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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
134/221

食堂での打ち合わせ

6ー002

 

――食堂での打ち合わせ――

 

 とりあえず座る場所は確保したが、実のところみんながやることは何もない。外の様子を眺めていれば、艦が勝手に判断してくれるからだ。

 

「それでワシは何をすればよいのだ?」

「そこは艦長席ですから戦闘になったら最も良いと思う行動を考えてください」

「いや、ワシ獣しか相手したことは無いが?空中の何処から獣が出てくるんだ?」

「全長200メートルの翼竜が出ますよ、なるべく殺さず、傷つけずに、逃げ出してください」

「そ、そうか?わかったそうしよう、狩っては…いけないのだな?」

 

 意外と素直な反応のガーフィーである。本当は、全く状況が理解できてはいないのだろう。

 

「あの〜、ボクはどうしましょうか?」

 コタロウは艦内ではカロロもいるし、やることもない。何よりも体の幅を収められる椅子が無い。

「コタロウさんは座れる椅子がありませんから、そのへんに座っていてください」

「わかりました、カロロちゃんおいで」

 カロロを頭に乗せると艦橋の隅の方に行ってそこに座り込んだ。

 

 ガルガスは飛行しながら周囲を見るモニターの使い方を覚えたらしい。モニターを見ながら目を輝かせている。

 

「すごい〜っ、すごいです〜っ!世界はこんな形をしていたのですね〜」

 考えてみればこの人は測量技師だと言っていたな、数学的素養が有るらしくもの事を論理的に考えられる人間の様だ。

 

 戦闘艦は大気圏内飛行を行う形状をしてはいないので亜音速飛行を行う、それでもOVISで飛行するよりはかなり早い。大陸までは10時間位で着くだろう。

 それぞれの椅子が決まった所でバルバラ医院長から食事の用意が出来たと連絡が有り、全員で食堂に行く。

 コタロウさんはさっき食べたばかりだというのに、いそいそと食堂に向かう。この人、この前行ったときには到着まで飲まず食わずで寝ていたんだよな。

 

 食堂は結構広く、半舷休息で食事をするためだろう。全員が座ってもまだ余裕が有る。

「はいは~い、いっぱいありますからね〜」

 医院長さんが大鍋にシチューを作って全員に振る舞っており、テーブルの真ん中にはパンを入れたバケットが置かれている。

 

「コタロウさんが狩ってきた獲物のお肉を入れたから味はいいわよ〜食べられない人は抜いて有るからね〜、食べられる人はてんこ盛りよ〜」

 ガーフィーとコタロウの皿には肉が山盛りになっていた。

「おお〜っ、これは美味い!医院長せんせいは料理も上手なのですな〜」

「ふふ〜〜ん♡こんなものですよ〜」

 ここの設備で作ったのか、この人も相当器用な人だな。


「はい、コタロウさんにはもっと美味しく焼ける機械で焼いたお肉がありますからね〜、他のみなさんもどうぞ〜」

「わ〜い、ありがと〜ございま〜す♪」

「おいしそうーっ♡」

医院長せんせいは食べないのですか?」

「アタシはいいのよ〜、料理しながら食べちゃったから〜」

 

 お玉をクルクル回しながら胸をズンと突き出す医院長である。

 

 食後のお茶を飲みながら今後の予定を話し合う。ペリエスの事もあり、これまでの経過と状況を説明し直した。

 第一目標は月の調査である。そこにはもしかしたら人類のルーツを示す手がかりが有るかもしれないのだ。月に行っても廃墟が見つかるだけかもしれないが、それでも人類のルーツが確認できればそれで良いとヒロは考えていた。

 

 それが確認できればランダロールの住人に大きな希望を与えられる。その上で今後のことを考えれば良い。どう考えても人類が未来永劫地下で暮らしていくのが良いとは思わない。

 問題はどこに行くかである。この艦を使えば住民を移住させることは可能だろう。それでも果たして人類はエルメロス大陸で生きていく事が出来るだろうか?

 

「まずはこのまま大陸に渡ります、最初にガルガスさんのいた固定都市ベルファムのアッカータの近くに降り、ガルガスさんをそこで下ろします。その後地下都市のランダロールに行ってペリエスさんを下ろします。そしてランダロールにいる兔人族のシリアさんと合流する予定です。おふたりともそれで宜しいですね」

 

「わ、わかった。しかし准尉、本当に人間の街があるのだろうな」

「地下都市です。その世界は人間には息が詰まる様な場所ですが、我々にはなんの問題も有りません。慣れていますからね」

「地下都市?そんな物が内陸には有ったのですか?その街ではどうやって畑を作っているのでしょうか?」

「ガルガスさん、畑ではなく建物の中で作っていましたよ、ただカルカロスの物ほど美味しくはなかったですけどね」

 

「軍人の僕はそこで上級国民として遇されるのか?」

「人類宇宙軍は2千光年先ですから、上級国民の制度はありませんし年金も出ません。そこでは人と共に出来ることをして暮らしていくのです。軍と違って統制も啓蒙もありません、ずっと自由な世界ですから」 

 まだペリエスの中では考えを整理することが出来ないのだろう。ヒロですら状況の認識にはそれなりの時間が必要であったのだから理解は出来る。

 

「そのシリアという御仁はどの様な方なのですかな?」

占師シャーマンです、感能者フェビリティの能力は俺より高いと思います。月に行く以上、そこに我々の敵がいないという保証は有りませんから。ペリエスさん並の交感能力が必要なのです。俺はOVISに乗らなくてはなりませんから」

 

「言っている意味がわからんな、兔人族のシャーマンというのか?占い師に何故そんな事が出来るのじゃな?」

「彼女は何の訓練も知識もなしに墜落した戦闘艦の艦載頭脳にアクセスできたのです。あの世界ではかなりの数の感能者フェビリティが存在して、台地ダリルの世界を維持していますからね。何よりもメディナとリクリアさんがこの船にログインできたではありませんか?」

  

 皆の話し合いを嬉しそうに見守る医院長、いつまでお玉をクルクル回しているんですか?

 コタロウさんはお腹がいっぱいになったのか食堂の隅で壁にもたれている。そのお腹の上でカロロが一緒に聞いている。

 実に神経が太いと言うか、全く動じない精神力が羨ましいとも思う。

 

「だがどうしてヒロは月になど行きたがるのじゃ?この船が空を駆ける船だと言うのはわかったが、月に一体何が有るのだ?」

「確証は何も有りません、ただこの星が俺の先祖が生まれた星であれば、必ず何かしらの遺跡が残っているはずです」

 遺跡と言う言葉に反応してコタロウの尻尾がピンと立ち上がる、わかりやすい奴だ。

 

「有ったとしても廃墟しか無いとは思いますが、もしかしたら天上神ヘイブに関わる何者かの巣窟であるかもしれません。その可能性はかなり高いと思います」

天上神ヘイブとはなんじゃ?」

「プルトリア大陸において巫女やシャーマンと呼ばれる感能者フェビリティが心を通わす相手です」

 

「神のようなものなのか?」

「そんな曖昧なものではありません、通信手段を支配する意思を持った何者かです。シャーマンに遠くの景色を見せたり、大陸の反対側と話を行う際に中継を行う為の存在です」

 はっきり言えば衛星通信網のようなものだ。しかしそんな事を言ってもガーフィーには理解できまい。

 

「あちらにはその様な技術が有るのか?リクリアはそんなことをワシには言わなかったが?」

「私は…カルカロスに骨を埋めるつもりでしたから…」

 その言葉にガーフィーの顔がぱっと明るくなる。

 

「そ、そうなのか?あちらの大陸に行っても、ワシと共にカルカロスに戻ると言うのだな?」

「あ、当たり前でしょう。私はガーフィーのつがいなんだから」

 いささかテレ気味にリクリアが答える。この人は基本的にツンデレみたいだ。

「コホン。そ、そうであるのか?ならばワシも全力でお前を守ることにしよう」

 弾むような声でガーフィーはリクリアを引き寄せる。一気にその場の気温が上がったような気がしたが、やってられないのでヒロは言葉を繋いだ。

 

「巫女制度はシステムとして確立しているようで、神殿と呼ばれる遺跡がそれに関与していますがこれも正体不明です。ただ正体は不明ですが管理者と呼ばれる存在と同一組織ではないかと考えています」

「色々と面妖なものが冥界には有るようじゃな〜。それで天上神ヘイブが月にいたらどうするのだ?」

「友好的なら話を聞きますが、敵対的ならそのまま地球に逃げ帰ります。それ故に戦闘になる可能性もあります。ですからガルガスさんとペリエスさんには船を降りていただきます。他のみんなも降りたければ引き返しますが、宜しいですか?」

 

天上神ヘイブが追いかけて来ないと思うのか?」

「その点はなんとなくですが、大丈夫な気がしているのですよ」

 何と言っても最強の医院長がいることですし、と思うヒロである。

「どうする?カロロちゃん、危険だよ〜。お父さんの所に帰ろうか〜?」

「おにーちゃんがいれば、ゆうきひゃくばーい」

 

 コタロウの膝の上でカロロが答える。子供っぽく見えるがメディナと同い年である。

 実際のところ、この大きさでもガーフィーより強いかもしれないのだ。ちょっとやそっとで逃げ出すわけもない。

 

「それで?それを確認してどうする?この世界の本当の支配者が誰であるかわかっても、何か変わることが有るのか?」

「これまで隠然とこの世界を支配してきて、その存在そのものを感じさせない者ですからおそらく何も変わることは無いと考えています」


「では、何故わざわざそんな所に天上神ヘイブとやらの存在を確認しに行かなくてはならんのだ?」

「いくつかの理由があります。ひとつにはランダロールの人間をいつまでも地下都市に置いておくわけにも行かないからです。いずれは移民を考えなくてはなりません」

 いくら安全だからといって人類を地下施設の中に閉じ込めておけば、いずれは人口減少を起こして滅びてしまうだろう。


「その生き残りと共にエルメロス大陸に移り住むつもりか?」 

「残念ながら人間は非常に脆弱です、とてもではありませんがエルメロスの人間と同じレベルで生きてはいけませんよ」

「う、嘘を言うな!准尉はここで生き抜いてきたのではないか?OVISがいればこんな連中を恐れることはないだろう」

 ペリエスはまだこの世界で暮らした事が無いから、OVISを使えば生きていけると思っているのだ。それを否定はしないがペリエスには無理だろう。


「武力で制圧しても生きていくことは出来ませんよ。その結果はあなた自身が経験したことではありませんか?携行武器を持ちシールド装置を持った人類が、ナイフしか持たないわずか3人の狩人によって全滅させられたのを見たばかりでしょう」

 万が一にも人類が科学力を過信して戦争にでもなれば負けるのは間違いなく人間だ。

 竜人が加担しなくとも、素手で人間を殺し、兵器を破壊する能力を有する獅子族がおり、軍隊をも凌駕するチームワークを誇る犬耳族が住んでいる。

 しかもその大地を大型魔獣が闊歩しており、原住民ですら竜人族の手を借りて生き抜いているのだ。人間がその中で生き抜くことなど出来ようはずもない。

 

「ねえ、ヒロ。その月にヒロの先祖の遺跡が有ればこの世界は昔その人達が住んでいたことになるのよね。天上神ヘイブというのはヒロの先祖かしら?そもそもその人達はどうして逃げ出して行ったのかしら?」

「それを調べるのも目的のひとつだよ。それにこの世界の成り立ちに関する謎がわかれば…」

 コタロウの尻尾がフルフルと揺れている。わかるよ〜、ものすごく興味があるんだろうな〜。何しろ知識欲と好奇心の塊みたいな人だもんな〜。

 

「わかれば…どうなるんじゃ?」

「なにも変わらないでしょう。でも知識が増えるし、ランダロール市民の行く末に何らかの指標を与えることが出来るかもしれません。知ることこそが重要なのです」

 だが、自分のやろうとしていることはこの世界に取って良いことなのだろうか?曲がなりにも安定をしているこの世界に厄災を起こすことにはならないだろうか?

 

「良いんじゃありませんか〜?何事も調べてみなければわかりませんし〜、状況がわかればその条件の中で生きる方法を探ることも出来ますのよ〜」

 

 医院長先生、そのお玉を指先に立てながら話さないでください。

 


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