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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第五章 事件がいっぱい、学校生活(十五歳)
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053 詐欺師と対決

 ルーカスからドラゴ大佐達の遺伝子がまだ生きている。

 そんな朗報を聞いた私は、スキップしそうな勢いで歩き出す。


「ちょっと待てよ! お前誰だよ!」


 すっかり忘れていた人物から声がかかる。


「僕は彼女の婚約者だけど?」

「嘘つけ! お前みたいな冴えないヤツが婚約者なんて居るわけねえだろうが!!」


 男が失礼極まりない言葉を吐き出した。


「ちょっと、今のは……」


 ルーカスに失礼と言いかけ口を(つぐ)む。

 改めて確認したところ、残念ながら今日のルーカスは冴えない奴で間違いなかったからだ。


 植え替えをしていたのか、頭はボサボサで、制服の上に白衣を羽織ったまま。その白衣は土だらけで茶色く汚れている。

 あまり寝ていないのか、目の下は窪み隈が出来ているし、いつもは全くその存在に気付いた事のないヒゲがうっすら口の(はし)にヒョロリと生えていた。


(確かに冴えないかも)


 私は男の発言に納得してしまう。しかし当の本人にその自覚はないようで。


「なんだと!僕が冴えない奴だと!?」


 ルーカスの瞳孔(どうこう)が大きく開いたかと思うと、彼は拳を強く握りしめていた。


「やめてルーカス」


 私は彼の腕を引き、なんとか怒りを抑えてもらう。またグールになられても困るからだ。

 私は背伸びをし、ルーカスの耳に口を近づける。


「大丈夫だから。充分格好いいよ」


 ルーカスにしか届かない声で呟く。すると、ルーカスは見事固まった。


(よし)


 ルーカスを無事フリーズさせる事に成功した私は、男の方に向き直り、言葉を続ける。


「ほら、ちゃんと来たでしょ」


 私はルーカスの腕をこれみよがしに掴む。


「だから悪いけど、私達はこれで」


 ルーカスの腕を掴んだまま、くるりと振り返り、男に背を向けて歩き出す。


「さ、マンドラゴラの様子を……って、ナターシャ!!」


 私は突然現れた男のせいで、うっかり忘れていた大事な事を思い出す。


 そもそも私が噴水広場にいるのは、ナターシャに忍び寄る詐欺師から彼女を守るため。決して男にナンパされたかったからではない。


「まさか!!」


 私は嫌な予感たっぷり背後を振り返る。すると先程まで私に絡んでいた男の姿が見当たらない。


「絡んできたあいつの引き際の良さ、それからいつになっても帰ってこないナターシャ」


 もしかして噴水広場に入ってきた来た瞬間から、すでに詐欺師に目をつけられていたのかも知れない。


「だって、マジグラムでこっちの顔はバレているわけだし」


 更に言えば、ナターシャはお金の入った封筒を一度取り出していた。


「やだ、化粧室にいかないと!」


 私の頭の中で、最悪のシナリオが展開されていく。


「よくわからないけど、付き合うよ」

「ありがとう」


 ルーカスに礼を言いながら、私はここから一番近い化粧室に向かって、走り出したのであった。



 ***



 化粧室をくまなく探した私。しかしナターシャの姿はなかった。


「いない。どうしよう」


 落胆したまま、外で待つルーカスと合流する。


「あー!!もう!」


 イライラとしたまま私は頭をガシガシ掻きむしる。せっかくナターシャを守る作戦を立てていたというのに、結局彼女を守れなかった。


(どうしてこんな事に)


 私は唇を噛み締める。


「とりあえず、彼女に連絡はとってみた?」

「それがつながらないの」


 先程から何度もマジカルデバイスに通信を送っているのだが、一向にナターシャが応答する気配はない。


(詐欺だけじゃなく、誘拐されたんじゃ)


 ナターシャはマジグラムで顔を(さら)している。

 流石に本名は公開していない。しかし、彼女のマジグラムを念入りにチェックしていれば、家族との写真、それから魔法の鏡、制服姿の写真などから特定される可能性はある。


(ナターシャは名家のお嬢様だし)


 普段は仲良くなりすぎてすっかり忘れがちだ。けれど彼女は世界的に有名な、スノーベック王国のアップルトン家のご令嬢。


 そして先程私を引き留めていた男の存在を重ね合わせると。


「身代金目当てで誘拐されたのかも」


 そんな考えが脳裏を過ぎる。


「あっ、あれ、ナターシャ嬢じゃないか?」


 そう言ってルーカスはピンと一点を指差す。


「どこ?」


 私は慌ててルーカスの腕を掴み背伸びをする。しかし人垣に隠れてよく見えない。


「あ、裏道に連れ込まれる」

「えっ!?」


 ルーカスが再び指を指した方向を見た私は、驚きの声を上げる。なんとそこには、男達に囲まれたナターシャが今まさに、裏道に引きずり込まれる瞬間だったからだ。


「ルーカス、助けに行くわよ!」

「うん」


 ルーカスは力強く返事を返してくれる。そして私達は再び人混みの中を走り出すのであった。



 ***



 暗闇に包まれた路地裏に足を踏み入れようとした途端、ルーカスに腕を掴まれる。


「ちょっと」

「シッ」


 ルーカスが唇に人差し指を立て、かがむように指示する。


 私はルーカスに(なら)うよう、しゃがみ込む。そして彼の背中越しに、そっと前方を確認した。


「こいつの友人、あいつもなかなか高く売れそうだったけどな」

「まぁ、こいつだけでも十分だろう」


 柄の悪い男達の声が聞こえる。一人は確実に、噴水広場で私に声をかけた男の声だった。


(やっぱりあいつ、仲間だったんだ)


 もっとよく路地裏を覗き込もうと、私はルーカスの背中から身を乗り出す。


 行き止まりになった路地裏の壁に背をつけ、しゃがみ込むナターシャの姿が見える。

 ナターシャは彼女を引きずり込んだ謎の男たちに、緊張した表情を向けていた。


「でも、あの女も美人だったぜ?」

「確実に金になるのはこいつの方だ」

「確かにな。いいところのお嬢様だしな」

「恋愛ゴッコのおままごとに付き合ってやったんだからな。それ相応の金を親からせびってやる」

「それな」


 下卑(げび)た笑い声が聞こえてくる。


(最悪)


 私は心の中で舌打ちする。


「さて、とりあえず身ぐるみ剥いで、売り飛ばす前に楽しませて貰うか」

「お前が言うと変態くさいぞ」

「うるせぇ」


 男達は、壁際に追い詰められているナターシャに、じりじりと近寄っていく。


「おい、何をしている!」


 片手に杖を召喚しながら、ルーカスが立ち上がり、大声で男達に呼びかける。私も慌てて立ち上がると、杖を手にし、臨戦態勢をとった。


「ルシアと植物君!!」


 ナターシャがホッとした顔でこちらを見る。


「なんだ? ガキは引っ込んでろ」


 男の一人が私達に向かって、威嚇(いかく)してきた。


「なんだ、さっきの女じゃないか。彼氏と探偵ごっことは、いただけないなぁ」


 先程私に声をかけてきた男が、ニヤリと笑った。


「なるほど。確かに高く売れそうだ」

「ガキども、大人しくしてりゃ痛い目を見ずにすませてやる」

「悪いけど、お断りよ」


 私とルーカスは互いに視線を交わし合い、コクリと小さく首を振る。


「お前らこそ、覚悟するんだな」

「かかってきなさい!」


 ルーカスと私は同時に地面を蹴ると、男達に向かって走り出した。


「このクソガキ共が」


 男達が懐からナイフを取り出す。しかしルーカスの杖の先から伸びた鋭い木の枝が、男のナイフに巻き付いた。


「ルシア、ここは僕が。君はナターシャ嬢を」

「わかった。でもちょっとだけ仕返しさせて」


 私は男達に向かって発光する玉を杖の先から投げつける。ピカッと空中で光を放ったそれは、鋭い閃光を放ち、男達の視界を見事、奪った。


「くそっ! 何も見えねぇ」

「魔法使いはこれだから、嫌なんだ」


 顔を腕で覆った男達が、戸惑いながら悪態をつく。


(よし、今のうちに)


 私は素早くナターシャの元へ駆け寄る。


「大丈夫?」

「ルシア、迷惑かけてごめん」


 ナターシャは不安そうな顔をしながらも、しっかりした口調で返事を返してくれる。


「気にしないで。友達でしょ」

「ありがと」

「さ、立って。仕返しするでしょ?」

「もちろんよ」


 私はナターシャの手を引き、彼女を立たせる。


「やってくれたな」

「この野郎」


 男達はようやく視力を取り戻したようだ。


「よくも私を騙してくれたわね」


 ナターシャは男達を睨みつけ、杖を構える。

 そして、男にピシリと杖の先を向けた。


「アブラカダブラ・シムサラビム・ズィン……」


 ブツブツと、しかし懸命に呪文を詠唱し始めるナターシャ。


「もしかして、彼女は」


 ルーカスがギョッとした顔を私に向ける。


「うん、詠唱がちょっと面倒なタイプの魔法使いなの。ほら、由緒正しい系だから」

「なるほど……って、待て、逃がすか!!」


 ルーカスが逃げ出そうとしていた男たちの足元に、炎の魔法を放つ。


「チィ!」

「逃げるな、詠唱中だぞ。その場で待つのがマナーだろう!」


 あくまで、紳士的な教えを男に告げるルーカス。


(悪党にそれは通用しないから)


 私は心で指摘する。


「ゼレニ・ヒンカリー・ハッタ・ボンバラヤ・アポー!」


 ナターシャは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、男達に向けて杖を振り下ろす。すると男達の周りに、りんごの木で出来た檻のようなものが出現した。


「な、なんだこれは」

「出られない」


 男達は焦ったように、木でできた柵に手をかける。


「さぁ、お仕置きよ。ルシア、やっちゃって!」


 ナターシャはふふんと得意げに鼻を鳴らすと、男達に向かって中指を立てた。


「オッケー」


 私は杖を両手で握りしめ、大きく振りかぶる。


「いでよ!」


 ナターシャに触発され、私もそれっぽく叫んでみることにする。すると絶妙なタイミングで私の杖の先から、巨大なたんぽぽの綿毛(わたげ)が飛び出した。


「なんだよそれ」

「俺たちを馬鹿にしてんのか?」


 男たちが私が召喚した魔法のたんぽぽを小馬鹿にする。


「タンポポの綿毛が耳の中に入ると耳が聞こえなくなる。あなた達はその事を知らないの?」

「そ、そんなの迷信だろ」

「そうだ、綿毛くらい、どうってことない」

「そうでもないよ。魔法のたんぽぽの種が秘めた驚異の発芽力で、耳の奥で成長した綿毛が鼓膜を圧迫し、炎症を起こしたのち、失明。最悪のケースは脳まで到達し、人を狂わせた事例もあるから」


 ルーカスがナイスアシストをくれる。


「えっ!?」

「嘘だろ」

「安心して、ちゃんと脳まで行くように、綿毛達に頑張らせるから」


 私はニッコリと微笑むと、手に持った杖を大きく振り下ろした。


「えいっ」


 私の声と共に、勢いよく飛び出た無数のたんぽぽの綿毛は、男達の顔に向かって飛んでいく。


「ぎゃあああ!!」

「うわぁぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げた男達がしゃがみ込み、両手を耳で塞いでいる。


「ふん、もっと、もっと、苦しみなさい」


 ナターシャが男たちに、杖の先から召喚したりんごを投げつけた。

 柵の中に入り込んだりんごは、床に落ちることなく空中で爆発する。


「うわぁ、痒い」

「何だ、急に痒くなってきた」

「それはアレルギーの呪いよ。目が腫れるまで掻きむしるといいわ」


 ナターシャがゾッとするほど、美しく冷酷な顔で告げる。


「アレルギーだって、甘くみると死に至る事もあるんだからね」


 私は男たちに付け加えておく。


「ルシア、お見事」

「ルーカスもありがとう。お疲れ様」


 ルーカスと私は顔を見合わせ微笑みあう。


「あーやだやだ。こっちはフラれたばっかだってのに。いちゃつく前にさ、あいつらどうするのか決めようよ」


 私は白目を向いて倒れている男達を見つめる。

 どうやら恐怖で気絶してしまったようだ。


(魔法使いを甘くみた罰ね)


 私はふんっと悪役らしく鼻を鳴らす。


「こいつらは、衛兵に引き渡せば良いんじゃないか?」


 ルーカスが提案する。


「それが一番かな」


 私はコクリと首を縦に振る。


「というか、ふるさと便を装い、死ぬまで毒りんごを送り続けてやる。勿論オールシーズン問わずよ」


 ナターシャがボソッと呟く。


「えっ?何それ怖い……」

「確かにうっかり食べちゃいそう」


 私とルーカスは、ナターシャの本気に、(そろ)って身震いしたのであった。

お読みいただきありがとうございました。


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