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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第十章 グール対人間。最終決戦へ(十九歳)
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088 波乱の結婚式4

 広場では今まさに、ルーカスが発した言葉の真偽(しんぎ)を確かめようと、集まった聴衆(ちょうしゅう)が戸惑いつつも意見交換をしているという状況だ。


「そもそもランドルフは国を乗っ取るために、グールの母体数を増やし、民衆をグール対人間で(あお)るよう、扇動(せんどう)する必要があったんじゃ」

「そしてその煽る為の策として、BG(ビージー)という薬を開発し、グール達に配ろうと画策(かくさく)していたと」


 私はステルスマーケティング中だという、広場でのざわめきを尻目(しりめ)に交わされている、モリアティーニ侯爵とロドニールの会話に耳を傾けた。


「実のところ、ランドルフ達はかなり昔から、BGを開発していたようだ。そして、偶然その過程で誕生したのがBGの変異株(へんいかぶ)。人に害を及ぼすその変異株を故意(こい)にばら撒く事により、この国を混乱させる事にランドルフたちは成功した。そういう事ですよね?」


 ロドニールがモリアティーニ侯爵に、確かめるように顔を向ける。


「特効薬のない謎の病の蔓延(まんえん)により、人々の恐怖心は煽られた。しかもグール化を誘発させるBGの副産物であったウイルスは、多くの者を簡単に悪溜(あくだ)まりへと引き込み、グールへと変えてしまったのじゃ」


 モリアティーニ侯爵は腰掛けたまま、地面についている杖の()を握る手に力を込め、静かに怒りを外に放出する。


「ランドルフはそうして増やしたグールを上手く陽動(ようどう)し、人間対グールの構図を作り上げる事に成功した」

「グールを薬漬けにし、人を襲いたい気持ちにさせる。さすれば自ずと人間と戦う事になるからのう」

「そして常習性(じょうしゅうせい)のあるBGを接種したグールは、永遠に人を捕食したくなる。だから、戦争は終わらないと」


 モリアティーニ侯爵とロドニールの話を聞きながら、私は疑問に思う。


疫病(えきびょう)によりグールが増えたこと。それは理解できたのですが、そもそもBGを接種した者が増えれば、人はいずれ食い尽くされてしまうのではないでしょうか?」


 グールと人間。その数のバランスを保つために、フォレスター家の者は存在する。私は唯一残されてしまった、迷惑な使命を持つ代表として口を(はさ)む。


「そうじゃ。よってランドルフは、いや、ランドルフたちは、グールの中で生かす者、殺されても構わぬ者。それを己の都合で選別しようとしているのじゃ」

「じゃあ、薬付けにされたグールは、殺されても構わない者だという事ですか?」


 衝撃の事実に、思わず身を乗り出し聞き返す。


 クリスタルによって長いこと本能を抑制され続けた。その結果、ランドルフが人間を敵だと恨む気持ちはわからなくもない。ただ、同族であるグールを殺す。それはもう私利私欲(しりしよく)のためだけのものであって、一線を越えた行為なのではないだろうか。


「そうじゃな。BGの精製(せいせい)に人の血肉(けつにく)が必要とされている以上、限りあるものじゃ。よってBGに汚染されたグール達からすれば、同族を間引きする以外、種族が生き残る策はない。まぁ、だからこそ、我ら人間を家畜化(かちくか)したいのじゃろう」

「そもそも最初から、クリスタルに逆らわなければいいのに。愚かだわ」


 私が呆れたように呟くと、モリアティーニ侯爵は広場に集うグール達を見つめた。


「わしらは、運良く人を喰らいたいと思う事がないからのう」

「そうか……食欲は、私達が死ぬまで逃れられない欲求の一つ。それを我慢しなければならないとなると、私も気が狂うかも知れません」


 ロドニールが力なく肩を落とす。


「うむ。だからこそ、わしら解放軍が動く。そしてこの国の民を救うのだ」


 モリアティーニ侯爵は、グールでも人間でもなく「民」と口にした。

 それはきっと彼の信念で、私の祖先、そして国外追放されてなお、父の心にあったもの。


「民の為に、自らを犠牲にしてもいい。それが王たるものの責務だから」


 私は、自分の口から自然に出た言葉に驚く。それは幼い頃に父から聞かされていた、祖父の口癖だったからだ。


 悪役を目指す私としては、イメージ的に絶対口にしてはならぬ言葉。それをうっかり呟いてしまったようだ。


(ま、まずい。イメージが(くず)れちゃう)


 私は慌てて口元を片手で覆う。


「ほほう、クライドがお主と同じ事を良く口にしておった。懐かしいのう。おっ、そろそろ話がまとまったようじゃの」


 ご機嫌な様子で祖父の名を口にしたモリアティーニ侯爵が、顎で広場を示す。と同時に、一斉に声が上がる。


我等(われら)は、誇り高き、ローミュラ王国の民だ!」

「人として生きていく権利がある!!」

「BGに体を汚染されるのは、もううんざりだ!」

「自由を勝ち取れーっ」

「家族を守り抜けーっ」

「我々にはランドルフの圧政(あっせい)(あらが)う、正義の心があるっ!」


 人々は(こぶし)を突き上げ、声を張り上げる。


「わ、凄い……」

「誰だって、出来れば平和に生きたいですからね」


 私とロドニールが声を上げると、モリアティーニ侯爵は嬉しそうにほほえむ。


「うむ。彼らは芯までグールになった訳ではない。決してわしらを憎んでなどいない。ランドルフらの作った薬のせいで、惑わされていただけなのじゃ。おやおや、ランドルフが動くようじゃ」


 モリアティーニ侯爵の言葉に、私は再び広場に視線を向ける。すると、ランドルフがルーカスを押しのけ、前に出たところだった。


「出来損ないであった者の言う事を()に受けるとは、実に(おろ)かだな」


 ランドルフは威厳たっぷりな声で、嫌味っぽく馬鹿にするような言葉を発した。


「魔力欠乏症。そして半グールという中途半端な者として生まれた私の息子ルーカスが、我らを散々悩ませ続けていたルドウィンを討伐(とうばつ)できた。それはなぜか?」


 そこで言葉を切ったランドルフは、ゆっくりと広場を見回した。そして充分な()を取った後、再度口を開く。


「それはBGの力あってこそだ。我々が本来の力を取り戻すために、神はBGを我らに与えたのだ!」


 ランドルフの力強い発言に、一度はランドルフを疑い出した人達が戸惑いの表情を見せる。


「しかし、あの薬を摂取すれば、いずれ理性を失い、怪物になるのでは?」


 一人の男性が恐る恐る質問を投げかける。


「そもそもBGに(とら)われ、自制出来ない者が悪い。それに今まで抑圧(よくあつ)されていた我らが前に進む為に、多少の犠牲は必要だ。より強い者が上に立つ。それがグールとしての本来の在り方でもある」


 ランドルフは揺るぎない堂々とした声で、自らの主張を民衆に告げた。


「そもそもBGが無ければお前達グールは、肩身の狭い生活を今も続けていただろう。それが今やどうだ。胸を張り、自分はグールだと堂々と公言出来る。それを思えば、我らに感謝すべきではないのか?」


 ランドルフは自信に満ちた態度で言い放つ。


「そんな事はない。 あなた達の薬は、多くの命を奪った。罪のない人々をグールへと変え苦しめたんだ。それは決して許される事ではないはずだ!!」


 ルーカスは叫ぶ。


「出来損ないの癖に出しゃばるな。お前は黙っていろ」


 ランドルフはルーカスをギロリと睨んだ。


「こやつを市民を(まど)わした罪で捕えろ!!」


 大声でランドルフが告げると、周囲にいた兵士がルーカスを後ろ手に拘束(こうそく)した。


「くっ……こんな事は間違っている」

「残念ながらこの場にいる者は皆、陛下の配下。つまり我々の仲間なのよ」


 ナタリアが目を細め、小馬鹿にしたようにルーカスに告げる。


「ルーカスを助けなくちゃ」


 私は思わず立ち上がり、バルコニーから飛び出そうと片手に杖を召喚する。


「ふむ、そろそろ我らの出番のようじゃな。では、真の(あく)を表舞台に引きずり出すとするかのう」

「真の悪?」


 それは一体どういうことなのだろうかと、背後から聞こえた言葉に私は振り返る。すると年老いてなお輝きを失わない、モリアティーニ侯爵の生き生きとしたエメラルドグリーンの瞳が何かを見据えたように、鋭く光っていたのであった。

お読みいただきありがとうございました。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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