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――竜の息子と聖嶺の大地――  作者: たけまこと
第一章 落ちてきた男
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プロローグ 01



1ー001  

 

――プロローグ 01――

 

 今回の作戦は人類にとって最大級の作戦であった。

 

 何度もシュミレーションを繰り返し各自のポジションを確認し適性を調整した。その上で作戦の実働計画を練り続ける。

 作戦に参加する兵士は何年も前からこの作戦の為だけの訓練を繰り返して来たのだ。

 

 数万台のシュミレーションマシンを駆使し各作戦空域でのフォーメーションの調整を行う。

 そのデーターを使用し、他の数千人が合同作戦の行動を確認する。最終的に数百万人の人と三万隻を超える数の艦隊、10万以上のOVIS(単座人型機動戦闘機)の統一作戦行動である。

 あらゆる敵の行動が予測され、それに対処する行動パターンが検討された。それを各艦、各機のコンピューターに記憶される。

 複数の通信手段により各艦隊のフォーメーション行動が指示され、それに沿った戦闘訓練が行われた。

 

 今回は『エヌミーズ』の住む本拠地と思われるガス惑星への急襲作戦で有り、それはこの宙域での敵の最重要補給基地で有ると考えられていた。

 敵戦艦の製造拠点と目される星系を、人類軍総力を挙げての攻撃を行いそれを壊滅させる事を考えているのである。

 惑星系そのものを破壊できれば、いかに強力な敵と言えどもその活動を縮小せざるを得ない。

 この作戦が成功すれば敵はこの周辺宙域の兵器製造諸点を失い、100光年以上の後退を余儀なくされる筈である。

 

 前回戦闘時に発見された敵の本拠地であるガス惑星への攻撃は、それから50年かけて準備を整えてきた。

 数百年前からこの空域は『エヌミーズ』の侵攻を受け、250年前の戦闘で何とか人類生存圏の確保に成功していた。

 この戦争がどのくらい前から続いているのかもう考えるのも嫌になる程の時間が経っている。

 

 かつて人類は外宇宙に向けて自らの生存圏を着実に広げていた時期があった。

 そこに現れたのが『エヌミーズ』である。

 ある日突然現れた謎の勢力は、植民星のある星系の外部から侵入し、入植したばかりの人類を根絶やしにした。

 それが『エヌミーズ』との戦争の始まりであった。

 

 彼我の戦力の差は歴然であり、連敗に継ぐ連敗を喫した人類はかつて制圧していた星系からの後退を余儀なくされてきたのである。

 当時人類はワープエンジンによる星間航行をしていたので、何とか敵の攻撃から逃れ去る事が出来たと言って良い、幸い彼らにワープ技術は無かったからだ。

 

 それでも敵とは恐ろしいほどの技術格差が有った。不思議な事に彼らは真空エネルギー機関をベースにしたワープ航法エンジン技術は持っていなかった。

 しかしそれは決して有利には働かず、星系内での戦闘時ワープ航法はエネルギー消耗がひどい上に、重力歪によるジャンプ誤差も大きかったので通常航行での戦闘しかできなかった。

 それ故に戦況が悪化すると一撃離脱戦法により、ワープ航法による遁走と言う作戦を行っていたが、ジャンプ誤差による行方不明艦も頻発していた。

  

 最初のうちは何とか勝つことのできた戦争も科学技術力の差が顕著に目立ち、やがて敵も人類の持つワープ航法を開発してきたからだ。

 それでも人類が生き延びて来れたのは逆に敵から入手した技術の多くが、人類を生かし続けてくれた事によるものだろう。

 この技術的進化により人類は徐々に力を取り戻し、再び入植地を増やさんと各星系に探査機を送り込んだ。

 入植に適した星が多く発見されたが、そこに再び現れたのが『エヌミーズ』である。

  

 彼らは人類の拡張を許そうとはしなかったのだ。

 結局人類は半径50光年余りの空間に閉じ込められる事になった。

 人類は敵からの脅威に対抗するために軍事態勢を敷き、全人類を徴兵し軍人として敵と戦わざるを得なかった。

 

 ヒロトもまた適正審査に合格をし、7歳から軍務訓練と肉体強化のカリキュラムを受けた。

 

 既に入植した植民星もまた『エヌミーズ』の脅威にさらされ続けており、人類はその持てる生産能力の全てを戦争の為に注ぎ込んでいた。

 各植民星の空域には多数の哨戒艇を配置し敵の監視を続け、時折現れる敵との遭遇戦を何とか退ける度に新しい技術革新が生まれる。

 

 皮肉な事に人類の拡散を阻害する敵の技術を吸収することにより、人類軍はますます強力になってきたのだ。

 それでも敵は強力で有り常に人類軍に倍する勢力で人類の反抗を阻止し続けて来た。

 しかし軍事生産力は増大すると共にそれ以外の生産力は減少し、もはや戦争を続ける為に人類社会は存在し、人類の生存の為の生産活動は最小限に絞られる事となり、人々の生活は疲弊した。

 

 そんな中、人類は『エヌミーズ』の本拠地を発見するに至る。それは木星程の大きさのガス惑星の衛星軌道上にあった。

 そのガス惑星への攻撃はそれから50年かけ準備が整えられて来ており、ようやく人類の大規模反攻作戦が始動することになる。

 

 各地の植民惑星で建造された艦船が、敵基地が存在する恒星系から10光年ほどの距離にある恒星の外縁部に集結して来ていた。

 軌道上に集まって来ている何千隻もの艦船が、停船灯を灯して整然と並んでいるのは壮観の一言に尽きる。

 全ての艦船が集結してから定位置に着くのに一カ月以上が必要であった。

 様々な種類の戦闘艦が停泊をし、その間を小型の補給艦がせわしなく動いている。補給の為の大型基地が作られそこから各艦に対しての補給が行われていた。

 

 ヒロト・ハザマは怒龍型中型戦闘艦に括りつけられたOVISのパイロットだ。

 

 OVIS(単座人型機動戦闘機)とは、全長10メートルの自立思考を行える人型の小型単座戦闘機の事である。運動能力が高く各種シールドや攻撃兵器を備え、単体で護衛艦程の索敵能力と攻撃能力が有る。

 マニピュレーターを装備しており、元は『エヌミーズ』の船外作業用の無人ポットで有ったようだが、そこに操縦席を設け有人戦闘機に改造された。

 船外活動用のオプション装備用のコネクタが各所に設けられていた為、人類軍は外装兵器を開発しそれに繋げる事によりマルチロール機としての使い方が出来るようになった。

 

 この時代宇宙空間において空母と言う概念は無かった。それは戦闘時の生存率の低さにも起因していた。何度も修理して出撃出来る訳ではなく戦闘が起きれば多くの艦や機体が破壊された。

 したがってメンテナンスを行うよりは機体を交換したほうが効率が良かった為でも有る、新しい機体はサーバーを通じて上書きされ以前と全く同じ状態で使用ができたのだ。

 

 こうした理由から小型機を一か所に集める意味は無く、戦闘艦に分散させた方が敵攻撃からの生存性が高かったのである。

 サイズの関係でOVISにワープ航法能力は無く、戦闘艦と共にワープを行う事になっていた為上記のような運用がなされていたのだ。

 ここでは戦艦もOVISも消耗品であり、乗員もまた同様であった。

 

 集結から作戦開始までのひと月近くをこの作戦空域で過ごす事になった。

 作戦予定時刻は数年前から決定しており、それに合わせて各地の軍事基地から艦隊の集結が行われていた。

 予定地点に来てから母艦内での待機と機内でのシュミレーション訓練、啓蒙教育が継続された。

 ヒロトの乗る怒龍型中型戦闘艦には4機のOVISがその外部に直接接続されており、ドッキングチューブを使って母艦に入る事が出来た。

 

 食事を取りシャワーを浴び、OVISを使っての訓練と強制睡眠である。

 母艦は全長100メートル程の中型戦闘艦で乗員は35名ほどであった。中にはパイロットの居住施設が有り、訓練と睡眠と食事以外は何もすることが無かった。

 各個人用のタブレットが有り、それで読書や娯楽画像などを鑑賞したりする。それ以外は交代でトレーニングをしたりシュミレーションを行って戦闘に備えた。

 

    ◆    ◆    ◆

 

『出発予定時刻まであと32分10秒。ヒロト准尉の脈拍正常、呼吸数正常、メンタルは極めて安定しています』

 FG-35型OVISは俺の頭に埋め込まれたチップを介して通信を行って来る。

『これまで何万回もシュミレーションを行ってきたからな、今回が本番なのかシュミレーションなのかもう区別はつかないよ』

 

『本作戦が終了後、貴官は上級市民として登録されます』

 それこそが多くの兵士が、兵士として命を掛ける大きな理由なのだ。それは大変に狭き門であった。

『前回の作戦でもOVISの生還率は5パーセント以下だった、俺が生き残る確率はかなり低いんだろうな』

『生存する確率向上に努力をするつもりは無いのですか?』

『有るに決まっているだろう、自由行動、自由飲食、自由生殖の為にこそ俺は訓練を行ってきたんだ』

 

 ヒロは7歳からこの座席に座ってOVISだけを相手にしてきた。それ故にそれ以外の生活の実感が無いのも事実であった。

 

『この作戦の成否にかかわらず作戦終了後私と貴官の繋がりは絶たれます、私は新しいパイロットの育成に、あなたは市民としての新たな生活を迎える事になります』

『さもなければ宇宙の塵になって消滅するかだ』

『その場合でも私とあなたは最後まで運命共同体です、私の使命は第1に作戦の遂行、第2に貴方の生命の維持です』

『ああ、しっかり俺の事を守ってくれよ、俺の自由生殖の為にな』

『了解』

 

 そして遂に決戦の時を迎える。

 

 今回の作戦の特徴は、敵母星空域にワープゲートを出現させそれを通って敵の正面に一気に艦隊を出現させるのだ。

 ワープゲートとは対になる2つのゲートを作り、そこを通って大量の艦隊を一瞬のうちに敵の正面に跳躍させる。

 既に艦隊は安全基準ぎりぎりまで間隔を詰めてワープゲートの前に並んでいる。

 無論母艦にはワープ装置が付いているが、惑星破壊兵器の運搬を行う為にはワープゲートが必要不可欠であり、先行した艦隊がワープゲートを死守しながら惑星破壊兵器の到着を待つのである。

 

 100隻のゲート工作艦がゆっくり回転を始めると正面のワープゲートが開き、空間のゆがみの中に10光年先の宇宙が見え始める。

 今頃は自力でワープした工作艦が相手側のゲートを開き始めている筈である、その前面に敵の攻撃を防ぐ為のシールド艦がシールドを展開しているだろう。

 しかし大きく展開したワープゲートを防御するだけのシールドを展開することは技術的に不可能であった。しかも敵の最初の一撃でシールドを展開しているシールド艦の半数は壊滅すると予想されている。

 したがってヒロ達の戦闘艦の任務は、敵の前面に進出し展開しているワープゲート工作船を敵から死守する事である。

 

 艦隊は密集形態のまま前進を始め、徐々に拡大していくワープゲートに侵入して行った。

 ゲート通過後はただちに散会しOVISを展開させる。彼らの目的はゲート工作船を守るシールド艦を守る事だった。

 ヒロは3列目の艦隊だったので先頭の艦隊がゲート通過後すぐに艦隊を解き円形に広がって行くのが見える。

 その艦から一斉にOVISが離脱して行く。あれは一緒に訓練をして来た仲間達である。果たして何人が生き残れるのであろうか?

 何千回も行われた訓練の通りの一糸乱れぬ動きで展開が行われているように見える。

 

 ところがゲートを通過し巨大なガス惑星が視界に入った途端その異様な光景に驚愕する事となる。

 かつて探査を行った時に有ったすべての衛星が消滅していたのだ、その代わりにガス惑星を取り巻く巨大なリングの存在があった。

『違う!あれはガス惑星のリングではない!』

 指揮官が叫ぶ、信じたくない事実を目にしながら思考は激しくそれを拒絶していた。

 

『あれは敵だ!敵の大艦隊が衛星軌道上に集結しているのだ、各自作戦通りフォーメーションを変更する』

 

 ガス惑星の薄いリングに見える程の何千万もの『エヌミーズ』の艦艇がガス惑星を囲んでいた。

 既に数千の敵艦が侵入してきた友軍に向かって砲を発射してきている。

 スクリーンに見える味方の被害報告には、ゲート工作船を守ってシールドを形成していたシールド艦の半数は既に消滅してる事を示していた。

 人類軍がその全力を挙げて艦隊を製造している間に敵もまた自らの艦隊を増強していたのだ。

 

『なんてこった奴らの生産能力は我々の何倍有ると言うのだ?』

 敵の力量を考えると気が遠くなる。それ故に我々はこの作戦を完遂しなければ人類の未来は無い。


作品は毎週月・水・金の午前中の更新を予定しています。

4年ぶりの投稿ですが、面白いと思った方は感想やレビューをいただけると励みになります。

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