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お孫さま、待ち侘びられる

タイトルに悩んでいる間に寝てしまって予約投稿出来ませんでした…

ここ最近は一切書き溜め出来てなくて、撮って出しならぬ、書いて出しになっております

 満天楼との交渉もユーチェンが纏めた。実家と職場の交渉だ、その場に居ること自体がまずかろうとの判断でクァシンは店に戻った。

「いやー、さすがに手厳しいな。さっきとは大違いだ」

 クァシンの父親は肩を落としていた。

「事情が違いますから。満天楼相手に揚羽屋が便宜を図るわけにはまいりません」

 料理勝負の運営との取引とは違いこちらは完全なる商い。番頭の実家だからこそきっちりと、かっちりと。

「まあ出費にゃ違いねぇが、その分モノは確かなんだろ?」

「……さあ? 実は、拝見しておりません」

「なにぃ!? あんだけ強気に吹っ掛けといて、」

「若旦那さまなので」

「あー……そっか、若旦那さんだもんなぁ……」

 何故だ、聞こえてくる二人の会話に呆れや諦めの空気が滲んでいるのは。離れたテーブルで茶をいただきながら待っていたのだが交渉中はかなり激しくやりあっていたが今はもう、二人してどこか遠くを眺めている。



 こちら側の希望としては。

 肉磨きの見学。使う肉がなければ手間賃を払うのでこちらの肉でやって、見せてもらいたい。

 材料持ち込みでの調理。具体的にいえば、持っているボアの肉を満天楼のタレで焼き豚にして欲しい。全部出すわけにはいかないが少しは出せる。実際食べてみて美味しかったし焼き豚はそのまま食べる以外に使い道もある。

 パイ生地。エッグタルトでパイ生地を作っていることを知った、こちらではパイシートなんてものは売っていないので自分で作るしかないかと思っていたが売ってもらえるなら欲しい。

 スープ。プレリアトで、ブイヨンやデミグラスソースを買った理由と同じだ。顆粒タイプの鶏ガラスープもなければ、硬めのペーストが詰まる缶入り調味料もない。手軽に中華味を作るにはベースが欲しい。いわゆる、湯というやつだ。清湯だとか白湯だとか。可能であれば醤も少し、頼みたい。豆板醤だとか甜麺醤だとか豆鼓醤だとか沙茶醤だとか。料理宿と名乗るくらいだから自家製だろうと予想した。

 麺の玉。当初は店に、トンルゥの揚羽屋に他の食材と一緒に頼むつもりだったが満天楼から購入すれば交渉上相殺出来るとのことで頼むことになった。しっかりとかんすいが使われているコシのある麺、何を作るかはまだ決めていないから細さや太さ、ストレートか縮れか、バリエーション豊かに揃えて。ちなみに、パイ生地とスープ類と醤類も相殺となった。



 満天楼の希望はかなり簡単。

 所持している魔物の肉、とにかく売ってもいい分売ってくれ、とのことだ。

 メインはステップバイソンとジャイアントワイルドボア、デスマーリン。ルフは、競売があるから、それ以外で入手すると癒着と取られかねないので控えるそうだ。



 予めユーチェンには手放してもいい量と部位は伝えておいた。厨房に移って指示通り肉を出していく。

「え? 尻尾の方から?」

 デスマーリン、切り分けようとしたら尻尾からだと言われた。

「部位を考えて単価が安くなりますから、量を取るには賢い選択でしょう」

 ユーチェンは本当に細かく、売却交渉を詰めたようだ。尻尾の方でもそこそこの大きさは取れる、満天楼の料理として出すには十分なボリュームだと。確かに、昼いただいた時の魚はほぼ一口大のものが殆ど。例外が胡椒蒸しか。それでも蒸籠に入るサイズだったから、尻尾から切り分けたとしても満たす大きさだ。

 それからステップバイソンの赤の、ウデ辺り。ボアは肩とバラ。枝肉ではないが掃除をしていないので塊を見せて確認しつつの作業になった。

 だが、おかげで肉磨き見学を希望する理由は納得されたし手間賃を払って頼めることになった。その工程で生じる歩留まり、除去した部分すらこの魔物なら価値があるそうで、それも多少欲しいとのこと。そこは売却額とは別に手間賃と相殺することになった。予約客に絞っている為、比較的手が空いているから可能な限り従事してくれるそうだ。料理勝負が近付くに従って忙しくなるので、今はある意味嵐の前の静けさ、とのこと。 

「肉を食いたい若旦那にとっちゃ余分なとこなんだろうが脂は処理すればしっかりいいもんに仕上がる」

「あ、牛脂とかラードですね」

「……知ってんのかい」

 うっかり。

「じゃあ、ルフの皮使ったら鶏油……」

 鶏皮と香味野菜で作る鶏油、ルフなら大量に作れるのではと安直に思ったが。

「それは、鞣しの工程入ってからだなぁ」

 ルフ自体魔法に強い魔物、当然その皮は魔法耐性に優れている。皮は防具や野営道具等に重宝されるとか。

「ルフって全部が食用じゃないんですか……」

「いや、食えるけど食うには勿体ないにも程があるってこった」

「あー……」

 じゃあ鞣してもらおうかなと思ったがそれには日にちが足りない。プレリアトでかなりのんびりしてしまったので、トンルゥであまり長居は出来ない。

「ルフ皮から取れる油は寧ろ燃料としての方が優秀だ。魔石に近い」

 よく燃えて、長く保つと。

「へー、そうなんですね。お肉が食べられるんだから脂も食用かと」

「いやだから、食えるし美味いけど食うよりもっといい使い道があるってこった」

 少量なら滋養強壮にいい脂、大量なら貴重な燃料。そもそもルフの皮がそっくり大きなままで手に入ること自体がまずないと。

「あ、じゃあ、ルフの骨ってガラとしては使えない……?」

 大きな鶏ガラみたいな感じでスープが取れるのかと思ったが、その場に居た全員から凄まじい表情を向けられた。驚愕、理解不能、呆れ、色々だったが、とにかくおかしなことを言ったのだと理解はした。

 ルフの骨も皮同様、細かいものなら出汁にしてしまうこともあるが多くは貴重な素材として使われるそうだ。だから、料理勝負運営団体も買わなかったのか。

「いや、なんか、若旦那が突拍子もねぇってことは、本当によっくわかった」

「えぇ?」

「うちはかまわねぇが、本当に見学するつもりか?」

「解体されてあの状態で渡されるのが普通なら、学んでおいて損はないかなと」

 毎回牛や豚を仕留めるわけではないだろうが参考にはなる筈だ。

「だがよぉ、そんな上等な……」

 交渉は纏まったのにクァシンの父親は何故か渋る。秘匿技術なのかと思ったが、その目線が顔から足、足から顔と動いて気付く。

「あ、勿論このままの服装では衛生的によくないだろうから上からなにか、いや、服をお借りして着替えてしまった方がいいか。あと口と鼻は手拭いで覆って、髪も押さえて」

 袖口が絞れる割烹着みたいなものがあればいいが。

「若旦那、店主の危惧はそこじゃありません」

 ユーチェンもクァシンの父親も、困惑の表情だ。

「? 衛生面じゃなくて?」

 一番大事だと思ったのだが。とりあえず、服装は新品の厨房用のものを全身分、貸してもらえることになった。











 夕食は外で食べ歩きにしてもいいかと思ったがそこはクァシンが既に手を回していたので、満天楼で済ませた。勝手を知らない重郎の孫を外で食べ歩きさせるには付き添いが必須。人員はユーチェンが最適だが、出張から戻ったばかりだ、それに襲撃に晒された少年とその兄を自宅へ迎えたのだから、せめて今夜くらいは早めの帰宅が望ましい。クァシンには謝られたがそもそも謝られるようなことでもない。事情はわかるし己が面倒な存在であることは自覚している。それにクァシンはわざわざ刀削麺の技術を持つ従業員をパフォーマンス込みで手配してくれた。



 夜、入浴やストレッチも終えて信次に連絡を試みた。

『プレリポトから戻る船でございます』

 船、ということは動いている最中、これはいい実験だ。プレリポトから央京まで戻るには船の方が早いそうだ。

 トンルゥに着いたことと、神罰騒動を話しておく。

『さすがに報告書よりは先に知らせておいた方がいいかなと思って』

『……えぇ、えぇ、いち早くお知らせくださってようございました。えぇ』

 信次の返答が随分重い。

『しかし盛られたのが私でよかったです』

 敢えて軽めに言ってみる。

『若旦那?』

『だって他の誰かだったらそのまま提供されて、口の中を傷付けていたでしょう?もしうっかり飲み込んでしまったらもっと悪い』

 本当に、怖いことにならずに済んでよかった。信次から同意は得られなかったが理解はしてもらえた。

『それと、信世さんなんだけれど』

 信世の名を出すだけで信次の緊張が伝わる。蛇のひとだから苦手というわけでもなさそうだが。

 どこまで知らせているのかを訊くと、やはりスターシアのことまでだそうだ。

『今のところはサントルまでにお立ち寄りになる店の主にのみ、神司殿とのことを伝えてあります。年明けには一度すべての店主が央京に集まりますので、その時に事情を伝えるかどうかはともかく若旦那さまに対する誓約はさせる予定です』

 確かに、事情を伝えてしまうと必然的に重郎が界渡りであることも明かされる。しかし知らないのに魂を縛るような誓約を課すのかと思ったら、ある程度の役職にある者は重郎に対して誓約を課しているので追加する程度にしか思われないとか。

『寧ろ大旦那さまのお孫さまについて詳細を知ることが出来ると、待ち侘びていることでしょう』

『うーん……』

 とはいえ今はまだ春だ。今居る中央大陸は地球でいえば北半球に位置する筈。

『年明けって……かなり先だよねぇ?』

『まあその頃には鉄道も開通している予定でございますから、視察や研修も兼ねることが出来ます』

『あ、鉄道で思い出した。車輌よりも大事なことがあって』

 動力は魔石と聞いたが魔石を使ってどの程度の速度が出るものか。

 そもそもこちらでの速度の単位は何だ。

『運転士とか乗務員とか、どう配置するのかと、安全な運行の為の緊急ブレーキ、えぇと、緊急時に減速や停止を運転士の操作ではなく強制的に出来る仕組みなんだけれどそういうものってもう考えられているかな?』

 速度超過による脱線事故は、過密ダイヤに数秒の遅れしか生じさせていなくとも数年に一度、主に人為的ミスによって起きた。どれだけ尽くしてもどこかの僅かな緩みで悲劇は容易く起きる。

『乗務員については運転士とその助手、最後尾の車輌に着く車掌、車輌内乗務員、乗車確認員と、このあたりで検討中でございます』

『あぁ、自動ドアじゃないし、切符の確認も改札だけじゃ厳しいか』

 自動ドア、が信次は引っ掛かったようだ。

『あちらでは魔法や魔力はなくても科学技術が進んでいてね、金属の構造物が日を跨いで空を飛べるのは前にも話したけれど他にも色々とあって。物体が近付けば、ひとりでに開閉する扉や、手動で開く度に閉じた時に施錠されるもの、上や下へと動き続ける階段、床と天井を貫いて縦に移動する箱とかあったんだ』

『そ、それらすべてが、普通に街中にあった、と……?』

『うん。勿論あちらでもそれらに関する事故はあったから一概に便利なだけというつもりはないけれど。使い方を誤れば何だって凶器になる』

 メモを取っているのだろう、伝わってくる気配でなんとなくわかる。そのうち、自動ドアやエスカレーター、エレベーターの図を描かされそうだ。

『はぁ……本当に凄まじい技術力でございますね』

『私から見れば、魔法や聖職者の方の誓約とかの方がすごいけれどね』

 誓約なんて本当にすごい。あちらで存在していたら確実に悪用されていた、いやだからこそ神罰とセットなのか。悪しき思惑で使用出来ないように。

『ひとりでに動くから、物体が能動的に動くから自動、なるほど……』

 単語ひとつに信次がここまで引っ掛かるとは思わなかった。これは、やらかしたかもしれない。

『乗務員についてはいいとして、その緊急ブレーキは絶対に備えてほしいものではあるんだ。出来れば運転士以外に、最後尾から全体を見ている車掌は使えなくちゃならないだろう。発車中に事故が起きた時、いち早く対応出来るのは車掌さんだ。あちらでは動き出す時にはブレーキに手を掛けすぐさま止められるよう用心しつつ発車していたと聞いたことがあるよ』

『なるほど……』

『本当はもっと、走行中の速度を感知して減速させる装置が線路にあったりしたんだけれどその辺はもう私にはわからないから……あったとしか知らない』

『不甲斐なさが心苦しくも、恐らくではございますが、現状若旦那さまがご存知の列車ほどの速さは出せないかと』

『あ、そっか』

 東京と関西を結ぶ鉄道が開通してすぐ二時間半で行けたわけではない。

『線路上に設置するものはまたのちの課題と致しまして、まずは車掌も列車を停止させることが可能な装置を備えます』

 安全に対して妥協することのないよう、現場レベルにまで徹底してもらうようにお願いをした。

『そうだ、試したいことがあるんだけれど、明日少し時間をもらえるかな?』

『若旦那の為でございましたら、いくらでも時間は作りますが』

『いやいや、そんな大層なことじゃなくてね。私が呼び掛ける先を複数指定したらどうなるのかなって』

『………………は、え、ですが』

 信次から戸惑う気配が伝わってくる。

『ほら、私くらいにしか試せないだろう? だから今度、信次さんと、私が世話になった店とを同時に繋いでみようかなって』

 いわゆる、リモート会議だ。まあモニターはないので複数通話なだけだが。

『あの、それは、魔道具部門の連中は理論上可能になる、とは申しておりましたが出来たとしても途轍もない魔力が必要で』

 理論上は出来るのか。

『ほら、やっぱり試せるのは私だけじゃないか』

『若旦那、軽く仰いますけれど……』

『理論上可能なら試してみましょう。明日のこのぐらいの時間でいいかな?』

 渋々ながら信次は応じてくれた。渋々な理由は時間を取られることではなく。

『絶対に、絶対にご無理はなさいませんようお願い致します!』

『わかっていますよ』




このペースでいくとプロットたてた部分に到達するの一年以上掛かりそうで

ほんともうどう端折ろうかと……

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