表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/164

お孫さま、慌てる

「さてと」

 食後に珈琲を飲みながら、確認だ。

 まずプレリアトで買ったもの。

 パン。残りは少ない。カンパーニュは一つ、バゲット半分、クロワッサン二つ。ロデヴは食べきった。

 ハム。スライスされたものは今日でほぼ食べた。固まりで買ったものはまだ少し残っている。ハムで思い出したが、ベーコンかパンチェッタを見つけたら買おう。パスタがあるからどちらかは絶対に欲しい。

 チーズ。ハムと一緒にサンドイッチにしてしまうことが多かったが意外と残っている。

 野菜は、生で食べられそうなものが僅か。これはサンドイッチに使ってしまったからだ。ニンジンも青藍にあげていたのであまりない。もしダッチオーブンが手に入ったらキャベツとキノコ、あれば腸詰めを買おう。ポトフだ。ブイヨンはないがそれこそどこかで野営する時にコトコト煮て作ってもいい。今の自分なら液体でも賞味期限を無視して保存出来る。となると、材料をまた考えなければ。種類もまた考える必要がある。野菜は基本として、牛鶏魚、全部あれば便利だが自分に作れるだろうか。

 紅茶数種、珈琲数種。茶葉や豆を買った時にはうっかりしていたが、道具一式、天幕にあった。打飼袋にあったものではないので紋は入っていない。



 次にプレリポトで買ったもの。

 魚介類。鯛は昆布締めと半身、一尾は塩釜用に掃除だけして丸のまま。ヒラメは昆布締めとその残り、全体の四分の三が残っている。あらもある。クエは血抜きが済んだだけの手つかず。

 切り身の魚はスズキ、ヒラメ、鯛、マグロ。

 貝、小粒のアサリはすべて出し殻だ。大粒のものとムール貝は手つかずのままで残っている、どちらも洗面器サイズの籠で二盛り。小さいアサリをたくさん買ってくれたからねとそれぞれ一掴み分ずつおまけしてくれた。小指サイズのエビも同じ籠で二盛り。中サイズのエビは五十本くらい、もう少し大きいのが二十本くらい。たくさん買ってくれたからとエビも余分に入れてくれた。

 料理用ワイン、赤と白を一本ずつ。

 オリーブオイルを二本、穀物酢と白のワインビネガーが一本ずつ。

 昆布、昆布締めにも使ったがまだある。大事にいただこう。

 ハーブはローリエやタイム、セージ等乾燥したもの、バジルやローズマリー等、フレッシュなもの。便利なことにブーケガルニのようなものもあった。これひとつあるだけでかなり助かる。

 スパイス。手当たり次第に買ったといえるだろう。白胡椒黒胡椒は勿論のこと、ナツメグ、カルダモン、クミン、コリアンダー、ターメリック等々。こちらもまた、便利なことにガラムマサラのようなものがあった。記憶を頼りにカレーに挑戦してみたい。

 パスタ類。スパゲッティ、スパゲッティより細めのフェデリーニ、平たいタリアテッレ。それぞれ大きめの束になっていたから何食分かはわからないが感覚だけで推測すれば十食分ずつはありそうだ。ショートパスタは馴染み深いマカロニ、先の尖ったペンネ、蝶を意味するがリボンの方がわかりやすいと個人的には思うファルファーレ、アルフに説明したコンキリエ、螺旋状のフジッリ。それぞれ大きな袋で売られていて、量り売りもしてくれるようだったが面倒なので袋で買った。あとは板状のラザニア。これは紙箱に入っていた。十枚入りのものを五つ。

 小麦粉は、少しは買ったがプレリアトでもっと買った方がいいだろう。ソースを作る、魚にまぶす、生地を作る等用途が多い。片栗粉も出来れば欲しいがヤマト国ならともかくプレリアトでもあるだろうか。

 卵。まだ手つかずなので鶏卵が五十個、魔物卵が十個ある。

 買い足した野菜。ニンニクと玉ねぎは籠盛りで買ったからかなりある。セロリも何本か。残量は把握していなかったが小さめの箱でニンジンを買い足していたのはよかった。パプリカが数個。ポロネギも一箱買った。

 屋台で買ったすぐ食べられるものが、魚の塩焼き串五本、グリルした肉の薄切り大盛り五人前、焼いただけのクレープ生地十二枚。魚は少し値引きしてくれたし、肉とクレープはそれぞれ少しおまけしてくれた。



 外で摘んだもの。青藍のおやつの葉、まだかなりある。野苺等ベリー類はかなり食べてしまった。元々たくさん摘んでいたわけではないが残りは片手に乗せて少し零れる程度。



 整理が出来たので、プレリアトで買いたい物を纏めておこう。

 まずは、パン。トーストに出来るシンプルなパンも欲しい。バゲット、ロデヴ、クロワッサン等食事用のパンと合わせて買い足したい。

 乳製品。バター、ミルク、生クリームもあれば欲しい。ヨーグルトもあれば。

 スパイス。今日サンドイッチを作って思ったが、粒マスタードが欲しい。だが、マスタードは見ても粒入りは一度も見掛けないので恐らくないのだろう。幸いにも白ワインビネガーがあるのでマスタードの粒が手に入れば作ることは出来る。

 調味料。トマトケチャップは探せばありそうだ。ウスターソースもあればいいが自分が思うものと同じかはわからない。

 野菜や果物。考えてみればデミグラスソースの缶詰などは売っていないだろう。なら、あの味が欲しければ作るしかない。ソースやブイヨン作りは野菜をたくさん使うからそれこそ手当たり次第買うつもりで挑んでもいい。そして青藍用に林檎とニンジンは別途用意したい。

 ハム類。普通のハムや腸詰めもだがパンチェッタかベーコンは絶対。

 粉類。小麦粉、用途が多い。あれば片栗粉も。

 調理器具。トライポッド、ダッチオーブン。スキレットもあれば欲しい。炭壺、焼き網、煉瓦、あと、ブイヨンを作るなら寸胴鍋も欲しい。炊飯用の土鍋か釜も。

 出来れば和の食材も欲しいがプレリポトですら山葵はなくてホースラディッシュだった。



 こんなところだろうか。メモを作ったがまだなにか忘れている気がする。まあ、そういうのは今考えても思い出せるものでもない。

「んー」

 まだ寝るには早い時間だ、出涸らしアサリを殻から外していこう。プレリポトで買ったカジキもどきの身を切り分ける為の包丁、他の魔物もあのサイズ感とするとこれからも世話になるだろうと長く使えそうなものを頼んだ。長さは脇差しほどもあり、見た目も刀に似ている。鞘は紫檀、大七枚という高価なものだったので第二口座のテストがてら決済にしてみた。ものは確かだが滅多に売れない大物が値札のまま値引き交渉なしに売れたと店主は盛大に喜びおまけだと言ってペティナイフや貝を剥くへらを付けてくれた。ナイフは玉ねぎに使ってみたが便利だった。へらも今活用している。

 不壊の道具に紋を刻めたように、なんとなくだが付与の仕方がわかる気がする。あとで刀のような包丁、ペティナイフ、へらには不壊と自浄と状態維持とを付けてみよう。もし出来れば道具の破損の心配がなくなる。手入れも研ぎも大まかな知識だけでそう詳しくはない。特に刃物を研ぐには技術が必要だ。

 焚き火の、木が爆ぜる音にカシャ、カシャ、とアサリの殻が重なる音が混じる。穏やかな夜だ。このアサリはなににしよう、醤油があるから佃煮風に炊いてみてもいい。卵もあるし、白飯をサッと炒めて焼き飯にしてしまうのもアリだ。アサリとエビで少し贅沢にしても。

「エビは頭付きだったな……ガーリックシュリンプ……なら油ももっと欲しいな」

 メモに書き足しておく。

「ん?」

 身体を捻って脇に置いてあるメモに向き合っていると、手許からもちゃもちゃとした音が。

「わー!」

 青藍が、剥いたアサリを貪っていた。

「せ、青藍、ぺっしなさい、お前、貝なんて食べて、」

 どうかしましたか、とでも言うように平然と、青藍はまだ剥いていないアサリも殻ごとバリバリ食べ始めた。

「、……し、信吉さん……!」

 慌てて札で呼び出した。

『はい、信吉でござ……』

「信吉さんっ、青藍が」

『若旦那、落ち着いて、青藍がどうかしましたか?』

「アサリを食べたんだっ」

『は?』



 結果からいくと、大丈夫だった。

『若旦那があんなに慌てるなんて、青藍は大事にされてますねぇ』

「だってびっくりしたんだよ……私が知る馬は、殻ごと貝を食べたりしないもの」

『青藍は魔物だってお伝えしたでしょう』

 植物や鉱物の図鑑の他に一般的なことが書かれている魔物図鑑を用意しておくと言われた。

『グランドエクウスは顎も歯も強いんです。牙こそありませんが、噛み付かれればひとの腕なんて一発。喰らい付いたら放さない筋力と岩も砕く頑丈な歯で、大抵の魔物は近寄りもしませんよ』

 強いのは足だけではなかった。

「近寄ってくる魔物も居るのかい?」

『青藍の強さを見抜けない未熟な魔物か、興奮してたり錯乱してたり』

 それなりの魔物は縄張りや餌を争うのでなければ勝てない戦いはしないそうだ。

「海のものを食べてしまったけれど塩分は大丈夫なんだろうか?」

『塊をいくつも囓るわけじゃないなら余分な塩は勝手に出ていきますよ』

「よかった……あとで口の中を切っていないかだけ確認しておくよ」

『いつもの若旦那が戻ってきましたね、腕くらい簡単に噛みちぎれると聞いたそばからその口へ手を突っ込むなんて仰るんですから』

 グランドエクウスは基本的に草を食むが雑食だそうだ。

「肉や魚をやった方がいいのかな?」

『食えるってだけですから興味を示した時だけでいいと思いますよ? こないだは野営の時にって肉をお求めでしたけど、どうでした?』

「焼いて食べたけど、確かに青藍は欲しがらなかったねぇ」

 落ち着いたものだった。明日一度、魚の身を差し出してみよう。

『あ、若旦那、せっかくご連絡いただいたんですからなにかございませんか?』

 なにかと言われても。

『こちらで予めご用意しておくものとか』

「そうだねぇ、また色々買い物はしたいんだけれど、それくらいかなぁ」

『お買い物でございますか』

 トライポッドやダッチオーブンなんかは実物を見た方がいいだろう、主に野菜や粉類、調味料や油などの消え物を頼む。

『若旦那、どんな秘境に行かれるおつもりですか』

「うん。スターシアさんが合流する前にお連れするのは躊躇うようなところを見ておこうかなと思って」

『え、冗談のつもりで秘境って申し上げたんですが、本気だったんですかい?』

「秘境ってほどじゃなくてね、遅れるわけにはいかないから近場で。砂漠と山とで考えて、山かなぁって」

 プレリア共和国を出たあとはシャンに行くつもりだと伝えた。

「まあ、そちらに着いてすぐってわけじゃないよ」

『えぇえぇ、是非そうなさってください。プレリアトへのご到着はいつ頃に?』

「明日には着くよ。最初に野営したところに居るから」

『では詳しいお話はまた明日に』

 信吉はさっき伝えた購入希望の調達先選定に掛かるそうだ。残業させてしまうと心配になったがお孫さま手当てとでも呼ぶのか、自分に関わる業務をしたらその分別途出るそうだ。色々と振り回している自覚はあるので申し訳なさは募るが相応の報酬が出ているのなら少し気持ちが軽くなる。

「本当に世話を掛けるね」

『なんのなんの、そういう名目で分散させないと税金がきついらしいですよ』

 そういえばこちらでの税金に関してはまったく知らないままだ。着いたら訊いてみよう。



 通話を終えて青藍を見ると剥いて別々にした殻まで食べたようで満足そうにしていた。

「出涸らしでも味は残っていたのかい?」

 口の中を確かめてみる、傷付いた様子はない。おやつの葉を差し出すと機嫌良く食べた。

「グランドエクウスのことをもっと勉強するよ。本当にびっくりしたんだからね」

 撫でてやると嬉しそうに目を細めていた。


信吉は、青藍がアサリをもちゃもちゃしたと聞いて勘付いてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ