エルフの長
先ほどまでララティアと食事をしていたところだがいつの間にかエルフの長と会うことになってしまった。そしてなぜか私がエルフでないことどころか異世界から来ていることまでバレてしまった。まさかそこまでバレてしまうとは思わなかった。さてこれからどうするべきか逃げるべきか?いや、ここまで来て長に会わないのはもったいないな。
そんなことを考えていると、どうやら長のいる場所についたようだ。
そこは建物というよりも木、いや大樹といったほうがいいだろう。根元の方には入口があり木そのものが建物になっていた。これがホントの木造建築。
私はララティアに案内されるまま、いかにも長が居そうな厳かな感じの扉の前まで連れてこられた。
「この先で長が待っている、私はここから先に入ることができないからここでお別れだ」
「ここまでありあがとう、また機会があったらその時もよろしく」
扉を開けて中へと入るとそこはかなりの広さがあり天井も高い、そして奥にエルフの長が立っていた。見た目はいかにもおじいちゃんといった感じだが、見ただけで強いと分かる。明らかに他のエルフとは異質の存在だ。この私が本気で戦ったとしてもまったく勝てる気がしない。
「よく来てくれた、サトウ殿よ。私の名はトレイ、エルフを代表して歓迎しよう」
「どうも、ちなみに私をここに呼んだのはどのようなご用件でしょうか?」
「君にはいくつか聞きたいことがあってね。サトウ殿はどうしてこの世界に来たのかな?」
トレイが真剣な表情で聞いてくる。返答次第では始末されそうな雰囲気だ。
「この世界に来たのはまったくの偶然です。具体的な目的があるわけではありません」
一瞬訝しげな顔で私を見てくるが、納得したような表情になる。
「どうやら、その言葉に嘘偽りはないようだな」
どうやら信じてもらえたらしい。
安堵の息を漏らす。
「ところで、どうして私が異世界から来たと分かったのですか?」
「サトウ殿のことはララティア・テイラの目を通して見ていた。エルフでないとは分かったが人間にしてはアルストの気配が感じられなかったからな。そんな人間この世界には存在しない、つまりサトウ殿は異世界から来た人間ということになる」
そんな人間は存在しない?どういうことなんだ、話についていけないぞ。
理解できていなさそうな私の顔を見てトレイは話を続ける。
「まずは、この世界について教える必要があるようだな」
そして、トレイはこの世界について語りだすのであった。
◇◇◇◇◇
アルストレイ大陸。人間、エルフは古くからこの大陸に存在し、二つの種族は人間の領土、エルフの領土に分かれていた。
人間の領土は国王アルストが支配し、エルフの領土は長トレイが支配していた。アルストは全ての人間の親であり、トレイは全てのエルフの親であった。親と子らは感覚を共有することができ、親は子に一方的に意志を伝えられた。二人の支配者はこの世界において親であり最も神に近い存在であった。
しかし、この世界は支配者を二人も求めていなかった。二人の力はこの世界そのものを根源としている。支配者が一人なら問題は無かった、だが支配者が二人いることで力の供給量は増え、この世界は消耗し続けていた。どちらかの支配者が消えない限り、この世界は消耗し続けて最後には滅びる。故に支配者は一人でなくてはならない。この世界を存続させるために人間とエルフは争いを続ける。
◇◇◇◇◇
つまり、アルストかトレイのどちらかが居なくならなければ、この世界が滅ぶということか。
「ちなみに親というのはどういうことなんですか?」
「実の親というわけではない、生まれた子らには加護を授ける。加護によって子らは私と繋がる。それだけのことだ。」
ということは、私からはアルストの加護が感じられなかったからバレたということか。
私が納得しているとトレイが少し悪い顔をして話を続けた。
「サトウ殿、見たところ貴方は相当の実力の持ち主のようだ。そこで貴方に一つ頼みごとをしたい。もちろん、報酬も出そう」
「何をさせるつもりなんですか?」
とても面倒なことに巻き込まれると私の直感が伝えてくる。
「貴方にはアルストを倒していただきたい」
「いや、無理です。さすがにそれは……」
「報酬には世界にたった一つしか存在しない私の秘蔵の宝を授けよう」
「この最強の魔法使いサトウが見事、アルストを倒して見せましょう!」
世界の一つの宝と言われたら引き受けるしかない。これは仕方のないことなのです。