男を所望するギルマス~抱かれるエリン
「よう、エリン! おれも年を食うわけだなぁ」
そうやって声をかけてきてくれたのは、ギルドマスターのジェイコブだ。
エリンの倍はあろうかという高身長かつ肉厚な身体を持った大男で、事務屋にしてはその肉厚もさることながら、赤銅色の肌がやたらとギラギラしていた。
男前という顔ではないが、好きな人は好きなんだろう。
街ですれ違う度に、いつも違う女性が隣りにいた。
そんな、ジェイコブはエリンの師匠に最も近い人だった。けれど、これからお世話になるのは、ギルドマスターとしてのジェイコブだ。そういう思いで、エリンは元気よく挨拶することにした。
「おはようございます、ジェイコブさん……いえ、ギルドマスター。今日からそう呼ばせて頂きます!」
「かぁ~、そりゃ気が早えんじゃねぇか? まあ、贔屓目なしで可愛がってやるよ」
やたらと気勢が強いが、かえって気安い。ジェイコブはボヤくことを会話の取っ掛かりに選んだ後は、がさつに歓迎してくれた。
「マスター、エリンくんに対してその言葉は、色々……いろいろ不味いです……(ごくり)……」
今ツバを飲み込んだのは、受付嬢のラティスだ。
事務仕事とは不釣り合いなほど、見るも華やかなギルドの制服を身に纏っており、遠くで見ても近くで見ても美人だとわかる美人だ。
いつも卒なく仕事をこなしているから、所属する組織のトップにも遠慮なく意見を物申す。
……現在は、口元がだらしないのでどこか不信感を抱かざるを得ない。
「おはようございます、ラティスさん。今日からよろしくお願いします」
「……はぁはぁ……くぅう……ああぁ……」
「……おい、ラティス。涎をぬぐえ。お前のほうが不味いんじゃねぇか?」
案の定、応答が無くなった。
あったのは謎の声だ。
エリンにはわからなかったが、それを聞いた周囲の冒険者が頬を染めたり、前かがみになったりしていた。またしても大人の事情がなにやらあるようだった。
誰もそのことについて教えてくれようとはしなかった、いつも。
エリンにとってはよくあることだった。
「……ッハ⁉ 私としたことが。何秒ぐらい固まってましたか? ゾーンに入ってて時間の経過がわかりません!」
「いや、もう良いから、とっとと手続き……。おい! 誰か手の空いてるヤツいないか? 男だ、男じゃないとだめだ!」
「あの、ギルドマスター?」
サラッと流そうとしたエリンだったが、聞き捨てならない言葉があった。
『男』を所望するジェイコブの発言だ。
その真意を問おうと声を発したが――。
「――ああ? 言っとくぞ、これからお前がここに来る時は、必ず、男の職員に対応してもらえ。じゃないと、駄目だ。お前だけの特別対応だ。理由は……ほら、ラティスを見てみろ。たった今注意したにも拘わらず、まただ。言わんとしてることはわかるな?」
いかに優秀な人間であろうとも、この様になることはままあることだった。
十中八九の人間が高く評価するであろうラティスを以てしてもそうなのだ。
エリンを前にした女性は、かなり強めの覚悟、もとい、激甘な蜜の匂いに耐えられるだけの強い自律心が求められた。
そんな事を知ってか知らずか、エリンは良い子なお返事を即答する。
「はい、わかりましたぁ。あ、バーボンさん、今日からよろしくお願いします」
ジェイコブに呼ばれて参上したのはサブギルドマスターのバーボンだった。
忙しそうなのは見て取れたが、わざわざ来てくれたようだ、心憎い。
ぴっちりとしたフォーマルな装いと、丁寧な職人技を思わせる上唇の中央から左右に伸ばした紳士髭が特徴の四十男だ。一見すると神経質そのものなのだが、その物腰は非常に柔らかで、密かにエリンの憧れの人だった。
「ああ、エリン君、久しぶりだね。うん、今日からよろしく頼む。君のことだ、すぐに上に上がるだろう。贔屓目なしにそう思うよ。だから試験をさっさとパスしておいで。君のプロフィールなんて、そこいらの女子職員ならみんな持ってる。必要事項はこちらで埋めておくから、さっさと試験受けといで」
(清濁併せ呑むバーボンさんの度量の深さと広さとその紳士力は最高だ。こんな大人にボクはなりたい!)
間違ってもそんな事は口には出さない。
敏感な誰かの良からぬ妄想が爆炎系呪文を暴発させる。
それは、過去に実際にあった話だ。だからエリンも心得ている。
ただ、憧れの人を前にして少し気持ちが浮ついた。
心の中とはいえ自分の呼称の誤りに気付かないまま、話が流れていく。
「おいおい、坊主だけなら仕方がないが、個人情報の管理は徹底しといてくれよ……まあ良いか。とっとと行くぞ? ほら――」
「そんな、ちょっと⁉ 子供じゃないんですから、抱っこしないでください!」
「そうは言ってもだな。お前、ちゃんと飯食ってるのか? ルティアのやつ……料理はからっきしだからな。……よし、バーボン、ついでだ。酒場の方に個室作っとけ。予算は……寄付を募れば直ぐに集まるだろ。それで建替えとけ! 後日、坊主の稼ぎから天引きすりゃいい。回収はすぐだ」
母ルティアとジェイコブは、旧知の仲である。
元パーティーメンバー同士なのだから当然だ。ジェイコブは重戦士。母ルティアは職業不明のオールラウンダーだったそうな。
だから、結構な頻度でエリンの剣を見てくれていたから、エリンの師匠と言っても過言ではないのだ。
それに、数回は我が家で食事をしたこともあった。だからこその迅速な判断だ。
「分かりました、ボス……おっと、早い。もう資金は十分です!これ以上は並ばないでください! さあ、仕事に戻って……、冒険者の方も早く受付を……」
バーボンの声が喧騒に飲み込まれていく。
カウンターの内と外で行列ができていたが、そんな事はお構いなしとジェイコブに抱えられてその場を後にするエリンだった。
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