一方あの頃。 サイラス 2
短めです。
伺っていた野営跡地の確認に赴いた。アトからはなかなかの距離だったが確かに空気は清浄で、薬葉が採れる森も程近い。
「………………」
花々が咲き誇る一角、少しだけ離れて火を焚き夜に備えた。
翌朝。開門を待って冒険者ギルドへ向かう。一般窓口や外商窓口を素通りして、二階の別枠対応の窓口へ向かう。窓口の職員は見ない顔だ。
「Sランク、サイラスだ。冒険者ジュニパーに繋ぎを取りたい」
決まった口上だが職員はきょとんとしていた。
「え? あの、意味が」
「代わります」
すぐに見慣れた職員がその職員の腕を掴んで下がらせた。
「申し訳ございません。研修中の新人でして……」
「新顔なのはわかっている、ここに居たのだから大丈夫かと思ったんだが」
「一階の実地研修を抜け出して勝手にここへ。試用期間中でしたが終わりですね」
下がらされた職員の方を見遣ると、サブマスターが対応している。職員は何故だ何故だと詰め寄っているが、その行動だけで自覚無しだと証明している。
「私は仕事をしようとしただけです!」
「説明もされていないのに?」
「窓口研修は済んでます!」
「一般窓口のはね。君は一般職での応募だ、高ランク向けの業務には携われない」
「え?」
どうやらそれすら知らなかったようだ。
冒険者に別枠があるなら対応する職員にだって別枠があって当然。
「業務の性質が一般の冒険者を相手にするのとはまったく異なるんだよ。高ランク冒険者と顔見知りになりたいと思ったのかもしれないがルールを守れない者は職員にはなれない、犯罪者もね」
「前科なんてありません!」
「うん、マエはないだろうが現行犯だよ。高ランク窓口への侵入は犯罪行為だ」
「は、犯罪? 窓口に立っただけで、」
「これは採用時研修でも一般窓口研修でもやったことだ。高ランク冒険者は機密に関わる情報を扱うケースもある。別枠の冒険者が身上調査を経るのと同じ、ギルド職員も別枠なんだ。相応の情報管理権限が必要になる。現時点を以て君は解雇だ、同時に君の身柄を拘束する。機密漏洩の危険性から手枷と口枷、魔力封じの使用が認められる」
すかさず手枷と魔力封じが、たった今解雇された元職員に施される。
「私はなにも!」
言葉はそこで途切れた。
「君が見聞きしたものどんなものにどんな機密があったか現段階ではわからない、必要だと認められている措置だ」
サブマスターは衛兵への連絡と同時に連行を命じていた。
「………………以上でよろしいでしょうか?」
一連の流れを見せたのは処罰の説明を省く為だろう。
「研修で注意事項を聞いていない。あれは反省しないだろう。告解ではなく誓約にすべきだな」
別枠であり揚羽屋お抱えであり見目麗しいとされる種族。複数の要因が重なり、ああいった手合いは数多遭遇してきた。反省が見込めるなら告解で済ませることもたまにあるが、多くは誓約で戒めた。
「後日ご確認を」
それはつまり希望通りに致しますとの返答だ。
「わかった。で、ジュニパーへの繋ぎを」
「既に呼びました。ですがプレリアトを出ておりましたのでお時間が掛かるかと」
移動中の個人宛に早飛ばしを飛ばせるのはさすがだとしか言いようがない。管理している者の技術の高さだ。
「店に来てもらってかまわない。話は通してある」
「畏まりました」
翌日、本店の大番頭が特別神司を連れてプレリアに入った。初対面だがさすがの迫力だった。プレリアトの手代とは兄弟弟子の関係だそうだが、肝の据わり方から違った。
まず保たなかったのは特別神司をはじめとする、教会関係者たち。これは彼らが神気に敏いからこそだ。龍人セルジュはともかくとして、手代や大番頭は一般的なヒトであるのによく耐えた。中空にて天地を無視して揺蕩うそのお姿に、跪くのを必死に堪え、ただ無言で控えるに徹した。
その後、誓約を済ませ手代と大番頭を残し特別神司を店へと案内した。
「いやわかる、内容の合理性はとてもわかるが、どうして私なんだ……!」
裁量権を持たされることになった店主トーマスは遠い目をしていた。
もうあと一回サイラス視点を挟む予定です。




