120 人生で一番、幸せな日2
結婚式が終わると、そのままパーティーが開かれた。
私達が結婚する事を発表した時から、着々と準備を進めた結果、会場となる中庭には豪華な食事や飲み物が所狭しと並べられていた。
会場では、今回のパーティーの責任者となるドラゴ大佐が、あちらこちらへとテキパキに指示を飛ばし、会を盛り上げてくれている。
「おめでとうございます」
「お幸せに」
「ご結婚おめでとうございます」
「どうかお二人の未来に幸多きことを」
会場には、質素でいいという私の意見を完全に無視した、モリアティーニ侯爵の声がけにより、王国内外から招待された、多くの人々が集まっていた。皆、美しい衣装を身にまとい、笑顔で私たちに祝福の言葉をかけてくれる。
「女王陛下、とても美しいです」
「本当にこの地に女神が降り立ったようですわ」
「えぇ、この国の宝ですわね」
「ソフィア様を思い出しますわね」
「私はルドウィン陛下を」
「お二人に見せてあげたかったですわね」
輪になった貴婦人の集団から大袈裟な賛辞と、しんみりした声で私の両親を懐かしむ声が聞こえてきた。
私は複雑な心境になりながらも、笑顔を顔に貼り付ける。
私達以上に幸せそうに微笑む参列者達。その中に私の両親の姿はない。けれど、クリスタルの一部になった父と、天国にいる母は、きっと遠くから私が粗相しないかどうか、ちゃっかり見張っているに違いない。
そしてそれは、ドラゴ大佐にロドニール。それから私の宿敵、リリアナだって今日ばかりはきっと、私とルーカスを祝福してくれているはずだ。
(そう思わなきゃ、幸せになんてなれないし)
私は心の中に住み着くわだかまりを幸せで上書きし、今日ばかりはきっぱりと捨て去る。
「みんながルシアが可愛いって褒めてるのは嬉しい。でも本音としては、俺だけのものにしたいんだけどな」
ルーカスはこんな時でも通常運転のようだ。彼らしい独占欲を見せている。
「ま、私は王子を虜にした、悪役令嬢の娘だし。可憐すぎてみんなの口が間抜けに空いちゃうのは、仕方ないわ」
私もルーカスに倣い、最上級となる、母への賛辞を得意げに口にする。
「でも、今日の君はとっても綺麗だ」
笑顔のルーカスが私に囁く。
「今日の?今のは聞き捨てならないわね」
「いえ、今日もです、陛下」
「よろしい」
私達はお互いの手をとりあい、微笑み合う。
「はい、婚約は……はい、チーズ!」
笑顔を作る前に、パシャリとこちらに向けられた赤いマジカルデバイスから、無情にもシャッター音が鳴り響く。
「おめでとう。というか、ようやく、いや、いまさらって感じだけど」
マジカルデバイスをいじりながら私達に声をかけてきたのは、淡いイエローの、タイトな大人っぽいドレスに身を包むナターシャだ。
「ありがとう、ナターシャ。ねぇ、明らかに不謹慎な「こ」から始まる言葉を吐きかけてたよね?」
「ルシアにも、植物マニア君にも馴染みある言葉じゃない、気にしない、気にしない」
ニコリと微笑むナターシャ。
「それはそうかもしれないけど」
さすがに縁起が悪いのではと私が不安に思っていると。
「でも、俺たちはもう結婚したから、「こ」から始まる破棄しがちな呪いとはおさらばだ」
ルーカスがしっかりと、私の不安を上書きしてくれた。
「その通りよ。ま、めでたい日なんだからさ。細かい事は気にしないで。それよりさ、私と一緒に写真撮ろ」
ナターシャは私達の横に並ぶと、マジカルデバイスを持った腕を伸ばした。
「あっ、お待ちになりやがれですわ!!」
高い声が聞こえ、私達の前に現れたのは、ブルーのドレスに身を包み、海賊帽を模したカクテルハットを頭にちょこんと乗せたアンナだ。 学生時代に比べ、一段と小麦色に焼けた肌が、彼女を一際健康的に見せている。現在彼女は家業を継ぎ、おとぎの世界の海を我が物とすべく、海賊業に精を出しているらしい。
「相変わらず、アンナの敬語は独特ね」
「懐かしいよね」
ナターシャの言葉に笑顔で頷く。
「個性だから認めて頂戴。それよりルシアったら、とうとう植物マニア君に座礁しちゃったわけですわね。ほんと、長きに渡る航海終了、おめでとう」
「座礁って、それもまた縁起が悪いような」
すかさずアンナに指摘すると、新たな声が飛んできた。
「それを言うなら、食中植物、ウツボカズラに食べられたのほうが、ピッタリではなくて?」
私たちの前に現れたのは、エメラルドグリーンのふんわりとしたドレスに身を包む、エリーザだ。
「ルーカス先輩、この度はおめでとうございます。フェアリーテイル魔法学校、園芸部OB一同を代表し、心よりお祝い申し上げます」
エリーザは私を無視し、ルーカスにロックオンしたのち、淑女の礼を取る。
「ありがとう、エリーザ。君たちの卒業以来、会っていなかったから、随分と久しぶりな気がするよ」
ルーカスは懐かしむように目を細めた。
「君が僕たちのマンドラゴラを救ってくれたと、ルシアから聞いた。ありがとう」
ルーカスがエリーザに、頭を下げる。
「いえ、そんな……。当たり前の事をしただけですわ。それに、私はあの時の経験がきっかけとなって、今は危険植物の保護活動に参加させてもらっていますの」
エリーザが照れたように頬に手を当てる。
「それは素晴らしいね。これからも君の活躍を祈ってるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
エリーザは顔を真っ赤にして、ルーカスを見上げた。
「ちょっと、なに人の旦那様に頬を染めちゃってるのよ。しかも結婚式で」
私はムッとした顔をエリーザに向ける。
「今のはいい雰囲気が確実に流れていたわよね。植物君とエリーザ嬢は、ホワイトでピンクな空気に包み込まれていたわ」
「確かに、獲物が横取りされる前触れ。そんな感じでしたわ。ルシア、どうされますの?やっぱり人の旦那に手を出しやがってって、ドンパチしちゃいますの?」
ナターシャとアンナがニヤリと笑う。
「手を出そうとか、滅相もないですわ。先輩へのご挨拶をしただけですわ」
胸を張ったエリーザが否定する。
「じゃあ、なんで顔が赤いの」
「そ、それは……ルーカス様の顔がタイプなだけよ。そもそも、先輩の性格は難ありですもの。メンヘラな男性は、さすがにご遠慮願いたいですわ」
「あー、たしかにルーカスはストーカー気質だし、愛が重すぎるところはあるよね。でもま、それは私限定みたいだし……」
エリーザに的確すぎる言葉を返され、私は薄目になる。
「それほど君に夢中だってこと。それは別に悪いことじゃないだろう?」
ルーカスが優しく微笑む。さりげなく横から伸びた彼の手が「逃がすまい」の勢いそのまま、私の腰をしっかりとホールドした。
「ま、メンヘラを承知で結婚したんだし、二人が幸せならいいんじゃない?」
「とことん、メンヘラの大海原に飲み込まれちゃうがいいですわ!」
「ナターシャ、アンナ。あなた達は私を祝福しにきたんでしょ?」
私は悪ノリする二人に頬をふくらませる。
「あはは、冗談だって。それよりさ、フェアリーテイル魔法学校仲間が揃ったんだし、みんなで写真撮ろうよ」
ナターシャがマジカルデバイスを掲げる。
「私も入ってよろしいのですか?」
エリーザは戸惑った表情を浮かべた。
「もちろん!ほら、ルシアの隣に並びやがれですわ」
アンナがエリーザの背中を押す。
「あ、キリル!悪い、写真を撮ってくれないか」
ルーカスが、他国から彼のために集ってくれた王子仲間の輪に加わる、緑色の髪とはちみつ色の瞳を持つキラキラしい青年。ラブリープリンスこと、キリル・フロッキーに声をかける。
「おっけー。任せて」
彼は相変わらず、ゾッとするくらい爽やかな笑顔で、マジカルデバイスをナターシャから受け取った。
「キ、キ、キリルン!!生のキリルンが、目と鼻の先で、しかもこちらをしっかりと見据えていらっしゃいますわ!!」
エリーザが、一人興奮した声をあげる。
彼女は「大丈夫?」とうっかり声をかけたくなるほど、頬を紅潮させ、潤んだ眼差しをキリルに向けている。その姿を訝しげな気持ちで眺めているうちに、頭の中に「指さして」という謎の文字が浮かんだ。そしてうざい扇子と共に、ドレスの上から斜めがけした緑のタスキに付けられた、キリルの缶バッチまでもを思い出す。
「あー、そっか。エリーザ様はプリズナーだっけ」
「それは違うよ、ルシアちゃん。囚人とリスナーを合わせたプリスナーだからね?じゃ、写真撮るよ」
「チッ、呑気に集合写真とか撮ってる場合じゃないってのに。キリル様とだけがいい。ツーショットを撮りたいのに」
「えっ!?」
エリーザとは思えない怨念のこもる低い声の呟きに、私は横を向く。
その瞬間、パシャリと無情にもシャッター音が響く。
どうやら私は、ナターシャのマジカルデバイスには嫌われているようだ。
「でもま、楽しい思い出の一つが増えたと思えばいいか」
私は一人、笑顔でつぶやく。
こうして私とルーカスはかつての、そして現在の友人たちを含む多くの者に盛大に祝ってもらい、晴れて夫婦になったのであった。
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