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お孫さま、みたびプレリアト

ほぼほぼ説明回です

 プレリアトの検問所では信吉が待ち構えていた。

「若旦那! おはようございます!」

「おはよう、信吉さん。残業しただろうに、ずっと待っていたのかい?」

「頃合いを見て参っております、さほど待っちゃおりませんよ。あぁ青藍、大事にされてるな、よかった」

 青藍も信吉の手は拒まない。まるで自慢するかのように首を撫でさせる。

「牧場の方で青藍をお預かりする手筈を調えております」

「あぁ、それは助かる、厩や獣舎では狭苦しいだろうから」

 畜産部門の牧場へ青藍を預けてから、店へ向かった。






 すぐに奥へ通され、トーマスは挨拶だけで退き茶を持ってきた信吉だけになる。

「トーマスさん、お疲れみたいだねぇ」

「お気になさらず。冒険者ギルドで人事異動がありましてね、寄り合いというか、会議が多くて」

 たくさんあるからあとでカジキもどきの身を少し渡しておこうか。

「まずこちら、図鑑と採取の手引き書でございます」

「ありがとう」

 魔物の図鑑と、植物、鉱物や石の図鑑と手引き書。

「おいくらかな?」

「いえ、お代は」

 ちゃんと取らなきゃだめだと説得しかけたが、番頭からの礼だと言われた。

「かなり危なかったそうなんですよ、嫁さん。ですがいただいた薬葉で、持ち直すどころか結婚前からずっと持ってた不調も消えて前より元気になったって、泣いて喜んでました」

 薬葉とは、あの青藍のおやつの葉のことだ。なんとも大層な呼び名だ。

「へぇ、役に立てたのならよかった」

「僧侶呼んで葬式の準備しろって言われたそうですから。ちなみに、生まれたのは三つ子だったそうで」

 それは、本当にかなり危なかったのだろう。しかし三つ子とはまた。

「三つ子だなんて、さぞかし大変だったのでは」

「えぇ、えぇ、嫁さんのご両親だけじゃなく番頭のご両親にも連絡が行きまして、お着きになる前に持ち直したもんだから今は盛大な祝いの席が続いてるそうで」

 誕生祝いと快気祝いと、色々ごちゃまぜにとにかく嬉しいと、今の番頭は仕事にならないそうだ。

「本来なら直接御礼申し上げるところですが」

「いいじゃないですか。嬉しいことを喜べるのは素晴らしい」

「若旦那ならお許しになると思ってそう伝えてます、その代わりにと番頭が選んだ図鑑でございます。央京の文庫にも同じものがあるかと思いますが」

 見たかもしれないがあそこで調べたのは主に魔法や界渡りについてだ。

「文庫にある書をすべて見たわけじゃないよ」

「よかった」






 冒険者ギルドへ頼んでいたものを引き取りに行く為、サイラスが呼ばれた。

「もう少ししてからの方が混雑は避けられますよ」

 朝のギルドは冒険者による依頼受注の争奪戦が繰り広げられているそうだ。

「街に入る門が開くのが朝の五時、ギルドが開くのもこの時間です。依頼の更新が六時。次の依頼を求める多くは街で夜を明かしギルドが開いたと同時に場所取りをします。大所帯のところではそれを専門にするメンバーを置くほどです」

 割のいい依頼や得意分野の依頼など、競争率の激しい依頼は奪い合いだそうだ。とはいえ依頼の紙に先に触れたものが受注の権利を得るというルールが一応あって滅多に乱闘騒ぎにはならないとか。

「たまにはなるということですね」

「ですから、急ぎでない限りは時間をずらした方がよろしいかと」

 朝五時から六時までの間はなにをしているかというと、昨夜閉門に間に合わず、依頼の報告が出来なかった者たちの受付をしているそうだ。依頼の締切が日にちの指定だけで前日が締切だった場合、朝六時までに報告すれば前日での受付となり、依頼完遂となると。つまりギルドが本格的に動き出すのは朝六時から、五時からの一時間は予備というか、おまけだ。

 勿論依頼の中にはきっちりと時間まで指定されている場合があるので要注意とのことだが、依頼を出すこともあるかはしれないが受注する側にはならないので参考程度に聞いていた。

「なら、サイラスさんには悪いことしましたねぇ。こんな時間からお呼びして」

 プレリアトに着いたのがちょうど六時。争奪戦が終わりつつあり、受注手続きにギルドの受付は混雑している頃の筈。一件一件説明や注意点、依頼によっては推奨ランク、指定ランクがあるのでそこに引っ掛かる受注希望者は弾くこともあって、それでまた揉めれば時間が掛かる。すっかり落ち着くのは九時頃だそうだ。受付が閉まるのも街の門と同じ二十二時だが、検問所の衛兵同様不測の事態に備え職員は当番制で夜間も詰めているそうだ。

「決まった時間に店に来ておりますので平気ですよ。もしよろしければこの機会に冒険者や冒険者ギルドについて疑問がございましたらお話出来ますが」

 それは有難い。早速、今朝疑問に思ったことを訊いてみよう。

「剣を持つ者で騎士でも衛兵でも冒険者でもないのはめずらしいのでしょうか?」

「まったくいないわけではございませんが、めずらしいといえるでしょう。王族や貴族といった身分でしたら嗜みとして剣を携えることもございますが。あとはよく獣や魔物に田畑を荒らされる農家でしたらそれなりに追い払う術を持ちますし中級以上の行商人の中には自衛の為に護身術を習得する者もおります」

 またわからない単語が出てきた、行商人に中級だの上級だのあるのだろうか。

「若旦那、もしや、冒険者にご興味が?」

 信吉が何故か恐る恐る訊ねてくるので首を振った。

「冒険者と思われたから否定したんだよ。その時、驚かれたからね」

「さようでございますか」

「前にも言った通り、私には務まらないしどこにも登録しないよ。私なりに揚羽の重みは知っているつもりだ」

 姓の代わりに名乗るとは聞いたが、揚羽屋の名は大きすぎる。あちらでいえば、常に大企業のCEOの孫だと名乗っているようなものだ。こちらで、揚羽屋何某と名乗れるのは重郎だけだった、そこになにもしていないのに加わった自分。

「説明の中に出てきた、中級以上の行商人というのは?」

「え? あ……行商人に関しては信吉さんの方が」

「はい、ご説明しますよ! いやもう若旦那がどこに疑問をお持ちになるのか最近少し楽しみになってきました」

「あー、つまりこれも一般常識なんだね?」

 信吉は大きく頷いた。

「行商人は商人ギルドの中でも別枠でして、あ、別枠といっても冒険者の別枠とは意味が違います」

 店舗を持たない商人を行商人として扱うそうだ。それはわかる。

「上級中級初級とございまして、違いは主に行商の範囲でございます」

 商人ではあるが冒険者同様回遊業者なので税の徴収だの店持ちとは異なるとか。

「あ、そうだ、税の話も聞きたかったんだった。昨日、分散させないとって言っていたろう? 何のことかなと思って」

「若旦那の税のことでしたら明後日にも詳しい者が参りますので、その者にお訊きください」

 一般的なことを訊きたかったのだが、説明するひとを呼んでくれるというのならその時に纏めて聞いた方がわかりやすいだろうか。だがそうなるとプレリアトでの滞在が数日となる。解体してもらうものもある、移動ばかりではなく少し休憩してみてもいいか。

「なら、宿を取らないといけないね」

「勿論にございます。お泊まりはセルジュさんのところでようございますね?」

 えぇ、と返答しかけたが信吉の言葉は続いた。

「というより他に泊まったらセルジュさんが今のところ無理矢理辞めて押し掛けてきそうなんで是非あそこで」

「あー……」






「ところで、さっき朝の冒険者ギルドのことで出てきた、大所帯ってなんだい?」

「冒険者は単独で行動する者もおりますが、多くがチームを組みます」

 パーティーと呼ばれるとか。一団とか部隊とか、そういった意味だった筈だ。

「利害関係や出身地や種族など括りは色々ございますがパーティーの枠に収まらず多くが集う場合、クランという団体になります」

 それが、大所帯だそうだ。冒険者の中で会社組織を作ったようなものか。

「自分たちでお抱え先を作ったようなものですか」

「そうですね。クラン内のルールもありますし。別枠ランクのお抱えとの違いは、そのルールが社会的に認められているかどうかでしょうか」

 サイラスはプレリアトの揚羽屋お抱えだ、店が禁じることは出来ない。もしその店が禁じたルールを破るよう無理強いすれば、犯罪になる。だがクランのルールは仲間内での決め事に過ぎず、それを破らせることは社会通念上タブーだが、明確な法律があるわけでもなく犯罪にもあたらない。それでも大抵はクランという冒険者集団の力を恐れ、クランのルールは遵守するよう振る舞うらしいが。

「クランはただ集まればいいというわけではございません。設立にはギルドの調査並びに認可を受ける必要があります。パーティーは当人たちの合意と参加や離脱の届を出してさえいれば自由です」

「なるほどねぇ……冒険者にも色々いらっしゃるわけだ」

 サイラスも以前はパーティーを組んでいたが今は一人、組んでいた相手は現在も冒険者ではあるが違う道に進んだとか。

「冒険者のランクを持ちながら別の職に就いている者も多うございますので」

 セルジュもそうだ、バトラーで居ながら冒険者ランクを持つ。意外と多いのかもしれない。

 残る疑問はギルドや冒険者というよりも、こちらでの自然環境というか。まず、お抱え冒険者が野営するかわからなかったので訊いてみよう。

「あの、サイラスさんは街の外で野営をなさったりも……?」

「日を跨ぐようなご指示が出た場合は、勿論」

「あぁ、ならひとつ訊きたいことが」

 野営したあとに花畑が出来ていることを話した。

「風呂があった辺りだから、一気に水を撒かれて芽吹いたのかとも思ったけれど、それにしては成長が早いし」

 何故か信吉とサイラスが固まっていた。

 サイラスは疑問たっぷりに信吉を見て、信吉は下唇を噛んで小刻みに震えて。

「……あれ?」

 失敗したと気付く。だがなにがまずかったかわからない。信吉が盛大な溜め息を吐く。

「若旦那。野営中、風呂に入るのは伴を大勢連れた王侯貴族くらいです」

「あー…………」

 単独で行う野営で風呂に入るなんて、普通ではない。

「ほ、ほら、青藍も居るし」

 そういうことにしておきましょう、と信吉の咳払いでなんとか収める。

「ともかく生態系を乱すようなことがなければいいんだけれど、心配で」

 サイラスが頷いてくれた。

「後ほど確認しておきます。種族柄、草木には強うございます。どのような花畑か楽しみでもあります」

 サイラスはエルフと呼ばれる種族だそうだ。草木に強いのならともらった苗木を見てもらった。ひとまずは鉢植えにして様子を見ることになった。

「若旦那……どうにもこの苗木の若葉、見覚えがあるんですが」

「青藍のおやつの葉の木だよ?」

「薬葉は、栽培出来ないことで有名な植物なんですが……」

「え?」

 そういえば、おやつの葉は取りに行くのが遠いからと高価なものだった。

「なら枯らしてしまわないよう頑張らないとねぇ」

 信吉は溜め息を吐き、サイラスはなにか言いたげに信吉を見ていた。

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