01 : はじめまして異世界
駆け足で書いてしまったのでお見苦しい点があれば仰って下さい。
地図アプリが示す村のような場所に向かって歩き出す。
歩きながらスマートフォンを操作するのは危険なのでアイテムを仕舞おうと念じると手元から消えていた。
出し入れは自由に出来るようだ。
周囲には街道などはなく、ひたすら草原が続いている様だった。爽やかなそよ風が吹き、春のような気候でとても清々しい。
歩き始めて程なくして、前方の草の中につやつやと光るモノがゆっくりと動いているのに気がついた。
大きさはバスケットボールを潰したようなサイズ。
この世界で初めて遭遇したモンスター、スライムのようなものだった。
「おおっ!スライム!ゲームの初期モンスターと言えば定番だよねっ。先ずは素手でやってみよう。」
テンションがあがり始めたのでスライムに気付かれる前に戦闘を仕掛けてみた。
「とりゃーっ!」
と、なんか気合いを入れたいのか声を発しながら踏みつける。
『グチャっ…』
足にスライムがドブにハマった時のような感覚でまとわりついた。
イメージとしては弾力があって『ボヨヨンっ』って感触がありそうだったのに期待を裏切られる。
「うわっ、べっとべとじゃん!戦い方考えないと汚れるわ…」
と、思っていたら『ボッ』という音とともにスライムが消えてしまった。足に着いた粘着質の汚れはそのままだった。どうやら倒してしまったようだ。
スライムがいた跡には小さな結晶が落ちているので拾ってみる。手に取るとスマホのように勝手に収納された。
「ドロップアイテムなのかな?所持金とかもないからひとまずこのアイテムを集めておいた方が良さそうかも。町や村で売れるかもしれないしな。」
その後、五体程スライム遭遇したのだが、汚れるのが嫌なので草原に転がっていた木の枝で戦闘する事にした。
「早めに武器を手に入れないとキツイな。そういえば魔法使ってなかったな?詠唱とか時間かかったりすると厄介だよな。」
次にモンスターに遭遇したら即座に使ってみようと思って周囲を見渡す。すると、二十メートル程の距離にスライムを発見したので『ファイアを使ってみよう』と
考えた途端、拳くらいの大きさの火球が一直線にスライムに向かっていった。
『ボッ』っという微かな音が聞こえ、スライムを討伐したことがわかった。
「へっ?考えただけで自動的に魔法発動とか危な過ぎるんだけど!人前とかで無闇に発動できないじゃん。気をつけよう…」
独り言を言いながら落ちている結晶を拾って、しばらく戦闘を続け結晶を集めていた。それにしても、スライムの素材などは無いのだろうか。素材はレアドロップなのかなぁ?
このままずっとスライムばかり倒しているのも飽きて来るので先へ進もうと思い立った。
この世界に来て遭遇した生き物はスライムだけだから、どんな人が居るのか興味津々だったので、逸る気持ちを抑えつつ村へ向かった。
しばらく歩くと畑があり、そこで農作業をしている人影が見えてきた。
『第一村人発見だ!!』とその人に近づいてみる。
見た目は普通の農夫といった風貌の白髪の男性だった。藁で編んだ日差しよけの帽子を被り、オーバーオールのような装いなので現世との違和感があまり感じられなかった。
「こんにちはーっ!」
と、声をかけてみると男性はこちらに気づいて挨拶を返してくれた。
『○○○○○、○○○○○○…』
何語だろうか?聞き慣れ無い言葉で理解ができない。声のトーンからは敵意などはなく、親しみのあるようだ。
そういえば、スキルに『翻訳』があったな?念じるがコチラはファイアの魔法のように勝手に発動してくれなかったので、スキルコマンドをメニューから開くことにした。
●翻訳 ▶︎ 『アリスト語』
矢印の先に『アリスト語』という新しいコマンドが点灯していたので選択すると、言語が理解出来るようになった。習得というより、自然に理解出来るといった具合に。
「こ、こんにちは!僕の言葉、伝わりますか?」
僕は仕切り直してもう一度挨拶をしてみる。
「おぉ、あんちゃん、言葉通じるのかい?最初、何言ってんのかわからんくておっちゃん驚いちまったよ…。見ない顔だし、何かちょっと変わってるな?他所の国のモンかい?」
この国の言葉はアリスト語というらしい。それにしても、変わってるとはどういう事だろうか?『おっちゃん』はいかにもヨーロッパ系のような顔立ちをしているのに対し、僕は和風だからかな?自分で言うのはなんだけど普通の部類なハズだ。だと思いたい。
「実は僕、旅をしていて初めてこの国に来たんですが、村に入る許可とか必要ですか?もしよろしければ、少しこの国の事を教えてもらえると有難いんですが。」
農作業の邪魔にならない程度に少し情報を聞き出してみることにした。
「あぁ、構わんよ?他所の国から人が来る事はこの村では珍しいからなぁ。ちょっと作業しながらになるけど勘弁な?」
気さくで優しいおっちゃんは嫌な顔一つ見せずに話し始めた。
「村に入る許可なんか要らねえよぉ。ここはなぁ、アリステリア王国のウーラ村ってえんだ。歴史とかの難しい話しは出来ねぇけど、まっ、比較的平和なとこだ。食材となる魔物も狩りやすいんだわ。強え魔物が出ねぇからこんな事言えるんだけどもなぁ。」
魔物の食材?なにそれ美味しいの?魔物を食べるってことは素材が落ちるのか。レアドロップか何かかな?
「さっき、スライムと戦ったんですが、結晶みたいなモノしか落ちませんでした。食材とかは決まった魔物しか落とさないんですかね?」
「あんちゃん、そりゃあ適当にスライム倒しただろう?なんつーかな?魔物に弱点みたいなのがあんだよ。とどめを刺すときにそこを狙うと素材が落ちるってぇワケさ。弱点の場所なんかは経験だ、数こなしてけばわかってくる。」
曖昧な表現だが説明がめっちゃわかりやすい。次からは注意して戦ってみよう。
「もし、金がないってんなら、まずは村にある雑貨屋だ。そこで魔物結晶を換金できっから行ってみな?ウチのカミさんが店番してるし、ワシから聞いたって言えば話しが早い。ちなみに、ワシの名前は『おっちゃん』じゃなくガゼルってぇもんだ。その店の店主をやっとる。村まではそんなに遠くないから直ぐに着くだろうよ。ちなみに、あんちゃんの名前はなんてぇんだ?」
「あ、名乗るのが遅れました!一応、冒険者やってるハルトっていいます。」
「冒険者だぁ?武器持ってねぇじゃんか。魔法か格闘での戦闘スタイルかい?店には大したモンはないけど武器や防具なんかもあるから良かったら見てってくれ。」
「そうなんですね、ありがとうございます!早速これから行ってみます。」
そう言ってウーラの村へ向かうことにした。
面倒みの良いおっちゃんだった。最初にこの世界で出会った人がこの人で良かったと思えるほどに。
ここでつっけんどんにされたら、出鼻をくじかれるような気持ちで冒険スタートになってしまうから。
しばらく平地と丘を繰り返し歩いて行くと、漸く村が見えてきた。ガゼルさんの所から体感で1時間程だった。
あ、こういう時にスマホ使えば良かったんじゃないか。せっかくの地図アプリもあるし、時間くらいある程度予測できただろうに。
『ウーラ』
村の入り口に丸太を削って作ったであろう木製の名入りの立て看板がある。その先すぐに雑貨屋らしき店舗があったので足を運んでみた。
「いらっしゃい、おや?初めてのお客さんだねぇ?」
いかにも母ちゃんって感じの恰幅の良い女性の店員さんから挨拶をされた。
「こんにちは、僕はハルトっていいます。ガゼルさんに伺って来ました!こちらで魔物結晶を換金して頂けるときいたのでよろしくお願いします。」
「おや?主人の知り合いかい。あたしゃキャロルって名前だよ。それじゃあ、このトレーの上に出しておくれ。早速鑑定してあげるよ。」
手持ちの魔物結晶を全部だしてお願いしてみた。数にして三十個程度だった。
「そうだねぇ、銀貨四枚に銅貨五枚ってとこだね。これだけかい?他にも買い取れるモンあったら出してみな?」
と、言われたもののこの国の通過の価値が分からない。他に売れる物といったらアイテム欄のゴールドのインゴットくらいだ。五十個もあるから大した価値ではなさそうだ。と思って、一個だけ鑑定してもらうことにした。資金がなければ何かと不便なので。
念じても出てこないのでコマンドからアイテムを選択すると手元に出てきた。その際、店員さんに見られないように少しだけ後ろを向いた。
「今持ってるのはこれくらいです。これも買い取って貰えますか?」トレーの上に置くとゴトッと鈍い音をたてた。
「ちょっとあんた、コレって純金じゃないか!?『金の延べ棒』なんか初めてみたよ。ここでは買い取りできないから、この先まっすぐ行った突き当たりに村役場があるからそこに行きな?ギルドの役割も担ってるからそこなら換金できるはずよ。それにしても物騒なモン持ってるわね?」
そりゃそうだよね…。僕も見た事無いし、今初めて触ったもん。アイテム欄に五十個もあるから大した価値は無いと高を括ってたら大間違いのようだった。これが『恩恵』か。
ちなみに、銅貨が日本での十円程度の価値で、十倍毎に種類が変わっていくようだ。銅貨、銀貨、金貨、大銅貨と言った具合に。
「換金したらまたこっちに顔だしてちょうだいね?見た感じ武器とか持ってなさそうだから、ある程度一式揃えとくといいしね?」
と、キャロルさんにニッコリと笑みを浮かべながら言われた。優しい言葉の裏に商売根性が見え隠れしていた。
「ありがとう、ちょっと行ってきます。また後で必ず寄りますね。」
武器を持ってない冒険者なんかやっぱり居ないよねと苦笑しながら返事をした。
村役場に到着すると中にはカウンターが三台あり、それぞれに受付嬢が座っていた。
ホールには冒険者らしき人が数人。彼らは掲示板を覗き込んでギルドからの依頼を物色していた。
カウンターに近づくと受付嬢から『こちらへどうぞ』という案内を受ける。
彼女達の格好は中世のメイドさんのようだったが、流石に『おかえりなさい○○○様』とは言われなかった。そりゃそうだ。とあるカフェじゃない。
キャロルさんがかなり驚いていた事もあるので隅っこのカウンターで『金の延べ棒』の話を持ちかけ、例の如く目の前に提出した。
「しょ、少々お待ちくださいっ… 確認致します!」
受付嬢は驚いて声が少し裏返ってしまった。だが、直ぐに平静を装い、奥の部屋へと確認に行ってしまった。
カウンターの中が若干ざわついてしまったようで、ホールの一部の冒険者がこちらのやり取りを少し気にして見ていた。
『ジロッ…』
めっちゃ視線を感じるが、目を合わせないようにしておこう。
視界に入ってくる人物は小柄な女性のようだったが、気付かぬフリを続ける。
「お待たせいたしました。」
しばらくすると受付嬢が戻ってきて声をかけてきた。
「大変申し訳にくいのですが、こちらの村では全額での換金が難しいのです。宜しければ『預金』というカタチにして頂くのは可能でしょうか?ギルドカードをお持ちでしたら他のギルドでも預け入れ、お引出しは可能ですので。」
やはりかなりの価値があるらしい。仕方ないので提案を受け入れることにした。
「わかりました!ギルドカードは直ぐに作れるんですか?ちなみに、『その』価格ってどれくらいの価値なんです?」
恐る恐る聞いてみる。アイテム所持欄に同じ物があと四十九個あるのだから…
「ギルドカードは直ぐに作れますので、この後取り掛かりますね?それで…こちら金の価値なのですが…換金すると『白銀貨五枚』となります。銀貨の百万倍の価値となるので村役場ではそれだけの大金を持ち合わせておりません。お力になれず本当に申し訳ありません。」
空いた口が塞がらなかった… 初期装備の金額の想定を遥かに超えていた。銀貨を百円相当と考えると自分が所有しているのはおそらく二百五十億円相当…。どれだけの大金だよ!冷や汗が出てきて止まらなくなっていた。
気を取り直し、武器などの必要装備の購入資金、数日生活出来る程度の金額を引き出し、残りはギルド管理という事でお願いをした。
「それではギルドカードを作成いたしますので、こちらの石板に手を翳してください。ちなみに、最初は何方もFランクからのスタートとなりますのでご了承ください。E、D、C、Bとギルド依頼をこなす事に上がっていきますが、それより上位のA、S等のランクはランク昇格試験を受けていただくことになります。」
手を翳すと石板が光り、手のひらに一枚のカードが現れた。原理は分からないが魔法の一種のようだった。名前、職業、冒険者ランクのみ記載された簡易的なカードである。
「万が一紛失されたら、ギルドで再発行が可能です。カード自体、御本人様しか使えませんので勝手に預金を降ろされたりする事はありませんので御安心ください。それではお手続きは以上となります。他にご質問はございますか?」
受付嬢は笑顔を絶やさない。接客の鑑のような方だった。
「大丈夫です!ありがとうございました。後でギルド依頼を受けるつもりなのでまたよろしくお願いします。」
受付嬢に挨拶をしてその場を立ち去り、雑貨屋に戻ることにした。
村役場を出た瞬間、真横から女性の声が聞こえてきた。
「ねぇ、ちょっと待って!!」
その声の主は異世界ファンタジーの代名詞といえる存在。
『エルフ』だった。




