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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
136/221

固定都市アッカータ

6ー004


――固定都市アッカータ――


「ペリエスさん、大陸の海岸線までは後どのくらいですか?」

「あと1時間ほどかな?」

 大陸は近づいて来たようで艦載頭脳コンピューターもその様に知らせてきた。

  

 やがて大陸に近づき、その形が見えてくる。ガルガスは航法装置をにらみながら故郷の場所を特定しようと頑張っていた。

 艦の現在位置は画面上に表されている。一方地上の画像を分析、再構成を行って地上の俯瞰図を作っていた。

 

「ガルガスさん、アッカータの場所はわかりますか?」

 ガルガスが必死で戦艦から観測できる地形図と自分の記憶を一致させようとしているが、俯瞰図が無いこの船ではアッカータの場所の特定は難しいと言う。

「いや〜っ、こんな状況ではわかりようがありませんね、私の作った海岸線の地図が残っていればなんとかなるのでしょうが」 

 プルトリア大陸上空に来たのは良いが位置関係が全くわからない。

 

 当然であるが、まともな地図を持っていないのだから場所が特定出来る筈もない。写真の様な記憶力でも持っていればともかく、海岸線の形だけではどうしようもない。

 今回のコースはOVISの慣性航法による飛行記録で飛んできており、最初に来た時に見た海岸の付近に来ているはずだ。

 ガルガス自身がアッカータが大陸のどのへんに有ったのかを掌握しているわけでもない。

 

「ヒロト准尉、場所がわからなければ行きようがない。海岸線に沿って飛行してその場所を探すのか?ものすごく時間がかかるぞ。それよりさっさとランダロールの人類都市に直行しよう」

「どうしようか?とりあえずランダロールの方に行こうか?確かにあそこなら場所を特定できるだろうから」

 

 ランダロールに行けばペリエスを降せる。少なくとも面倒の種がひとつ減ることになるのだが。

 

「オーッホッホッ、リクリアさんがおられるのでしょう?ガルガスさんと瞑想ウタキを行えば、場所がわかるのでは無いのですか〜?」

 またけたたましい奴が提案をしてきた。こいつどこからそんな情報を仕入れたんだ? 

「確かにそうですね、私もシャーマンの資格はありますが能力は低いです。強力なシャーマンの力を借りれば天上神ヘイブを通じてアッカータを探せるかもしれません。」

「ほう?ガルガスもシャーマンだったのか?」

 リクリアは意外な顔をしている。先ほどの瞑想ウタキに加わらなかったためだろう。

 

「皆さんほどの能力はありません。私の能力は測量に必要な位置の特定くらいで、交信や遠視は出来ませんから」

「そういえば狼人族は兔人族よりも能力値が低くても洗礼を受けに行くと聞いたことが有るな」

「狼人族は兔人族の皆さんより体力がありますからね。神殿に向かうのには遥かに楽ですし、能力が低くても役に立つ職種はいくらもありますから、多くの子供が洗礼を受けに行っています」

 

『それぞれの種族によってシャーマンは様々な使われ方をしているのか』

『我々の認識以上にシャーマンシステムは多様性に富んでいる様です』

『こんな能力が生活の中で根付いているという訳なのか?』

 

「狼人族の村でも台地ダリルから放逐された兔人族巫女が増えたおかげで、シャーマンの能力者は増えていると聞いています。兔人族の固定都市ベルファムであるレスティーダが近年力を付けてきているのは、シャーマンが増えてきていることが大きな要因だと言われています」

「巫女の追放が台地ダリルの力を弱め、大地グランダルの力を強化している。そのことに龍神教の連中は気が付いていないのだ、愚かな連中なのですよ」 

 ガルガスが残念そうに言う、台地ダリルの権力闘争の事を嘆いているのだろう。

 

「そんな事はどうでも良い。さっさとアッカータを見つけてガルガスを降ろしてやれ」

 ペリエスが命令口調で言うが、誰も相手にはしていない。

 

 ガルガスを中心にリクリア、メディナ、そしてカロロが周りを取り囲んで瞑想ウタキを行う。

 リクリアが天上神ヘイブに繋がり天空からの映像を送ってもらう。それをガルガスが確認をしリクリアに言葉で指示を出す。いくつかの候補地を拡大してアッカータかどうかを確認する。

 無論同じことを戦艦が行うことは出来るが、戦艦が移動するよりは映像で確認したほうが早いのは言うまでもない。何よりも同じ様な景色が続く海岸線をずっと捜索していくより遥かに楽である。

 

「連中は何をやっているんだ?あんなことで目的地を見つけられるのか?」

「全てが事前に準備された情報によって作戦行動を行えるわけではありません。ここには統合司令本部も、索敵部隊も存在していないのですよ。ここではあれが最強の捜索手段なのです」

 

 半年以上もこの世界にいて非常識が身についたヒロだからこそこの様に判断出来る。しかし人類宇宙軍から落とされて来たばかりのペリエスには無理な話だろう。

 アッカータと思われる天空の映像を見たガルガスが、そこが目的地であることを確認した。

 

「間違いなくここがアッカータです。港に多くの船が停泊をし、干潟に造られた水田が整然と造られており、丘陵地帯には領主館が見えます」

『メディナにカロロ、見えるか?』

 リクリアはあえて交感フェビルによる会話を試みるが、無論ガルガスに聞こえることは無い。

 

『はい、姉さんよく見えます』

『船がたくさん見えますね。外部との交易が盛んなようですし、整然とした河川改修が行われています。かなり豊かな街に見えます」

 滑舌の悪さのおかげで幼く見られるカロロも、実際はメディナと同い年の少女であり交感フェビルにおいては普通に饒舌である。

 

『メディナはカロロの声が聞こえるか?』

『まだだけど、かすかにそんな感じは生まれているわ』

『ちゃんと感じるようになれば、カロロと沢山のおしゃべりが出来るようになるぞ』

『はーい、カロロもすごく楽しみにしていまーす♡』

 

 医院長さんが何故かドヤ顔でみんなの交信の様子を見ている。聞こえているわけじゃ無いよな。

 

 アッカータの位置がわかったのでそこに向かって艦を移動させる。上空から見たアッカータは大きな川が海に注ぐ干潟に造られていた。

 干潟の上流にある多くの護岸が水の流れを制御しており、干潟に流れる水の量を均質化している。その両岸には植栽が設けられ防風林を兼ねている。川の周囲にはよく整えられた水田が造られ、水田を繋ぐ無数の橋が造られていた。

 

「すごい基盤設備ですね、よくこれだけの規模での投資が出来たものです」

「現在の領主は元は海運業で財をなした一族でして、その金を大胆に基盤整備につぎ込みました。その結果農作物が安定的に作られるようになったので、農作物の収益と税との関係が築かれたのです。安定した収穫は安定した税収をもたらします。安定した税収で安定した基盤整備を行うことが出来ます」

 

「なるほど、この基盤整備こそがアッカータを固定都市ベルファムたらしめているというわけか。アッカータの領主は相当に優秀な人間だったようだな」

「安定した農業収入は海運業を強化し、各地の海辺の街との海洋交易によって莫大な収入を作り上げています。その領主の末裔達は『丘の上の民』と呼ばれ、入植する狼人族との差別化として、肉を食わず魚を食う習慣を作り上げました。一目で領主一族とわかるようにです」

 

 ガルガスが狼人族でありながら市民コモンの形態を保っているのは、そういった理由が有ったようだ。要するに上級市民というものを体現しているのだろう。

 

「始祖の領主が偉大だったのは、富を独占すること無く階級社会を作ったことでしょう。子孫に富が受け継がれれば、施政は必ず腐敗するというのが始祖の信念だったそうです。そこで農業収入と海運収入は独立した組織を作り、それは運営会議という組織の決定に委ねることになりました」

 上級市民はなんの努力をしなくとも上級市民のままでいられるから腐敗を起こすわけで、その世襲制に歯止めをかけたということのようだ。

 

「この結果アッカータは海運組合と農業組合の代表者が領主との合議制で街への投資計画が決定される事になっています」

「なるほど、カルカロスの領主は持ち回りで行われているが、それとは別の形の封建政治方式というわけか」

「こういったシステムは海運、農業を含めて兔人族の固定都市ベルファムであるレスティーダから伝えられた物です。

 アッカータ程の大規模ではありませんが、小規模の固定都市ベルファムはあちこちに造られていまして、それらの場所との交易を行うための海図作りが私の仕事でした」

 

「それが嵩じて外洋に乗り出して遭難したということか」

「面目ない」

「いや、それはそれで素晴らしいことじゃ。他人と異なる視点を持ち、なおかつそれを実行できる心の強さには敬服に値する」

 ガーフィーはフロンティア精神にあふれたガルガスを高く評価している様だ。

 

「それにしても素晴らしい港湾施設ですね、カルカロスの何倍もの大きさが有って大きな船が停泊していますよ~」

「おや〜〜っ?おやおやおや〜〜〜っ?」

 画面を見ていた医院長が突然大きな声を上げる。今度は何ですか?

 

「ガルガスさん、あの大きな建物が領主館ですよね〜」

「はい、そうです。周囲に有る大きめの建物が行政施設で、その外側に広がる街並みを『丘のアッカータの街』と呼んでいます」 

「それはわかりますよ〜。そのアッカータの、ほら、この下の方に有る大きな塀に囲まれた空き地の部分!」

 街に隣接した場所に大きな土地を囲む長い塀が見える。土地の真ん中付近に小さな建物が見えるが、それ以外には何もない土地である。


「ああ、龍神殿りゅうじんでんですね」

「龍神殿?レスティーダでは龍神教が広まっているのですか?」

「いえいえ、他の狼人族と同じで多神教です。龍神殿はかつて翼竜によって奉納された遺物が祀られている祠だそうですよ」

「龍神教の広まっていない街に龍神教の祠ですか?ずいぶん巨大な敷地ですが」

「かつて翼竜により奉納されたとされてはいますが、龍神のたたりを恐れて祠を建て祀ってはいますが、社が有る訳でもなく布教活動もしていません。周囲に塀が有るのも普段は公開していないからです」

「危険物扱いですか?それは非常に興味深いですね」

 

 この医院長!また何かを企んでいるのか…?

 

「宜しい!街外れに降下してください。私の馬車で皆さんをお送りしましょう!」

「待ってください、こちらの大陸の空気には有毒物質が含まれています。テストをしなければエルメロス大陸の人間が外に出るのは危険です」

「そうなのか?それではワシらも外に出られないのか?」

 

「メディナやリクリアはもともとこちらの大陸の人間ですが、ガーフィーさんはそうではありません。多分魔獣細胞が有毒物質を分解してくれるのでしょうが、確証はありません。この船ではテストが出来ますからそれを待ったほうが得策でしょう」

「では、医院長とワシは居残りか?」

「な〜にを言っているのですか?毒ガスごときを問題にする私だと思っているのですか〜?コタロウさんですら異常が出てはいないでしょうが」

 

 ズズズーンと胸を突き出してくる医院長である。

 医院長は竜人族よりも丈夫に出来ているらしい。後ろの方でコタロウがビビって青くなっている。

「いんちょーせんせー、こわいーっ」

 頭の上ではカロロも引いている。竜人族より強い兎耳族ってなんだよ。

 

「医院長は人外ですから、大丈夫じゃないでしょうか?」

「うむ、ワシもそう思う」

 なぜか理解が完全に一致するヒロとガーフィーである。

「それでヒロはどうするんじゃ?」

「俺は検査をするまでもなくここでは外に出られません。OVISに乗って街までは護衛をして帰ってきます」

 

 あまりペリエスから離れていたくは無いのが本音だ。


「ボク達は同行して良いんでしょうね〜」

 医院長が強行してきたのでコタロウさんも、だいぶ腰が引けているようだ?

「コタロウさんは皆を守ってもらわなくてはなりませんから、よろしくお願いいたします」

「は~い、皆の安全はお任せください」

 

 いや、本当は医院長を見張っていてほしいのですが……。

 


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