとドレスを翻してクルッと前転する。

 そのままクルクルと2回転してその尻尾を思いっきり脳天に叩きつけた。

 

ドッカーン!  「むぐえっ!」

 

 カロロの尻尾をまともに受けたドルストイであった。2,3歩後ずさったが、倒れる事無く見事に受け切って見せた。

 

「な、成程、これは強烈であった。だが、まだまだ…」

 

 その先を言う事も無く目がクルリと回って白くなる。そのまま朽木が倒れるようにドウッと後ろに倒れた。

 

「「「おおお~~っ!」」」周囲から驚愕の声が上がる。

「カロロの、勝ちいィーーっ♪」

 

 プコプコと浮きながら両手でサムズアップするカロロ、いい度胸である。

 予想外の結果に結果に慌ててドルストイに駆け寄る衛兵である。様子を確認すると無事であることを知らせてきた。

 

「カロロ殿の勝ちである。……見事であった」領主が宣言をする。



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