伝統(コント台本)
コントの台本書いてみました。
読んで笑っていただければ幸いです。
【登場人物】
客 / 鰻屋店主(以下「主」) / 店員(以下「員」)
鰻屋店内、食べ終えた客と店主が談笑している。
客「いや、マジでうまかったですわ。また来ますね」
主「ありがとうございます。でも、残念ながら今月末で店を閉めるんです」
客「えっ……もったいない」
主「時代の流れですかね……唯一の心残りは、開店時から継ぎ足し続けてきた秘伝のタレが私の代で終わってしまうことです」
客「残念ですね。ちなみに何年ぐらい続いてはるんですか」
主「そうですね…かれこれ1500年ぐらい」
客「は?」
主「その間継ぎ足してきた秘伝のタレが…」
客「ちょっと待ってください。1500年? それっていつの頃ですか」
主「確か古墳時代の末期ごろ初代が開店したと聞いています」
客「古墳時代?」
主「その後、大和や河内の豪族たちがごひいきにしてくださって」
客「ご、豪族!?」
主「渡来人とかを引き連れてよく来てくれたんです。そうそう、聖徳太子も常連で」
客「聖徳太子!?」
主「一回、めっちゃ忙しい時店を手伝ってくれたこともあるんです。あの人、大量の注文もメモ取らずに全部覚えてるからマジパネェって記録に残ってます」
客「ほんまかいな。他にはどんな常連がいてたんですか?」
主「清少納言と紫式部も女子会でうちの店使ってくれてまして」
客「女子会!? あの二人仲悪かったんちゃいますの?」
主「実際はそうでもなかったみたいですよ。二人で『いとをかし』『あはれ』とか言いながらメモとってました」
客「メモ?」
主「日記とか随筆とかのネタ集めしてたとか」
客「でもホンマにそんな昔からあったんですか? その割に店内意外ときれいすぎません?」
主「これはね、大阪城を建てた大工の棟梁がリフォームしてくれたんです」
客「大阪城!?」
主「やっぱり仕事が丁寧ですよ。アリ一匹入る隙間ないですから」
客「いや、普通に客は入れるけど……」
客「でもなぁ、大昔のことなんて誰も分からんから、言うたもん勝ちみたいになってません?」
主「いや、ホンマですって。松尾芭蕉とか俳句にも残してますよ」
客「どんな句ですか?」
主「"鰻屋や かわず飛び込む タレの音"って」
客「"古池や かわず飛び込む 水の音"や! それバッタモンですって」
主「いや、元々の句はこうだったそうですよ」
客「それより、カエルがタレに飛び込んだんですか? 衛生的に大丈夫なんかいな」
主「もう300年以上前の話ですし、ほぼほぼ中身入れ替わってるから大丈夫ですよ」
客「いや、タレの継ぎ足しを売りにしてる店がそれを言うたらアカンやろ」
主「先代も味音痴だったんで、タレの味しょっちゅう変わってましたし」
客「だからそんなん言わんでも」
主「どうせ今月で終わりだから、ぶっちゃけても構わんでしょ」
客「かなわんなぁ」
店の奥から店員が歩み寄ってくる
員「おやっさん、例の電話です」
主「来たか…お客さんの相手したって」
員「へい」
店主、厨房へと消えていく
客「じゃあ、先にお勘定」
員「へい、ではレジの方へどうぞ」
店員、レジをぶつぶつ言いながら打ち始める
客「ここで働いて長いんですか?」
員「かれこれ20年は修行してます」
客「20年!? そういえば『串打ち3年、裂き8年、焼き一生』とか言いますもんね」
員「いえ、ウチはその前に『レジ10年』が入るんです」
客「レジ10年?」
員「そうなんです。私が入った頃は昔ながらのやり方ということで会計がそろばんやったんです」
員「それで、そろばん10年はじいてようやく鰻の調理に入れるってところで……」
員「今の主人がレジスターが導入したんですわ。最悪ですよ、またイチからレジ修行ですわ」
客「それはまた……他の店で修業したらよかったんちゃいます?」
員「他の店は面接で全部落ちたんです。あんたには向いてないって」
客「なんとなく分かりますわ」
奥から店主が戻ってくる
員「おやっさん、やっぱり…」
主「ああ、こうなったら腹をくくるしかないか」
客「差し支えなければ……どなたからの電話ですか?」
主「大家からです」
客「大家?」
主「実はここの物件賃貸でして、かれこれ1500年家賃滞納してるんです。今月中に立ち退けって」
客「いや、払えや! そんだけ滞納してよー今まで営業させてもらえたな!」
主「鰻屋の売上がイマイチなんで、タピオカ屋に鞍替えして一発逆転狙おうかと思ってるんです」
客「いや、鰻屋が時代の流れで流行らんのやったら、タピオカ屋はもひとつ乗り遅れてるやろ!」
主「そこで相談なんですが?」
客「なんや?」
主「今度は何を継ぎ足していけば、ウリになるでしょうか?」
客「知るか!」
ー了-
タピオカだったらカエルの卵みたいなんで、カエルが跳び込んでもギリセーフですね♪