vsジェイコブ ガチンコ!1
機先を制したのは挑戦者のエリンだった。
爪先にチカラを集結し、初速から最高速度を捻り出した。
一瞬の跳躍で相手までの距離を潰し、袈裟懸けに斬りかかった。
「むぅっ⁉ やっぱりか!」
一瞬にして懐に飛び込んだエリンの踏み込みの速さと剣の冴えに、驚愕の表情と感嘆の声を隠せなかった。剣筋は半年前に体感したものと微塵も違わなかったが、速度とキレが異次元だったからだ。
達人は一合の切り結びで相手の実力を見抜くが、ジェイコブもその粋に達していた。引退したとは言え、最高ランクの肩書を手にしているのだ、当然のことだ。
だが、その表情に余裕は一切見られない、むしろ一層厳しいものになった。
「毎度のことながらその度胸は買いだぜ!」
エリンの俊敏さは電光石火の如く、常人の目には留まらない。その動作をよしんば視界の端で捉えられたとしても、その容姿にそぐわぬ上段の構えだ。刹那にその型破りに対策を捻り出さなければ、無抵抗に斬られることになるが……考える暇がない。
そこにジレンマが生じ、二重の意味で虚を突く術理であった。だから技として成立していた。
そして、エリンには『腰掛岩』を両断する技の冴えがあるのだ。大抵の相手にとって、最初で最後となる切り結びが約束された一撃となる。
対策のしようがありすぎる大上段の構えだが、エリンに限っては初手として最適だった。
そんな大技を最初に持ってくる度量がエリンにはあり、ジェイコブはそこを評していた。
「初っ端から飛ばすねぇ。子供は元気すぎて敵わんな」
エリンの体重は春風に揺らぐ程に軽い。超々軽量級の速度を生かした斬撃が断続的に振るわれた。
その恵まれない矮軀で精一杯高望みするかのように全身全霊で剣を振る。だが、誰の目にも留まらない……ジェイコブを除いては。
のんびりした口調ながらも、次々と迫りくる斬撃を躱し続けるジェイコブには見えていた。いや、見慣れていた。
大抵の相手が虚を衝かれる必殺の一振りが立て続けに見舞われるが、その全てがお決まりのパターンだった。だから虚を衝かれない。
初見の相手には些か厳しすぎるご挨拶も、幾度も剣戟を重ねてきたジェイコブには出会い頭の軽い会釈のように余裕を持って対応できた。
実際、初撃から続く数十合もの攻撃は、徹頭徹尾、エリンの定石の内だった。
一度でも相対したことがあれば、既視感を覚えたはずだ。
そして、ジェイコブとエリンの対戦は過去に数十回は繰り返されていた。
「オイオイオイオイ! そろそろスピード緩めてくんねぇかっ⁉ おっさん相手だってこと忘れてんじゃねぇだろうな!」
ジェイコブは剣閃の軌道上には立たずに、大外へと回避し続ける必要があった。斬撃が僅かに飛ぶからだ。その分体力を消耗していた。
そんなことなど知ったことではないとばかりに、一閃一閃が矢継ぎ早に繰り返された。
エリンは振り切った木剣を反転させて追撃し続ける。そして躱され続ける。それでも更に、更に、更に、更に、空を斬り続ける。
断続的に交わされる斬撃と回避の応酬は終わらない。
目にも留まらぬ早業の連続で、振る方も、避ける方も、追従し合いながら、徐々にその速度を上げていった。
硬質の岩で覆われた床面はその度にヒビが入り、小石や土埃を舞い上げる。
「や、やべっ⁉ ここの修繕費、オレ持ちなんだぜっ⁉ うおっ⁉」
エリンの一振り一振りは渾身の全力であり、一切の無駄が排除され洗練されていた。
フェイントや様子見の小技などは一切差し挟まれず、全ての斬撃に魂が籠もり、躱されても次の一振りには心機一転とばかりに一刀両断の覚悟が灯された。かつ直前のものより速くなるのは、それが技であるからだ。
一撃必殺が連続することに矛盾はない。
すべての動作に次への備えが秘されているから、繋がる。
最初の攻撃は次の攻撃への起点となり、それすらもまた次へ、次へ、次へ、次へ……。
全身全霊の一太刀が連絡技として昇華され続け、永劫に続いていく。
「ちょっ⁉ マジでやっべぇからっ⁉ も、ももももういい。ストップ! ストップだっ!」
極限の集中力が一時間以上は続いていた。
その動きは疾風のごとく。そこに思考は介在していなかった。
ジェイコブの悲痛な叫びは、耳に届いていても意識には届かない。
そして、定石と言うからには、全てが想定された型だ。
相手の対応によって、その樹形図のどこを辿るかは無限の拡がりを見せていくが、エリンは驚異的な想像力を以って、遙か先まで網羅していた。対応を事前に、体の全身、余すことなくインプットしていた。
つまり、聞く耳を持っていても、馬耳東風というわけだ。
「ぐぅう……だ、誰か、助けてぇええええええ!」
我流ながらもその完成度は、高すぎた。
ジェイコブをして完璧だと言わしめたのは、いったいどれ程昔の話だったか。
今はその完璧を凌駕していた。つまり、ジェイコブの想定外の連続だった。
躍動する筋肉からの悲鳴が大滝の汗となっていた。
だがその汗は冷たいようで、顔色も赤銅から青、そして土気色に変わっていた。
「……はぁ……ぐぅう……はぁはぁ……ぐ」
前回の決着は、もう少し早くに訪れていた。
惜しむらくは、腕力と体力と集中力の枯渇である。
そのいずれかが摩耗し、底を尽き、集中が途切れた時に、既定路線を踏み外すことになるのだ。
今回は、既に数百を超える攻防が繰り返されていた。
ジェイコブは、開始前のやり取りで、後の先のさらに先の攻防を匂わせた。
エリンもそれに応じ、期待を浮かべた表情でそれに応えた。
途切れるはずだった……。
枯渇するはずだった……。
「坊主! いつ先を見る気になんだよっ‼」
互いに、その間隙を契機に仕掛ける予定だった、当初は。
待ちかねたはずだった。
ジェイコブが教示する、技を見て学びたかったから。
だが、何よりも勝ちたいと願った。
その一心が全ての感情を抑え込んでいた。
現在、エリンの思考は停止している。
反射的かつ想定に擬えて身体に馴染ませた動作を続けているだけだ。
開始する前から、五感の最低限の機能以外は捨て去っていた。
「……はっ……もう…………堪忍し……ぐはっ……」
数百合が、更に上の位に差し掛かろうとしてしていた。
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