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お孫さま、海鮮妄想三昧 2

前の話とひとつだったのを長すぎるかなと分けたので、こちらは短めです。

 似たような魚ならあちらでも居た、カジキだ。片手では持てそうにない大きさのリールを備えた逞しい竿で、船のエンジンの力も借りて勝負する巨大魚。だが、今目の前で水から跳ねたのは世界最大といわれるカジキの三倍はありそうだ。着水の飛沫が、飛沫というより水柱だ。

「魚っぽいって、若旦那なにを悠長に!」

 釣り堀の利用客は悲鳴をあげて逃げ惑うし、管理人は飛び出してくるし。暢気に見あげているのは確かに悠長だろう。

「デスマーリンだ! 逃げろ!」

 不吉な単語がついている、やはり魚っぽい魔物だったか。

「僕が時間を稼ぎますから若旦那は逃げてください!」

「え?」

 アルフが氷の槍を何本も出すが嘴のような先端で叩き割られている。管理人や、利用客の釣り人も銛やら魔法やらを向けるがカジキっぽいものは嘲笑うかのように避けたり弾き飛ばしたり。尾で、先端で、桟橋は破壊され細かな魚が飲み込まれていく。

 そうこうしている間に連絡がいったのか、アヴィルダがカトラスを手に屋根から下りてきた。道は釣り堀から逃げたひとで混雑している為、屋根から屋根へ跳んできたようだ。

「アルフよく踏ん張った! ボニーたちが向かってる、もう少し持ち堪えな!」

「うっす!」

「若旦那はそこでなにしてるんだい! さっさとお逃げ!」

 切羽詰まった表情はそれだけあのカジキもどきが危険なのだと伝えてくれる。

「アヴィルダさん、あれは仕留めた方がいい魚なんですね?」

「は? あ、当たり前だろ! あぁ! そうだ、あんた世間知らずだった!」

 心底しくじったといわんばかりに顔を顰められるととても申し訳ないが仕留めるべきなら仕留めてしまおう。

 釣り堀の周囲をさっと確認してから。

「アルフさん、あの辺りには誰も立ち入らないように」

 樽や木箱が積まれる一角を指定し、水面へと足を踏み出した。

「え? あ、ちょっと! 若旦那ぁ!」






 水面を蹴る、草履の裏に不可侵の層を施せば容易いことだ。一歩、二歩、三歩、足袋を濡らすこともない。

 近付く自分に襲い掛かろうと水から跳ねたカジキもどきの剣のような鼻先を踏み付け眉間にあたる位置から斜めに刀を突き刺した。びく、と跳ねたのは一瞬。刀を抜いて血を振り払いつつ両膝を曲げ、思いっきりカジキもどきの横っ面を突き放すように蹴った。

 派手な音と共にカジキもどきの巨体は釣り堀の一角、アルフへ指定した位置へと叩き付けられた。

 中空に残った自分は近くのエリア分けの杭の上へと片足で着地する。



「あー、割れちゃったか」

 樽や木箱は派手に壊れてしまった。人的被害がないだけマシと思ってもらおう。一瞬、しんと静まり返った直後。

「うぉおおおおおおお!」

「えっ?」

 歓声というか雄叫びというか、釣り堀中から溢れた。あまりの勢いにバランスを崩して海に落ちそうになるがなんとか耐えた。

「あ、」

 ふと、足元というか杭の近くにクエが泳いでいた。あのカジキもどきに追われて迷い込んだか。

「アルフさん」

 呼び掛けても聞こえていないのか手を振って、やっと気付いてもらった。水際のぎりぎりまで駆け寄ってくれる。

「若旦那、こんなにお強いなんて聞いてないですよ! それに水の上、走って、」

「クエが居るんだ、これ、釣り堀の中だけど獲っても料金の内かな?」

「へ?」

「釣り堀に居る魚じゃないよねぇ? さっきのやつに追われて入ってきちゃったのかな。まあ別料金だったらそれはそれでいいかな、払えば」

 鯛と同じように獲ればこの近さでは水を浴びてしまう、自分の目の高さ辺りまで転移させて仕留めた。

「バケツお願いします」

「え? あぁ、はい」

 アルフが掲げたバケツ目掛けてクエを放る。

「血抜き、お願いします。何回かしか食べたことなかったから楽しみだな、どんな料理にしよう」

 鍋の季節ではないから刺身、から揚げ、ホイル焼き。オイルとハーブがあるからポワレにするのも。

「えぇ、いえ、血抜きはしますけど若旦那!」

「はい?」

「あれどーすんですか!」

 アルフが背後を親指で示すのは、カジキもどきだ。

「うーん……結局あれは魚かい? 魔物かい?」

「立派に魔物です。ちなみに高級食材です」

「え? あんな大きな海の生き物なのに、食べられるのかい?」

 アルフは大袈裟なくらい、何度も頷いた。あちらでは大きなエイやダイオウイカなどはアンモニア臭がすると聞くが魔素や魔力が漂う世界では違うらしい。

「わー、なら美味しいところを少し欲しいかな、解体は……」

「あ、うちで出来ますよ。元船乗りですから海の生き物全般、強いです」

「頼もしい、是非お願いします」

 ギルドに行かなくて済むなら有難い。アルフは素晴らしい笑顔で心得ました、と敬礼していた。即座に数名がその場でエラに腕を突っ込んでいた。水の魔法を使い血抜きを始めている。

 カジキもどきはあちらでのカジキと同じ料理法でいいのだろうか。かなり大きいから店にもお裾分けできるだろうか。あと釣り堀を騒がせたからあの管理人にも。

「刺身もいいけど、やっぱりソテーかな…………あ、ヒラメ」

 やはり杭の上からの方が魚がよく見つかる。まだ少し離れた位置だ。待てば近くまで来るかもしれない。

「ちょっと待って!」

 そこへ物言いをつけたのは、まったく見知らぬ女だ。騒ぎに対処すべく集まった側のようだが。

「冒険者なら仕留めた魔物はなるべくギルドへ卸すのがルールです、デスマーリンなんて大物、他所へ流すなんて、」

「そのおひとは冒険者じゃないよ。ギルド職員は引っ込んでな」

 言葉を遮ったのはアヴィルダ。

「はあ? 揚羽屋さん、なにを言って、」

 アヴィルダが話してくれるのなら自分は参加しなくていいだろう、地元の話だ。目線はヒラメを追う。

「うちの、商売じゃあない、お客でね」

 一度は言い返したものの女はアヴィルダの迫力にそれ以上言えないようだ。

 釣り堀の管理人が大声で笑い出した。

「おい聞いたか! デスマーリンをひとりで仕留めたあの御仁はアヴィルダさんのお客人だ! 皆手出しすんじゃねぇぞ!」

「うぉおおおおお!」

 どうやらあの管理人はこの辺りの漁師を纏めている人物らしい。

「ちょいとお聞き!」

 アヴィルダが手を叩いて注目を集める。

「言っとくがうちの大旦那さまのお孫さまだからね、下手なちょっかいかけた奴ぁ命がいくつあっても足りないと思いな!」

「………………え?」

 一気にまた場が静まり返った。

 注目を浴びている気配はあるが今はそれどころではない。

「………………若旦那? 若旦那ー?」

「アルフさん、ヒラメが居るんだけれど、あれは料金内かな?」

「若旦那、こっちのことどうでもよさそうですね」

「よそとの遣り取りは地元の店に任せるのが一番だから。それより、ほらヒラメ、大きさも程良いし」

「ヒラメなら料金のうちですよ」

「ならいただこう」

 即座に仕留めた。もうわかっているのか無言でバケツを構えるアルフ、ヒラメを投げる。

「刺身、ムニエル、カルパッチョ、フライも試したい。あ、そうだ、さっきの鯛、刺身と塩焼きの他に昆布締めにもしたいな。アルフさん、昆布は売ってるかな?」

 呆れるにも度を超したのかがっくり肩を落としたアルフは戻ったらまたショットグラスを手にするのだろう。



「売ってますよっっっ! うちへご案内する途中で買えますっっっっっ!」



 揚羽屋の孫は魚好きで自分で調理もこなす、なんて噂がこのあとプレリポト中に広がってしまうなんて、この時まったく考えもしなかった。

「あ、また鯛が居る。二尾居るなら一尾は贅沢に塩釜にしてもいいなぁ」

「若旦那………………」

美味しいごはんが食べたいです。

プロットばかりが進んでしまい、また少し間あきます。ご容赦ください。

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