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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第五章 襲撃の大地
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警備部隊長のくっころ

5ー009


――警備部隊長のくっころ――


 その頃タング村の集会室では各村から集まってきたシャーマンがティグラとエルラーと共に深い瞑想ウタキを行っていた。

 ティグラはアー族の中でも最も強力な感能者フェビリティではあったが、それに匹敵する者も少なからず存在していた。その者達が一同に集まり瞑想ウタキを行っている。

 

「エンルーや、疲れただろうが今がこの戦の転換点じゃ。もう少し頑張ってくれ」

「はい、大丈夫でございます。もう少しで掴まえる事が出来そうです」

 彼らは交代で瞑想ウタキを続け、天の目を通し戦況の一部始終を見続けてきたのだ。

  

 その一方でランダロールの地下神殿ではシリアもまた瞑想ウタキを行っていた。昼間にティグラとエンルーから連絡があり、夜になって神殿にやってきていたのだ。

 シリアもまた強力な感能者フェビリティであり、ティグラと共にこの戦いを納める手段を模索していた。

 シリアが座禅を組み、瞑想ウタキを始めると程なく女神が姿を表す。シリアに合わせたのか椅子ではなく座禅を組むシリアの前に正座をしている。

 

「あの〜、シリアさん困るんですけど〜。私は管理者ですから〜、種族同士の諍いには介入できないんですけよ〜」

 困ったような顔をする女神ではあるが、一向に気にすることなくシリアは続ける。

 

「おやおや、女神様。女神様の仕事はこの星の生けとし生ける者の幸福と発展を願って管理しているのではないのですか?」

「そうですよ〜。ですから〜、どちらか一方に力を貸すことは出来ないのです〜」

 どうにも発言の歯切れが悪い。タング村の動きを知っているのだろう。自分の立場に縛りをかけられているらしい。


「その割にはこの世界に戦艦を落として彼らを支援している上に、ヒロトさんの記憶まで消してこのランダロールに送り込んだんですよね〜。しかも翼竜を使って狼人族の村まで襲ったじゃありませんか」

「そういうのは〜、全部、天上神ヘイブさんの指示ですから〜」

 

「あらあら、やっぱりあなたは戦艦に搭載されている頭脳と同じ方なのですね」

「シリアさんどうしておわかりになるのですか〜?」

 動揺した様子は全く無い。やはりこの女神は戦艦の頭脳と同じ性質のものだ。自我が希薄で当初の指示からの大きな逸脱が出来ない。

 

「リンクをしていればわかりますよ。別にあなたに何かをして欲しいとは思っていません。天上神ヘイブとの接続をお願いしたいのですよ」

「それは認められておりません…伝言なら出来ますが…」

 思ったとおり、この女神はゴリ押しをすれば言うことを聞く。と言うより天上神ヘイブが常にリンクしているのかも知れない。

 

「それでは是非お願いしたいことがありましてね、なに誰も傷付くことはありませんから」

 シリアはニッコリ笑って要求を述べた。

 

 

「おばば様、上手く掴まえる事が出来ました」

 エンルーが瞑想ウタキを行いながら告げる。

「おお、どうやらシリアがうまくやってくれたようだね。これでこの戦を収められるだろうよ」

 

    ◆    ◆    ◆

 

 狼人族と僧兵達が対峙している、正に一触即発の時に境内に入ってくる市民コモン兔人族の一団がいた。

 

「しばし!しばしの中断をお願い致します!」

 彼らの服装は白い前掛けをまとい、帽子には赤い十字のマークが染められている。どう見ても戦闘員でも狩人でもない。

 

「グルルッ!なんじゃ?お前たちは?」

 この忙しい時にこの一般人コモンたちは何をやっとるんじゃい、とバオ・クーは思う。

 

大酋長グレ・シェリクよそのもの達に手を出すでない!彼らは僧兵ではない、一般人コモンじゃ、戦闘など出来ようもない!」ゼンガーが怒鳴る。

「いや、見りゃわかる。どう見てもワシらの相手になるような連中じゃない。お前たち何のようだ?」

 狼人族にしてみれば子供並みの大きさの兔人族である。バオ・クー同様に周囲の狼人族はだれも彼らに関心を示さない。

 

 狼人族は狩人であり、ここに現れた兔人族は彼らの家族でも仲間でもないので、彼らの安全を考えることも攻撃することもない。大きな獲物を狩っている最中、小動物が目の前を横切っても関心を示す猟師はいないのだ。

 

「我々は医務技官です。戦闘が終わったのなら負傷者の手当をしたいのです!」

 広場の周囲には先程の戦いでふっ飛ばされた一般兵がゴロゴロ転がっている。

 どうやら外で怪我人を手当していたのはこの連中の仲間だったようだ。ほっといても死にゃせんだろうと思ったが子供のような兔人族だ、狼人族が考えるより危ないのかも知れない。

 

「グア~ウ〜ッ、今は立て込み中なんじゃがな〜」

 いささか気勢を削がれてしまったバオ・クーである。しかし狼人族を前に怯む事なく戦場に割り込んで来るこの連中は、よほどの阿呆か、真の勇者かどっちだろうと思う。

  

「僧兵長殿!怪我人を運び出す間は休戦を!」

 医務技官が大声でゼンガーに迫るが、ゼンガーもそれに答える。

 

大酋長グレ・シェリク殿!よろしいか?」

「グウッ、好きにしろ、手早くやれよ」

 バオ・クーは槍を立てて待つことにした。

 

「感謝致します」

 医務技官達は広場の周囲に転がっている一般兵を運び出していく。

 バオ・クーの足元に転がっているシングードのところにも来て様子を見ると、どうやら意識を取り戻したようだ。医務技官達が運び出そうとするが重くて持ち上げることが出来ないようだ。

 

「く、くそっ。殺せ!この様な屈辱は耐えきれん。構わん俺のことはここに置いていけ!」

 意識を取り戻したシングードがバオ・クーを睨みつけてくる。

 

「グフウゥッ、それがお前の実力だ、男のくっころなどは見たくもないわ」

 もう一度頭をぶん殴ると白目を向いて意識を失った。狩人達に指示をして外に引きずっていかせる。医務技官はかなり微妙な顔をしていた。

 

「外の怪我人の様子はどうかな?一応殺さないようにみんなには言っておいたのだが」

「幸い死人はいないようですが、足を切り落とされたものが数名で残りは全員がアキレス腱を切られています。当分は動くことも出来ないでしょう。気を失っている者が多かったですが何をされたのです?」

 その言葉にバオ・クーはニコリと笑う。すると牙がむき出しになって兔人族が震え上がる。元々兔人族は臆病な性質なのだ、シングードなどは例外中の例外である。

 

「グフフフ、なに、頭を少し撫でてやっただけさ、ちょいと強烈だったかもしれんがな」

「首を折らない程度にしていただきたい」

「折れたやつがいたのか?軟弱な!」 

 やっぱり衝撃波バルンガを直接首に当てるのはやめたほうが良いのかな?と考えるバオ・クーである。

「と、とにかく死人を出さなかったことには感謝致します」

 

「どうじゃ僧兵長殿、これ以上そちらも怪我人を出したくはないじゃろう。ワシ等の目的は殺戮でも、侵略でも、復讐でもない。我らの村を襲った翼竜ヴリトラが何者の命令で行ったのかを知りたいだけだ」

「もしそれが神殿の誰かの指示だったとしたら、その者を殺すのか?」

「そうじゃな〜、殺しはせんが…まあ家畜泥棒並みのけじめは付けてもらおうか?」

 手足の一本ももらうと言っているのだから恐ろしい話である。もっともゼンガーにはその意味はわからなかったのだが。

 

「私とて神殿の警備には責任がある。黙ってここを通すわけにはいかないん」

「律儀なことだ、それで?お主も序列勝負ガントを望むのか?」

「いや、槍による一騎打ちを所望する。敗北を認めるか、死ぬまでの勝負だ。私が勝てば台地ダリルを去れ」

 

「お主が負ければ死ぬつもりだろうが、そんな事をしても意味はないぞ」

「私にも僧兵長の意地がある。部下にも神殿を守ることに命を掛けさせておる。隊長が命を掛けなくてどうする?」

 ゼンガーは槍を構えて前に出てくる。

 

「やれやれ、鬱陶しいやつだな」

 バオ・クーも槍を持って前に出る。

 

 ゼンガーの槍は長槍で全長3メートル、バオ・クーの槍は2メートルの短槍である。ただしゼンガーの身長も2.5メートルであり、特に槍として長いわけでは無い。狭い場所での使用を考えた短めの槍と言うことになのだろう。

 一方バオ・クーは狼人族の中でも大柄で3.2メートルの身長があり、槍は相対的に短くなり、杖か刀に近い長さになっている。

 

「私の名はコクラム台地、神殿警備部僧兵部隊、総隊長のゼンガーである」

「グアウッ!大地の民、アー族の大酋長グレ・シェリクタング村のバオ・クー、これは序列勝負ガントではなく一騎打ちであり、片方の死を持って決着とするが了承するか?」

「心得た!」

 

 バオ・クーの槍は相手よりも短いので、正面を向き槍を胸の前で横持ちにする、防御の構えである。

 一方、ゼンガーは腰を落とし、完全に横向きになって槍を構える。伝統的槍術の突きの構えである。

 

「グフウっ…」

 ゼンガーの構えを見てバオ・クーも槍術の構えに変える。

 

「ふむ?…見様見真似でそれがしを真似るか?」

 槍は刀の届かない距離から敵を倒す武器だ。ゼンガーの槍は3メートルだが、バオ・クーの槍は2メートルしかない。同じ構えをすれば完全に不利でしかない。ところが大酋長グレ・シェリクは不敵な笑みを浮かべている。

 双方ともに刺殺を目指した槍であり、厚みの有る両刃で枝物の無い槍頭である。

 

「ハッ!ハッ!」

 素早く踏み込み槍を突き出すゼンガー、それに対し短槍の切っ先を振り回し槍頭の向きを変える。双方ともに槍頭には両面の刃が付いており斬撃の機能もある。

 

 槍の切っ先を交わされ、内側にに潜り込まれたゼンガーは素早く後退するが、バオ・クーは石突を持って体を大きく回転させ槍を突き込む、槍の長さの不足をおのが手の長さで補う動作であった。

 弾丸のように鋭い突きであったが兔人族の脚力には及ばずわずかに相手に切っ先は届かなかった。

 

(此奴槍術を使うか?)

 

 狩りでは獲物を殺すために長い刃の槍が作られ、体全体を使って刃を獲物の急所に突き込む。1トンも有るような大型魔獣は一撃で絶命させなければ反撃を食らうのだ。

 そのために武器を持った相手との攻防を考える槍術のような動きの発達は無かった。狼人族は狩人であり、人間を相手に殺し合う兵士では無いのだ。

 

 ところがバオ・クーは明らかに槍術の動きをしている。短槍でありながらそれより長い槍を相手に戦う術を知っているのだ。

 そもそも獣の反撃は槍では躱せない、自らの体に付いた角や牙は接近戦でのみ使用が可能な物である。体ごとぶつかって来る獣の突撃を槍で防ぐのは無理なのである。

 そこで短めの槍で、刃の部分が長く、柄の部分が丈夫な物を使う。狩りに失敗し獣の反撃を槍で受け、それで防御しなくてはならないからだ。

 

 巨大な体躯を持ちながら、老いたとは言えゼンガーのスピードをも上回る速度を示すバオ・クーである。

 強敵である。やはり今日は自分の命日になるのであろう。その覚悟を決め、ゼンガーは大きくジャンプをする。

 

 バオ・クーは飛び上がったゼンガーが突き出してくる槍を紙一重で躱すと、カウンターの突きを出す。ところが先に地面に着いた槍頭を使ってわずかに自身の位置を空中でずらすと、バオ・クーの突きは空を切る。

 相手の内懐に着地したゼンガーは素早く槍を引き後方に飛び下がる。その刹那槍を相手に突き込む。相手に槍を突き込みながらも体勢を崩さないバオ・クー。彼もまた後方に飛ぶ、完全にお互いを見切っている。

 

 相手の体制が整う前にゼンガーは前に飛び、連続した突きを出すが、バオ・クーは槍を小さく回転させるとゼンガーの槍を跳ね上げ、反撃の突きを出す。



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