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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
104/221

始まりのランダロール

3ー047

 

――始まりのランダロール――

 

 かつて戦艦がこの地に落ちた時に乗員は絶望に打ちひしがれた。周囲が土に囲まれており、身動き一つできない状況であることがわかったからだ。

 

 地殻型惑星に墜落した事は予想されたが、時空遮断力場スタグネイション・フィールドは完全に機能していた。そのフィールドは既に消滅しているが、艦は完全に土圧に抗しており圧潰の心配はなかった。 

 人類宇宙軍が侵攻したガス惑星に地殻型衛星はなく、ここがコルボロック第4惑星系外であることはすぐに理解できた。

 コンピューターの予想によれば、ワープゲート崩壊に伴う時空震によってかなりの空間を飛ばされた可能性があると推測されている。

 既に戦線を離脱し絶望的な状況である事は間違いが無かった。上級士官は対策を考えた。

 

 もう一度スタグネーション・フィールドに入ろうという意見もあったが、周囲が風化して船が露出するまでには相当な時間を要するだろう。土の中で外部センサーもいつまで持つかわからないのだ。

 乗員全員を集め状況を説明し、最後は再びフィールドに入り数万年の時間旅行を行う覚悟を確かめた。無論、艦体が露出した所で呼吸可能な空気が有るとも限らない。死を長引かせるための処方でしか無いかもしれなかったのだ。

 

 ところがその時、艦を叩く音が聞こえた。

 

 コンコン!

 

 全員が顔を見合わせて耳を澄ませる。間違いなく硬いものが外壁を叩いている音だ。

 

 コンコン。

 

 何か意思を持った者が発する音だ、自然現象ではない。地下に埋めこまれた戦艦の外部を叩く者がいたとすれば、それはまさしく怪談以外の何者でもない。

 音を立てないようにそっと移動をして音の場所を探る。

 

 コンコン。

 

 艦内通路を通って音の方に近づいていく。

 全員が恐怖と期待の入り混じった感情で耳に全神経を集中させていた。

 救助に来るわけがないという理性的判断と、助かるかもしてないという期待の間で心臓は耐えられないほど早く打っていた。 

 

 コンコン。

 

 遂に音の発する場所にたどり着くと、そこはメンテナンス用の外部ハッチの有る部屋であった。

 扉に耳をつけると確かに扉の向こうから音が聞こえた。

 

 艦長は軽宇宙服に着替えると、拳銃を持ち数人の上級士官だけで扉を開けることにした。万一外部が真空であれば全員が吸い出される危険性が有るからだ。

 センサーは外部に大気の存在を示していたがそれとても、信用する訳にはいかない。

 

 スイッチを入れるとすんなり扉が開く。既に音は止まっていた。

 扉の前にはトンネルが出来ており、そこには空気があった。

 大気組成は後で調べるとして、とりあえずトンネルを調べる。床に足跡はないが、明らかに知性体が作ったと思われるトンネルである。

 

 乗員たちは用心しながらトンネルの調査を始めるが特に危険な兆候は無く、しかも真っ暗では無い。石に含まれる成分のせいか薄っすらと光っている。

 放射性物質かとも思ったがその心配はなかった、発光原理はわからないがかろうじて周囲は見渡せる。そこで行ける所まで行ってみることにした。

 

 やがて少し大きな空間に出る、壁の一部には石を積んだ様な壁が出来ておりそこにアーチ型の入り口があった。

 明らかに人工的な建造物であり、知的生物がこの世界にいることがわかる。しかも入り口の大きさから考えても、かなり大型の種族であることが想像できた。

 建造物は割としっかりしており入っても危険はないと判断されたので入ってみることにした。

 

 この場所がどのくらいの深さに有るのかはわかっていない、しかし戦艦が土圧で押し潰されない以上それ程深いとも思えなかった。

 もしかしたらこの先に外に出る通路が有るかもしれないという期待が有った。 

 先に進むと入り組んだ通路の左右には大きな部屋がいくつか有り、万一に備えて乗員が退避するのに十分な広さが有ると考えられた。

 

 更に先に進むと少し大きな部屋に出る。 正面に1段高い場所が有り、そこには石でできた椅子が置いてあった。ここがこの石造りの建物の最深部のようだと考えられる。

 どうも祭壇の様に見えるが、おそらくは宗教的目的で建てられたものが土に埋まったのでは無いかと考えられた。

 しかし床には殆ど埃が積もっておらず、非常に不可解な状況だった。

 椅子の向こうに扉が見えたので、そこに入るが、地面に変な模様が有るだけの小さめの部屋になっていて、そこは行き止まりであった。

 

 祭壇に戻って見るとそこに作られていた椅子がいきなり光り始めた。その光は周囲を照らし部屋全体が明るくなる。銃を構えてみんなが距離を取るが、そこに現れたのは若い女性であった。

 椅子に座り目を閉じていたが、薄いローブのような服装をしており、足にはサンダルを履いて、首の周りにはネックレスを掛けて腕輪をしていた。物語で語られるような女神のようだとその時は思った。

 驚愕の表情で見ていた乗員達の前で女神はゆっくり目を開ける。

 

「恐れる必要は有りません、私はこの地を管理する女神です。私は皆さんを助ける為に顕現致しました」

 女神は柔らかな声でそう述べたとされている。

 

 女神はこの星は人類の生存には適しているが外部の空気には毒が混ざっており、すぐには死なないが重篤な症状を示して命の危険が有る。ただし、この地下にいる限り問題はないと言われる。

 このトンネルは旧文明の遺物であると答えたが、空気はどこから供給されるのかとの問いに、女神はニッコリと微笑むだけであった。

 

 食料はどこかに有るのか?と問うと外に行って獲物を狩ると良いと言われた。この星のアミノ酸組成は人間に摂取可能であり、一部を除いて毒もないと言われた。

 危険な生き物はいるのか?との問いには、あなた方はとても危険な生き物ですと言われる。星間戦争を生き残ってきた身であるから、安全な生き物だと胸を張る訳にも行かないだろう。

 知的生命体はいるのか?との問いには、言語を持つ2足歩行生物が2種類いるとの答えだった。

 

 彼らは平和的な種族では有るが、敵対すれば恐ろしい相手であり、平和的接触を望むと言われる。そして外に出るには祭壇の後ろにあるドアから大地の神殿に出られると告げられた。

 ただし神殿は不干渉地帯であり諍いや戦闘、殺し合いをしてはならないと告げられ、現地の知的生命体もそれは理解していると言う。

 艦長は副長を残し機関長と共に外に出ることにした。二人でそのドアに入ると足元の模様が輝き始め、気がつくと大きな石造りの建物の壁に設けられたへこみの中にいた。

 足元には地下の部屋に有った模様と同じものが描かれている。

 

 用心しながら歩き出すと、比較的大きな建物でありへこみの有る壁は祭壇のようにすこし階段を上がったステージのような場所にあった。

 おそらくここも祭壇なのだろう、女神は神殿だと言っていた。

 祭壇の有る広間の壁には様々な文様が刻みつけられているが、書き方に統一性はなくこの神殿を訪れた者たちが順番に刻みつけて行ったのかもしれない。

 

 周囲の壁には高い位置に窓のような開口があり室内に光を取り込んでいる。

 入り口と思われる大きな開口に向かって歩き始めると何者かが外から走り込んできた。人間と思われたが身長が異常に高く3メートルはある。二人してじっとこちらを見ていた。

 慌てて拳銃を構えるが、目がなれてくると顔の形が全く人間とは違う事に気付く。これがこの世界にいる知的生物なのだろうか。

  

 しかし二人は艦長たちに興味をなくしたのか、すぐに踵を返して外に出ていってしまった。なにか拍子抜けをした感じで外に出ると、そこはどこかの山の上のようであった。

 出入り口の正面には3人の巨人が座っていて、その真中には焚き火が焚かれている。その周囲にはなにかの肉が串に刺されてあぶられている。

 解体されたばかりの獣の毛皮が無造作に打ち捨てられていた。いまあぶられているのはその獣の肉なのだろう。

  

 彼らは見たことのない布の服を着て皮の長靴を履いていた。装備を見る限り少なくとも原始人ではない。その横には3本の槍が組んで立てかけられており、穂先には鉄の刃物が取り付けられている。

 彼らは見た目は人間と変わらない肢体をしていた、しかしその顔は犬の顔そっくりであった 

 胸から上に濃い体毛を持ち顔全体が短い毛に覆われている、その鼻面は長く伸び口からは大きな牙が覗いている。

 

 後に彼らは狼人族と呼ばれる種族との遭遇であった。

 

 女神の発言の、神殿の周囲は不干渉地帯であり、諍いや戦闘、殺し合いをしてはならない場所だというのを思い出す。彼らは巨大ではあったが神殿から出てくる艦長たちをじっと見ているだけで攻撃的素振りは無かったからだ。 

  

 艦長たちはコンタクトを取ろうと近づいていくが、彼らは警戒する素振りすら見せない、あるいは我々を取るに足らない者だと考えていたのかもしれない。

 目の前に来て挨拶をすると向こうも何かを喋っていたが言葉がわからない。

 すこし身振り手振りをしてみたが埒が明かないので神殿の周りを見ようと思って別れようとすると、いきなり二人が立ち上がって神殿の方に走り始めた。

 

 なにかと思って後に続こうとしたら、残る一人に背後から大声で呼ばれた。

 振り返ると残った一人が手の平をこちらに向け、牙をむき出していて首を横に振っている。

 どうやら行くのを止められたと判断した二人は、そのまま待っていると神殿に入っていった二人が子供を連れて出てくる。

 

 艦長達が神殿に来た時に狼人族が入口の前に立っていた理由がわかった。彼らは我々の出現を、子供の到着と誤解したのだ。

 そして彼らと一緒に神殿に入ろうとして止められたのは、子供を守ろうとしたためだ。

 どうやらあの壁のへこみから出てきたのだろうが、地下の神殿には子供達がいた気配は無かった。何処か他の場所に通じていたのだろうか?

 

 驚いたことに子供は人間の顔をしており、頭に犬の様な耳がついていた。

 年齢は6〜7歳位と思われ、大人と違い彩りの派手な着物を着ていた。どうやら大人の服装は作業着で子供の服装は晴れ着のようなものらしい。

 染色技術も有るらしく、獣じみた外見と異なりそれなりの文化、技術も持っているようだ。

 そう思って槍を見ると、使い込まれてはいたが仕上がりは粗野な手作りではなく、それなりに洗練された製品になっていた。

 

 神殿を指差すと狼人族は頷いたのでそのまま中に入っていった。外の調査は次回に回すとしてちゃんと戻れるかどうか確認する必要がある。

 この世界の住人は驚くほど人類に酷似した外観を持っている。その後の観測で狼人族は子供時代の顔は人類の顔をしており、成人とともに犬の顔になるという事がわかった。

 この世界は生存には最適な条件が整っているようで、とても外気に毒が有るとは思えなかった。

 

 壁のへこみの中に入ると再び模様が輝いて元の場所に戻れた。

 この星は有害かもしれないが、大気そのものは有るようなのでこの次は呼吸器かガスマスクのようなものでも良いかもしれない。

 船に戻って大気分析を行うと洞窟内の大気に有害な成分は見つからなかった。しかし再び外に出て大気サンプルを持ち帰ると未知の物質が見つかる。女神の言う有毒な成分というのはこの事だろう。

 

 大気に含まれる組成はセオデリウムと名付けられ、これを体に吸収すると体細胞を固化させ死に至る事がわかった。

 艦内コンピューターに外気の毒を分析させ、対処薬の開発を考えるが戦艦の設備ではそもそも無理な注文である。 

 

 外部への出入り口が確保されたものの、事態は深刻であった。30日以内に50人が食いつなげる食料を確保しなくてはならなかった。

 狩猟部隊を外部に派遣し食料の確保を考える。食べられる動植物の採取を行わなくてはならない。

 一方で神殿の先にはまだ洞窟が続いていたのでそこの探索を行う。洞窟内は呼吸器はいらないので探検を続行する。

 

 機関員は兵装のエネルギーの物理的な遮断を行う。万が一地下で兵器が作動すれば致命的なダメージを受けることは確実だからである。

 エンジンに送られていたエネルギーケーブルも同様に遮断をする。この艦の真空エネルギー炉だけが当面の命綱であるから大切に利用する事にする。

 神殿の中にはきれいな湧水も発見し生き延びる希望が出て来る。


 外部に出た狩猟班は数頭の獣を倒して持ち帰る事に成功した。多少の食料の足しにはなるが50人分の食料には全く足らない。

 何よりもそこまでの銃火器の弾は無いのだ。外で生活できなければ遠からずは飢えて死ぬことになる。

 機関部とコンピューター関係はこの世界では命綱となるために一切手を付けないようにした。

 その一方で武器関係はもっとも必要のない部品であり解体して最大限利用することにした、なにしろ武器は艦の容積の半分を占めていたのである。

 

 狩猟部隊は外部で食べられそうな植物の種子を集めてそれを水耕栽培にすることにした。艦内にあった救命艇のジェネレータを外して神殿に運び、水耕栽培装置を作った所うまく発芽させられた。

 しかしそれでも発芽から収穫までは1か月以上が必要でありその前に食料は尽きるだろうと考えられた。

 切羽詰まった艦長は女神に助言を受けに行くと、女神は現在食べている食料のサンプルを持ってくるように言われる。

 それを女神に渡すとその手の中で消えてしまう。

 

 一方未知の洞窟を探索していた部隊は洞窟の先に巨大なトンネルを発見する。それと共に様々な遺物も見つかるが、その中に大量の艦内食を見つけた。

 驚いた探査部隊は艦長に知らせるが、何故そんな物がそこに有るのか艦長は理解していた。

 試しに食べて見ると普通の艦内食であり、体の異常も起きなかった。

 

【それでその時の艦長は確信を持ったのですよ、この地を管理する女神は我々を生かすためにこの洞窟を作ったのだということをね】

 レス・ダリア市長は大きなため息をついた。


【ランダロールの住人は女神の存在を知っていたのですか?ロージィさんからはその様な話は一言も出ませんでしたが?】

【女神の存在は一部の人間しか知られてはいません。貴方だって自分が得体のしれない者の手によって生かされていると思ったら不安を覚えるでしょう。そこで乗員には旧世界の遺物ということにしてそこで生活を始めたのですよ。

 その後には記録を書き換えましてね、全ては人間だけの手で作られた地下都市ランダロールと言うことになったのです】

 

【女神とは何者なのでしょうか?そもそも人間をわざわざ生かすためにこんな巨大な施設をどうして用意できるたでしょうか?】

【わかりません、彼女は旧文明の管理者と名乗っており、我々も当初は巨大な文明圏の中に墜落したものではないかと考えました。しかし周囲の状況を調べ始めると何処にも先進文明の存在を示唆するものが発見できないのです。

 無論これだけの施設を作りうる存在ですから相当な工業力の背景が有って然るべきですが、その様な物は今まで発見されていません】

 

 それだけの工業生産能力が有るとすれば、相当数の人間と施設が必要なはずである。

 ところが女神によれば旧文明は既に消滅しており現存はしていないというのである。すでに滅びた文明人の遺産が人々を救ってくれるという、そんな話をまともに受け入れられるはずもない。

 そう言う訳で女神の正体は未だに不明だという事だ。

 

 シリアはふたりの話を黙って聞いていたが、お茶を一口啜る。コタロウは興味津々に目を輝かせて聞いていて、尻尾の先端がフルフルしている。

 

【シリアさんにはこの事は口外無用です、こんな事が市民に知られたらパニックを起こすかもしれませんから】

【あら、そうですか?でもその記録のオリジナルは、既に印刷して図書館の蔵書に含まれていますけど】

 

【【なんですって!?】】

 

 シリアのとんでもない発言にヒロとダリアは驚きの声を上げた。



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