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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第三章 冥界の新世界
100/221

神殿のコタロウ

3ー043

 

――神殿のコタロウ――

 

 もしかしてあの天井に描かれていたお母ちゃんの絵ですか〜?まあプニプニしたボクに比べれば、お母ちゃんの方が格好が良いのは確かですが。 

 

「あの神殿の天井画の事ですか?あれは間違いなくボクの種族の誰かだと思いますよ~」

 多分自分のお母ちゃんだとは口が裂けても言えない、どこでどのように誤解が生まれるかも知れない。


「嘘を付くなこの腹を見ろ、どこをどう見ても別の種族だろう、第一全然大きさが違うではないか」

「ボクはまだ子供ですから~、大人になればあの大きさまで育ちますよ~」

「子供だと?出鱈目を言うなどう見てもお前は大人だろう、こんなにブクブクに中年太りしおって、第一子供にしてはヒネすぎているぞ」

 再びコタロウのお腹を槍で突っ付く、あふん…くすぐったいからやめて…。

 神殿で槍が通らなかったのが余程腹に据え兼ねているのだろうか?お腹の事は仕方ないでしょう、100年以上生きているんですから。

 

「うむ、それは俺も感じていたぞ。コタロウよ本当はいくつなんだ?」

 お願いしますよ〜、ボロックさんひっかき回さないでくださいよ〜。

 

「と、とにかく竜人族は大人になるのに時間がかかるんです、ボクは皆さんの基準ではまだ幼児相当なんですから」

「そうか、幼児であればプクプクしていても不思議はないな、大きくなるためにはうんと食べるべきだぞ」

 あ〜っ、この人の思考が少しずれているところが痛いな〜。

 

 ボロックの後ろにいた村長が前に出る。

「お前は少し下がっておれ、ワシが話すから」

村長シェリク殿か、この武官の手綱は少し握っておいていただきたい」

 どうやらボロックには僧兵も手を焼いているようだ。

 

「それで?エンルーや、お主はどうしたいんじゃ?彼らとともに台地ダリルに帰るか?村で暮らすかね?」

 村長は年寄りらしく穏やかな言葉で彼女に問いただす。

 

「う、うん……」

 ティグラの後ろで震えていたエンルーは小さくうなずく。その耳にティグラはそっとなにかを囁いた。

 おずおずと前に出てきたエンルーは意を決したような顔をして、突然手足を突っ張ってバタっと仰向けに倒れた。それを見ていた周囲の村人からおお〜っと声が上がる。

 ボロックがエンルーの横に来ると跪いて彼女に問いかける。

 

「エンルーよ、お前は我が一族としてその掟を守り家族として暮らしたいと言うのか?」

「は、はい…」

 小さいがはっきりとエンルーは答える。

 ボロックはエンルーの胸に手を当てるとその頬をぺろりと舐めた。

 

「ひえっ!」

 エンルーが小さく悲鳴を上げるのを無視してボロックは兔人族の方に向き直った。

 

「この娘は我が種族の同胞となることをその態度と言葉にて示した、これでエンルーは我がアー族の一員となった」

 ボロックは一歩前に出ると僧兵達の前に立ちふさがる。

 

「ば、馬鹿なことをいうな、こんな茶番で我らが同胞を見逃すとでも思うのか?」

「一族の一員となった者を脅かせば、我らアー族全員に対する挑戦と見なされる事は知っておられるでしょうな」

 高らかに宣言をすると、そこに居た村人全員がザンッ!と一歩踏み出す。

 その迫力にいささかたじろぐ僧兵たち、何しろ身長が50センチ以上高い狼人族達であり、その迫力は半端ない。

 

「そ、村長シェリク殿、台地ダリルとの交易を拒否するというのか?」


台地ダリルとの交易がなくとも我らが生きるのに支障は出ません、しかし兔人族の皆さんはいかがでしょうか?この大地グランダルとの交易無しに台地ダリルが存続出来るとお思いでしょうか?」

 村長の発言に僧兵が怯む。交易はどちらか一方だけに利益が有るわけではない、交易は必ず双方向の利害で成り立つものなのである。

 

 台地ダリルには資源がなく、金属も塩も全て大地グランダルからの供給で成り立っているのだ。

 それ故に移動することのない台地ダリルの民は多くの知識と技術を磨き、それを大地グランダルの民への交易品としているのである。

 しかし知識や技術は製品とともに流出する。それ故に常に大地の民よりそれらの優位性を保っていなければならないのだ。

 

「この様な決定はあなた方に非常な危険をもたらしますぞ」

 僧兵は暗に翼竜による攻撃をにおわせる発言を行っているのだ。


「いえいえ、私たちは常に変わらぬ友好と発展を願っております、今後とも長きにわたるお付き合いをしていきたいと思っております」

 村長は慇懃に頭を下げるが、さすがに脳筋のボロックにこの様な対処は難しい。

 この様な決然たる態度を取られれば僧兵とは言え引かざるを得ない、もし翼竜でこの村を報復攻撃などをすれば狼人族一族の戦士が総出で台地ダリルに攻撃を仕掛けかねない。

 

 500キロの距離を走りぬき、台地の足をよじ登り神殿を蹂躙するだろう。

 彼らが台地ダリルを欲しないのはそこに魔獣が存在しないからだ、危険の無い台地ダリルの生活は狩りを生活の糧とする狼人族には向いていないという事に過ぎない。

 

 外交とは双方にそれに見合う犠牲と成果の折り合いが大切であり、無意味な争いは禍根しか残さない。

 それ故に僧兵たちも黙って引き下がらざるを得なかった。元よりいかなる能力が有ろうとも所詮は子供一人に過ぎない。

 神殿の主導権争いにそこまでの危険を冒す程の無謀さは持ち合わせていない。

 

 僧兵たちは速やかにその場を離れた、ある意味今回の目的は達せられたのだ。能力の高い巫女の子供が台地ダリルに戻って来る事は無いのだ。

 僧兵が去ると村人は解散をし日常が戻って来る。エンルーとコタロウはティグラの住む集会所に戻ることにした。

 その上空を翼竜が大きく旋回するとそのまま台地の方に向かって飛んでいく。

 成程なとコタロウは思う、自前の運搬手段が有れば交易を兎人族に独占されることも無い、飛行種族との友好は確かに狼人族にとっては手に入れたい物なのだろう。

 

「エンルーや、しばらくはこの村で過ごすがよい、お前さんが望むなら兎耳族の固定都市ベルファムであるレスティーダまで誰かが送ってくれるじゃろう」

 エンルーは不安そうにしているが既に割り切ったのかそれ程暗い顔はしていない。

 

固定都市ベルファム?」

「川が海に注ぐ場所じゃ、そこでは大地は固まることが無く兎人族は移動せずに暮らしておる」

 先日神殿にやってきた兎人族の夫婦の事を思い出す。大地で暮らすために肉を食い、僧兵と同じ大型化した体を持っていた。

 彼らが暮らす街が有る様だ、いずれそこも訪問してみたいとコタロウは思うのであった。

 

「この村は良い村じゃ、狼人族は同胞にはとても優しく、何が有ろうと守ろうとする。しかしやはり夫婦になることは出来ぬからな」

「狼人族とは結婚できないのですか?」

「いや、したいと思えば出来るが残念ながら子供は出来ない、それが摂理なんじゃ。だから子供が欲しければレスティーダに行った方が良いのだよ」

 その言葉を聞いて再びエンルーの顔は曇る。

 

「今はまだ考えなくて良い、この村で大地で生きる術を身に付ければどこに行っても生きてはいけるからのう」

 とりあえずお腹が空いたのでみんなでご飯を食べた。

 エンルーも昨日からまともな食事をしていないのでとても美味しそうに食べていた。コタロウも山の様に積まれた芋と野菜を食いつくす。

 食事が終わると疲れていたのだろう、エンルーは横になるとすぐに眠ってしまう。

 

「ティグラさん、ボクは神殿が気になるのでちょっと様子を見てきます。あの壊れた神殿は誰が直すんでしょうか?」

 あの神殿が無くなってしまうとヒロとの待ち合わせ場所が無くなってしまう。流石に廃墟で待つのも寂しい気がする。

「いや、ワシら狼人族の村に直す者はおらん、兎人族ではないかと思うが壊れた所が有っても誰も知らないうちに直っているんじゃ」

 もしそうだとすると直している者に出会えるかもしれない、いずれにせよヒロがあれだけの騒ぎに気が付かない訳が無い。

 

 そう思って壊れたはずの神殿にやってきたが…半分直っている。


 近づいてくる途中に何かが神殿の周囲で動いているように見えたが、どうも影の様で形がわからなかった。

 神殿に降りてみると既に影の気配もない、壊れた神殿の破片が周囲に散らばってはいるがその量は半分ぐらいに減っていた。

 神殿の周囲を回ってみると幸いなことにお墓はそのまま無事であった。

 ヒロの伝言か何か無いかと思って周囲を丹念に飛び回っていると声が聞こえる。

 

「コタロウさん、ご無事でしたか」驚いて周囲を見回すが誰もいない。

 

「もしかして黒い巨人さんなの?」

「はい、私はここにいます」

 神殿の広場の隅に体育座りをしているOVISが姿を現した。

「君はそんな所で何をしているのでしょうか?」

「あなたとパイロットが未帰還であるため現在は待機中です」

 どうやらヒロはまだ帰ってこないらしい。

 

 しかし洗礼を受けた巫女たちは早々に送り返されたのに対してヒロさんはまだ帰ってきていない。と言う事はやはり何か有ったと言う事なのだろうか。 

「現在までの所こちらに対しての連絡がありません、パイロットが未帰還の場合コタロウさんと共に大陸に戻る様に指示を受けています」

 あ~、そうか〜。ヒロさんは自分に万一の事が有った時の事を考えてくれていたんだ〜。

 

「ここで何が有ったのか教えてもらえませんか?」

「了解しました、コタロウさんが帰った後に翼竜が訪れて神殿に対し対地攻撃を行っていきました。私を狙っていたのか兔人族を狙っていたのかは定かでは有りませんでしたが、後半は明らかに私の存在を感知していたようです。

 神殿の被害が拡大すると兔人族の子供が危険に至ると判断し、翼竜を上空に誘ってみましたところ私を追って来たので、神殿に対する攻撃はそれ以上行われなかったようです」

 

 そうか〜、それであの時黒い巨人さんはここにいなかったのか。

 

「それでこの神殿は一体誰が修理したのかなあ?」

「認識阻害を掛けた何者かですが、私と同じくらいの大きさの有る工作機械と推測されます」

「ニンシキソガイってな〜に?」

「体の周囲に曇ったガラスを置いたように見える力場です。存在はわかりますが形が認識できなくなります」

 よくわからないけど、そういった機能のあるシールドのようなものなのだろうか?

 いずれにしてもこの神殿には人智を超えたなにかが有るように感じられる。そう、ヒロが持ってきたこのオーヴィスのようなものなのかもしれない。

 

「それはあなたの仲間のようなものなのですか?」

「その回答には情報が不足しています」

 要するにわからないと言うことらしいが、これまでの経緯からしても何者かが巫女のシステムを作りそれを維持しているということなのだろう。

 つまりその存在がここにはいることになる、それはOVISと同等の技術力を有する者なのかも知れない。

 

 コタロウは神殿を見る。まだ屋根は掛けられてはいないが少なくとも建物の中には入れそうだ。

 

「巨人さん、ボクはヒロさんの後を追って見ることにしますよ。なにかわかるかも知れませんから」

「注意、中に入った巫女候補達は即座に意識を無くしたものと考えられます」

「それでも多分ヒロさんは生きていると思いますよ、ですからここに入ることにします」

 コタロウは転移魔法陣の方に歩いていく。

 

「コタロウさんの幸運を祈ります」

「ありがとう」OVISの方を向いてニッコリと笑う。

 

 コタロウが魔法陣の上に乗ると光を放ちコタロウの姿が消えた。


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