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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
11/221

竜の兄妹

1ー011

 

――竜の兄妹――

 

 食後に外にあるテーブルに移ってお茶を飲みながらメディナに狩人組合ハンターギルドの事を教えてもらう。


 組合の基本的業務は狩ってきた獲物の解体と販売であり、一応政府の機関だそうである。

 同時に狩人の申告から、獣の分布や生育状況を監視しているそうで、獣の多い場所の情報提供も行っている。

 獣は魔獣器官と呼ばれる特殊な器官を持っているために非常に生命力が高く、悪食だそうである。

 

「魔獣には元となった獣がいるわけで、草食獣と肉食獣の魔獣がいるのよ、普通の獣は決まった物しか食わないけど、魔獣の場合はどちらも雑食になるわ」

 つまり草食魔獣が肉も食い、肉食魔獣も草も食うのだそうだ、だから餌が減っても生き延びる事が出来るらしい。 

 魔獣が魔獣の肉を食べると大型魔獣グリックになるらしい、どういう生態なのかはわからないが厄介な事なのだそうだ。

 大型魔獣とは昨日戦った様な奴で、極めて危険な魔獣なので高い報奨金が課せられている。

 雑食、草食を問わず魔獣の肉の味を覚えた個体は大型化して、脅威度が跳ね上がる大型魔獣グリックになるらしい。

 

「だから街の近くの魔獣を狩っておけば大型魔獣は発生しないわ、だけど外から入り込んでくる大型魔獣は私達のような専門のハンターが狩るのよ、普通のハンターじゃ危なくて狩れないから」

 そういった事情で街の近くの獣はなるべく狩っておきたいらしい。そのための狩人ギルドを作って狩人に対して様々な支援を行っているのだ。

 大型魔獣はその肉や毛皮よりも賞金の方が大きいらしい、それだけ住民にとっては驚異と言うことなのだろう。

 

「肉食獣は…どうなる?」

「肉食魔獣は必ず大型化するけど草食魔獣程には大型化しないわ。

 草食動物は元々の体が大きいのは、体を大きくして敵から自分の身を守る為なので、それが大型化すると極端に大きくなるのよ。肉食動物は狩りをするから俊敏性が必要なので、あまり大きくはならないわ」

 しかしそうであれば、体が大きく鈍重な草食動物は狩りが出来ないのではなかろうか? 

「大型魔獣にはもう一つ大きな特長が有って、魔法を使えるのよ」

 

『そう言えばこの世界には魔法という物があったな、あの竜は俺に向かって炎を吐いてきたしな』

『言葉の意味はともかく、魔法と呼ばれる個別的な攻撃システムがこの世界では普通に存在し、獣もまたそれを操るということのようです』

 

「大型魔獣の狩りは離れた場所から魔法を打ち込んで獲物を倒すから、俊敏性はあまり必要が無いのよね」

 個人も獣も、その肉体に攻撃兵器を装備しているのか、とんでもなく物騒な世界だ。

 結局街の街の周囲で獣を狩ることが威嚇となって獣は近づかなくなる。そうなれば大型魔獣も餌を求めて来る事は無くなる訳だ。

 

『お互いに殺しあわない為には、接触しないのが最膳の策なのだと言うことでしょう』

 まるっきり人類と『エネミーズ』の関係みたいだな、そんな事を考えてしまう。ま、2千光年彼方の話だ。

 

「草食の魔獣…何故人間の近くに?」

「人間の作る食物の方が美味しいからよ」

 成程人間の作る作物が草食魔獣を引き寄せているのか、それでそれを狩るハンターが必要になるのだ。 

 それを狩らないでいると、必然的に肉食の魔獣も引き寄せられて来るのだろう。

 ただ、狩人が常に街の周辺で狩りをしていればそれだけで威嚇にはなる。獣たちは人間を恐れてあまり近づかないのだ。

 昨日乗ってきた巡回馬車もギルドが運営をしているそうで、あれが無ければ獲物を町に持ってこれる者などいなくなる。

 魔獣の肉は街の住民に取っては重要なタンパク源になっているとの事であった。

 

 狩人から獲物の情報を集めそれを他のハンターに情報として流す事もしていると聞くし、どのチームがどの辺に出かけたのか予定を聞き、バッティングしないようアドバイスもしてくれるそうだ。

 ただ基本的に情報だけで強制力は無いようではあるが、トラブルの仲裁もまたギルドの仕事らしい。

 ギルドは様々な支援をしてくれるのでギルドの指示を守って安全な狩人ライフを送っているらしい。それ故にギルドに逆らう狩人はあまりいないそうだ。

 

 農家から獣の被害報告を受けるとそれも掲示する。これは獲物とは別に報奨金が出る。

 まあ些少らしい、たいていは小型の獣なのであまり割には合わないので、これは普通は地元の狩人が対処する。

 殆どの狩人は半農半猟で、メディナのような大型を狩れるチームだけが専業猟師なのだそうだ。 

 

 大半の猟師は街の周りに現れる魔獣を狩って生活の足しにしている。畑の作物を荒らされては生活が成り立たない。

 何しろ魔獣はしぶといので繁殖力もかなり高いが、実は肉の味も良い。

 肉を取るために飼育している魔獣もいるそうだが、街の中心に近い場所でないと大型魔獣グリックを呼び寄せるので街の外周部では飼育しないそうである。

 つまり街の周辺部では魔獣を飼育しているが、外周の農村地帯とその外側では獣を飼い、魔獣を狩っているらしい。

 

 たまに大型の危険な魔獣が現れることがあって、それがヒロが倒した様な奴だそうだ。

 これは出現報告があった場合ベテランで力の有るチームに依頼があるそうで、町の方から報奨金の上乗せがある。

 チームを区別するために名前を付ける必要があるとの事で、アラーク達のチームは『獅子の咆哮』と名乗っているそうだ。

 なんかそのままのようなチーム名だがあまり変な名前を付けても恥ずかしいだろう。

 

『獅子の咆哮』はこの辺でも有名な狩人ハンターチームだそうだ、残念ながらヒロのような素人が入り込む余地は無いらしい。

 街であるから他の仕事もそれなりに有るようだ。とりあえずで良ければこのような店で下働きをしたり、職人ギルドに丁稚として雇われて職人を目指す人も多いらしい。

「熊族や獅子族なんかは力も強いから土木作業や農業を営む人も多いし、犬耳族や猫耳族は割と器用だから大工や料理人も多いみたいね」

 

 しかしメディナに言わせればあれだけの魔法が使えれば狩人ハンターが一番稼げると言っていた。

 技能の無い人間は、まず技能を身に着けるところから始めないとあまり稼げる職業には付けないらしい、当たり前の事だ。

「あとは街に届けを出して農地を開墾する事だけど、収穫が得られるまで半年くらいはかかるかしら。ただし開墾した土地は自分の物として登録できるわ、無論税金は取られるけど」 

 まだ十分に言葉を駆使できないし、何か技能が有る訳でもないからやれることは限られているだろう。

 ヒロの持つ技能と言えば敵と戦う事だけだ、それにしても軍人は軍隊から離れると潰しの効かない職業だとつくづく思う。

 

『戦闘と言っても宇宙空間の戦闘ですから地上戦では役に立たないでしょう』

 

 それ以前に基礎体力で比較にならない、OVISに言われるまでもなく果たして狩人としてやっていけるのだろうか?

 それでもヒロの前でニコニコしながらお茶を飲む少女を見ていると、この女性もやっているんだし自分にも何とかなるかもしれないと思う。

 

  *  *  *

  

「メーディナー♪」

 お茶を飲んでいる最中、どこからか彼女を呼ぶ声が聞こえる。

 

 メディナが上を向くとそれに答えて手を振る。

 彼女の視線を追って上を見上げると、なにか太ったカバか豚にトカゲのような尻尾を付けた面妖な物が空をトコトコと飛んでいる。

 その饅頭の様な体の上から小さなものが顔をのぞかせて手を振っている。

 

「カロロ〜っ」

「イヤッホーーーッ!」

 バサバサとそこから小さなものが飛び出すと鳥の様に舞降りてきた。

 

『小型の竜種と推測、あるいは竜人族の幼体の可能性も有ります』

 

 近づいてきた小さな物は確かに竜の様にも見える、しかし竜人族にしてはかなり小さく、子供くらいの大きさしか無い。

 背中にはコウモリの様な羽が生えており、小さな体に大きめの頭という、あからさまに可愛い感じの竜の幼体である。 

「メディナー、元気ー?ずいぶん会ってなーい♪」

「ごめ~んカロロ~ッ、最近忙しくて巣の方に行けないの」

 ふたりが抱き合ってキャッキャしている。どうやら友達だった様だ。

 上空を見ると先ほどの面妖な物が軌道を変えて、お腹の部分を揺らしながらこちらに向かって飛んで来る。

 

『なんだ、あの怪物は?この世界は饅頭と人類が共存しているのか?』

『竜族の亜種と推測、体格的に見て飛行は不可能と考えますが、昨日の竜と同じ原理で飛行していると推測』 

 いや推測しなくてもわかるから、あの竜の親戚なのか?このカロロと言う竜も竜人族の亜種なのだろうか?

 

「メ、メディナさんのお友達ですか?」

「そうよ、私の学校の時の同級生なの」

 やはりこの子は竜人族の幼体という事なのだろう、ん?メディナの同級生?

 

『貴方と同じ位の年齢という事です、竜人族はかなり成長が遅いという事では無いでしょうか?』

 

 尻尾を除いて身長は130センチ程だろうか?メディナが抱き上げているからあまり重くも無い様だ。

 ワンピースの様な服を着ているが靴は履いていない、手も足も鋭い爪が生えており、服からはみ出した体色は薄緑色をしている。

 クルリとした緑色の目をしていて何となく愛くるしい表情を見せるが、口の中には沢山の牙が生えていた。

 

 ゆっくりと戻ってきた薄い褐色の肉の塊は、ヒロとメディナの前に着陸すると腹の肉がポヨンポヨンと上下に波打つ。

 近くで見れば確かに竜である。しかし先日見た竜は、いささかの頼り無さを感じる物のそれなりに竜の威厳らしき物があった。

 ところが目の前に現れた肉の塊は全く威厳を感じさせず、丸みを帯びた体はタテヨコに大きくてうっとうしいだけのものでしかない。 

 身長は明らかに獅子族のアラークより高く、横幅も倍位は有りそうだ。

 顔は確かに竜の顔をしてはいるが普通に笑い顔になっており、恐ろしさよりも愛嬌を感じさせる顔つきである。なぜか青い半ズボンを履いていてお尻から太い尻尾が飛び出している。

 

『昨日の竜とは全然似ていないじゃないか、これ本当に竜なのか?』

『生物学的特徴は多くの部分で一致します、体脂肪が多いのは成長過程の特徴的変化ではないでしょうか?』

 

「こんにちは、メディナさん。いつも妹が仲良くしていただいてありがとうございます」

 竜は丁寧にあいさつをする。どうやらこの小さな竜の兄の様である。

「ヒロさん、この子はカロロちゃんと言って私の親友なの。こちらの大きな人はお兄さんのコタロウさんよ」

「初めまして…名前は…ヒロ…」

 メディナに促されて自己紹介をする。

 

「おお、あなたが昨日の大型魔獣を狩った方ですね、なんでも大型魔獣の頭を吹き飛ばしたとか父から聞いています」

 愛嬌のある体つきをしているが、やはり昨日の竜の子供という事らしい。それにしてもずいぶん大きさが違う。 

「大きな竜…子供?」

「そうですよ、メディナさんはカロロが学校にいた頃に仲良くしていただきましてねえ」

 いつも笑顔を絶やさない印象を受ける表情をしている。実際に穏やかでソフトな話し方をする太った竜であり、そのために父親より理知的な感じがする。

 

「メディナー、みんなでお茶飲むー♪」

「お邪魔してよろしいでしょうか?」

 ヒロに向かって尋ねてくる、昨日の父親とは違って随分大人の対応をする竜である。

「はい…喜んで」

 

『昨日の今日ですからボロを出さない様に気を付けてください』

『大丈夫だ、どうせ会話になりっこない』

 OVISを介しての会話である。とりあえず語録と情報の取集に努めよう。

 

 ヒロはコタロウに椅子を勧めるが、ニッコリ笑って断ると自分の尻尾をクルリと巻いてその上に腰を掛ける。

「僕が普通の椅子に座ると潰れちゃうんですよ、ハハハ…」

 なかなか豪快な悩みの様である。

 

「おう、コタロウさんいらっしゃい。いつもの奴でいいかい?」

 熊族のマスターが注文を取りに来た。この竜とは結構なじみみたいだ。

「はい、カロロちゃんにはホットミルクをお願いします」

「カロロおとなーっ、コーヒーがいいーっ」

「苦くて飲めないくせに、お兄ちゃんのを少しあげるからね~」

「それなら、いいーっ♡」

 妹の方はかなり幼い話し方をする。

 

「妹は竜族としてはまだ幼いので、舌の動きがあまり良くないのですよ。もう少し育てば滑舌も良くなるでしょうけど」

 こんなしゃべり方では子供っぽく見えても仕方がないだろうとコタロウが妹を見て苦笑する。

 何だろう?この竜は意外と違和感がなく表情がわかりやすい。

「俺も…うまく…話せない」

「ヒロ、カロロといっしょーっ」

 確かにカロロの話し方はすごく幼く感じてかわいらしい。ま、同い年位だそうだけどね…。

 

 熊のおっさんがコーヒーとミルクを持って来てくれた。

 ミルクにはストローがささっている、あの口ではうまく飲めないのかもしれない。熱くないのかと余計な事を考えるが、口から炎を吐く竜の娘である。

 お兄ちゃんの方はビールのジョッキに入れて来た。大きさ相応と言う事だろうか?ジョッキでもお兄ちゃんが持つと普通のコップに見える。

 

 カロロが半分くらいミルクを飲むとお兄ちゃんが自分のコーヒーをそれに継ぎ足す。

 なにかとても仲のいい兄妹の様だ、自分にはこんな兄弟はいなかったし、こんな余裕のある生活でも無かったなと思う。 

「おいしい〜っ♪」

 カフェラテを美味しそうに飲むカロロ。

 

「カロロは一昨年高等部に行ったのよね~、学校ではうまくいっている?」

「あたらしいお友達たくさん出来たー、でもメディナいなーい」

 どうやらメディナさんは何らかの理由で進学はしなかったようだ。 

「時々お父さんに助けてもらっているわ、そのうちカロロにも助けてもらうから」

「うん、大きくなるまで待ってー♪」

 しかしカロロの年でこの大きさと言う事はこのお兄さんはいくつ位なのだろう?

 

「失礼です…お兄さん…いくつ?」

「は?ああ、年齢の事ですか?ボクは今年で117歳になります」

 にっこり笑って答える竜饅頭。 

「竜人族は長生きなのよ、その代わり育つのに時間がかかるわ、お父さんの大きさになるのに500年位かかるんだって」

 ヒロの顔が引きつったのを見てメディナが補足してくれる、竜と言うのはそんな規格外の生き物なのか?

 

「メディナ達…みんなは?」

「人間はそんなには生きないわよ、せいぜい60年から65年かしら?」

「いえいえ、メディナさんこの街の統計によると平均寿命は68歳ですよ」

 意外とこの世界の人間は長生きの様だ。

 世代にもよるがヒロ達の世界ではあまり年寄りはいない、働けなくなれば待遇が落ちてゆき最後はひっそりと死ぬ。

 噂によると配給食に弱い毒が混ぜられているとも聞くが事実はわからない。

 

『俺は何の為に生きて来たのかな?』

 ふとそんな気持ちが頭をよぎる。これまでにこんな事は無かった事だ。

『上級市民になる為では無かったのですか?』

『今となってはわからない、自分の生き方に選択肢が無かったからな…』

『それではこの世界で自分の生き方を見つければ良いのではありませんか?』

 OVISに兵役以外の人生を諭されるとは思わなかった。

 

 その時周囲でがやがやと騒ぎが起きるのが聞こえた。周囲の人々が立ち上がって空を見ているのがわかる。

「ヒ、ヒロあれを見て!」

 

 メディナの示す方向を見て驚いた!巨大な翼竜が空を飛んでいるのだ。

 


お待たせしました、もう一人の主人公の登場です。本作品は竜人族のコタロウと、人族のヒロとのダブルキャストです。


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