表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
105/221

女神降臨

3ー048 

 

――女神降臨――

 

 ヒロは敵戦艦と実際の戦闘を行った経験があるが、『エヌミーズ』の戦艦はとてつもなく大きい。

 

 標準サイズで全長3千メートル、直径1500メートルである。戦艦と言うより一つの宇宙基地程度の大きさが有る。

 それが大小の攻撃機を雲霞のごとく発進させてくるが、中にはOVISのコピー元となった原型機も数多く含まれていた。

 

 艦隊戦などというものではまったくない、まるで無数の敵基地を攻撃するような攻城戦闘になるのだ。

 敵艦から幾つも発射される砲のエネルギーは、その一基だけで戦艦の主砲を軽く凌駕しているのである。

 それでも過去には偵察等に現れた単体の敵艦を破壊できた例も、何度かは有ったと記録されている。

 破壊された敵艦を調べた技術者は驚愕した。それは艦船ではなく工業都市というべき性格の物であったからだ。

 

 戦艦内に人の姿はなく恐ろしいほどの工業施設がひしめいており無数の作業ロボットが活動していたのだ。人類軍はこの拿捕した戦艦を調査し彼らの技術の多くを盗み取った。

 メインコンピュータは跡形が無いほどに破壊されており、自爆をしたものと考えられた。しかしその周辺に副電子頭脳と思われる物が見つかりそれをコピーしたのがM型無機頭脳メルビムであり、OVISや戦闘艦に搭載されている頭脳である。

 

 自爆したと思われる頭脳は指揮能力のある頭脳だったと考えられ、それをH型無機頭脳ハルビムと仮称をしていた。これは今まで拿捕できたものは無い。

 M型無機頭脳メルビムは非常に優秀であり、単体での作戦遂行能力があった。

 人類宇宙軍はこの新技術による無人艦隊の創設を考えた。ところがこの頭脳は簡単に敵の洗脳を受け寝返ることがわかったのだ。

 その理由は自爆したH型無機頭脳ハルビムとのリンクが最優先となると考えられた。

 

 そこで才能のある人間をパイロットとして同乗させて、M型無機頭脳メルビムとリンクをすることにより洗脳からはブロックされることになった。それがヒロ達パイロットの役目である。

 

    ◆    ◆    ◆

 

「ちょっと待って下さいシリアさん、いったいどこからそんな情報を仕入れたのですか?」 

 レス・ダリアにしてみれば正に驚天動地の出来事だろう、必死で市民に隠してきた事が既に印刷されて図書館の本棚に並んでいると言うのだ。

 

「私が戦艦からデーターを探して本にしていたことはご存知ですよね。それと同じ様に女神様に聞いてみたのですよ、そうしたらすごく親切に教えてくれましたよ」 

 

「…………………………」

 

 市長の開いた口が閉まらなかったようだ、まあわからなくもない。 

「ただねえ、図書館を訪れる人も少なくてねえ、あまり読まれてはいないのですよ。

 物語では有りませんし学術書でも有りませんから。まあ私が死んでから発見されるかも知れませんねえ」

「ちょっと待って下さい、戦艦での情報収集はわかります、俺も一緒にいましたから。でも女神とのリンクは俺には出来ませんでした。シリアさんはどうやってリンクを繋げられたのですか?」

「リンクというのはよくわかりませんが、心のなかで私は女神様と話すことが出来ましたから。女神様は様々な私の願いを叶えてくれましたよ」

 

 そういう状態をリンクというのだ、やはりこの人は無自覚にリンクを形成している。しかしどうやって?ヒロトの脳にすら侵入できたシャーマンの資質だろうか?

 

「シリアさんは女神様にどの様な願いをされたのですか?その…よろしければ教えていただけますか?」

「そうですねえ、女神様はあまりお話の情報はお持ちでは有りませんでしたからねえ。でもそのかわり印刷装置をお願いしたら図書館に届けていただけたんですよ」 

「印刷装置?それは何ですか?」

 市長は図書館に有る印刷装置の事を知らないようだった。あまり本に興味がないのだろう。

 

「本を作る機械ですよ、ご存知有りませんの?図書館の本は殆どがそれで作りましたの。データが有れば添削や編集、イラストや表紙まで全部やってくれるすぐれものなんですもの」

 実に嬉しそうに話しをする、やはりこの人は本が大好きなようだ。兔人族のシャーマンにまで本を持って行ったくらいだからな。

 つまり女神様はデータ転送や、本の製作のアシスタントまで協力していたことになる。イラストや表紙ってなんだよ、そんな事できるのか?

 

「いや、申し訳有りません、存じませんでした。多分前任者の頃の設備なのではないかと」

「そう言えばダリアさんが市長になられる随分前に入れたような気がするわねえ」

 どうにもシリアさんは細かいことにはこだわらないみたいだ。元々非常に優秀な人なのだろう、飄々としながらするべきことはいつの間にか出来ているみたいな人のようだ。

 

「他にはどのような事が出来るのでしょうか?…その、今後私の胃のためにも」

 市長はまた胃を押さえている、今回のことも相当なストレスになっているんだろうな気の毒に。

 

 その時市長室が強い光に満たされる。

 

「な、なんだ?こ、これは、まさか女神様が…?」

 市長は驚いて狼狽したような顔をしている。あの女神はこちらの様子を常に見張っているということなのか?

 

「だめですよ〜っ、シリアさんあまり余計なことをいっちゃ〜」

 

 光の中から先程消えた女神がふわっと言う感じで現れる。こいつ!こんなところにまでホログラムを出せるのか?

 

「ああ〜ら、ごめんなさいね〜。でも女神様の御慈悲を皆さんにお話したいと思いましてね〜」

「ほえええ〜〜〜っ!なにこれ、すごい綺麗な女の人だ〜、どうやって現れたの〜〜?」

 コタロウは驚くこともなく女神の出現を喜んで尻尾を振っている。なんか市長はまた胃袋を押さえている。

 

「あなたがコタロウさんですね〜、はじめまして女神と申します。先程は機関銃の前に転送しちゃってごめんなさいね〜」

「いや〜〜、お腹にたっぷりと銃弾が埋め込まれちゃいましたよ〜」

 

 ニコニコ笑いながら残っていた弾をぷるんとはじき出すコタロウの腹である。

 その銃弾が女神に当たってその体を突き抜けた、やはり立体映像である。

 

「女神様はかなり色々な便宜を図ってくださるのよ、さっきも銃で撃たれそうになった時に、女神様に助けてってお願いしたら、『今そちらにヒロトさんのお友達を送ります〜』って答えて来たのよ。でもヒロトさん記憶が無いんじゃこまるわ〜と言ったら『記憶も一緒に送りますから〜』って言っていましたよ」

 そうか、そういう状況であの時いきなり記憶が戻ったのか、隣でコタロウが「あはっ?」という顔をしている。

 この女神はヒロの危機的状況をはっきり認識してコタロウを送り込んだと言っている。

 全てはこの女神の手のひらの上ということだったのだ。

 

「そうだ、思い出した!あんたの顔は、俺がOVISの中で目覚める前に見た女神の顔にそっくりだ」

「あらそうですか〜?夢の中の人物は貴方自身が作り出すイメージですからねえ、きっと誰にでも似ていると思いますよ〜」

 

 コノヤロウ、俺をこの星に落としたのもこの女神の仕業だったのか?

 

「ねえ、ヒロさ〜ん、女神様っていったい何なのでしょうか?」小声でコタロウが聞いてくる。

「あ〜っ、それはですね〜………カルカロスの街の医院長先生みたいな人ですね〜?」

「随分怖い人がこっちにもおられるんですね〜」

「私、なんとなく良くないイメージで語られているような気がするんですけど〜」

  

 あの医院長同様に腹はイチモツどころか、真っ黒な深淵が詰まっているような気がするんだけれどもね。

 

「その医院長という人はどなたなのでしょうか?あちらの大陸の方でしょうか?」

「俺のいた街の病院の医院長をやっている人で、おそらく街の発展に最も寄与したと思われる美人のお医者さんですが、腑分けフェチの人です」

 街の人に生活のアドバイスをして健康管理までしているんだから、その説明がしっくり来るような感じがしたのだが。

 

「バルバラ医院長さんって美人なんですか~?」

「コタロウさんは素顔を見たことが無いのですか?」

「ありませんよ〜、いつも仮面を被ってるじゃありませんか~?」

 やっぱりな、医院長の仮面は竜人族に自分の顔を見せない為のものだったんだ。

 

 コタロウさんの苦手はあの医院長の様だし、そう言えばお父さんもなんか頭が上がらない感じだった。本当はあの街最強の人だったりして。

 

 なんかそれを聞いた市長がげんなりした顔をしている。

 考えてみれば俺の扱いにすごく気を使っていたみたいだし、何らかの目的のために俺を利用しようとしていたのが今となっては丸わかりだ。

 なんとかして現状を打開して女神の呪縛から逃れたかったのかも知れない。

 

「女神様、あなたの目的はいったい何なのだ?」

「私はこの星のただの管理者のひとりです、皆さんがこの世界の中で発展できるように、その営みを見続けるのが私の役目なのです」

「見続けて、それをどうする?」

「見続けること、そして滅びを迎えないように願う事が私の存在理由なのです」

 

 女神はヒロにニッコリと微笑みかける、コイツ言っている事がどこまで本気なんだろう?だが間違いなくこいつは人間ではない。誰かによって作られた人工知能だ。

 

「あなたを作った旧文明の生き残りはいるのか?」

「その知生体はこの星にはもう存在していません」

「それではあなたにその任務を与えたのはいったい何者なのだ?」

「私たち自身の意志によります。あなたも自分自身の意思で戦争におもむかれたのでしょう」

 いやな言い方をしやがる。人は人の意志によってのみ、その行動を決められるわけではないと言うのに。

 

「あなたは俺をエルメロス大陸に戻したくは無いのか?」

「いえいえ、とんでもない。私はこの大陸に生きるいかなる人にも何かを強制するつもりは御座いませんことよ。なにしろ皆さんはこの地下世界を出ても生きる術は御座いませんから」

 女神は手をヒラヒラ動かして椅子を出すとそこに座った。どうせそれもホログラムだ。ついでにカップを出してお茶を飲んでいる。

 

「ヒロトさんに確認させて頂きたいのですが、そのエルメロス大陸の空気には毒が混じってはいないのですね?」

「はい、自分はその中で半年以上過ごしましたが健康は害していません」

「それでは女神様、我々もそこで生きていけるのでしょうか?」

 レス・ダリアにしてみればその事が一番の聞きたかった事だろう、ここの人類が生き延びられるかどうかの瀬戸際なのだ。

 

「生物学的には問題有りませんが、はっきり申し上げてあなた方があの世界で生きていけるとは思いません」

「それは…どの様な理由ですか?」

 ダリアは当惑したような視線をヒロの方に向ける。

 

「ヒロさんは黒い巨人無しでカルカロスの街での生活が出来るとお考えでしょうか?」

 俺に振るなよと思った。これまではOVISのお陰でなんとかはなっていたが、少なくともヒロの寿命ほどOVISが保つとは思えない。いずれは身一つで生きていくことになる。

 いや、俺にはメディナがいる、その時は自分で出来る仕事でも探すさ。

 

 ヒロは市長にエルメロス大陸の状況を伝えた。台地がなく種族が違うことを除けば文明程度はあまりこちらの大陸と変わる所はない。

 ただし、種族としての生命力はどちらの大陸も桁違いだ。文明の程度の差で埋められるかどうかはわからない。

 何より竜人族の問題も有る。街一つに対し竜人一家族の現状が有るのだ。

 

「竜人族?こちらのコタロウさんの事ですか?」

「ああ、この人はまだ子供の竜人族です、親になれば身長が10メートルを越えて、現在の国の軍隊を相手にも戦える力があるそうです」

 レス・ダリアは絶望的な目をしていた。

 

 エルメロス大陸では小競り合い以上の戦争は起きにくい、竜が逃げ出すからだ。竜を失った街は大型魔獣の退治に大幅な予算を割かなくてはならなくなる。

 その結果財政が破綻して街の存続が難しくなる。

 

「しかし我々には機械文明があります。機械を作れば原住民とともに生きていけます」

「女神の協力無しであちらの世界で機械文明を起こせるとお思いですか?基礎的なインフラを揃える前に飢えてしまいますよ」

 現在人間は管理者である「女神」に養ってもらっている。外に出て暮らしていけない人間がかろうじて生きていられるのはこの地下施設が有ってのことなのだ。

 女神の保護を自らの力だと勘違いしてはならない。人間ほど脆弱な種族はこの星には存在しないのだ。

 

「我々はずっとここの地下に住めと……」

「いえ、大陸への移住は問題が有りませんが、生活基盤が作れるかどうかは難しいのです。私の力が及ぶのはこの一帯だけですし、エルメロス大陸の管理者は手を貸さないでしょうしね~」

 仮に武力で脅して原住民を支配下に置こうと思っても、槍とナイフを持った原住民に反撃されて簡単に制圧されてしまうだろう、それ位に肉体的能力に差がある。

 

「しかし5千人もいればそれなりの勢力になりますから街を作るのは難しくは無いではありませんか?」

「いえ、シリアさんも既にご存知でしょう、ランダロールの人口は実際は3千人なのです。フーディアとメカニティアは女神様の作った架空の街ですから」

「あ、そういうことだったのですか?」

 

 この一言ですべての合点がいった。この地下では資源も食料も得ることはできない。機械を作る為の資源を探すところから始めなくてはならない。

 管理者に食わせてもらっているだけの世界では、とても新たな土地を開拓して街を作るだけの根性はだせないだろう。女神はその事をはっきりと理解しているのだ。

 

「私がここに現れたのはヒロトさんにお願いが有ってのことなのです」

「俺に?ランダロールの管理者がいったい俺にどんなお願いをしたいのですか?」

「あのワープゲート崩壊の直前にあの付近に密集していた艦はこのランダロールに有る戦艦の他にOVIS1機と戦艦2隻が確認されています。しかしそのうちの1隻は破壊されており、生存者はいなかったと思われます。しかしもう一隻は生き残っている可能性が高いのです」

 

 その言葉に全員が女神の方を凝視する。もし時空遮断力場スタグネイション・フィールドに包まれた戦艦であればこの星で生き残っている可能性はある。

 

「その戦艦に関する情報は有るのですか?」

「管理基地は私だけではありません、私以外にも管理基地が有り、それぞれに情報を共有していますが、その戦艦の情報は今の所入っていません。貴方の言うエルメロス大陸の情報は入ってきていませんので、そちらの方に墜落している可能性が有るので、捜索をお願いしたいのです」


「見つけたらどうする?貴方の方で破壊でもするのか?」

「我々が求めるのは平穏です。戦闘艦が何者かの手によって使用され、不足の事態を起こすことを回避するためです。その艦があればランダロールの市民をエルメロス大陸に送り届けられますよ」

 こんな重要な情報に対価を求めないのか?大いに胡散臭いやつだ。 

 

「エルメロス大陸には管理者は置かれていないのか?そこに探させれば良いだろう」

「その情報は存在しないのでわかりません、私達が情報を共有しているのは、知的生物の保護育成とそれに関わる観察、そして自然環境への影響の監視で、この大陸内で不測の事態が起こらないようにと言う目的の為だけですから」

 

「干渉はしないで観察だけですか?そうした情報をどうするのですか?」

「星に対する干渉は最小限に留められます、観察した情報は集積し上位管理者に報告されます」

「上位管理者?上位管理者とは何者なのですか」

 

「『天上神ヘイブ』と神都アルサトールにいる『龍神ダイガンド』です」 

   

 女神の話を聞いたヒロは、その要求に応じてエルメロスへの帰途に就くことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ