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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第七章 最後の学生生活(十六歳)
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062 ローミュラー王立学校にて実習開始

 実習場所を悩んだ末、私は結局、ローミュラー王国の王立学校に、お世話になる事を決めた。その理由として、まず第一に、ルーカスがいるのは心強い気がすること。そして第二に、ナターシャが提案してくれた通り、リリアナに復讐の意味を込め、ちょっかいを出すためだ。


 あと一つ、理由を付け足すとすると、「リリアナに対する、復讐方法と実践」という題材は、学校へ提出する実習レポートの課題として、丁度いいと思ったから。


 とは言え、国外追放された両親から生まれた私の存在は、ロドニール王国では知られてはならないもの。よって、私は魔法で変装する事にした。


 髪色をよくあるブラウンヘアーに、瞳の色もヘーゼルに魔法で変えた。そして念には念をという事で、眼鏡をかける事にした。


 そして実習に向かう当日、鏡に映る自分の姿を目の当たりにし。


「うわ、ダサっ」


 私は自分の、だいぶ芋っぽくなった姿にショックを受けた。


「まぁ確かにダサいけど、基本的なパーツはルシアのままだし、植物マニア君は「レアだ」とか言って、むしろ喜びそうだけどね」


 いつも通り、バッチリ決めたナターシャは、他人事(ひとごと)全開の言葉を残し、母国で実習をこなすため足取り軽く、去って行った。


 そして私は同じ実習先仲間であるルーカスの元に向かったのだが。


「くっ、レアなルシアだ。ちょっとそのままストップしていてくれる?」


 ナターシャの予想通り。ルーカスは、芋っぽい私に、マジカルデバイスのレンズを向けたのであった。



 ***



 数ヶ月ぶりに訪れる事になったローミュラー王国。今回目的地となるローミュラー王立学校は、青々とした草地に囲まれ、歴史ある石造りの建物の学校だった。王都に位置する割には、意外にも広大な敷地を面する学校に、私は少し驚いた。


 私とルーカスは、学校の玄関前に、エルマーと共に降り立つ。するとすぐに、教師らしき大勢の大人に出迎えられた。


(流石、王子効果)


 ルーカスに膝を付き、丁寧な挨拶をする面々を前に、私は普段、すっかり忘れがちではあるが、ルーカスは王子なのだと、改めて思い知らされたのであった。


 形ばかり、先生達との挨拶を終えた私達は、立派な正面玄関に侵入を許された。古き良き時代の雰囲気漂う、玄関の床には、美しいタイルが敷かれていた。校舎内には木の香りが漂い、空気は清々(すがすが)しく、心地よい静けさが広がっている。


「通常、ほとんどの女子生徒は、淑女科で学んでおりますので、右側の回廊を進んだ先にある校舎へと向かう事になります」


 フェアリーテイル魔法学校の制服に身を包むルーカスと私は、王立学校の校長と並び、長い廊下を歩きながら、説明を受ける。因みに、校長を名乗る人物は、恰幅の良い中年男性で、眼鏡をかけた知的で落ち着いた印象を持つ人物だ。


「今回、殿下とルシアさんは騎士科、という事なので、淑女(しゅくじょ)科と向かい合う形で建つ、左側の校舎がメインとなります」

「こちらの学校では、淑女科の生徒と交流する機会はあるのですか?」


 私はターゲットとなる、リリアナと直接接触する機会があるのかどうか、先ずは探りを入れる。


「授業は選択制ですし、淑女科の生徒が騎士科の校舎へ近づくことは禁止されております。勿論、逆もしかり。とは言え、部活動は合同ですし、交流会を開く事もある。わが校では時代のニーズに合わせ、男女共に学べる環境を用意する事を、職員一同、目指しておりますので」


 校長の言葉を聞いたルーカスは、何故か眉間にシワを寄せた。


「そうか、交流する機会があるのか……」


 ボソリと呟くルーカス。


「淑女科に通う生徒は、みな、慎ましやかな方ばかり。よって、殿下に無闇矢鱈(むやみやたら)に近づく事は、しないと思いますよ。それに淑女科には、殿下の婚約者である、リリアナ嬢が在籍中です。よって、今頃、彼女がしっかりと、殿下をご覧になっても浮かれぬよう、生徒達に言いつけている事でしょう」


 私の隣にいるルーカスから不穏な気配を感じ取ったらしい校長先生は、慌てて言葉を続けた。


「リリアナ嬢か……」


 校長先生の話を聞き、ますます眉間にシワを寄せるルーカス。


 その姿をチラ見した私は、嫌な予感が脳裏をよぎる。


(まさか、ルーカスは、私の復讐計画を邪魔しようとしているとか?)


 どうやって、それを阻止するのか。頭を悩ませた結果、険しい表情になっているのかも知れないと、私はルーカスを疑う。


(これは私の問題なんだから、邪魔しないでよね)


 そんな気持ちを込め、ルーカスに視線で訴える。


「君の件とは別件。だから心配しないで大丈夫。邪魔するつもりもないし」


 ルーカスは私の懸念(けねん)をお見通しと言わんばかり。苦笑しながら答えた。


 そうこうしているうちに、私達は青い芝生が敷き詰められた、広い中庭のような場所に出た。放課後という事もあり、多くの生徒達が発する、賑やかな声が聞こえてくる。


「どこも放課後の中庭が賑わうのは、変わらないんだ」


 私は母校である、フェアリーテイル魔法学校を思い出し、呟く。


「僕も今、君と同じ事を思った」


 思わずルーカスと顔を見合わせると、校長が私たち二人に声をかけてきた。


「この奥に見える建物が、主に、騎士科の授業が行われる場所です」


 校長が指差す先に目をやると、そこには大きな木造の建物があった。壁にはツタが絡まり、歴史を感じさせる(たたず)まいだ。


 校長に案内されるまま、私達は、建物の中に入る。すると、正面に階段があり、吹き抜けになった二階部分には廊下が伸びていた。


「こちらでは座学を受けるための教室、そして実験室に大講義室。その他にも演習室にシャワー室。それからロッカールームも完備されております。勿論男女別となっておりますので、ご安心を。では、演習室をご案内しても、よろしいでしょうか?」

「構わないよ」


 ルーカスの許可を得た校長は、そのまま真っ直ぐ進み、突き当たりにある扉を開いた。


「わぁ!」

「凄いな……」


 室内に入った途端、私は感嘆の声を上げた。

 ルーカスもまた、驚きのあまり目を大きく見開いている。


 演習室という名から、てっきりシンプルな部屋を想像していた。しかし実際はお城の一室という感じ。真っ赤な壁紙が張リめぐらされ、高い天井からはシャンデリアが吊るされていた。それから、顔が映り込むほどピカピカに磨かれた大理石の床。壁際には甲冑(かっちゅう)が置かれ、窓辺には、花瓶までもが置かれている。


「こちらは騎士科が使用する、室内演習室となっております」


 校長の説明を聞きながら、私は圧倒されたまま、キョロキョロと辺りを見渡す。

 すると、部屋の奥で一人の男子生徒が、熱心に剣を振るっている姿が目に止まった。


 白いシャツに黒いパンツ。軽装に身を包む青年は、私達の存在に気づかないのか、一心不乱に剣を振り下ろしている。


「あぁ、丁度良かった。お二人のお世話係となる生徒を紹介致します」


 校長先生は、歩きながら言葉を続けた。


「モリアティーニ侯爵家に名を連ねる、五年生の、ロドニール・クルーベ君をご紹介しましょう」


 校長の口から飛び出した名前を耳にし、私は条件反射的に、筋トレをしなければという気持ちに駆られる。


(そっか、確か彼はこの学校に通っているとか言ってたような)


 私は今年の夏、共に鍛えた、忠実なる下僕(げぼく)候補の青年を思い出す。


「ロドニール君、君に紹介したい方がいるのだけれど」


 校長は部屋の隅で黙々と剣を振るう、ロドニールに歩み寄る。


「こんにちは、校長先生。あ……」


 振り返ったロドニールは、私達の存在に気づくと、驚いた表情のまま、木剣(ぼっけん)の動きを止め、固まった。


「久しぶりだな、ロドニール」

「殿下、ご無沙汰しております」


 サッと片膝をつく姿勢を取りながら、挨拶をするロドニール。


(流石騎士科の生徒)


 私はスマートな身のこなしに、素直に感心する。


「こちらは殿下と共に、フェアリーテイル魔法学校から、実習に来られているルシア・ ブロイアーさんよ」

「ルシア・ブロイアーさん?」


 今回の実習に合わせ、適当につけた私の名字「ブロイアー」に反応したロドニール。

 私の顔を見たロドニールは、何故か戸惑うように眉根を寄せた。それから探るように私の顔をジッと見つめ、ハッとした表情になる。


 どうやら芋っぽい生徒が私だと、気付いたようだ。


「よろしくお願いします、ロドニール様」


 私はスススとロドニールの前に立ち、ヌッと手を出した。


「ルシアさ……嬢だったのか。こちらこそ、よろしく」


 握手を交わしながら、私はニコリと微笑んだ。

 そんな私達の様子を眺めるルーカスは、満足げに口角を上げつつ、こめかみをピクピクさせている。


「彼女は僕の親友なので、くれぐれも粗相(そそう)のないように頼む」


 リリアナという婚約者の存在が周知される環境の中。流石のルーカスもいつものように私を「僕の婚約者」だとか「愛する人」だとか「親公認の仲」などと言った、嘘八百な表現を避けたようだ。


「はい、承知しました」

「それから、この子は……」


 ルーカスが余計な事を言いそうだったので、私は慌ててロドニールに話かける。


「ロドニール様、早速ですが、私と手合わせして頂けませんか?」

「それは構わないですが……」

「え、今?」


 私の発言を聞き、ポカンとするルーカス。


「校長先生、ご案内していただきありがとうございます。早速ですが、今から、ロドニール様と、勝負させて頂いてもよろしいでしょうか?」


 校長に向かって頭を下げた私は、返事を待たずして、スタスタと歩き出した。


 咄嗟に思いついた成り行きとは言え、まさか着いて早々、ロドニールと剣を交える事になるとは思わなかった。


(でもちょっとワクワクするかも)


 私の中に潜む、悪役魂から派生する、闘争心で、自然と胸が高鳴る。


「仕方ありません。私が審判をします」


 渋々と言った感じではあるが、校長が審判役を買って出てくれた。そして私は、演習室の真ん中で右手に杖を召喚し、ロドニールと向かい合う。


「ロドニール様、手加減はなしでいいわよ」

「そうですね。私もあなたの実力を測りたいと思っていたところです。なので、この機会に便乗させていただきますね」


 売られた喧嘩は買うタイプなのか、ロドニールが好戦的な笑みを浮かべる。


 その様子に満足した私は、ニヤリと笑い返す。


「では、始め!」


 校長の掛け声とともに、私は全神経を目の前の人物に集中させたのであった。

お読みいただきありがとうございました。


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