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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第四章 歴史と、運命(十四歳)
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028 白の園

 まるで霊廟(れいびょう)に向かって導くよう、地面に突き刺さる感じで立てられた石柱。

 その間を通り、私は難なく霊廟の出入り口らしき、大きな扉の前に到着した。


 つるりとした一枚の大きな大理石の壁には、鍵穴のようなものは見当たらない。


「どうやって中に入るの?」

「正直僕にもわからない」

「そうなの?だってあなたはここを何度も訪れた事があるんでしょ?」

「中に入ろうとしたけど駄目だった。でも君ならいけると思う」

「その根拠は何?」

「君がフォレスター家の正当なる系譜を継ぐ者だから」


 ルーカスが自信ありげに告げる。


「子孫だからってこと?」

「まぁ、そういうこと。だってここは君の祖先が祀られるお墓だし、何よりクリスタルに触れるためには入室出来ないといけないわけだし」


 確かにそうかと思い、ふと矛盾点に気付く。


「例えば王族がなくなった時。誰がこの霊廟に遺体を安置するの?」


 私の父は国外追放された。そしてその後、国王であった祖父と祖母を含むフォレスター家の者は粛清(しゅくせい)され殺されたと言われている。


 だとすると、祖父は一体どうやってこの扉の中に埋蔵されたというのだろうか。

 私はルーカスからその答えを明かされるのを静かに待つ。


「あーそれ。ええと、なんか不思議な力で勝手に埋葬されるって話」

「……ずいぶんいい加減な説明ね」


 私が呆れた視線を向けると、ルーカスはあいまいな笑みを返してきた。嘘をつかれているのか、はぐらかされているのか。いまいちよくわからない微笑みだ。


「まぁ、いいわ。とりあえずやってみる」


 そもそも今回の目的は先祖への墓参り。

 この機会を逃したら、次いつこの場に来られるかわからない。


(ひら)け)


 私は願いながら、扉に手を触れてみる。すると扉に彫り込まれていたらしい、美しい装飾模様が淡く光り始めた。


「えっ、何!?」

「成功したみたいだ。さすが姫様」


 ルーカスが浮かれた声を出す。


「いまさら姫様とか、馬鹿にしてるでしょ」


 調子の良い事を口走るルーカスに対し、ムッとした顔を向け、抗議の意を示しておく。


「ほらみて、まるで君を迎え入れているようだ」


 ルーカスは私を完全に無視し、興奮した様子だ。


「人の話を聞きなさいよ」


 ルーカスに悪態をつきながらも、扉に顔を戻す。すると確かに重たそうな扉がゆっくりと左右に音もなく開いていくところだった。


「魔法がかけられているのね」


 私が納得し呟いた瞬間。突如眩い光が漏れ出し、私とルーカスの体は突然扉の中に吸い込まれた。


「えっ!?」


 何が起こったのか分からず声を上げ、私は固まる。何故なら目の前には信じられない光景が広がっていたからだ。


 大きな窓から差し込む日の光で明るく照らされた広間。天井は高く、見上げるほど高い位置に採光用の天窓があり、そこから柔らかな光が降り注いでいる。

 壁一面に施された彫刻の数々も見事なもので、どこか神々しさを感じさせる荘厳な雰囲気が漂っていた。


 何より部屋の中央にあるのは、見た事もないくらい大きなクリスタル。

 透き通るそれは、まるでこの世の物ではないような輝きを放っている。


「……すごい」


 非現実的な物を前に言葉を失う私。


「こんなに大きなクリスタルは見たことがないや」


 ルーカスも驚いた表情を浮かべながらクリスタルを見つめている。


「何だろう、とても不思議な魔力を感じる」


 ルーカスはクリスタルに導かれるよう、恐る恐る手を伸ばす。

 すると、突然クリスタルから黒いモヤが湧き出し、大きく渦を巻きながら、ルーカスの手を求めるように一箇所に集まってきた。


「触れてはならん!!」


 突然背後から、懐かしさを覚える男性の声が聞こえた。私は反射的に背後を振り返る。


 そこには、高い襟と細い襟元のブラックコートを身に着けた父がいた。コートの下には輝くクリーム色のベストを身に着けている。黒いストライプのパンツには、足首まで届くロングブーツ。頭にはトップハットを被っていた。父の襟元には白いハンカチーフが差し込まれ、ポケットウォッチのチェーンが腰に垂れ下がっている


 久しぶりに顔を合わせた父は、かつての姿からは想像出来ないほどスマートで洗練された服装に身を包んでいた。


「いまここで死にたいというのであればとめん。しかし、生きたいというのであれば、君はそれには触れない方がいいだろう」


 父は先ほどルーカスに声をかけた時とはうって変わり、落ち着いた口調で告げた。


「ルシア」


 父の背後から、ひょっこり顔を出したのは懐かしい人物。私の母ソフィアだった。


 母もまた、父と同じように華やかな雰囲気に包まれている。


 母が身にまとうのは、ウエストラインがきゅっと絞られた、深いエメラルドグリーンのシルクドレスだ。ドレスの胸元は、美しいレースで飾られており、手首から肘までの部分にも同じようなレースの手袋で覆われていた。


 両親は学校に入学する時に別れを告げた時よりもずっと、身なりが整っている。


 しかし私が冷静に両親を観察できたのは束の間で。

 母が私に向ける笑顔を見た途端、私の心に再会を喜ぶ気持ちが一気に流れ込む。


(夢みたい)


 私の足は勝手に動き、母の元に走り寄っていた。そして考える間もなく母の胸に飛びつく。その瞬間、懐かしい優しい香りに包まれ、安堵の気持ちが私を襲い無性に泣きたくなった。


「まぁ、相変わらず甘えん坊ね」

「でも背は伸びたようだ」


 父が母と私を包み込む。しばし、親子三人で離れていた時間を埋めるように抱きしめ合う。


 私は心が十分満たされた事を感じると、母の胸に押し付けていた顔を剥がし、両親に顔を向ける。


「どうしてここに?」

「お前がここを訪れると連絡を受けてね」


 黒いスーツに身を包む父はそう言って、優しい笑顔を私に向けた。


「連絡?」


 あいにく私は両親にこの国を訪れる事は知らせていない。

 何故ならルーカスに誘われ急に決まったからだ。


「あ」


 私は背後を振り返る。するとルーカスは恭しく片膝を付き、父に対し頭を垂れていた。


「かしこまった挨拶など不要だ。私はフォレスター家の血筋を継ぐ者ではあるが、今はただの人として生きているのだから」


 父がルーカスに(さと)すように静かに告げる。


「しかし、あなたのお陰でこの国は守られている。それもまた事実なので」


 ルーカスは頭を下げたまま告げた。


「事実と申すのであれば、君もまた、ローミュラー王国の王子殿下だ。私も膝をつくべきかな?」

「それは……」


 ルーカスは戸惑いを隠せない様子だ。


「親の代であったこと。それを子ども達に背負わせるつもりはない。だから早く立ちなさい」


 父がかつて私にも告げた言葉をルーカスに告げる。


「……ありがとうございます」


 ルーカスは父の言葉を噛み締めるような表情を向け、諦めたように立ち上がった。


「元気そうね。何か困った事はない?お友達は出来たの?」


 矢継ぎ早に母から質問が飛んできた。


「元気だし、困った事もない。それに友達だってちゃんとできた」


 私は一気に答える。


「一応手紙で知らせているはずだけど」

「だってルシアったら、箇条書きみたいな、そっけない手紙ばかりよこすんだもの」


(あー)


 最初の頃は一週間に一回は送っていた手紙。しかし学校生活が充実するにつれ、段々と頻度も枚数も減少の一途を辿っているような。


「便りがないこと。それは元気な証拠とも言うが、母さんと私を心配させたくなければ、もう少し詳細な手紙をよこしなさい」

「うん」


 父の言葉に粛々と反省し、私は頷く。


「それより父さん達は今」


 どこに?と居場所を尋ねようとし口を噤む。

 流石に敵対する側の息子である、ルーカスの前で問うべき内容ではないと思ったからだ。


(あれ、でも)


 私がここで両親と再会出来たのはルーカスのお陰だ。つまり冷静に考えてみると、ルーカスは両親と繋がっているという事になる。


 けれど、彼の両親はグール。そして彼もまた半分とは言えグールだ。

 よって彼はグール側でもあるということ。


「マージェリー経由で知らせてもらったんだ。彼女はほら、王族派だから」


 まるで私の頭の中を覗き込んだように、浮かんだ疑問の答えを口にするルーカス。


「そうよ。だから私達はここにこれたの。それに」


 母はチラリと父に視線を送る。


「そろそろルシアにも、クリスタルの事を説明しておこうと思ってね」


 父と母が揃って私に意味ありげな視線をよこす。


(これはまさか……)


 私は嫌な予感たっぷり。ひたすら輝きを放つ、目の前にそびえ立つクリスタルに顔を向ける。


(そう言えばさっき)


 ルーカスが手を伸ばした時に見えた黒いモヤはいつの間にか消え去っていた。


「フォレスター家の人間には、代々課せられた使命がある」


 かつて会話の中で何度か耳にした意味深な言葉を口にしながら、父が私の手をとった。

 そしてそのままクリスタルに向かってゆっくりと歩き出す。


「それって、私も知らなきゃだめなこと?」


 明らかに嫌そうな顔をしてみせる。


「そうだな。知らせないで済むのであれば、そうしたい。しかし、お前と私。この身に課せられた使命は、早々に断ち切る事はできないようだ」

「…………」

「さぁ、触れてご覧」


 父が私の背を押した。助けを求めようと振り返り母の顔を見つめる。しかし母は大きく頷きを返すだけ。


「わかった。触れてみる」


 断りきれないと悟った私は渋々了承し、クリスタルに手を伸ばす。


 クリスタルに触れた瞬間、指先を通しひんやりとした魔力を感じた。

 それから今度は真逆な感じ。突然熱を持ったようにヒリヒリとした感覚に襲われる。


「開け」


 私と同じようにクリスタルに手をつけた父が、誰ともなく命令した。するとクリスタルは淡い光を放ち始めた。


「眩しい」


 思わず目を細め呟く。次の瞬間、不思議な事が起こった。


「ここは……」


 私は見たこともない場所に立っていたのであった。

お読みいただきありがとうございました。


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