特別な誕生日プレゼント
◇
空が青く染まった頃。
この季節、この時間には決まって『東風』が到来した。
その春風は、花びらと香り、木々の囁きを運んでくれたが、雪解けの湧水を思わせるほど冷たかった――エリンはその冷たさこそが一番うれしかった。
味覚以外の全てを満足させる、そんな至れり尽くせりな風を感じた時、エリンは訓練を終える。そして一息ついた後、家路に着く。
だが『今日』は違った。『今日』は特別な日だったからだ。
◇
朝日が照らす湖面を見つめながら人心地ついたところで、特別な『今日』に思いを馳せた。
初めに、いつかの母の言葉を思い浮かべた。
『明け方すぐのことだったわ。エリンはね、半日がかりの難産の末に、ようやくこの世に産まれてきたのよ――』
――それは十二年前のちょうど今頃のことだった。
つまり――
「ボク、いや、オレは『今』から十二歳だ!」
長年、強く、強く、待ち望んできた瞬間だった。
だが、リラックスしすぎて、ウッカリするところだった。
だから『今』を逃すまいと大きく叫んだのだ。
そして、続ける。
――それだけで『今日』は特別だけど、それだけじゃない。
「これでようやく『冒険者』になれる!」
再び、朝霞の湖畔に子供の甲高い声が響き渡った。
『冒険者登録』の規定年齢が十二歳以上とされていた。
その資格を得られたことが一番、嬉しかった。
ただ……努力などせずとも、それだけで叶う宿願でもあった。
五歳のエリンは『ソレだけじゃつまらない』と思った。
『どうせなら最高の形でスタートを切りたい』と思った。
それは、幼心に思い浮かべた『ちいさなこだわり』だった。
だけど、それをずっと大切にしてきたのだ。
当然、軋轢があった。
誰よりも非力で、誰よりも華奢だった。
だから、並々ならぬ努力が必要だった。
過酷すぎる毎日を積み重ねて、ようやく周囲から認められたのだ。
そして、辿り着いた『今日』だった。
エリンは、長い付き合いの『手のマメ』を見つめた。
目に見える努力の形だった。
『今日』のために拵えたモノだった。
鳶色のズボンとパンツの下にも、切り傷や火傷の跡があった。
そこの治療だけは固辞してきたから、傷が残った。
そちらも目に見える努力の形の一つだった。
なので一応、確認してみた。
(――――ッ‼)
瞬間、何者かが息を呑んだ。
エリンの研ぎ澄まされた感覚が――
「――獣かっ⁉ ……いつもの気のせいかな?」
残念ながら、その正体にはたどり着かなかった。
いちばん大切な感覚をどこかに落っことしてきていた。
気付かなかったので、そのまま思い耽る……。
色んな知識と技術を詰め込んできた。
理想の剣閃に手が届きそうなところまでこれた。
気力と魔力と聖力も限界以上に増やしてきた。
冒険者に必要なモノをたくさん備えてきた……つもりだ。
それらは五歳のエリンが思い描いた最高のスタートに必要なものだった。
そして、五歳の自分から十二歳の自分に贈られた特別な誕生日プレゼントだった。
――ありがとう。
だから、エリンは感謝した。
「あとは、冒険者になるだけだ‼」
三度目は人生で一番大きな声だった。
どこからともなく拍手が…………聞こえたような気がしたエリンだった。
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