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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
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ヒロ街へ行く

1ー010

 

――ヒロ街へ行く――

 

 診療が終わってしばらくすると見舞いであろうか?割れ鐘のような声が響いて獅子族のアラークが入ってきた。

 

「おお、目が覚めたか」

 その後ろにはバスラもついてきている。 

「良かった生きているじゃねえか、一発殴ったらノびちまうから死んだかと思ったぜ」

 バスラが軽口をたたいてアラークに殴られていた。

 

「いってええ~~っ!」

「すまんなお前さんの種族の状況がわからなかったし、こいつもつい力を入れすぎたみたいだからな」

「見事な青あざだがそれだけで済んだみたいで…まあ良かったぜ。死なれたら目覚めが悪いしな」

 バスラは殴られた頭を抱えていた。

 

「まあ決闘は恨みっこなしだが、どうだ具合は?」

「筋肉疲労で体が全然動かせないみたいよ」

 アラークはいささか渋い顔をしているように見える、もっともライオンの顔なので表情はあまりよくわからない。 

「そうか、まあ狩人の経験が少ないようだし仕方がないかな?どうだ、やっていけそうか?それともほかの仕事を探すか?」

 

『この仕事を続けるかどうか聞いています』

 

「まだ…わからない」 

「実はな、昨日の決闘を見てお前をチームに入れたいという連中が沢山いてな、まあ引く手数多というわけだ」

 

『どうやらあなたを雇いたいという人間は多いようです』

『しかし全く知らない職業にそう簡単に転職はできないだろうな』

 

「少し…町…見たい」

「そうか、わかった。チームに入りたければギルドに相談しろ、ワシの方から伝えておく」

「わかった」

「明日もワシらは休みだからメディナ、街を案内してやれ」

「いいわよ~、宿も決めなきゃいけないからね~」

 

「バスラ…」

「なんだ?ヒロ」

「あんた…なんともない?」

「あったりめえじゃねえか、狩人は素手で獣と戦う事も有るんだぜ、あの位なんともねえよ」

 やはり基礎体力が大きく違っているようだ。

 

「おめえも素人にしちゃよくやったぜ、ただし魔獣相手に組討をやったらこっちの命がねえからな、絶対にやっちゃいけねえぞ」

 ああ、そうか、だからこの世界では組討の格闘技が発達しなかったのか。

「素人…わかるのか?」

「動きを見ていりゃすぐわかる、あんな動きじゃ遠くから獣に見つかるぜ」

「わかった、ありがとう」

  

  

 昼過ぎには体が動くようになったのでふたりで買い物に出かけることにした。

 力の入らない体でよたよたする俺をメディナが支えてくれる。

「まだやめた方がいいんじゃない?」

 そう言われたが、一刻も早くこの世界を見ておきたかったのである。

「最初はとにかく着替えを買うことにしましょう」

 今着ているのは艦内服だからあまり寝心地は良くないだろう。後でOVISから歯ブラシを持ってこなきゃな。

  

「おお、あんた昨日金プレートを取った男じゃないか?」

 服屋の店に入った途端に猫耳族のオヤジに言われた、既に俺はこの町の有名人になっているようだ。

 メディナが何やら微笑んでいる。それを見てはっと気が付いた。

 そうか青タンが出来ているんだっけ。

 これじゃ町中どこに行っても看板しょって歩いているようなものだ。

  

「この街に来て早々にバスラとふんどし祭りをするなんざ命知らずな奴だと評判だぜ」

「……………………」

「ま、まああれはバスラの趣味みたいなものだから…ホホホ……」

 どうやらあの男はあっちこっちでふんどし祭りをやっているみたいだ。

「お前さんずいぶん変わった格好をしているな、どこで買ったんだ?」

 艦内スーツを見てオヤジが驚いている。2千光年先だとはとても言えない。

 薄くて軽くてそれなりに丈夫だが、ここでは少し浮いてしまう格好だ。

 

「とりあえずこの格好じゃどうしようもないでしょう、服を一式ちょうだい安くて丈夫な奴」

「あんたどこで狩人やっていたんだ?ここでも狩人をやるならせいぜいひいきにしてくれや。新しい用具や食料もあるぞ」

 客の取り込みには熱心な亭主の様である。金プレートと言うのはそれ程のご利益が有るらしい。

 

 とりあえず一般的な狩人服を一式買った。着替えをして狩猟用の軽防具も一式付ける。

 防具は思ったほど重くは無く、ただ藪や木の枝から体を守るもので、獣の牙や爪を通さない訳では無いそうだ。

 それでも腕に巻き付ける革の防具が有れば、噛みつかれたとき等にはずいぶん差が出るらしい。

 

「よく似合ってるじゃない、これであなたもいっぱしの狩人に見えるわよ」 

 軍人としてはあまりうれしい評価では無いが、たしかに同じ服を着るとこの世界の人間と比べても違和感はない。

 耳の形を除けば人種の差程度の違いでしかない様にも感じられる。

 これなら結構人の中に紛れて生きていけるかもしれない。

 

『骨格の形状は95パーセント以上一致しています、細胞サンプルが有ればDNA検査で詳細を確認できます』

 

 俺が感じていた疑問にOVISが答えてくれる。

 しかし2千光年離れた場所でこんなにもよく似た知的生命体が偶然に発生したとはとても考えられない。

 おそらく我々は共通の先祖を持っているのでは無いだろうか?その理由まではわからないが。

 

「とりあえず荷物を入れておけるリュックは買っていたほうがいいわね」

 そういわれてリュックを一つ買ってスーツを入れておく。

 武器としてナイフを一本買うように言われた。ナイフは消耗品だから良い物で無くとも十分だと言われた。

 それをベルトで腰に吊るす。そう言えばメディナもナイフを一本吊るしているだけだ。

 

「アタシは情報収集が任務で戦いには参加しないの、兎耳族は臆病で戦闘の出来る種族じゃないから」

 その割には身を呈して俺を魔獣から助けてくれる位勇敢な女性の様だ。

 ナイフは獲物を狩る武器ではなく、道を切り開いたり寝床を作ったり地面を掘る為の道具である。現代的に言えば蛮刀マチェテに相当するナイフであり、消耗が激しいそうだ。

 この世界での武器の基本は槍の様な物であり、狩人は予備の武器として長めのナイフか刀を持っている。

 俺は後方から魔法を使えばよいのだからそれ程大きな武器はいらないだろうと言われた。 

 これだけで貰った金の半分がなくなった。

 

 銃は無いのかと聞いたら有るにはあるそうだ、しかし狩人はみんな魔法を使うのであまり需要が無いらしい。

 初心者か年寄りが小さな獣を仕留める時に使うそうで、魔獣には殆ど効き目が無いと言っていた。

 弾が当たっても死なずに逃げるらしい、魔獣と言うのはそれ程生命力の強い生き物だそうだ。

 

「魔獣と言うのはね、魔獣器官を持っている獣の事なの。それが有ると食性が大きく広がるし傷の治りも早いわ」

 例えば草食の獣は肉を食わないが草食の魔獣は肉も食うらしく相当な悪食だと言う事だ。

 しかも肉を食った魔獣は魔獣器官が肥大化するので体も大きくなるし魔法も使える様になるという。

 

「すると肉食獣は…?」

「大人になったら全部が大型化して魔法を使って反撃して来るわよ、しかも心臓を刺されても簡単には死なないの」

 狩人とは相当に物騒な奴らと戦わなくてはならないらしい。

 

「あとは宿を探しに行ったほうがいいわね、残っているお金でもしばらくは泊まれるけどすぐに仕事を探さなくちゃいけないでしょう」

 メディナが宿を紹介してくれたので、とりあえず朝食付きで3日分支払っておいた。

 荷物をそこに置いて、残った金で付き合ってくれたメディナと昼食を取ることにした。

 

 メディナに手を引かれて食堂に入るとそこには熊がいた。

 

 昨日食われそうになった魔獣と同じ顔立ちの人間がテーブルを拭いているではないか。

 身長が2メートルを超える熊が前掛けをかけて接客をしているのだ、つい後ずさりをしてしまう。

 さすがに手は人間のような形状をしているがそれ以外はまるっきり熊だ。この店でトラブルを起こす奴はいないだろう。

 太い体に太い腕、体中には濃い体毛が生えていてグローブの様な大きな手をしている。

 

「いらっしゃ~い、昼食かね?新鮮な大型魔獣の肉が入っているよ~」

 昨日俺が狩った奴の事らしい。

「ん?このお客さんは見たことのない種族だね、肉は食えるのかい?」

 俺の目の前に熊の顔が寄ってくる。鼻がヒクヒク動いていてしゃべる口の中に牙が見えた。

 怖い、めっさ怖い!獅子族と同じくらい迫力のある顔である。

 

「大丈夫だと思うわ、昨日干し肉を食べていたから」

「おお、そうか、昨日金プレートを取ったよそ者がいると聞いたがあんたの事か?」

 ドスの効いた声でしゃべるが、メディナによれば気のいい親父さんだそうだ。 

「はっはっはっ、バレスに殴られてその顔か、まあ新参者の歓迎会の様な物だと思っておきなよ」

 ひどい言い草だ、本当に気のいいオヤジなのか?

 

「あんたの狩った魔獣の肉だぜひ賞味していってくれ、ワシが腕によりをかけて焼いてやるよ」

 というわけで俺は魔獣の肉を食うことになった。この世界では一般的な食事らしい。

 しかし兎耳族のメディナはベジタリアンで肉は食べられないのだという。

 確かに先祖が兎だとそういう食性なのだろう、彼女は野菜の煮物と芋の様なものを食べていた。

 

「この肉はうまい…ソースの味が絶妙だ」

 などとわかったような事を言ってみた、だが軍隊の食事は単なる栄養補給の為でさしてうまいと思ったことも無い。

 軍隊以外の食事をするのは最後の休暇以来という事になるか。

 もっともそれ以前の下級市民の家の食事よりも軍隊の食事のほうがずっと良かったのだ。

 

 下級市民の子供達は軍に入れば旨いものが食えると言われて入隊して来るのだ。

 実際の所ここの食事は実に旨い。ソースがなくとも熱く湯気を上げる肉は味が濃く旨味が感じられる。

 肉のみならず付け合わせの野菜はどれも味の濃い新鮮な美味しさを感じさせてくれる代物だった。 

 食事をしながらこの食事の為だけにこの世界に残っても良いとすら思った位である。

 ただここで使われている野菜の種類もこれまで軍隊で食ってきた料理に使われていた物とあまり違和感が無い。

 人間が共通なら食材も共通と言った所らしい。

 

 食事をしながら正面にいるメディナを見る。

 耳の部分を気にしなければ彼女は美人であり魅力的でもある。

 鳶色の瞳に亜麻色の長い髪、絵に描いたような美少女と言える、まあ医院長は別として。

 食事をしながら彼女はこの世界のルールを話してくれた。

 この世界には大きく分けて6種類の人間がいる、獅子族、熊族、犬耳族、猫耳族、兎耳族そして竜人族だそうだ。

 

「竜人族…?」

「昨日肉を運んでくれた大きな人よ」

 怪物かと思ったがここではしっかり人間のジャンルだったらしい、口から火を吐き空を飛ぶけど人間だそうだ。

 そう考えると確かにあの竜のメンタルは人間そのものに見えたのも納得である。

 種族関係に関して聞いてみると異種族同士の交配はできないらしい。つまりヒロとメディナでは子供が作れないという事だ。

 それでも結婚そのものは禁止されてはいないそうで、子供を作ることをあきらめればタブーでは無いらしい。

 

 街を見ているとまだ機械文明には至ってはいないが、それなりの文明度には達している。

 服も備品も武器も原始的なものではなく、それなりに商品として良い仕上がりになっている。

 買ったナイフを見てみると安物と言いながら悪くない作りである。冶金技術もそれなりに発達しているようだ。手工業でもここまで練度の高い物を作れる技術があるということだ。

 

 病院も整備されていて衛生環境もそれ程悪くは無いように見える。生きて行くのにそれほど劣悪な状況では無いと言えるみたいだ。


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