vsジェイコブ ガチンコ!2
千合を超える切り結びとは言え、ジェイコブの反撃はまだなかった。
いや、もとより切り結んではいなかった。
エリンの視界では、いつその様に反撃されてもおかしくないという虚像が目まぐるしく動いているのだ。想像力が、実際以上の動きを捕捉しているのだ。
ジェイコブは必死だったのだ、ただ避けることに。
木剣と言えど、大岩すら断ち切るエリンの剣だ。当たりどころなど関係ないのだ。
エリンは鬼気迫る勢いで断ち切ろうとしていた。
何をか況や、ジェイコブの全てを、だ。
ジェイコブは息荒く、いや、息も絶え絶えだ。
もう、軽口すら口にできない。
だが、エリンはそんなことをお構いなしに全力で突っ込み続けていた。
脳のリミッターを外して動き続けているのだ、全身のいたるところが疲労骨折と筋断裂で占められていた。だが意に介さず、動かない部分が有ろうと無かろうと、戦いに不要なすべてを弾いた。不都合の一切を不知としていた。そうまで最高効率を追求し続けていた。
身体の悲鳴さえも想定内だった。
それすらが型通りだった。
心臓が口から出てきそうなジェイコブの耳にも、エリンの崩壊は耳に届いていた。
だが、その無骨な手を差し伸べようものなら、その手ごと魂を断ち斬られるのは自明の理。
手をこまねき続けていた。
エリンはジェイコブを断ち切るまでの、無限地獄。
ジェイコブはエリンが意識を取り戻すまでの、無限地獄。
そんな、膠着状態が終焉を迎えたのは、闘技場の扉が開かれたと同時だった。
エリンの意識や視界には入っていなかった。
だが、幽かな振動と空気の流れが、一瞬だけエリンの剣を不意に歪めた。
想定外が起こったのだ。そこに刹那の空白が紛れ込んだ。
精密機器を狂わせるのはほんの些細な歪みだ。
例えば一つのホコリでさえもその原因となり得る。
エリンはそこまで精緻に肉体を動かしていた。
その瞬間に、ジェイコブは勝ち筋を見出したように動き出した。
一度狂った歯車を分解し、組み立て直す余力がエリンには無かった。もとより全てを注ぎ込んでいた、だから遊びの部分は元より皆無だった。巻き返しは不可能だった。
これまでとは異なる、意図的な回避に揺さぶられ、徐々に歪みは大きくなった。
そして、僅かな剣筋のブレから、意図せぬ一瞬の隙ができた。
ここが、分水嶺。研ぎ澄まされた一閃が舞い込んだ。
それは奇しくも、前回の焼き直しのような光景となった。
満身創痍のエリンの肉体は、そこに反応した。
他の角度から振るわれたものなら、そこで終わっていた。
だが、幾度敗北の瞬間を思い描いたことか。
だが、何度ジェイコブを夢想したことか。
だが、数え切れないほど繰り返した動作だった。
だが、鍛錬は十二分に積んできたのだ。
積み重ねた日々が、体に染み込ませていた。
あとは擦るだけだった。
ジェイコブが繰り出した最速の一閃が迫っていた。
エリンはジェイコブと同じ剣筋を後追いした。
型は逆袈裟。
大剣と細剣が、光を放った。
剣閃が両者の瞳を射した。
瞬間、エリンの細剣が先にジェイコブの脇腹を掠めた。
瞬間、ジェイコブの大剣が後に空を切った。
前回の敗北と同じ動作だった。だが、結果は違った。
木剣は粉砕されなかった。
エリンの両手も粉砕されなかった。
同じ悲劇を繰り返さないよう、木剣を振り続けてきた。
ジェイコブの剣は当時よりも若干速く奔った。
それでもなおエリンの剣が上回った。
努力が、今、成果を伴って証明された。
だが、致命傷には程遠かった。
今、この瞬間に負けなかっただけに過ぎなかった。
それは、子供のラクガキも同然だった。
一筋の赤い線をジェイコブの身体に描き込んだだけだった。
エリンよりも遥か高みにいるのだ、それだけで泣き言をいうような相手ではなかった。
むしろ――満を持した『その先』が繰り出された。
「どっりゃぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――」
激しく迸る攻撃的な気勢が、野太い雄叫びとともエリンを叩く。
空を切った大剣がエリンの上空から垂直に墜ち、その柄頭がエリンの頭上に迫った。剣としての斬撃を捨てた、ただの闘争の道具として用途だった。
エリンすらが想定外の『その先』が示された。
細剣は逆袈裟を振り放った直後。右脇腹から左肩に抜けた位置、つまり、上段の構えに近いところに在った。当然『この先』を想定していた。想定外の何かが来ると。
満を持しての一閃は、エリンも準備していた。
どの様な攻撃が襲ってきても、覚悟の上で迎え撃つと。
全ては次の一瞬のために在った。
だから――静かに闘志を漲らせていた。
極限の集中が提示したのは明鏡止水の静かな気迫。
エリンのターコイズブルーの瞳が輝き、ジェイコブの振り下ろす大剣の柄頭を視界に捉えた。
そこに――
一閃。
再び、木剣が、落雷のように墜ち、霞のように姿を消す。
そして再び、その姿を現したのは、大剣の柄をすり抜けた後だった。
ジェイコブの無骨な両の掌が握り締めた大剣の柄、その僅かな隙間に刃が通ったのだ。
両手持ちの剣は、片手分の柄しか残らず、再びジェイコブの大剣は空を切り、今度はそのまま床へ放り投げられた。
鋭利かつ鏡の様に艷やな柄頭が、硬質な床を叩いた。
カランカランという音がその場に鳴り響いていたが、エリンの脳裏に届いたのは、最近になって耳に馴染み始めた親友の“低い声”だった。
――いやいや、どこの誰がギルマスに勝てっつったよ。お前の努力は誰もが認めてる。入団試験なんか軽く、絶対に受かるさ。素人目を侮んじゃねぇぞ。この二つの赤い瞳に誓ってやる。
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