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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第十章 グール対人間。最終決戦へ(十九歳)
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087 波乱の結婚式3

 グールにとって未来に続く後継者が決まり、そして子孫繁栄(しそんはんえい)のための結婚する。そんな最高なお祝いごとをぶち壊したのは、何を隠そう本日の主役であるルーカスだ。


(とうとうルーカスは親に喧嘩を売ったわ!)


 一体どう決着をつけるつもりなのか。私はハラハラ、そして少しだけワクワク。さらには、ランドルフに怒りを抱えるという、大変忙しい状態の傍観者(ぼうかんしゃ)となり、この場を見守っている。


 そんな私の視界に、キラキラと発光する白い集団が目に入る。


(うわ、目に毒すぎる)


 私が咄嗟に目を(つぶ)った瞬間。


「ルゥゥゥゥゥカス!!あなたは、なに馬鹿な事を言ってるの!!」


 甲高い声がして、私は目を開ける。するとパシーンと高い音と共に、ルーカスの(ほほ)が打たれた。


 ルーカスの頬を容赦なく叩いたのは、突然乱入し出来た人物。ルーカスの母であり、この国の王妃であるナタリアだ。彼女の背後には、侍女と思われる女性たちが何人も控えている。


「痛そう……」


 私は思わず自分の頬に手を添え、顔をしかめる。


「育てた恩も忘れ、ふざけたことを。さっさとリリアナと結婚を誓いなさい」


 ナタリアが冷たく言い放つ。


「あなたに育てられた覚えはない」

「何ですって!?」


 再びルーカスに向かって、平手打ちが飛ぶ。ルーカスはそれを甘んじて受け止めた。


 固唾を飲み、静かに見守る聴衆が見つめる中、パチンとまたもや大きな音が響く。


「母上、おやめください」


 ルーカスの怒りを殺したような、低い声が響く。


「本当に、あなたにはガッカリよ。よりによって裏切り者であるルドウィンと、あばずれ女ソフィアの子と結婚したいだなんて。絶対に許しませんわ」


 ナタリアは冷ややかな視線で息子を見据える。


「ルドウィン様は裏切り者じゃない。それに、フラれた腹いせに、国を乗っ取った母上の方が私には悪に思えます」

「お黙りなさい。いいから早くリリアナと結婚なさい」


 ピシリとリリアナを指差すナタリア。しかしリリアナは迷惑そうに、顔を引きつらせている。


(そっか、リリアナはルーカスと結婚したくないんだっけ)


 私はハーヴィストン侯爵家の裏庭で、スティーブという青年と仲睦(なかむつ)まじい様子だった、リリアナを思い出す。


 あれから随分(ずいぶん)時が経ったとは言え、そもそもリリアナはルーカスが婚約破棄を前提に、婚約者としてその座に()えていた事を知っている。だから、今更「結婚しない」とルーカスに告げられても、動じないのかも知れない。


「そもそも、自分の父親を殺した男と結婚する娘など聞いた事がないわ。それに、あなたは高貴なるグールなのよ。忌々しいフォレスター家の者と結婚など許す訳がないでしょう?」

「嫌です、私は何があってもルシアと結婚します」

「言う事を聞きなさい!!」


 ナタリアはヒステリックに叫ぶと、ルーカスに扇子を投げつけた。それは見事に額に命中し、ルーカスの、わりと見目麗(みめうるわ)しい部類に入るであろう(ひたい)に傷をつくる。


 ポタリとルーカスの額から鮮血が流れ落ちた。


「あぁ!!ごめんなさい、つい手が滑ってしまったわ。大丈夫?手当しなくてはね?」


 全く心配していない口調で告げると、ナタリアは侍女を振り返る。


「うんざりだ」


 低い声で呟いたルーカスはくるりと振り返り、ナタリアとその隣に並ぶランドルフに背を向けた。そして広場に集まる聴衆に向き合い、口を開く。


「みんな目を覚ませ。グールが人間を管理する。そんなの戯言(ざれごと)だ。騙されるな。俺たちは一部のグールが生き残る為の実験台にされている。BG(ビージー)はそれを誤魔化すための幻覚薬だ!」


 ルーカスが声高らかに宣言する。


「BGを飲み、人を()らう。その時は満たされた気分になる。けれどその後はどうだ?一度覚えた味をまた味わいたいと思うだろう?そう思った瞬間、自分が自分じゃなくなる感覚に(おちい)るはずだ!」


 ルーカスの言葉に、ざわめきの声が大きくなる。


「それに、かつて我が国を襲った疫病(えきびょう)、あれはBGを作る過程で出来た副産物だ。明らかに人の手で作られた細菌兵器なんだ。何故ならグールの絶対数を増やすために。そして父上はこの国を乗っ取る為に、疫病で増加したグールにBGを与え、狂わせ、兵器とし、人間と戦わせている」


 グッと拳を握りしめるルーカス。


「疫病がBGに関係しているって、ほんとなの?」


 私は初めて明かされる事実に衝撃を受ける。


 ランドルフがわざと、疫病になり()る細菌を市場にばら()いたのだとしたら、それは許される事ではない。なぜなら、私の祖父は蔓延(まんえん)する疫病の排除に手間取り、国民から敵意を向けられたあげく、ランドルフに殺されたのだから。


 それに加え、父がナタリアと婚約破棄をした罪まで着せられた。


(私の祖父が殺されたのは……)


 全てランドルフが画策した結果。


 改めてそれを思い知らされ、素直に私の中に怒りがわく。


「私達はみな、父に都合よく命を操られている。それが分からないのか!?」


 ルーカスが必死に訴えかけるが、人々は「でも」「だって」と戸惑っているようだ。


 そんな中、聴衆から突然、大きな声があがる。


「確かに俺は、BGを飲み、人間を喰った事がある。確かにまた喰いたい欲求に襲われた」

「俺も、俺もだ!!」

「BGを一度でも飲むと、また無性に飲みたくなるって話は聞いた事がある」

貧民街(ひんみんがい)に住むグール達は、実験台にされてるって話も聞いたぜ?」

「BGを無理矢理飲飲まされて、廃人にされるとか」

「最後には、理性が効かなくなって、目の前にいる人間を、食い殺したくて仕方が無くなるんだ」

「それで人間との戦争に駆り出されるって話だったぜ」

「じゃ、ルーカス殿下のいう事は本当だってことかよ!!」


 広場から次々と声が上がる。


(グールの中にも、疑問も持つ人がいるんだ)


 しかもそれは一人、二人ではない。私の予想を大きく上回るものだった。


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、良いのう、実に良い仕事をしてくれておる」


 座ったまま、手にした長い杖の天辺(てっぺん)に両手を重ねているモリアティーニ侯爵は、満足そうに目を細めた。


「あの、これは一体……」

「今声をあげたのは、グールの市民に紛れ込ませた、解放軍のメンバー。いわゆるステルスマーケティング中という感じです」


 ロドニールが私に得意げに説明する。


「ステル……?」

「つまり、都合の良い(うわさ)を流し、民衆を操るということじゃ」

「そんな事が出来るんですね」


 私は感心して声を上げる。


「うむ。噂を流すためには、ある程度信用できる者からの情報が必要じゃ。そこで、わしは秘密裏に手懐(てなず)けたグール達を使い、情報操作しておる」

「つまりグールにも私達の仲間がいるってことですか?」

「そうじゃ。そもそもグールの中には、人間と共に上手くやれる奴らもおる。そういう連中は今まで通り。人間と共存したいと願っておるからのう」


 モリアティーニ侯爵の言葉に「確かにそうだ」と私は頷く。


 人間の中にもグールを心から憎む者もいれば、友好的に捉える人もいる。


 そもそも、ランドルフがこの国を統治するまで、グールと人間が恋に落ち、結婚するケースだってあったらしい。


 私の祖父に当たる、前国王は、そうした、グールと人間が平等に過ごす事が出来る社会を目指し、尽力していたようだ。そして私も出来れば、仲良くすべきだとは思っている。


 なぜなら戦争が起きた状態だと、私が(あく)として君臨(くんりん)する時間も暇もないからだ。


(ほんと、勘弁(かんべん)してって感じよね)


 いつになっても悪役らしい振る舞いが出来ない現実を、私は改めて不満に思うのであった。

お読みいただきありがとうございました。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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