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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第十二章 私の選ぶ幸せ(二十歳~)
122/125

122 私の決意2

 私が何度も訪れた場所がある。


 その場所が存在する理由はこの世界を救うため。そこを訪れる事を許された私の目的は、愚痴ること。決して自分が生まれた世界を救うためだなんていう、高尚(こうしょう)な目的ではなかった。


 けれど今日の私はいつもとは違う。物語に登場する勇者のように、大きな(こころざし)と覚悟を持ち、白の園にあるクリスタルに触れ、この場所を訪れている。


 馴染みある人物が住むその世界に足を踏み入れると、澄んだ空気と清らかな香りに包まれる。広大な平原には、雲ひとつない青空が広がり、太陽の光が地上に降り注いでいた。


「なるほどね。今日はローミュラー王国の建国時代を()していると」


 広がる景色を一通り確認した私は、一人(つぶや)く。


 ここは、いつぞやミュラーによって、強制的に学習させられた『馬でもわかる。ローミュラー王国の歴史』で最初に訪れた場所だ。私がそう認識した途端、足元が真っ白で柔らかな雲に変化する。ふわふわとした感触で足裏が包み込まれたまま、私は強制的に移動を開始した。


「ミュラーは、あそこにいると」


 私の前方。遠くに見える神殿は、真っ白な大理石でできていた。雲に乗せられた私は、ほどなくして神殿らしき立派な柱のある建物に到着する。周囲にはバラの花々が咲き誇り、その甘い香りが空気を満たしていた。神殿の扉は大きく開かれており、中からは白い光が溢れ出している。


「ミュラーって、いちいち芝居がかってるのよね」


 クリスタルの中にいるせいで(ひま)なのか、それともこれも含めて仕事なのか。ミュラーはいつも、この場の景色を変化させ、私を驚かせようとする。


「ミュラーほど、暇じゃないんだけどな」


 今を生きる私はわりと忙しい。


(しかも絶対、喜ばせようとしているわけじゃないし)


 要件を伝えるまでに、移動を挟ませるだなんて、ただの嫌がらせとしか思えない。


「ミュラー、どこー?」


 私は、彼の名を呼びながら、神殿の中に足を踏み入れる。


 神殿の中には、数え切れないほどの白い柱が並び、真っ白な織物が風に揺れていた。奥には、巨大な白い玉座が置かれており、ミュラーが足を組み偉そうに腰をかけている。


 そう言えば、父に連れられて最初に彼に会った時も、あんなふうに偉そうだったなと、私は懐かしく思い出す。


「そろそろ君が来る頃だと思っていた。おかえり、ルシア」


 ミュラーは王座の肘掛(ひじか)けに、文字どおり肘をかけ、丸く握った手の甲で(ほほ)を支えながらニヤリと微笑む。


「来るのがわかっていたなら、要件は知ってるでしょ?どうにかしてよ」


 ミュラーの姿をしっかりと視界に収めた位置で足を止めた私は、腕組みをしながらぶっきらぼうに要件を告げる。


「それが人に物を頼む態度だろうか?それに主語が抜けている」

「わかっているくせに」

「何のことやら?」


 明らかにとぼけた顔を向けるミュラーに、私は呆れ顔を返す。


 確かに人に物を頼む態度ではないが、そもそもミュラーは人ではない。それに私とミュラーはいつだって、こんな関係だ。これでもお互い、会話を楽しんでいる。しかし今日は、そんな時間すら惜しい。


「お願いだから、ルーカスを助けて」


 私は意地悪なミュラーに、きちんとわかりやすく伝える。


「まぁ、いいだろう。君は僕にとって特別な存在だからね。願いを聞いてあげようじゃないか」

「じゃあ、さっさと……」

「ただし」


 私の言葉にかぶせるようにミュラーは口を開く。


「君は気付いているだろうけれど、彼の中から完全にグールに侵食(しんしょく)された部分を浄化するには、膨大(ぼうだい)な君の魔力が必要だ」


 ミュラーは、大げさに肩を落とし首を左右に振る。


「しかもそんな事をすれば、君は容れ物を維持(いじ)できなくなる」

「覚悟をして、ここにきたわ」


 私ははっきりと告げる。


 かつてBG(ビージー)の供給を断てば、いずれルーカスは死んでしまうという事を知った時。私はルーカスを助けたいと、ミュラーの元を訪れた。その時彼は私に「君はグールにならない」と謎掛(なぞか)けのような言葉をくれた。


 その言葉を私なりに解釈すると、「私の魔力にはグール化を阻止する力がある」ということだ。だから私は、あの日からルーカスに自分の魔力を分け与えている。


 リリアナの時は残念な結果に終わった。けれどルーカスは私と結婚し、六年も生きながらえてくれた。少なくともその事実は、私の魔力の影響あってのことだと信じている。けれど現在、ジワジワと彼の体を(むしば)み続けたBGの影響により、ルーカスの命は風前(ふうぜん)灯火(ともしび)だ。


 かつてミュラーは言っていた。私を食べたら、ルーカスは人間になれるかもと。


 それは本当に私を食べる事ではなく、私が全てを、全ての魔力を彼に与えることなのではないかと、私は気付いた。そして魔力を全て失った私は、自ずとクリスタルの一部になる。


 思い返せば私の人生は、いつも周囲に決められてばかりだった。けれど、「ルーカスを生かす」こと。これは私が一人で決めたことだ。


 ルーカスとジョシュアが生きるこの世界を守れるのであれば、私はクリスタルの一部になってもいい。今日私はそう思い、ここに足を運んでいる。

お読みいただきありがとうございました。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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