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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第六章 私を月まで連れてって
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艦橋の喧騒

6ー001


――艦橋の喧騒――


 戦艦は発進すると、そのまま上空2万メートルまで上昇をし大陸を目指す事にした。

 

 OVISはドッキング・ベイに取り付けたまま飛行をしている、空気抵抗は大きいが仕方がない。もともと大気圏内を飛行することは想定されていないのだ。

 

『オーヴィス、通信は繋がるか?』

『問題ありません、船内の通信装置を使用して接続は維持されています』

『お前の持っているこの大陸の言語データーを戦艦に送ってくれ、自動翻訳システムを構築したい』

『了解、そちらに送ります』

 

 ピーッ。と艦載頭脳コンピューターが警告音を発する。

 

『送信が出来ませんそちらの回路を開いてください』

「コンピューター、OVISとの回線を開け」

『当該船舶に登録された機体ではありません、管理者の許可を願います』

 

「許可する」

『管理者の許可を願います』

「ちっ、ペリエスさん、許可を」

「………………………」

 

「どうした?さっさとしてくれ」

「ぼ、ぼくはこの船の唯一の専任管理者だぞ、そ、それなりに礼儀を持って遇してくれ」

「言ったはずです、もう人類宇宙軍とのコンタクトは不可能なんだ。あんたがちゃんとやってくれないと、ランダロールにも行けない。あなたはこの世界で暮らす事になる」

 

【どうやら気に入らんことが有るようだな、言いたいことはあるかもしれんが、ここは協力してくれんか?】

「ひええええ〜〜〜っ!」

 振り向いた途端に後ろから音も立てずに近づいてきていたガーフィーの顔を正面から見てしまった。腰が抜けたように床を這いずって下がっていく。

 

【どうした?ひとりで何を騒いでいるんだ?ヒロの言うことがわからなかったのか?】

 何を言っているのかは理解できなかったろうが、ドスの効いたガーフィーの言葉に萎縮してしまうペリエスである。

 

「わ、わかったよ。コンピューター、接続を許可する」

【ペリエスさん、まあここに座って。あなたにとっては恐ろしげに見えるかもしれませんが、中身はあなたと変わらない人間なのですよ】

 ガルガスがペリエスを椅子に座らせる。

 

『インストール終了、言語翻訳が可能となりました』

「新言語をエルメロス語と呼びメイン言語に設定、イヤホンにて同時翻訳する。人類言語は同時翻訳の上、艦内にて放送する」

「おい、勝手なことをするな。この船は人類宇宙軍の船だぞ」

 ペリエスが抗議をするがヒロは全く相手にしない。

 

「この船の乗組員は全員がエルメロス語を話します。人類語を話すのはあなただけです。運用の効率から言ってもこの言語を使用します」

 ヒロは艦内で使用されているヘッドセットをペリエスに渡す。彼の言葉は艦橋放送で翻訳される、内緒話は出来ないのだ。

  

 言葉が理解できるようになると少しは落ち着くことが出来るようになったみたいだ。

 いずれにせよ早くペリエスの代わりになる人間が必要だが、メディナにそれが出来るだろうか?ヒロは駄目である、なにかあればOVISで出撃しなくてはならないからな。

 

『無能な味方は有能な敵よりも組織にとっては危険な存在になります』

『同感だ。味方を見殺しにして、さっさと艦に逃げ込む様な人間を信頼できる筈もないからな』

 

「とりあえずアッカータに向かい、そこでガルガスを下ろす。その後にランダロールに向かいそこでペリエスさんを下ろします。それまでの間に仮の管理者を決めなければなりません」 

 医院長がズカンと胸を張り出して存在を主張してくるが、何が有ってもこの人だけには艦のコントロールは預けられない。

 

「こ、この艦の管理権を奪ったら用済みのボクを放り出す気じゃないのか?」

「そんな事はしません。あなたを無事にランダロールに届けて差し上げますよ」

 試しにメディナとリクリアにリンクをさせてみた。思ったとおりリンクそのものは問題が無かった。しかしペリエスは頑としてログアウトを拒否していた。おかげで専任パイロットとしての認証は出来ない。

 

 彼にしてみれば、ログアウトをした途端にガーフィーやコタロウに頭をかじられると言う強迫観念に取り憑かれているのだろう。かなり強い猜疑心にかられているようだ。

 まあ彼にとっては仲間が殺されたのは数十分前のことだからとても理解が追いついていないのも無理はない。

 

「おおおお〜〜〜っ!これは〜〜っ、地面が丸いではないか〜〜っなんで落ちないのだ〜〜?」

 ガーフィーが外の景色を見て感嘆の叫び声を上げている、ペリエスが怖がるからやめて欲しいものだ。

 

「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ、私達に取って食人は禁忌ですから貴方を食べることはしませんから」

 人間の顔に犬の耳が付いただけのガルガスにそう言われて少しは落ち着いて来ているみたいだ。エルメロス大陸の世界の状況に関して一生懸命に説明をしている。

 

 リクリアはこちらの大陸に来る時に空を飛んでいるのでさして驚いてはいない。

 ガルガスは惑星の丸みを見るのは初めてらしいが、測量をやっているので地球の丸みに関しては理解しているという。

 

「いや〜〜っ、船で移動できるというのは楽で良いですね〜〜」

 コタロウが獲ってきた獲物の肉をブレスで焼いてカロロと一緒に食べているが、流石にもうコタロウの頭にしがみついてはいない。それを見てペリエスが反対の隅に行って縮こまっている。

 

「なんなんだよ〜〜、あのブヨブヨの怪物は〜〜。なんであんなのが一緒にいるんだよ〜」

「貴様、竜人殿を獣と呼ぶな。街の守り神であり大学の教授だぞ」

 リクリアが大きな胸をズンと突き出す。だいぶこちらの世界に馴染んできたようだ。

 

「そうですよ〜〜、妹のカロロちゃんは今年から大学生なのですからね〜〜」

 バルバラ医院長がズイッと前に出る。この人も一応教育者だからね〜。

  

「この星では怪物でも大学に行くのか?」

「何言ってるんですか〜?我が国の識字率は99%ですよ。全ては私達の教育の成果なのですからね」

 バルバラ医院長がリクリアに負けじと胸を突き出す。ユルユルの法衣なのに思いっきり存在を主張している、大きさを競わないようにね〜。


「な、なんで貴方は仮面を付けているのですか?」

「趣味ですよ、趣味。美人はそうそう他人に顔を見せるべきじゃありませんからね〜」

 医院長はペリーの前ですっと仮面を取って顔を見せるとニカッと笑ってすぐに仮面を付けなおす。

 コタロウは医院長の後ろの方で肉を食べていて医院長の顔には興味を示さない。人間の美人は、竜人族にとっての美人ではないのだ。

 

「おにーちゃん、医院長さん、やっぱりへんー」

「人にはそれぞれ主張が有るからね〜、お互いを大事しようね〜」

 

「コタロウさん艦橋でお肉を食べるのはやめてください、そもそもそんなもの何処から持ってきたんですか?」

「さっき狩ったばかりの奴ですよ~、此処の調理器具は簡単でいいですね〜、あまり美味しくはありませんがソースをつければ結構いけますよ〜」

 お肉にぷーっと炎を吹き付けて温め直している。

 

 突然ベルが鳴って、コタロウに向かって不燃性ガスが吹き付けられる。艦橋で火を使えばこうなるんだよな〜。

 

「おお〜、この椅子はなかなか座り心地が良いな〜、この部屋の全部がよく見える上に窓から外の様子もよく分かる」

「ガーフィーさん、そこは艦長席で、この船の指揮官の席ですよ。間違ってもそのへんのボタンに触らないでくださいよ、それに窓じゃなくてスクリーンですから」

「おお〜っ、なんじゃ?ここに触ったらいっぱい窓が光り始めたぞ!」

 艦長席のモニタースイッチに触れたらしい。他に警報とかインターホンも有るからね。

 

「触るなといったでしょう!他の人もそうですからね。艦載頭脳コンピューター!全てのスイッチをロックしろ」

「え?触っちゃったわ」

 

【我が人類宇宙軍は50年の準備期間を越えて、敵補給基地に対する攻撃を行うに至った。かつて宇宙に開拓の手を広げた我ら人類は『エヌミーズ』の侵攻により多くの移民星を失い、今や直径100光年に押し込められるに至った。

 『エヌミーズ』は恐ろしいほどに強力であり、科学力に置いても圧倒的な差があった。しかし同志諸君案ずるな、敵から奪った数々の技術により人類は彼らに比肩する科学力を持つ事ができたのだ。

 彼らを滅する時は近い、人類のために犠牲をいとうな、敵を破壊しろ、諸君の功績は長く人類に語り継がれるであろう……】


 突然艦橋で人類宇宙軍の啓発プログラムの演説が始まる。戦争に出撃する前には毎日のように聞かされてきた演説だ。

 幸いなことに人類共通言語なのでみんなには理解できなかっただろう。

 

「何を言っているのかしら?中身はわからないけど随分勇ましい感じで喋っているわね」

「俺としては二度と聞きたくはない放送だ、とっとと切ってくれもう一度ボタンを押せば良い」

 

 幸い火器管制は全て船内頭脳の管轄なので何処を触っても艦砲が発射される危険性はない。

 もっとも此処では臆病者のペリエスがその最高権限者だからな、目を離すと危ないと感じざるを得ない。なるべく早いうちに上位者を決定しなくては。

 

『意見具申。この艦の管理者権限を剥奪出来ない場合は火気管制にブロックを掛けることをお勧めします』

『それは管理者権限ではないのか?』

『オアシスで乗員を見捨てたこの男の行動は、軍規に照らしてもかなり問題のある行為であると艦載頭脳コンピューターは考えています。私が交渉したところ、その意見に賛同しています』

『そう言えば戦艦の管理権限者が中尉だものな、階級から考えてもそういうことか。自分の艦からも見放されるとは気の毒に』


 火気管制をロックすると、全員の前でこの船の概略と操船方法の話をした。

 まともに操船をするとなればかなりの時間訓練を行わなくてはならないが、とにかくヒロが指示したのは訳のわからないボタンにさわるなと言ったことだけだ。

 その上で周囲に有る機器が何をするものであるのかを順番に話して聞かせる。意外なことに皆は驚くほど理解力が高く、思考の柔軟性がある事がわかった。

 

 機器による操作を行わず言語によって操作することを覚えるとみんな簡単に操作できるようになった。

 これはOVISも同様では有るが、搭乗員がいなくとも艦は自律思考のある艦載頭脳コンピューターによって運行され無人でも運用は可能であった。

 

 搭乗員はただ『エヌミーズ』の干渉をブロックし、艦が暴走をし作戦命令を破壊しないようにすることがメインの仕事で、残弾や燃料等の監視を行い艦全体の維持を行うために必要なだけであった。

 しかし作戦計画は宇宙軍本部のシュミレーションによって行われ、作戦が始まれば全隊指揮は指揮艦から発せられる。

 

 こういった作戦で恐ろしいのは、作戦目的が優先され乗員保護は無視されることだろう。必要と有れば個別の艦の犠牲を厭わないのが指揮艦の判断だ。

 そんな艦に乗って戦闘をしていたのであり、それが人類の為であると信じて疑わなかったのだから嫌になる。

 

 実際には混戦になった場合各艦の艦載頭脳の独自判断で作戦は続行されるが、その場合の方が乗員に対する生命保護レベルが上がるのがなんとも悲しい所だ。

 それ故に艦載頭脳コンピューターがペリエスの行動を乗員保護プログラムからの逸脱と考えたのだろう。

  

 とにかく、ペリエスをそのままにしておくわけにも行かないので暫定的に皆を艦橋に座らせる。

 椅子の大きさが唯一合った艦長席に獅子族のガーフィーを座らせ、メディナを索敵手席に、リクリアを火器管制席に、ガルガスを航法担当席に座らせた。

 メディナとリクリアは、明らかに洗礼を受けたシャーマンの能力が有る。

 

 ヒロの判断も、今ではシャーマンの能力とパイロットの能力とは同じものだと思っている。

 したがって艦とのコンタクトは可能だろうし、思考力、判断力共にふたりとも申し分ないというのがヒロの評価だった。

 主パイロット席にはヒロが座り複パイロット席にペリエスを座らせた。ヒロの近くに置いておいたほうが安心できるからだ。


「私は何処にいれば良いのかしら?」

「医院長先生には生活担当をお願いします。食堂で食事の用意をお願いできますでしょうか?」

 この先生は絶対にこの艦の使い方を知ってるとヒロは確信していた。


「いいわよ〜っ、いい女は皆の面倒を見れる女なんだから〜。炊事、洗濯、お掃除は任せて頂戴〜」

 いそいそと食堂に向かうバルバラ医院長、よしよし、これで邪魔者は排除できた。

 


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