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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第七章 最後の学生生活(十六歳)
67/125

067 覚醒する

こちらは、少しお話がR15です。

食事中などは、控えていただくと、幸いです。

 謎の赤い液体を飲み干したギルバート。その状況を目の当たりにし、蜘蛛の子のように散っていったリリアナと取り巻き達。勿論その中には、ギルバートとつるんでいる仲間も入るわけで。


 つまり私は一人、青ざめ、やたら気分の悪そうなギルバートと取り残されたという状況だ。


「だ、大丈夫なわけ?」


 敵対しているとは言え、ここで死なれても困ると、私は一応声をかけてみる。


「ぐっ、くぅ」

「ちょっと、何を飲んじゃったのよ」


 胸を掻きむしるギルバートに、私は焦りを覚える。


「ぐぁああああっ」

「やだ、しっかりして」


 苦しみ悶えるギルバートに、私は思わず手を差し伸べる。


「ぐふっ、ぐぐ……」


 ギルバートは私の手を払うと、キッと睨みつけてきた。しかしその瞳は、見慣れたギルバートのものではなかった。


「あ」


 私はかつて今のギルバートと同じ、真っ赤に染まる瞳に睨まれた時の事を思い出す。


 あれは確か、ルーカスがグール化した時の事だった。


「うそ、グール化しちゃったってこと?」


 息を荒くしたギルバートは何も答えず、ただ静かに私を見下ろす。


 ギルバートは肌の色も白く代わり、目の下に黒い模様がにじんでいる。私を睨みつけるその顔つきは、明らかに人間のものではない。


「この状況、やっぱ私を食べるつもりって事だよね」

「グルルル……」


 ギルバートが喉を鳴らすような声を出す。そして、ゆっくりと私に向かって手を伸ばした。


「エサ……ガァアアッ」


 ギルバートが失礼極まりない事を口にし、私に飛びかかってくる。


「ひゃっ」


 間一髪、私はギルバートの鋭い爪を避け、床に転がるようにして避けた。


「グゥウウッ」

「ちょっと、危ないじゃない」


 私の抗議を完全に無視し、ギルバートは再びこちらに飛びかかってくる。


「ちょっと、落ち着いて」


 戸惑いつつも、私は必死にギルバートを避け、いつでも攻撃できるよう、右手に杖を召喚する。


(でも、いいのかな)


 私はフェアリーテイル魔法学校、ブラック・ローズ科の生徒で、現地実習中。


(ここで私が魔法を使って、もしギルバートを傷つけたら)


 ブラック・ローズ科の先生達に迷惑がかかるのではないだろうか。


 私の脳裏に、懸念(けねん)する気持ちが浮かぶ。


 しかしグールと化したギルバートは、真っ赤な瞳で私を捉え、私を食べようとする気満々だ。


「ダメだ。迷ってる場合じゃない」


 私は覚悟を決め、杖を握りなおす。


()ワセロォオオオッ」

「そんな簡単に食べられるもんですか」


 ギルバートが私に牙を向け、襲いかかってくる。それを紙一重でかわすと、勢いよく足を振り上げた。


「えいっ」

「グッ」


 私の蹴りが見事、ギルバートの鳩尾(みぞおち)に入る。そしてそのまま、杖を構える。


「悪いけど、ここで食べられる訳には、いかないから」


 私はギルバートに向かって、魔力を込めた杖の先を向けた。


「エレクトリックストーム!!」


 空から地上にいるギルバートに向け、私の渾身(こんしん)なるいかずちが一直線に落ちた。


「ギャッ」


 ギルバートの体にバチッという音と共に、激しい電流が流れる。


「グアアアーッ」


 ギルバートは悲鳴を上げながら、その場に倒れた。


「こ、これで大丈夫。案外楽勝的な?」


 私はホッと息をつく。そして、ギルバートの様子を確認するため、近づこうとした時だった。


「ガルルッ」


 突然うめき声をあげるギルバート。


「うそ、まだそんな元気があるの!?」

「グルルルル」


 (けもの)のような雄叫びをあげると、恐ろしい速さで起き上がる。


「きゃっ」


 ギルバートは素早い動きで私に迫り、鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる。


「ちょっ、まっ」


 あり得ない速度とパワーに、私は本気で、生命の危機を感じた。


「ウィンドカッター!」


 咄嵯(とっさ)に風の刃を放つも、あっさり避けられてしまう。


 それどころかギルバートは体格に似合わず俊敏な動きで、私の後ろに回り込む。


「うわ、間に合わない!!」


 ギルバートは、振り返った私に対し、大きな体で覆い被さるように襲いかかってきた。私は咄嗟に杖を構えようとするも、間に合わない。その結果、無様にも、地面に押し倒されてしまった。


「いたたっ」


 背中を強く打ち付け、鈍痛が私を襲う。


「くっ……」


 私はなんとか逃れようと、手足をジタバタさせ抵抗するも、力の差がありすぎてビクともしない。


 そんな私を小馬鹿にするよう見下ろしたギルバートは、舌なめずりをし、私に手を伸ばす。


「ガアアッ」

「うわぁあっ」


 ギルバートは私の足を両手で掴む。そして、まるで棒切れを投げるように、私を壁へと投げつけた。


「キャッ」


 またもや背中を壁に強く打ち付け、私は悲鳴を上げる。しかし今度はあわや大惨事となる寸前で、自分に防御魔法をかけた。その結果、何とか死は免れたようだ。


 とは言え。


「いったぁ」


 痛いものは、痛い。私は、痛みに顔を歪めながら、何とかその場で立ち上がる。しかしいつの間にか、私の目の前には、ギルバードが立っていた。


「エサ、クウ」


 ギルバートは、よだれを垂らしながら、私の手首を掴む。そしてその手首を、壁に縫い付けるようにして押さえつけてきた。


「ちょっ、離しなさいよ」


 私はじたばたともがくが、ギルバートの力には敵わない。


「グルルッ」


 ギルバートが、まるで獲物の鮮度を確認するかのように、私の首筋を舐める。


「ひゃっ」


 ぞわりとする感覚に、思わず変な声が出てしまう。


 そんな私の様子に、ギルバートは満足そうに目を細める。そして今度は私の首元へ牙を突き立てようと大きく口をあけた。


「やめて!」


 渾身の力を振り絞り必死に抵抗すると、ギルバートは私の腕を急に手放した。


(今がチャンス)


 私は逃げようと足を踏み出す。しかし、ギルバートの太い腕はしっかりと私の肩を掴む。そして私を再び壁に押し付けた。


「ガアアッ」


 イライラした様子で、獣のような雄叫びをあげるギルバート。完全に自我を失ったらしきギルバートの赤い瞳が、冷酷に私を見下ろしている。


「やだ、食べないで」


 恐怖からか、体が震える。


「グルル……」

「ひっ」


 ギルバートの尖った歯が、私の首筋に触れると同時に、鋭い痛みが全身に走る。そして首筋に生暖かい何かが流れていくのを感じた。


「あ……ああ」


 私はあまりの痛さに声にならない声を出す。ギルバートが喉を鳴らす音が聞こえ、私の口の中に逆流してきたのか、血の味が広がった。


 そして私は突然、吐き気に襲われる。


(ここで終わりなんて……)


 悔しさと絶望感で涙が溢れそうになる。私はぎゅっと(まぶた)を閉じる。


(ごめん、ルーカス)


 どうせ餌になるのであれば、彼に食べられたかった。それに、両親を苦しめた、この国に復讐も出来ないなんて。


(こんな風に、死にたくない)


 何よりムカつくのは、夏休みにがむしゃで自分を鍛えた筈なのに、呆気なくやられてしまっているということ。


(何でグールに食べられなくちゃいけないのよ!!)


 無念に思う気持ちが、激しい痛みと共に私の全身を駆け巡る。


(グールなんか、いなければ)


 私の心にたった一つ、譲れない感情がどこからともなく込み上げる。


『グールなんかいなければいいんだ』


 強くそう思った瞬間、私の体の中を、一筋の魔力が駆け巡った気がした。


「グール、なん、か」


 私の思考はグールを憎む気持ちに囚われる。そして、突然私の体から、普段感じた事のない(たぐい)の、おどろおどとした魔力の塊が溢れ出す。


 私の体から飛び出した魔力は、まるで魔法陣のように、私を中心に広がっていく。


 それと同時に、先程まで私を襲っていた痛みを、全く感じなくなった。それどころか、体中を魔力が駆け巡り、次々と傷む部分が修復されていくのを感じた。


『グールは全て排除しなければならない』


 ふいに誰かの声が、頭の中で響く。


「確かにその通りだわ」


 誰かに無理強いされたわけでもなく、私は自然とその言葉を受け入れ、納得する。


「グールは、排除しなければ、ならない」


 心の声が呪文となり、私の杖の先から眩しい光が発せられた。


「ぐぅううううっ」


 ギルバートが苦しそうな声をあげ、よろめきながら私から離れる。そして頭を抱え、よろよろと後退した。


 そんなギルバートを冷静な気持ちで見つめ、私は思う。


「グールは排除しなければならない。殺さなきゃ。そう、始末しなくちゃいけないんだわ」


 私は自分に言い聞かせるように呟く。


「だから、あなたには、死んでもらわなくちゃ」


 私の目に映るのは、もはやギルバートではない。

 だだのおぞましい、(あく)しき物体だ。


「排除しなくちゃ」


 私は消えろと念じ、杖を振る。すると私の構えた杖の先から、まばゆい光の刃が飛び出した。


 飛び出した光の刃はおぞましい物体へと容赦なく襲いかかる。


「ギャアアーッ」


 断末魔の叫びを上げながら、おぞましいと感じた何かは真っ二つに切り裂かれた。

 その瞬間、私は長い間忘れかけていた「殺さないと」、そんな脅迫観念じみた思いが解放され、やり遂げたという、開放感に上書きされるのを感じた。


 ピチャリと私の頬に、生暖かい液体がかかる。それは鉄臭くて、とても嫌な臭いがした。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 血の匂いが鼻を掠り、自分の乱れた呼吸が大きく響く。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 私は頬に飛んできたモノを手で拭うと、自分の手についたソレをじっと見つめる。


「血だ」


 生まれて初めて見た、グールから飛び出した赤黒い液体。


「赤い」


 人間のそれと変わらない血が私の手についている。

 その事に気付いた途端、全身に鳥肌が立ち、吐き気がこみ上げてくる。


「うっ」


 私は耐えきれずに、その場に嘔吐(おうと)してしまった。


 はぁ、はぁ……」


 口元を袖口で拭い、肩で息をしながら、呼吸を整える。


「一体これは……」


 振り返ると、そこには見慣れた人物が立っていた。


「……ルーカス」


 驚きで目を見開く彼の名を、私は安堵する気持ちで呟く。


「ルシア、一体何が……」

「ルーカス、わたし」


(食べられそうになったの)


 そう答えようとした。


 けれど私は全身からふと力が抜けるのを感じ、そこから先、世界が暗転してしまったのであった。

お読みいただきありがとうございました。


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