バレンタインの夕暮れは一番星輝いて
彼は最近、落ちこんでいる。
試験の成績が悪くて、三日連続、今日も居残り。
「はあ~……」
彼のため息が聞こえてくるよう。
力づけてあげられるかな?
私の精一杯の勇気で……。
「あ……三浦君」
私は、北校舎の裏口から出てきた彼に声をかけた。
「樋口じゃん。どうした」
どうしよう。
どうしよう……。
心臓の鼓動が彼に届かないか、うるさいくらいに私の胸は鳴っている。
「これ……あげる」
目を瞑って、思い切って彼に赤い包みを差し出した。
それは、昨夜ひとりで作ったチョコレートトリュフ。
なんなら、金のリボンも自分で結んだ『手作り』だ。
「あ、ひょっとして……」
「そう……」
「うそ。マジか」
「受け取ってくれる?」
「もちろん!」
破顔一笑。
彼は嬉しそうに笑って、その小さな包みを受け取った。
「でも、どうして?」
ん~~~にぶちん!
「それ、女の子に言わせるの?」
「あー……」
彼は、赤い包装紙も負けそうなほど真っ赤になっている。
「物理の課外、どうだった?」
「最悪……」
「問題みてあげるから、一緒に帰ろ」
「さすが、樋口委員長!」
「その言い方やめて」
私たちはそんな会話を交わしながら、仲良く肩をならべて帰った。
一番星がひときわ綺麗に輝いた『バレンタイン』の夕暮れだった。
〜おわり〜
本作は、汐の音さまの
フリーイラスト集『続自由絵一覧』(https://ncode.syosetu.com/n1877hx/)より
「(四)バレンタイン」中「③ちいさなバレンタイン」の絵に着想を得て創作しました。
汐の音さま、素敵なイラストをご提供いただき、どうもありがとうございました。
最後までお読み頂いた方にも感謝申し上げます。
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