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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
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コタロウの風船魔獣

3ー044

 

――コタロウの風船魔獣――

 

 村からだいぶ離れた場所に来たときに翼竜の到着を確認したが、このくらい離れていれば問題ないはずだ。無線封鎖を行ったまま、探査装甲車は走り続けている。

 

 その間ヒロトはずっと先程の事を考えていた。

 もしかしたら自分の記憶が操作されている?その考えに思い至ったときにこれまでの矛盾が一気に吹き出したのを感じた。

 そもそも自分が人類宇宙軍の生き残りに救出された。いやそれ以前にワープゲート崩壊に巻き込まれ2000光年の距離を飛ばされた上、生存可能な惑星に墜落するなどという事は、天文学的以上の確率がなければ不可能なことなのだ。

 

 どんなに時空遮断力場スタグネイション・フィールドがあろうとも、惑星に落ちるより恒星かガス惑星に落ちる確率のほうが遥かに高いのである。 

 つまりあの時点で自分が生き残る可能性はほぼゼロであったはずなのだ。

 その上、先に落ちてきていた戦闘艦の乗員が地下に大規模な地下都市を作っていて自分を保護してくれている。

 ここから導き出される答えと言うのは、ヒロの発想ではただ一つ。

 

エヌミーズ』の罠か?

 だがここはあの戦闘空域から2000光年の距離にある。そんな広範囲の星間国家が成立するわけもない。

 第一そんな理由は無いし、ここにいるみんなの反応を見るにつけ、とても罠のために作られた状況には見えない。

 これだけ巨大なレトリックを駆使して自分を罠にはめる意味など有るわけがないのだ。

  

「大丈夫ですか?ヒロトさん、村から帰ってきてからふさぎ込んでいますね」

 シリアさんが心配そうな顔をしてこちらを見ている。

「あそこでの事がそんなにショックだったのですか?」

 そうだ、まさに基幹装置となるOVIS無しにリンクを行えたのだ。ありえることではない。

 

「あの時…見た幻影なのですが…」

「篭をぶら下げた竜人の事ですか?」

「そうです、丸々と風船の様に太った空を飛ぶ獣の事です、なんであんな幻想を見たのでしょう?」

「あれは幻影では有りませんよ、あなたも感能者フェビリティだったのでしょう、あれはみんなが見た現実の景色なんですよ」

 

 ヒロトが人類宇宙軍のパイロットであり、500年前の大戦の直接の生き残りであることは伏せてある。無論脳内チップが入っていることも含めてだ。

 このランダロールで仕事を探す上で無用な偏見を持たれない様にと、ロージィに言われていたことだ。だから誰もヒロトがOVISとリンクが出来ることを知らない。

 だが…もしシャーマンが脳内チップによるリンクが出来うる人間であれば、そのチップ挿入手術をしたのは神殿の地下、すなわちランダロールということになる。

 

「シリアさん、あの篭に乗っていた子供は一体どういう子なのでしょうか?何故あの獣はあんな事をやっていたのですか?」

「あの子は台地の巫女候補だったのよ、ランダロールの神殿に洗礼を受けに来ていたところを翼竜ヴリトラに襲われたそうよ。狼人族が助けたんだけど、どうやら台地の巫女が翼竜を動かした様ね」

 神殿には3人の子供たちがいたそうで、ヒロト達が見た翼竜ヴリトラが神殿もろとも子供たちを攻撃したらしいが、あの空飛ぶ風船魔獣が助けたということだった。

 

「あの子を暗殺するために残り二人を巻き添えにしようとしたのですか?なんでそこまでして子供を殺したいのでしょうか?」

「台地というのはね閉ざされた世界なのよ、そこでは龍神様と対話の出来る者が最高権力者になるの。優秀な子供は自分達の地位を脅かす存在だから早めに始末をするのよ。あのシャーマンのティグラも、私も同じ理由で台地から放逐された人よ」

 

 優秀すぎると疎まれるのは人類範図の上級市民も同じような物なのだ。ヒロトにはなんとなく理解できた。

 もう少しで手に届くところだった上級市民の資格だったが、もはやその夢もかなわない。少なくとも生命があってまだ未来が残っていることに感謝したいものだ。

 

「それではあの丸々と太った空飛ぶ獣はいったいなんですか?」

「わからないわ、私も初めて見るから、数日前に村に来た竜人と呼ばれる獣みたいなの。空が飛べるので台地ダリルに子供を返しに行くと言うので任せたらしいんだけど、どうやらあの子は向こうで命を狙われたみたいね」

「それではあの真ん丸な獣は、知性を持った獣だと言われるのですか?」

「ティグラの話だと言葉も話すし当たり前の人間だそうよ。それに狼人族に負けないくらい強いんだって」

 

 あんなボールがか?本当かよ。

 

「ヒロトはどうしたんだ?なにかシャーマンの所で嫌なことでも有ったのか?」

 ゲイルが様子のおかしいヒロトの事を気にしたのだろう、様子を見に来た。

 

「いえ、丸々と太った飛行する知的生物の事を話していたんですよ。ゲイルさんはそんな物を見たことは有りますか?」

「真ん丸な魔鳥は何種類か見たことはあるがねえ」

「鳥ではなく…翼竜のような羽を持った飛行種族ですけどね」

「んん〜〜〜っ?翼竜のような羽を持った種族か〜〜っ?」

 ゲイルはしばらく考えているようであった。

 

「そういえば…確かあの時のあいつ…か?」

「心当たりでもあるのですか?」

「ついこの間一週間前位だが、翼竜に見つかってしまってね、逃げ出したんだが翼に煽られて装甲車が倒れてしまったんだ」

「あら、そんな話初めてうかがったわ」

 

「シリアさんが同乗していない時のミッションだったからね。市の方に報告は出してあるが、まあ被害が出なかったから話題にはならなかったみたいだけどな」

「それで?その時にこの獣を見たんですか?」

「いや、とにかく翼竜は装甲車を食うつもりで来ていたからね、泡食って装甲車から逃げ出したんだ。あれは人間を襲わないからな。歩いて帰れば2日あればなんとかなる距離だったからな」

 

「だけどそれじゃ空気浄化フィルターが持たないでしょう」

「まあ1日くらいは外気を吸っても死ぬことは無いからね、うまく行けば迎えに来てもらえる」

 それでもかなり危険な行為では有る、しばらく入院を余儀なくされる事らしい。

 

「それで物陰で探査装甲車が翼竜に食われる所を見ていたんだが、その時なにか黒い大きな人影が現れてな装甲車を立て直してくれたんだ。その時に翼竜の動きを牽制してくれたのが丸々と太った獣で、確かに翼竜ヴリトラのような翼を持っていた様な気がしたなあ」

 ヒロトはかなり違和感を覚えた。それってかなり大事な筈なのに報告書を出して、その後の話題にもなっていないというのは随分おかしな話である。

 

「装甲車を起こした後、その黒い人影に翼竜ヴリトラが飛びかかっていったんだが、上空に浮かび上がって行ったんだ。するとそれを追って翼竜ヴリトラも上昇を始めてな、そのスキに俺たちは装甲車に戻って全力で逃げ出したんだよ」

「大きな人影って狼人族の事ですか?」

「いや、ずっと大きい。だいたい10メートル位はあったな」

 

 OVISか!? いや、まてよ、ダリアによれば俺のOVISは整備中との事だ、それとも俺の他にOVIS乗りがいるのか?

 ゲイルはOVISの事を知らないみたいな口ぶりで話す。当然か、一般人に取っては500年前の兵器だと知るはずもない。

 とは言え、この世界にヒロト以外のOVISが存在しているのか?1週間前と言えばヒロトがランダロールで目を覚ました頃だ。

 タイミングが良すぎる、そんな事が出来たのはこの世界ではおそらく自分だけのはずだ。

 

「そ、それで?その獣はどうなったんですか?大きさはどのくらいでした?」

「なんかすごいやつでね、大きさは狼人族くらいかな?口から火を吹いていたから狼人族が飛行装置を作ったのかと思ったよ。

 よくよく考えればそんな事ないよな、翼竜ヴリトラの鼻面にしがみついていたけど弾き飛ばされて落ちていったよ」

 

 何という事だ俺はあのデブの獣を連れてここに来ていたのか?

 ヒロトは頭を抱えた。おそらくランダロールに来る前はあの獣と一緒にこの世界で狩りをやって暮らしていたのだろう。

 日に焼けてかすり傷だらけの手も随分治ってきれいな手になって来ている。

 

 くそっ!全く記憶が無い!

 

「ランダロールと連絡が取れました収束砕波圧縮通信ブロッカーコンタクトが入ってきました、出入り口の仮復旧はできたらしいです」

「よし、大至急基地に帰投するぞ」

「大丈夫ですよ、明日にはランダロールに帰れますから、そしたらまた調べることも増えますからね」

 

 シリアさんの声も何故か遠くに聞こえた。

 装甲車は無事に帰路につき、次の日には何事もなく第2ゲートの方に帰投することが出来た。

 ヒロトはすぐに車を用意して市庁舎の方に向かう、そこに何故かシリアさんもついてくる。

 

「鏡を御覧なさい、あなたの顔は今にも市長を絞め殺すような顔をしていますよ」

 ハッとなって窓ガラスに写った自分を見る。確かに険悪な顔をしている自分がそこにはあった。

 

「そ、そうですね。あまりにも不可解な気持ちになってしまって、つい興奮してしまいました」

 市庁舎につくとすぐに市長室にむかう。そこにはレス・ダリア市長とともにロージィ・ダリアも一緒にいた。

 

「おお、ヒロト君無事でしたか。市は現在非常事態下にありましてね、外部探査部隊でなにか問題でも有りましたか?」

「俺の記憶が消されている、あんたがやったのか?」

 一瞬ダリアの顔に驚愕の表情が現れるがすぐに戻る。やはり市長をやる人間は、セルフコントロールが出来ている。

 

「な、なんの事ですか?私にはさっぱりわからないが…」

 ダリアの目が泳いでシリアを見るが、シリアはきっぱりと断言する。

 

「ヒロトさんは兔人族の言葉をマスターしています。明らかにこの世界のどこかで生きてきた証拠です。この手を御覧なさい、自然の中で生き抜いてきた事を示すこの手です」

「市長、俺のOVISはどこにある。あんたたちは飛行機を作れないのだろう?OVISが欲しいのか?俺に言えばいくらでもあんた達に協力はしただろうに」

 ダリアは椅子に座ったままヒロトをじっと見つめていた。おそらく様々な状況を考えているのだろう。むしろ如何に誤魔化すかということを考えているのかも知れない。

 しかしシリアの方をちらりと見るとふっと目をそらす。

 

「仕方がない話をしましょう、確かに我々は君の乗ってきたOVISを奪いたいと考えたことは事実だ、無論その目的は飛行装置を欲していたからだ」

「すぐに記憶を戻して俺をOVISのある場所に案内しろ、あんたの話はそれかから聞く」

 レス・ダリアは椅子に深くもたれかかり天井を見つめて大きく息を吐いた。 

「君の記憶を改ざんしたのは我々では無い。そもそもは君は地上にある神殿から我々の意志とは関係なくここに送られて来たのだよ」

「どういう意味だ、都市を管理している別の組織でも有るのか?」

 

「女神様だよ。我々人類を導き、この毒にまみれた世界で生き延びる術を用意してくれた存在だ」

 

「女神…だと?」

 いきなり訳の分からない事を言いだす。それはランダロールで流行っている新興宗教なのか、?

 人類宇宙軍でそんな事を言ったら即座に思想矯正を受ける事柄だぞ。

「その女神という存在が俺をここに送りつけたのですか?」

「それを説明するのであれば地下神殿に案内する必要があるわね」

 

「地下神殿?」

「私と一緒に行った戦艦が埋まっていた所にあった神殿の事よ」

 戦艦を見に行った時に見た地下に有った神殿の事らしい。あの神殿には文化財以上の意味が有ったというのか?

 まさか女神様が降臨するとでも言うんじゃないだろうな。

 

「あの椅子の有った神殿か、わかりました出かけましょう」

 ヒロトはダリアとともに出かけようと思って後ろを振り返ると、いつの間にかロージィは姿を消していた。


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