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復讐の始まり、または終わり  作者: 月食ぱんな
第十二章 私の選ぶ幸せ(二十歳~)
117/125

117 不機嫌なルーカス

お読み頂き、ありがとうございます。

全百二十話を予定していたのですが、この話は六千文字だったため、急遽二分割しました。その関係で、全百二十一話になります。


本日完結しますので、最後までお付き合い頂けると幸いです。

 ナターシャと仲良く女子会をしていた私は、呆気(あっけ)なくルーカスに捕獲(ほかく)された。


 妖精たちがキラキラと、メルヘンシティの夜空を輝かせる中、私はルーカスに「(のが)すまい」といった感じ。きつく握られた手をグイグイと引っ張られ、石畳の上を早足で歩く羽目になっている。


「今日は、この街に泊まる」

「え、ルーカスも?」

「グリフォン交通はもう終わってるから」

「え、そうなの?もう?」


 空を見上げると、確かに羽ばたくグリフォンは一頭も見当たらなかった。


「ルーカスはどうやってきたの?」

「俺は王子時代の伝手(つて)を頼り、特別ルートでここまできた」

「な、なるほど」


 ツンツンした気配を全開に漂わせるルーカス。私としては、「ナターシャの家に泊まろうと思っている」と、当初の予定を告げたいところだ。しかしそんなことをしたら、さらに彼を怒らせてしまいそうなので言えない。


「と、ところでさ。マンドラゴラもないのに、何で私の居場所がわかったの?」


 私はルーカスの手に植木鉢(うえきばち)がない事を確認しつつ、たずねる。


「ナターシャ嬢がアップした、マジグラムの写真に君が映ってたから」

「え、うそ!?」


 私は慌てて立ち止まる。そしてルーカスの手を乱暴に払い去ると、ポシェットからマジカルデバイスを取り出す。


 私は慣れた手付きで、マジグラムのアプリを開く。そして即座にナターシャの投稿を確認し、該当の写真をすぐに発見した。


『R王国の女王そっくりさんと』


 キラキラしているナターシャの隣。髪の毛がボサボザでキョトンとする私がバッチリ映っている。


(これは会って早々撮られた、こんやくはきぃーの写真)


 私は恨めしい気持ちで、キラキラしいナターシャを睨みつける。魔法写真に付けられたコメントが「そっくりさん」という点は、ナターシャなりの配慮なのだろう。


(というか、そうであって欲しい)


 そして私はいいねの数を確認し、二度驚く。


「ご、ごひゃくごじゅうに……」

「彼女は音楽関係の知り合いが多いみたいだし。でも、まぁ、そっくりさんだし」


 先程までプリプリしていたルーカスが、ミジンコほどではあるが優しさを取り戻し、私を励ましてくれた。


(つまりそれほど、写真が酷いってことか……)


 私は軽くめまいがした。同時に、心のどこかで「ナターシャは学生時代と変わらないな」と、嬉しくも思う自分がいて、それもまた悔しい。


「とにかく、俺は君に激怒している。だから、せいぜい大人しく付いてくるんだな」


 まるで誘拐犯のような言葉を吐き出したルーカスに、またもや手を掴まれた。


「あ、はい……」


 私はもはや逆らうまいと、素直にルーカスに従う。そして見知らぬ街の夜空の下を、ズンズンとルーカスに手を引かれ進むのであった。



 ***



 不機嫌な雰囲気満載であるルーカスが、急遽(きゅうきょ)予約したという宿屋。それはまるで絵本の中から飛び出したかのような、とても可愛らしい外観が特徴的な宿屋だった。


 鮮やかな赤色の屋根に、見上げると窓には小さな花が飾られているのが確認できる。いくつかの部屋には、白い欄干(らんかん)のあるベランダがついていた。ベランダには小さなテーブルと椅子が置かれ、街を一望し景色を楽しめるような配慮がなされていた。


 このような緊迫した状況でなければ、きっとウキウキすること必須の、とても素敵な宿屋だ。


「いくぞ」


 呑気(のんき)に宿屋を観察していた私は、ルーカスに睨まれたまま、宿屋の中に連れ込まれた。どうやら先にチエックインは済ませておいたようだ。


 私はチェックインカウンターにいた男性に、意味ありげな微笑みを向けられたまま、その前を難なく通過する。そして二階へと続く階段を登り、部屋のドアの前でルーカスがピタリと足をとめる。


「逃げるなよ」

「はい」


 悪者顔のルーカスに問われ、私は素直に従う意志を伝えつつ、念のため確認する。


「あ、あのう、因みに私の部屋は」

「申し訳ないが、ひと部屋しか空いてなかったんだよ。急だったし」


 疲れた様子で、部屋のドアを開けるルーカス。

 なんだか、少しだけ顔色が悪い気がする。


(無理させちゃったのかな……)


 国の監視下にあるルーカスがローミュラー王国を出国するには、それなりの理由と、指定の手続きが必要なはずだ。


(モリアティーニ侯辺りに、頼み込んだんだろうけど)


 ルーカスがどうして急に出掛けたいと言い出したのか。その件に関して、彼がどこまでモリアティーニ侯爵に説明したのか。実に気になるところだ。


 流石に昨日の事は、ルーカスも上手く誤魔化したはずだ。というか、そうであって欲しい。


 けれどその件を説明せず、急に私がいなくなった、もっともらしい理由を考えるのは、骨の折れる作業だったに違いない。ましてや説得させる相手は、あの、モリアティーニ侯爵だ。


(なんせ古狸(ふるだぬき)侯爵様だから)


 根掘(ねほ)葉掘(はほ)り、ルーカスから聞き出そうとしたに違いない。


(悪いことしちゃったかな)


 私はルーカスの顔に浮かぶ疲労感を前に、彼に文句が言えなくなる。


「さっさと入りなよ」

「は、はい」


 私は促されるまま、おずおずと室内に入るのであった。

お読みいただきありがとうございました。


更新の励み、次作品への養分になりますので、続きが気になるなー、おもしろいなー等、少しでも何か感じていただけましたら、★★★★★からの評価やブックマーク、いいね等で応援していただけるとうれしいです。

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