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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第十章 グール対人間。最終決戦へ(十九歳)
92/125

092 波乱の結婚式8

お読み頂きありがとうございます。

R15になります。お食事中の……(以下略

 ルーカスが、BG(ビージー)を打たれ化け物と化した。そして、ランドルフはルーカスによって八つ裂きにされ、その命を呆気(あっけ)なく散らした。


 辺りに血の匂いが充満する中。


 私達はモリアティーニ侯爵を守るよう周囲を固め、地獄のような光景を前に立ちすくむ。


「陛下ッ!!」

「嘘だろ……」

「何でだよ」

「何でこんな事に」


 一瞬の出来事に、驚き立ちすくんでいた、黒い騎士服姿の近衛兵たちから次々に声が上がる。その声を耳にしながら私は思う。


「なんてこと……」


 長年恨みを抱えていた復讐相手の一人は、私が手を下す事なく死んでしまった。虚しさを感じながら、私は目の前に広がる光景を見つめる。


「グオォォオ!!」


 ルーカスは再度、雄叫(おたけ)びを上げる。


「陛下!!」

「くそっ!よくも!!」


 ルーカスに憎悪の目を向ける近衛騎士。


「待て。ルーカス殿下に剣先を向けるだなんて、不敬じゃないのか?」

「確かに。ランドルフ陛下を失った今、俺達が(つか)える(あるじ)はあの方だ」

「しかし、ランドルフ陛下を……」


 主を失った近衛兵達が、戸惑いの声をあげる。


「元に戻す方法はないのか!」


 モリアティーニ侯爵が声を(あら)らげ、ハーヴィストン侯爵に尋ねる。


「この戦いを終わらせるたった一つの方法。それは最後まで生き残ること」


 恍惚(こうこつ)の表情を浮かべ、ルーカスを見つめるハーヴィストン侯爵は言葉を続ける。


「殿下はもはや、理性を失い兵器と化した。生き延びたくば、人間を喰らいたくば、戦え!!」


 司令塔(しれいとう)となる主を失い、戸惑う近衛騎士達にハーヴィストン侯爵が声高らかに告げた。


「よ、よし。やってやる!!」

「生き延びてやる!」

「ランドルフ陛下の(かたき)をとってやる」


 指示待ちに慣れているせいか。それとも目の前で今なお起きる惨事(さんじ)に、思考を停止させてしまっているのか、近衛騎士たちがしっかりと剣を握り直す。そして次々と覚悟を決めた顔をし、ルーカスに立ち向かっていく。


「グアァア!」


 ルーカスが切りつけられてもなお、強靭(きょうじん)な腕を振り下ろし、何人もの騎士を吹き飛ばしていく。


「ぐわぁああ!」

「ぎゃあぁあ!」


 近衛兵は剣を手にし応戦するが、怒り狂うルーカスの前には無力だった。


「何してんだ!!早く行けよ!」

「お前が行けばいいだろう!?」

「無理だって!あいつ、強いぞ!」

「逃げろー!!」


 恐怖に耐えかね、逃げ出す者もいる有様(ありさま)だ。


「私たちはどうしますか?」


 ロドニールがモリアティーニ侯爵にたずねる。


「理性を失い、化け物と呼ばれる彼らも私達と同じ人間だ。いつも通り、武器を持たぬ市民を優先的にこの場から救い出すのじゃ」

「はっ。ではアクスの班と、アルミンの班は広場の市民を。エイデンの班はモリアティーニ侯を安全な場所へ。ルーカスは私とルシア少佐で引き付けておく」


 儀礼的(ぎれいてき)に称号をつけられた私と違い、その階級に伴う能力を持つロドニールが、仲間に指示を出す。


「了解!」

「ラージャー」

「任せてくれ」


 解放軍の仲間たちは、散り散りとなり、市民の救出に向かう。


「きゃー」

「共食いだわ!!」

「早く逃げないと」

「襲われる」


 広場にいる民衆の中からも、理性を失ったグールに襲われる人々の悲鳴が上がる。


「おいっ!!早く逃げろ」

「あぁ……駄目だ」

「無理だ、あれはもう人じゃない」

「おい!誰か止めてくれ!」


 次々と倒れていく近衛兵に、他の兵士たちは怯えた表情を見せる。


(あぁ、これが私が望んでいた結果なんだ)


 父と母を追い出した国に住まう者達が絶望に打ちひしがれ、苦しみながら死んでいく。私が長年追い求めてきた光景が、今まさに目の前に広がっている。


(でもどうして)


 ずっと望んでいた光景を前に、私の心は思ったより晴れない。


 もっと苦しめばいいと思っていた。

 もっと罰を受ければいいと願っていた。


 それなのに何故だろう。今私の中にあるのは、どこか虚しさを覚える気持ちだ。


 私はいつでも攻撃出来るよう杖を構えつつ、密かに無気力な気持ちに襲われていた。


「キャアァアア!」

「やめてぇえ!」

「助けてー」


 私の目の前では、凶暴な眼差しをしたグールに襲われた人々が、必死に逃げ惑っている。


「こんな事なら、出来損ないのままでいてくれれば良いものを」


 一人の近衛兵が剣を構え、ルーカスの前に立ち塞がった。その声を皮切りに、今まで躊躇(ちゅうちょ)した様子であった、騎士達が一斉に武器を構え、ルーカスに攻撃を仕掛けた。


「グルルルゥウ」


 ルーカスはその攻撃を()ける事もせず、正面から受ける。攻撃を食らってもなお、(ひる)むことなく、襲ってくる兵士達を次々となぎ倒していく。辺りには、累々(るいるい)と黒い騎士服を着た死体が転がっていく。


 ()(すべ)もないとはこの事だ。


 そしてついに、その時は訪れる。


「グゥ……」


 襲い来る近衛兵を皆殺しにし、その死体を(むさぼ)り食っていたルーカスが低い(うな)り声を上げ、ゆっくりと顔を動かした。そして、血で染まる口元を片手で(ぬぐ)うと、新たな目標を定めたかのように、ピタリと動きを止める。


 ルーカスの視線の先を辿(たど)ると、そこにいたのはハーヴィストン侯爵だった。彼を守ろうとする騎士は、皆やられてしまったのか、リリアナの腕を掴み、こちらに背を向け逃げ出そうとしている。


「グオォオオォオ!!」


 ルーカスが許さないといった感じで雄叫びをあげる。


「ひっ!!」


 ハーヴィストン侯爵は腰を抜かし、その場にへたり込む。そして、恐怖のあまり失禁してしまったのか、足元に水溜まりが出来上がる。


「や、やめろ。た、食べるならば、娘を」


 震える声で懇願(こんがん)するハーヴィストン侯爵。


「嫌よ!離してよ!」


 掴まれた腕を振り払おうともがくが、思うように力が入らないのか、リリアナは父親の手から逃れられない。


(さいてい)


 リリアナの事は好きではない。けれど、娘を餌に差し出そうとする、非情な父を持った事だけは、同情せざるを得ないと思った。


「グオォォ!」


 ルーカスは、勢いよく跳躍(ちょうやく)し、二人の元へ迫る。リリアナはハーヴィストン侯爵に抱きつき、迫りくる死の恐怖に目を(つぶ)っている。


「ヒィッ!」

「いやぁああ!」


 私は咄嵯の判断で、魔法を発動させる。


「ライトニングレイ!」


 私の杖の先から、光の矢が一直線にルーカスの足元に向かって放たれた。


「グアァア!」


 私の魔法がルーカスの足元を(かす)める。


「た、助かった」

「勘違いしないで。あなたを助けた訳じゃないわ。ルーカスをこれ以上殺人鬼にしたくないだけよ」


 安堵(あんど)の声を上げる、ハーヴィストン侯爵に私は冷たく言い放つ。


 本当はこんな奴、どうなってもいい。けれど、ローミュラー王国が目の前で、崩壊(ほうかい)していく様を眺めていても、ちっともスッキリしないのだ。


(それは、私が直接手を下してないからだ)


 私がくすぶる気持ちになるのは、多分それだ。


 つまり、私が手を下すためには、理性を失い殺戮(さつりく)を繰り返すルーカスをこのまま野放しにするわけにもいかないというわけで。


「私が復讐する人が、一人残らずいなくなるのは勘弁(かんべん)よ」

「あなたって人は、本当に」


 ポツリと呟く私の言葉に、ロドニールが反応した。


「本当になに?」


 私は意地悪くたずねる。


「困った人で、そしてやっぱり不思議な魅力に溢れている」


 思いのほか、褒められてしまい、私は恥ずかしくなる。


「……ありがとう」


 誤魔化すように礼を言うと、再び杖を構える。


「ふはは、ははははは」


 突然、気が狂ったように、笑い出すハーヴィストン侯爵。


「とうとう気がふれたの?」


 気味が悪くなり、思わず尋ねる。


「この国は滅びる。どうせ殺されるならば、貴様らも道連れにしてやる。ここで殿下に共に食い殺されるんだ!はははははは!!」


 狂気に満ちた瞳で高らかに笑うハーヴィストン侯爵。


「お、お父様?」


 聞き捨てならない単語に、リリアナが目を見開き、すかさず問い詰める。


「お前も一緒に死んでもらうぞ!!」


 ハーヴィストン侯爵は(ふところ)に手を入れると、中から小さな小瓶を取り出した。


「くっ、まさか」


 モリアティーニ侯爵が眉をしかめる。しかし私にはハーヴィストン侯爵が手にした小瓶。その中身について、さっぱり見当がつかない。


疫病(えきびょう)の再来だ。しかもこれは改良版。この液を浴びた者は、必ずやグールとなる。そして私達と同じように、人を喰らいたい気持ちを邪魔される、その苦しさを味わうがいい!!」

「え、そういうこと?」


 私が驚きの声をあげると共に、ハーヴィストン侯爵は手にした小瓶を、私たちに向かって投げつけた。


「やばいってば!!」


 私は咄嵯に、その小瓶に向け杖を振る。放物線を描き宙を舞う小瓶は、その場でピタリと停止した。


「ぎりぎりセーフ」


 私が安堵したのも束の間。ルーカスが素早く動き、私の前に立ち塞がった。


「なに!?」


 ルーカスの行動に驚く私。そんな私の前で、彼は腕を上げた。


「ち、ちょっと、ルーカス。落ち着いて」


 私は宙に浮いた状態の、怪しい薬の存在に困り果てる。

 私が魔力を途切れさせれば、瓶は地面に落ちて割れてしまうからだ。


「グォオオオォオ!!」


 ルーカスが大きく吠えた瞬間、私に向かって容赦なく太い腕が振り下ろされた。


「危ない!」

「えっ?」


 突然、ロドニールに突き飛ばされ、私は尻餅をつく。


「フロー」


 劇薬である小瓶が地面に叩き付けられる寸前、モリアティーニ侯爵の声が響く。


「あぶな」


 間一髪といったところ。私は劇薬がモリアティーニ侯爵の手に渡り、ホッとする。


「うっ」


 ロドニールの悲鳴が聞こえ、慌ててそちらに顔を向ける。


「え」


 私の目の前に、赤い宝石が飛び散る姿が飛び込んでくる。そして、突如私の視界を埋めたキラキラと輝く宝石は、ピチャリと音を立て私の顔に張り付いた。


「ロドニール?」


 私が呟くと同時に、真っ二つに裂けた体が、地面に倒れる。


「え、何?」


 私は、目の前で起こった出来事を信じられず、呆然とする。


「ええと……」


 とりあえず自分の頬を手で撫でた。それから自分の手のひらを確認し、真っ赤に染まっている事を理解する。


 まるでそれは人の血のような、色をしている。


「そんな」


 恐る恐る視線を上げ、ロドニールの姿を確認する。


「何かの間違いよ」


 私は自分に言い聞かせる。しかし先程まで私をずっと気にかけてくれていた、優しいロドニールの姿はどこにもない。


 私の視界に入るのはむしゃむしゃと、本能のまま人を喰らうルーカスの姿。彼の前に、餌としてあるのは、この世の悲惨なものを全て思い浮かべても、言葉に出来ないほど、変わり果てた姿の青年だ。


「嘘……」


 私は、目の前で起こった出来事を信じられず、呆然と立ち尽くす。


「グガァアアッ!!」


 ルーカスが歓喜の雄叫びをあげ、口元に笑みを浮かべる。


「ルーカス、やめて」


 ルーカスは私の言葉など耳に入っていないのか、再び肉をむさぼり食う。むしゃむしゃと、ただひたすらロドニールだったはずの物体を本能のまま、食べている。


 ルーカスの手が、そして口の周りが、真っ赤な血で染まっている。


「こんなの、こんなことって」


 私は目の前で起こっている光景を受け入れる事が出来ず、頭を振った。


「グルルルル」


 ルーカスは口に入れていた体の骨を投げ捨てると、新しい獲物を探そうとしているのか、辺りをゆっくりと見回し、私と目が合った。


(嘘よ)


 そう自分に言い聞かせるものの、ルーカスの口元から滴り落ちる血液を見て、そして自分の頬を拭った手のひらについた真っ赤な血を確認し、私はようやく理解する。


(ロドニールが死んじゃった)


「あぁああぁああぁ」


 私の口から、言葉にならない声が出る。

 ルーカスはそんな私に喉を鳴らし、近付いてくる。


「いやぁああ!」


 私はこれ以上ないくらい最悪な絶望感に耐えきれず、大声で叫ぶのであった。

お読みいただきありがとうございました。悲しくて、私のテンションが病んだ話です。

次回以降、お楽しみ頂けると幸いです。



更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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