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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第十章 グール対人間。最終決戦へ(十九歳)
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091 波乱の結婚式7

お読み頂き、ありがとうございます。

追いかけて頂けて、嬉しいです。


今回はR15なので、お食事中はお控え下さると幸いです。

 今まさにランドルフとハーヴィストン侯爵が広場に集まった民衆の前で、その悪事を暴かれている。


 そんな中、私はうっかりロドニールへの恋心を自覚し、照れていた。しかし不意に大きな声が響き渡り、私の意識は現実へと引き戻される。


「嘘つきめ!BG(ビージー)を打てば、幸せになれるんじゃなかったのかよ!」

「グールの権利を守る戦争じゃなく、まさかグールそのものを減らすためだったとはな!」

「陛下とハーヴィストン侯は俺たち庶民を(だま)し、殺そうとしていたんだ」

「自分たちさえ良ければってな!」

「しかも、自分の息子までもを、犠牲にして」

「許せない」

「もう終わりだわ……」

「俺たちは、これ以上(だま)されないぞ!!」


 群衆から非難の声が一斉に上がる。どうやら、モリアティーニ侯爵が展開した魔法動画により、真実を知った人々の怒りが爆発しかけているようだ。


 私は民衆の言葉を聞きながら、改めて思う。


(全ては、あの二人に都合よく仕組まれたものだと)


 そもそもBGはグールを救う為ではない。ランドルフやハーヴィストン侯爵のような、特権階級に胡座(あぐら)をかく、一部のグールが人を()らう事をカモフラージュする為のもの。


 少なくとも、私にはそう思えた。だからこそと、私は拳を強く握り締める。


(こんなの、もう終わりにしなくちゃ)


 そもそも、最初のきっかけ。この国に多くの不幸をもたらした疫病(えきびょう)は、ランドルフやハーヴィストン侯爵の仕業だった。


 それは、彼らの親世代が(くわだ)てた事かも知れない。けれど、現在のような状態にまでしてしまったのは、確実にランドルフとハーヴィストン侯爵のせいだ。それなのに、私の父と母は、ローミュラー王国を自分たちが離れたからだと、ずっと懺悔(ざんげ)の気持ちを抱いていた。


(でもそれは、半分間違い)


 確かに父は一度、自分の使命から逃げ出した。しかし全容が明らかになった今、父がしたことはそこまで悪い事だと、私には思えない。


(だって父さんは)


 誰もが願うよう、愛する人と普通に生きたかっただけだから。


 むしろ、生き残るグールと、淘汰(とうた)するグール。それを選別するために、BGを市民に配り、わざと戦争になるよう仕向けたランドルフとハーヴィストン侯爵。


(彼らこそ、正真正銘の悪だ)


 私は一度収まった怒りが、沸々(ふつふつ)と湧き上がってくるのを感じる。


(しっかりと、全ての責任をとってもらう)


 そして私の手で、二人に絶対両親の復讐をする。


 私が密かに誓っている間にも、広場では民衆がランドルフとハーヴィストン侯爵に罵声(ばせい)を浴びせていた。


「皆の者、落ち着け。あの魔法映像は、人間側が作ったフェイクである!」


 ランドルフが声高らかに告げる。


「皆様、人間側に都合よく踊らされてはなりません。BGは安心安全が保証された物です!」


 ルドウィンもその場を落ち着けようと、声を張り上げた。


 そんな時である。不意にルーカスの声が響き渡った。


「ならば、なぜお前たちはBGを打たないんだ!安心安全というならば、真っ先にお前が打つべきだろう!!」


 ローミュラー王国の兵士に後ろ手を捕られた、ルーカスが悲痛な面持ちで叫ぶ。


 BGを打たれた者だからこその悲痛な叫び。私にはそう聞こえた。


「ランドルフ陛下に罪がないとは言わん。しかし、息子への想いを(えさ)に、言葉巧みに悪の道に誘い込んだ、ハーヴィストン侯爵。わしは、お前こそ真の悪人だと思っている!」


 モリアティーニ侯爵がルーカスに加勢する形で言い放った。


 確かに最初の魔法映像だと、ランドルフはルーカスを気にしている様子だった。


(でも)


 仮にそうだったとして。当のルーカスにその想いが伝わってないのだとしたら、意味がない。


「さぁ、どうする。大人しく罪を認め、お主が終戦を宣言する。これ以上、市民を騙す事は無理そうじゃぞ?」


 モリアティーニ侯爵は、ランドルフに向かって提案する。


「ふっ、仕方がないですねぇ」


 なぜかランドルフの代わりに、ハーヴィストン侯爵が余裕の笑みを浮かべた。


「グールが支配するローミュラー王国で、人間が死を迎えるにあたり、最も大事なのは、それまでの生き方ではない」


 脈略(みゃくりゃく)なく、しかし落ち着いた表情で話し始めるハーヴィストン侯爵。


「グールの餌になれば、尊い人生を送ったとされ、そうでなければ、その人間は死すら価値のないものとなる」


 ハーヴィストン侯爵は小馬鹿にしたように、鼻を鳴らす。


「たわけたことを!どんな生き方を送ろうと、生きること自体が尊いものじゃ。そして自分自身が生きることに意義を見出せることこそが、真の尊さじゃ。お前は間違っておる」


 モリアティーニ侯爵は、ハーヴィストン侯爵に反論した。


「そうですか。残念です。どうやらあなたとは相容(あいい)れないようだ」

「今更じゃ」


 交渉決裂。二人の間に穏やかではない空気が流れる。


「実は先程あなたが誇らしげに皆に披露(ひろう)した、魔法動画。あれには続きがありましてね」

「続きだと?」

「私達も馬鹿ではない。自分たちが生き残る為の策を用意しているのですよ」

「つまりお主は、わしらとここで、剣を交えるということか」


 モリアティーニ侯爵の問いに対し、ハーヴィストン侯爵は不敵に微笑む。


 モリアティーニ侯爵を守るように控えていた、解放軍側につく兵士達の顔が強張(こわば)り、警戒した表情を浮かべる。そして、各々隠し持った剣の柄に片手を添えた。その姿を確認した私も、素早く右手に杖を召喚する。


(なんだろう、嫌な予感しかしない)


 私の中の第六感が警笛(けいてき)を鳴らす。


「口で話すよりも、実際に経験していただく方が良いかと。ま、御老体に耐えかねるかどうか。それは保証しませんがね」


 ハーヴィストン侯爵は勝ち誇った表情で口にすると、突然右手を振り下ろす。


 すると次の瞬間―――。


「やめろぉおお!!」


 ルーカスの叫び声が響く。


 私は慌ててルーカスに目をやる。すると、兵士の一人がルーカスの首筋に赤い液体の入った注射器をブスリと突き立てていた。


「ルーカス!!」


 私は思わず駆け出そうとするも、モリアティーニ侯爵を目掛け、無数の矢が放たれたのに気付き、咄嗟(とっさ)に杖を振りかざす。


「なんじゃと!?」


 モリアティーニ侯爵は驚きの声を上げる。


 私はその声を耳にしながら、モリアティーニ侯爵を庇うよう、目の前に魔法障壁(しょうへき)を展開する。その直後、数本の矢が私の魔法障壁にぶつかり弾かれた。


「チッ」


 ハーヴィストン侯爵が舌打ちをした。そんな中、今度はランドルフの叫び声が響く。


「ルーカス!!」


 ランドルフの叫び声を聞き、私は慌ててルーカスを視界に入れる。


 すると謎の注射を打たれ、その場に頭を抱え、うずくまっていたルーカスが、突如体を起こした。そしてムクムクと体が膨れあがると、みるみると巨大化し、その姿を変えていく。


 頭部は、牛のように大きく、身体は人間の男性を遥かに超える大きさがある。全身を灰色の肌で覆われ、目の周りにグールを記す黒い文様が浮き出し、赤く血走った目でルーカスは、辺りを見回している。


 ルーカスであったはずの存在は、明らかに人ではなくなっていた。

 その姿は、まさに怪物と呼ぶに相応しいものだ。


「嘘……」


 ルーカスが、完全にグール化した。その事実を目の当たりにした私は衝撃で、唖然(あぜん)とし固まる。


「なんて事だ……」


 ランドルフが、ガクリとその場に(ひざ)をつく。


「グオォオオ!!」


 天高く叫ぶ、ルーカスの低い唸り声が響く。そしてその声に共鳴するように、広場の中からグールの雄叫びがいくつも上がり、強靭(きょうじん)な体格を持つグール達が出現した。その数はゆうに十を超え、グール達はみな一様(いちよう)に、自分に何が起きたのかわからない、そんな感じのまま、(うつ)ろな瞳で宙を(にら)んでいる。


「どういうことだ!」

「きゃー!!」

「どうして!」


 次々と上がる悲鳴にも似た声。


 その声を耳にしながら、私は巨大化したグールの首筋に刺さる、空になった注射器に目をとめる。


(まさか、あの注射器の中身は)


「グールに人間を襲わせるために、人間の血肉を定期的に与え続けた。それも少量ではなく、大量にだ。そして彼らは進化した。私達のために!!」


 ハーヴィストン侯爵が不敵な笑みを浮かべながら、言い放つ。


「ルーカス!!」


 隣に並ぶロドニールが、動揺した声でルーカスの名を発する。


「まさにこれが、私達に勝利をもたらす、BGの力だ!」


 ハーヴィストン侯爵は高らかに宣言する。


「本来あるべき姿だと!」


 まるで自分に酔いしれていると言った感じで、両手を拡げるハーヴィストン侯爵に、モリアティーニ侯爵は怒りに満ちた顔で叫ぶ。


「どうです、美しいと思いませんか?」


 ハーヴィストン侯爵は、自分の行いを(ほこ)るように、うっとりとした顔で語る。


「ふざけるでない!!」


 モリアティーニ侯爵は怒りを(あらわ)に叫ぶ。


「戦争を終わらせたい。その願いを叶えましょう。生き残ったものが、正義の名のもとに生きていく権利を得るのです」


 ハーヴィストン侯爵は高らかに宣言する。


 その声に反応したルーカスは、まるで獲物を探すように視線を動かし、ある一点に固定した。


「グルルルッ」


 ルーカスの口から、野太い獣のような声が漏れる。そこには、膝を折り、怪物と化した息子を見つめる、ランドルフの姿があった。その表情は(おそ)れや恐怖。それから懺悔(ざんげ)といったものではない。ただ純粋に、ルーカスの身を案じている。そんな父親の表情だった。


「陛下、お逃げ下さい」


 ランドルフの危機を感じ取った近衛兵が、咄嵯に叫ぶ。


「すまんな、ルーカス」


 ランドルフは一言謝ると、自分に向かって振り下ろされたルーカスの腕を、避ける事なく受け止める。ルーカスの無常にも太い腕の先にある、鋭い爪がランドルフの体を切り裂く。


「ぐぅっ」


 苦悶(くもん)の表情を浮かべながら、ランドルフはルーカスによって八つ裂きにされる。そして私たちが何が起きたのか、それを理解する前に、ルーカスの口が大きく開き、ランドルフの体は噛み砕かれたのであった。

お読みいただきありがとうございました。


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