表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第十章 グール対人間。最終決戦へ(十九歳)
94/125

094 波乱の結婚式10

お読み頂き、ありがとうございます。

この章最後の戦闘シーン(R15、かるめ)になります。


つきましては、読書の時間の調整をしていただけると、幸いです。

 あちこちで助けを求める叫び声が響く中、ルーカスは倒れ、地面に寝転がっている。


 間違いない。彼にトドメを刺したのは私だ。


 私は自分が長らく求めていた、念願の「ルーカスに復讐」という項目を果たしたというのに、なぜか虚しさを感じていた。


 自分がこの先どう生きていくのか。この戦いに生き残る意味はあるのか。


 私は自分に問いかけ、その答えが思いつかず気力が抜けきった状態で、地面に横たわるルーカスを見つめていた。


 ルーカスの体からは、黒いモヤが立ち上り、空へと消えていく。そして黒いモヤが放出された彼の体は、化け物から元の姿へと徐々(じょじょ)に姿を取り戻す。


 力なく横たわる彼の顔は、以前よりずっとやつれているように見える。けれど鼻筋が通り、均整(きんせい)の取れた端正(たんせい)な顔立ちは、私の知るルーカスそのものだ。残念ながら深い夜空にちりばめられた星のように輝く、綺麗な紫色の瞳は固く閉じられており、今は確認する事が出来ない。


 天高く上る太陽が彼の身体を優しく照らし、(しかばね)と化した彼の姿をより一層儚く(はかな)見せている。風が吹き、血の交じる匂いが鼻にまとわりつく中、横たわるルーカスの黒髪が優しく揺れた。


 周りでは戦闘音が響き渡り、人々が未だ命を奪い合っている。しかし私にとって今、目に映る光景はただ一つ。地面に倒れているルーカスの姿だけだった。


(ロドニールも、ルーカスも死んじゃった)


 私は自分の手を見下ろす。そこには赤い血がベッタリと付いている。


「……っ」


 吐き気がする。気持ちが悪い。頭が痛い。目眩(めまい)がする。息苦しい。心が張り裂けそうで胸が苦しい。


「うっ……」


 涙が頬を流れる。後悔しても遅い。私はルーカスをこの手で殺した。

 ジワジワと自分のした事を実感し、私の瞳から涙が溢れ出す。


「グールを殺しても、何も思わないはずなのに」


 どうしてルーカスを殺してしまった事に対し、こんなにも耐え難い気持ちになるのだろう。


「なんでよ」


 (かすれた)れた声と共に、自分の荒い鼓動と、乱れた呼吸が耳に届く。


 そして、その音に(まぎ)れ。


「ル、シア……」


 私を呼ぶ、聞こえるはずのない、ルーカスの声がした。


「ルーカ……ス?」


 信じられない思いで、私は地面に横たわるルーカスを見つめる。すると、ぼんやりとこちらを見つめる、紫色の瞳と目が合った。


「もう、復讐、完了って、ことで、いい?」


 息も絶え絶えに、しかし彼らしい言葉を(つむ)ぐルーカス。顔色が悪く、息も荒い。それでもまだ、彼は生きていた。私は涙を流しながら何度も首を縦に振る。


「うん、いいよ、もう、いい」

「そっか……。よか、った……」


 安心しきった表情を浮かべ、目を閉じたルーカスは力尽きたように眠る。

 彼の手はこちらに伸び、あとちょっとで私の足に触れる瞬間、ぱたりと床に落ちた。


「ルーカス!!」


 まさかと思い、私は慌ててルーカスのそばにしゃがみ込む。そして心臓に手をあて、彼の鼓動を確かめる。どくん、どくんと波打つ音が手のひらから伝わる。


「よかった、生きてる」


 私は泣きじゃくりながら膝をつき、静かに彼を抱きしめた。


「まだ終わっていないぞ!」


 突然、頭上から声が聞こえた。ハッとして顔を上げると、ハーヴィストン侯爵が私に向かって剣を振り上げていた。


「きゃっ」


 反射的に私はハーヴィストン侯爵に手をかざし、魔法障壁(しょうへき)を展開する。杖を持たず発動したせいで、手のひらがジンと痛んだ。


「なんだと!?」


 私とルーカスを守るように展開した障壁に、ハーヴィストン侯爵が勢いよく振り下ろした剣が当たる。その衝撃で彼の体は跳ね返り、後方へと弾き飛ばす。


「くっ、姑息(こそく)真似(まね)を」


 ハーヴィストン侯爵が剣を地面に突き立て、私を睨みつける。そんな彼の背後には、未だ戦う解放軍の姿があった。勿論その中には年老いてなお、眼光(がんこう)(するど)くグールに杖を向けるモリアティーニ侯爵の姿もある。


(戦いはまだ続いている)


 敵はまだいるのだ。


「死ぬわけにはいかない」


 奇跡的にルーカスが生きていた。

 だからこの奇跡を私は守り抜く。


 私はルーカスを(かば)い、よろめきながらも立ち上がる。


「お前には利用価値がある、それを私たちのために使えば、殿下にBGを投与(とうよ)する事をやめてやろう」


 ハーヴィストン侯がこちらに接近しながら、諦めの悪い言葉を口にする。

 しかし私は決して降伏(こうふく)するつもりはない。ルーカスを守るために戦うことを決めたばかりなのだから。


「残念だけど、私はあなたたちの手下にはならないわ」


 私がそう告げると、ハーヴィストン侯爵は怒りの形相(ぎょうそう)を見せた。


「ならば、ここで死ね!そしてあの世で、自分の(おろ)かさを(のろ)え!!」


 ハーヴィストン侯爵が剣を大きく振りかぶったのと同時に、私は呪文を(とな)える。


「アーススロー!」


 今まさに、私とルーカスを切り裂こうとする、ハーヴィストン侯爵の足下(あしもと)に土属性魔法の攻撃を放った。


「なっ」


 突如(とつじょ)として、ハーヴィストン侯爵が踏みしめる大地が、大きく揺らぐ。それにより体勢を崩した彼の(すき)見逃(みのが)さず、私は素早く次の魔法を放つ。


「アイスニードル!」


 氷柱(つらら)状の鋭い(とげ)が次々と地面から飛び出し、ハーヴィストン侯爵の体に突き刺さる。


「ぐあっ」


 彼の体には無数の穴が空き、そこから一気に血が吹き出した。


「くそ……何故だ、どうして……」


 致命傷を負い、倒れ込むハーヴィストン侯爵は悔しげな表情を浮かべる。散々(さんざん)人々を苦しめたわりに、あっけない最期(さいご)だ。


「それはね、私を誘拐した罰よ」


 私が復讐を一つ果たした瞬間だ。


「誘拐、だ、と?」


 ハーヴィストン侯爵は苦しそうに顔を(ゆが)めながら、私のほうを向く。


「ヒントは、ピンクの花をつけた、可憐(かれん)なマンドラゴラよ」

「まさか……、お前……っ」


 私はハーヴィストン侯爵が目を見開いたのを確認し、ニヤリと微笑む。


「そしてこれは、人々を苦しめた分だから」


 トドメを刺すべく、魔法を発動させる。


「プロミネンス!」

「ぐあああぁっ」


 ハーヴィストン侯爵の体は一瞬で炎に包まれ、やがて動かなくなった。その姿を(なが)める私の心に、罪悪感はない。むしろ「やってやった」という達成感だった。


「やつは、死んだのか」


 燃え盛る炎を見つめる私に、背後から声がかかる。


「はい、わりと呆気(あっけ)なく」

「そうか……」


 命を燃やしたハーヴィストン侯爵を見つめたまま、答える私の隣にモリアティーニ侯爵が並び立つ。


「これで、我々は勝利出来るだろう。礼を言うぞ」


 モリアティーニ侯爵の言葉に、私は首を横に振る。


「いえ、私は自分の意思で戦っただけです。それに私は、ハーヴィストン侯爵がルーカスにしたことを許せなかっただけですから」

「……そうか」

「他のグールは」

「全て倒した。残るは……こやつだけだ」

「……」


 私は視線を落とし、地面に横たわるルーカスを見つめる。苦痛を味わったまま。そんなふうに顔を歪め倒れている、彼の胸は小さく上下している。それは彼が生きている証拠だ。


「BGを一度でも投与された者は、人の味を忘れられん」


 そこで一旦言葉を切ったモリアティーニ侯爵が、ルーカスに向かって歩き出す。そしてルーカスの脇に膝を折りしゃがみ込む。それから彼は、脈を確かめるように、ルーカスの首元に指先で触れた。


「お主は、こやつをどうするのじゃ」

「生かします」


 私は即答する。


「生かすのは、地獄じゃぞ」

「わかっています」


 確かにルーカスは今後「食べたい」という欲求に(あらが)いながら生きる事になる。それがどれくらいつらい事なのか、私にはわからない。


「もし、また人を襲うような事があれば、わしらはこやつを殺さねばならぬ」


 厳しい表情で言い放つモリアティーニ侯爵。しかし私は、それに対する答えを持っていた。


「トドメをさせなかったのは私です。だから私が彼の人生に責任を持ちます」

「そうか」


 モリアティーニ侯爵は目を細めた後、ゆっくりと立ち上がった。


「この場の後始末は、わしらに任せておきなさい。お主は殿下……もはや殿下ではないか」


 モリアティーニ侯爵が苦笑し、ルーカスを一瞥(いちべつ)した後、私に微笑む。


「彼を私の屋敷に。お主たちの到着をマージェリーが待っておる」


 モリアティーニ侯爵の口から懐かしい名前が飛び出し、ルーカスの乳母(うば)だという、恰幅(かっぷく)の良い女性を思い出す。


「ありがとうございます」

「今後、お主は忙しくなるじゃろう。休める時に、彼と共に休んでおくといい」

「はい」


 私は力強く返事をする。そしてルーカスのそばで膝をつく。


「ルーカス、もう大丈夫よ。全部終わったわ」


 呼びかけると、彼の(まぶた)が震え、ゆっくりと開く。


「……シア」


 紫の瞳が私を映すと、彼は安心しきった表情を浮かべた。


「無理しないで。モリアティーニ候が休んでいていいって」


 柄にもなく優しく告げ、私はルーカスを背負い、立ち上がる。


 こうして私たちの戦争。グール対人間の戦いは、この日終戦を迎えたのであった。

お読みいただきありがとうございました。

とても辛いシーンが終了しました。追いかけて頂きありがとうございました。


これからは、ルシアが大事な人を失ったこと、それにルーカスがかかわっていること。それらに折り合いをつけようと、頑張るパートへと続きます。最後まで、追って頂けると嬉しいです。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ