表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/164

お孫さま、出発準備

本日ふたつ投げます。まずひとつ。

 信次とクリスティア一行を見送って、青藍のところへ顔を出す。外見に目立った違いはないが、風格というか雰囲気が変わっていた。食べさせる用の骨はまだ少し残っているそうだが信吉曰く今朝方ハイグランドエクウスにあがったとか。

「若旦那のご出発の気配を察知したんですかね、今朝方牧場から呼び出されて確認しましたら立派にあがっておりました」

 見ただけでわかる者は少ないそうで、面倒回避の為に青藍は表向き買った当初のまま五つ星グランドエクウスで通して登録情報の更新だけしておくことになった。

「ハイグランドエクウスなんてワイバーンや飛竜よりめずらしいですから」

 青藍はいつも通り、渡してやった葉を美味そうに食んでいる。

「ふぅん……?」

 ワイバーンはドラゴンのような魔物、図鑑で見た。だが龍とは違う。その違いは正直なところ、よくわからない。だがさすがにセルジュに訊くことはしない。猿と人間を同一視した上で人間に訊くようなものだろう。いや、それこそそう考えればいいのかもしれない、ドラゴンと呼ばれる魔物と龍や龍人と名乗る種族。

「若旦那、ワイバーンや飛竜のめずらしさがおわかりじゃないでしょ」

「うん」

 やっぱり、と信吉は笑っていた。希少性、世話に掛かる費用。騎乗用と考え車に置き換えればワイバーンは跳ね馬を冠するあの車くらいのようだ。或いは自家用のヘリコプターか。飛行能力はあるが短時間に限るそうだ。つまり大陸内の移動ならかまわないが海を越えるような移動は無理、と。

 最上級の騎乗用魔物は飛竜、海を越える飛行能力があり、機動力と同時に権力の象徴にもなる魔物だ。あちらでいえばプライベートジェットか。生き物を無機物で喩えるのは、どうにも抵抗があるが。グランドエクウスはワイバーンと同率か抜くレベルでその次に位置しているがハイグランドエクウスとなると、その枠内で語るには少々無理があるそうだ。飛行することはないが自力で宙を蹴り、ある程度空を駆けることすら可能だと文献にはあるが見た者は居ない、と。

「ひとの手にあるグランドエクウスがあがるなんてまあ聞いたことございませんしハイグランドエクウスが捕らえられたなんてのも聞きませんし」

 若旦那の馬なので常識は通用しないと思っておりましたよ、なんて軽く言われてしまう。

「そもそもグランドエクウスがすごい馬だから、そこからあがること自体がとても稀なことだという認識でいいかな?」

 それでようございます、と頷かれた。一応、あがったあとの青藍に乗ってみた、今まで以上に軽やかだった、牧場生活で身体が鈍ったということもなさそうだ。






 さて。色々受け取ったはいいがお裾分けも色々したので改めて持ち物の確認だ。

仕留めた魔物の肉類を整理する。そもそも魔物が巨大なのでお裾分けしたところでさほど減っていない。



 デスマーリン。カジキもどきだ。お裾分けしたり切り売りしたりで少し減ったが元が大きいのでまだまだある、少し重郎へ渡してもらう。これでやっと、四分の一消費出来ただろうか。



 ステップバイソン、牛っぽい魔物の肉。青、赤、茶、緑。重郎へは緑と赤を少しずつ。歳を考えれば脂が強いものは少しだけであとは赤身の方が食べやすかろう。色々な部位をもらっているので使い道を考える楽しみもある。



 ジャイアントワイルドボア。猪っぽい魔物。足やら耳やらは使い方がわからないからあるのは塊肉だ。質はいいが特にめずらしいというわけではないらしいので、重郎へ渡すのは控えた。



 ファングラビット、兎っぽい魔物の肉。魔物の肉の中では比較的ポピュラーだとされるが兎肉を使ったことがないので実はどうやっつけようか迷っている。モモが二本ある。



 灰まだらといわれる、熊っぽい魔物。こちらはめずらしいそうなので渡すことにした。プレリアトの店側としても、肝を本店へ渡すそうだ。これは在庫移動であり重郎が好きに使えるものではないが、多少は重郎個人が買い取るだろうと。それで養生に繋がるのなら寧ろお裾分けにしてもよかったのだが既に書類上店での買取が成立していてそれを反故にする方が面倒だとのこと。それに他の者ならいざ知らず熊の肝程度では重郎個人の懐は微塵も痛まないと。今度からはその辺りも確認して買取に出すか否かを決めよう。



 そして、凄まじい量があるのがルフだ。渡された時、ちょっとびっくりした。

 皮だけでもトラックに積み込むような量があって、更に大きな足と、爪、眼球、嘴、肉、内臓類。魔石は勿論のこと、有難いことに皮の半量つまり一羽分と、腸の類と眼球、嘴は信次がその場で本店での買取としてくれた。魔石は例の鉄道計画に使うし腸は弾力性と頑丈さが様々な道具で活用されるそうだ。鯨の髭が重宝されていたようなものか。そして眼球は薬の材料になったりレンズに加工されたり、嘴は装飾品の素材になるとか。傷も無く光沢も美しいとかで信次はにこにこしていた。骨の量も尋常ではなかった。部位によってはプレリアから北東の国々で重宝されるだろうとのことだ。次の目的地でもあるシャンは動物の骨を出汁に使う、鶏ガラや豚骨のスープだろう。ルフも使えれば買ってもらえるだろうか。信次が引き取ってくれた分を除いて残るのは二羽分の肉と骨と爪と足、腸以外の臓物、一羽分の皮。レバーや砂肝なんかはまだ調理法が浮かぶが、果たして鶏と同じように扱えるのかどうか。その辺りは出汁の受取の時に宿の料理長に訊いてみよう。

 シャンを越えて北側のデュルハルトは海に面した国らしく、別の大陸との交流が深く鍛冶や建築といった工業が盛んだとか。ルフの翼の骨は細さに反した頑丈さ、加工は難しいがしなやかで用途が多いそうだ。ヤマトを挟みプレリアとは反対側のヴァルトフォレも別の大陸と交流があり緻密な細工物が特に有名で、ルフの小骨は工具に装飾にと需要が高いらしい。デュルハルトはアルフの出身地だが今は多少の小競り合いはあるそうだが大きな内乱は落ち着いたそうだ。

 ちなみにヤマト、ヴァルトフォレ、シャン、デュルハルトに囲まれた位置には、エーデハイデ公国があるがこちらはあるがままを受け入れてこそ、といった信条のもと第一次産業をメインに牧歌的というよりは、武骨さを誇りにする国だそうだ。とはいえ他を蔑ろにするのではなく、ただただ己らの生きる道はこうだと主張するだけで華やかさや創意工夫を排斥することはないそうだ。他を害さず、但し狼藉は許さず。肥えてはいなくとも痩せてもいない土地とどこにでもある産業、結果的に武骨さは国を守ることになった。財政を圧迫してまで戦を仕掛けても旨味の少ない国なのだ。永世中立国と宣言しているわけでもないのに自然とそうなりつつある、少し面白そうなので一度行ってみたい。勿論、他の国や大陸にも。



 考えが逸れた。食材の確認だ。

 プレリポトへ行く前に、プレリアトで買った肉も少し残っている。プレリポトで買ったり獲ったりした魚のうち、処理済みのあとは食べるだけ、ヒラメと鯛の昆布締めは信次に渡した。料理長が食べてみて頷いてくれていたから、重郎へ渡してもいいかと思って。時間停止で大容量の収納箱は揚羽屋といえどかなりの貴重品で、そう頻繁に持ち出されることはないらしいので渡せそうなものは渡したい。薬葉も二十枚ほど入れてもらった。

 なので残っている魚は鯛の半身、ヒラメの残り四分の三。切り身のスズキ、鯛、マグロ、貝類、エビたち。

 信次が持ってきてくれたものや信吉が用立ててくれた野菜や麺、調味料といった食材は割愛するとして、メインになりそうなものは以上だろうか。






「え? まだ追加がございますんで?」

 牧場から宿へ戻る道すがら、買い物がしたいと言うと信吉に驚かれた。

「食材じゃないよ。寧ろ食材の為のものというか」

「調理道具でございますか?」

「肉を挽くものが欲しいんだ」

「あー! なるほど!」

 色々料理に使っても切れ端は出るだろうし、困った時はミンチにして野菜と混ぜ焼いてしまえばわりとどうとでもなると思っている。

「宿の厨房にそれっぽいものはあったから、もう少し小型であればと思ったんだ」

 ミートチョッパーらしき器具はあった。動力が手動か魔力かはわからないが。

「包丁で刻んでもいいけれど……」

「え? 挽き肉ってこう、ごりゅっとやるから出来るんじゃ?」

 ごりゅっと。なかなか独特な表現だ。

「まあ概ねその感じだけれど、少量なら手で出来ないことはないよ?」

 細かく切ってあとはひたすら包丁で叩けばミンチにはなる。だが基本的に自分が調理をするのは外、野営の時だ。時間経過を無視出来るので纏めてある程度の量を挽いておけば使いやすい。そうなると、包丁でやるのは重労働だ。

「しかしお持ちの食材や道具を考えたら、本当に旅する料理人ですよ」

「私は素人だよ。ただあちらでは色々便利なものに頼っていたから出来上がりを、知る料理と同じくらいにしようとするとどうしても手間が掛かるだけで」

 シャンに行ったら鶏ガラスープや豆板醤、甜麺醤といったものもあれば欲しい。オイスターソースは見つけたら絶対に買うつもりだ。

「若旦那、素人は、腕くらいの長さがある包丁なんか持ってません」

「いや、それは必要だったからで」

 ひとまず肉挽き機は手配してもらえることになった。こちらでは手でハンドルを回すのが主流だそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ