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元アイドル、ばれる。

元アイドル事務所所属の彼視点です。


 国境をひょいっと越えて隣の国で冒険者になりました、元アイドル三十歳です。



 自分で自分をレポしてげんなりした。三十歳、自覚すると結構ダメージがくる。母親が男と出ていった歳だ。父親はとっくに居なかった。思い出すのはやめよう。二度と会うことのない二人だ。

 ひょいっと越えてなんて言ったけどわりと大変だった。実際は貨物船の乗組員にどうにかコンタクトを取って、城でちょろまかしてきたキンキラを少しだけ渡して乗せてもらって海を越えた。陸地を隠れながら行くよりずっと速くて安全だった。まあ、隠れやすいからって家畜と一緒に詰め込まれたから臭かったしあちこち藁に塗れたけど。

 それも既にどうでもいいのだ、だって今、目の前にあるのは。



「うっま! マジうっま!」

「まあ、いい食べっぷりで」

「おねーさん、マジ美味いよ。これ持ち帰りとかある? 何食分か包んでほしい」

 すぐ用意出来るのは五食分だと言われ、それで頼んだ。

 通りすがりに暖簾がひらついているのを見つけて思わず入った。

「米あるとか超さいこー……」

 食べているのはおにぎり。まさかのおにぎり。米があった、慣れ親しんだ米だ、正しく炊かれた銀シャリ。

 自分よりも前に召喚された日本人が居て、そのひとが広めてくれたようだ。

 奇跡、マジ神、と心で感謝しつつ米を噛み締める。海苔もあるし、聞けば味噌、醤油、梅干し、海苔、鰹節、納豆まであった。海外在住の日本人が求める日本食がまるっと揃ったとすら言えるのでは。

 聞けば元は違う名前だったがヤマト国というのがあって、その日本人と思われるひととその国のお偉いさんが意気投合して、文化が根付いたんだと。お偉いさんが異文化排除とか言わないやわらか頭でよかった、その日本人のひともゼロスタートだろうに諦めず色々広めてくれてよかった、本当に感謝してもしきれない。いつか絶対に行く、ヤマト国。

「アキラ、お前さっき昼飯食わなかったか?」

 呆れた目で言うのはなんだかんだで同行者になった筋肉。あの国から抜け出す時路地裏で出会った。姪の結婚式に出る為里帰りしたが、姪を祝ったあと活動拠点にしていた街に戻る途中戦力を欲しがっていたあの国から出られなくなった。国境を通してもらえず、徴兵すると城の兵士に追われ、ギルドに助けを求めようにも既にまともな職員は追い出されたあとだった。路地裏の隠れ場所を取り合いになって、話してみたら目的は同じ。一緒に家畜臭くなって国境を越えて冒険者ギルド登録もサポートしてもらった。念願の回遊生活者の身分を得た。

 それからもなんだかんだで組んでいる。

 電光石火、素早さメインのオレとタンク系重量級筋肉。わりと相性がよかった。

「米に出会ったんだぞ? なら食うだろ! お前も食えよ筋肉」

 アキラは偽名、本名とはかすりもしない。

「筋肉言うな」

「たくさん食べないと大きくなれねぇぞ?」

「これ以上でかくなるつもりはない」

 同行者の筋肉、実に身長二メートル越え。全身筋肉、逆三角形と言いたいが寧ろエックス。アルファベットのX。首肩腕胸ばっきばきの腹周りガッチガチ、太ももばっきばき。寒冷地に行ったら一発死にそうな体脂肪率たぶん一桁なマッチョだ。このガタイでクソ狭い路地裏に潜伏しようとしてたんだから笑える。

「誓約だの告解だのはいつでも受け付けてもらえるが属性判定は夕方までだ」

「へいへい、これ食って持ち帰り受け取ったら行くって」

 今日は、自分がどんな魔法を使えるのか調べに行く予定だ。







 この世界の教会は宗教施設というよりも聖職者という唯一神認定特殊技能集団と考えた方がわかりやすい。勿論一般公開されない儀式や祈りなんかもあるだろうが外からも見える役割、それが契約の立ち会いや個別カウンセリング、属性判定だ。孤児院とかはしてないらしい。ラノベじゃ定番設定なんだが、アルになんで教会がわざわざ孤児を集めるんだと逆に訊かれた。

 アルってのは筋肉のこと。アルデバランなんたらかんたら。鑑定で一度、名前を見たけど本人が名乗る時、アルデバランだけしか言わなかったからたぶん隠したいんだろうなと思って触れてない。こっちも本名じゃないし。

 ちなみにアルのステータスはこんなだった。



 アルデバラン・ヴェリテ・パセロワ・ヴェッテ

 種族 ヒト

 職業 Aランク冒険者

 レベル 85 

 HP 1528

 MP 213

 STR 3176

 ATK 586

 DEF 314

 INT 294

 DEX 98

 AGI 158

 LUK 47


 スキル

  剣術 斧術 体術 無属性魔法:身体強化


 称号

  生き延びた者


 状態

  健康



 見た瞬間思ったね、脳筋だーー! って。でも脳筋なのに知力は低くないんだ。どうも騙されにくさとか教養とか関係しているみたい。さすがに筋力三千超えは、正直引いた。いやマジ正直になるとドン引きした。鯖折りされたらマジで死ねる。

 ヴェッテってのはあの偽乳王女が居た国の名前なんだけど、関係しているのかもしれないし単に地名だから入ってるのかもしれない。まあ詐欺師とかそういうのが出ているわけじゃないし放置放置。

 ちなみに詐欺師だったり犯罪者だったり、悪い奴の時は鑑定で表示される文字が赤くなるから内容読まなくてもわかる便利仕様。神感謝。

 さて。

 使える魔法の属性を調べる、なんてこどもしかしないのではと思ったが大人でも経験を積んでいたらいつの間にか属性が芽生えていたなんてことがあるらしくそうめずらしいことではないらしい。例えば水の属性しか持たない農家が繰り返し土に触れていた結果、地の属性が追加で芽生えるだとか。



「では、始めます」

 教会の小さな個室で片手に触れられ魔力を流される。

 正直、よくわからないぞわぞわ感で手を振り解きたくなった。

「完了しました」

 今回は神司という役職のひとに見てもらった。聖職者の中で人間がなれるトップらしい。教会のトップは、なんと神。大神官とか大司教とか法王とか教祖とかじゃない。あの、声だけ神。唯一神だけあってけっこうな力があった。

「あなたには突出した適性はありません、ですがどの属性からも嫌われていない」

「ふむふむ。てことは、どの属性もイーブンってことか」

「そうですね、どの属性も等しく学びやすく、学びにくい。適性がある者にはその属性では敵いませんが悲観せず、精進なさいませ」

「ん! ありがと!」



 御礼を言って、お布施も済ませて。

「やったー、全属性頑張れば使えるじゃん!」

「お前……強いな」

 すぐ隣で判定結果を聞いていたアルが微妙な顔をしていた。

「筋肉に言われるの心外なんだけど?」

「普通、適性無しを言われたら落ち込むぞ」

「なんでさ、努力次第で専門家には敵わなくてもそれなりに使えるんだぜ?」

 器用貧乏なんて言葉もある、中途半端ともいう。それでも、別に魔法で天下取るとか思っていないし多少生活するうえで便利ならいいなってだけだ。頑張れば水も出せるし火も出せる。十分だ。

「いや、お前のそういうところ、いいと思うぞ」

「褒められた!」

「だが筋肉と呼ぶな」

「スルーしたから認めたのかと思ったのにぃ」



 個室を出ると、入る時まではなかった白い布が教会の中に敷かれていた。

「なにこれ」

「それ絶対踏むなよ」

 レッカペみたいに敷かれたそれ。

「高位の聖職者が来ている。少し前に神託があって、教会はさる御方を捜しているそうだ」

「神託?」

「神のご加護を受けた者らしい」

「加護ってなに?」

「さあな、俺も内容までは知らん」

 内容じゃなくて、加護の意味を訊いたんだけど。

 アルが跪いて控えたのでそれに従っていると。

「ふあー……」

 現れたのは、銀色の長い髪を靡かせた美人だった。表情を変えることは一切なく淡々とまっすぐにしずしずと布の上を歩いていく。

 見惚れていると頭をさげろとアルから後頭部を掴まれた。

 従う、だから逆アイアンクローはやめれ。

 去っていった背中を見送る。ほっそい。華奢。それでいて凄まじい存在感。

 癖にもなりつつあるが、うっかり鑑定してしまう。この世界、鑑定なんてスキル持っているのは自分だけらしくて、誰にも隠されないし誰にも気付かれないから、つい。



 スターシア

 種族 広域特別神司 担当:中央大陸

 職業 聖職者

 レベル error

 HP error

 MP error

 STR error

 ATK error

 DEF error

 INT error

 DEX error

 AGI error

 LUK error


 スキル

  error


 称号

  神格


 状態

  健康(疲労:弱)



 ステータスの殆どが見えなかった。エラーってなんだ、エラーって。鑑定魔法のレベルが足りないのか。

 そう考えていると白い鎧を纏った騎士の剣が首に貼り付いた。

「魔力の揺らぎを探知した、貴様何のつもりだ」

 やばい。まったく気付かなかった。

「代理の返答をお許しください」

 アルが騎士に頭をさげる。

「許可する」

「この者は今日初めて教会に参り属性判定を受けた者。その判定は、該当無し」

 わざわざ個室で調べてくれた内容をここで明かすのかよ、なんて突っ込みオレはしない。オレは空気を読める子だ。だからバラエティにも呼んでもらえていた。

「不憫だからと広域特別神司殿への不敬は変わりない」

 マジかよ不憫な子扱い。だからアルはあんなこと言ったのか。適性なしで魔法を使うのってもしかしてむちゃくちゃ難しいとか? いや、大丈夫な筈。ラノベじゃイメージが大事ってあった、イメージなら自信ある。いけると思ったら水面だって走れた、だから大丈夫。

「そこがまず、違うのです。この者は不敬を犯したのではなく、該当無しと知って戸惑い、様々に魔力を揺蕩わせたまで。けっして神司殿を害する気持ちは」

「なるほど、確かに該当無しでは戸惑うのも致し方なし。此度は不問とするが次はない」

「重々言って聞かせます」

 騎士が去り、ホッと一安心。

「はぁー……びっくりした」

「それはこっちの台詞だ。神司殿に魔力を放つなんてお前、これからの付き合いを考えるレベルだぞ」

 心底軽蔑するって目で見られる。まさか魔力を探知されるなんて思わなかった。今後は無闇に鑑定するのはやめよう、ばれなさそうな奴でしよう。

「にしても、すんごい美人だったなぁ。あんだけ美人だとやっぱもてるのかな」

 アルがぎょっとしたことに気付かなかった。

「きれいで、歩き方もおしとやかで、んごっ」

 まめが潰れた跡だらけの分厚い手で口を塞がれた。

「それ以上やめろ」

 あぁ、聖職者だからそういうのもだめなのか、と思った。

 無言で、そのまま引き摺られるようにして宿の部屋に戻った。最初は雑魚寝から始まって次が二段ベッドが並ぶ相部屋方式、今は狭くてもアルと二人個室が取れるようになった。オレが椅子、アルがベッドに座る。オレのが小さいから、必然的に

いつも椅子になる。

「お前、界渡りか」

 すんげぇ深刻な顔で言われた。

「違う世界から来たんだろ」

「なんで」

「魔力までは疑問だった。確信したのはお前の言葉だ」

 何を言ったか。

「特別神司は神の欠片ともいえる存在だ。その容姿を判じるなんて愚行は、年端もいかねぇガキか界渡り以外にあり得ない」

「え」

 なんてこった。あの銀髪の聖職者の美貌を褒めたことが、まずかったなんて。

「どうなんだ」

「………………………………」

 ラノベじゃ黙っていた方がいい場合が多い。だが、オレは今、この世界に現実に生きている。ラノベを読んでるんじゃない。これはリアルだ、現実だ。

 頷いて、名前以外を正直に話した。アルは黙って最後まで聞いて、頷いた。

「界渡りってのは世間的には凄まじい力を持つといわれるが実際はそうではない。脚色されたお伽噺を信じる奴が多かっただけだ、都合のいい話を信じたがるくらい情勢が不安だったってのもあるが。それなりの知識があればお伽噺だけのことだと知ってるが今でも界渡りについての勘違いが消えたわけじゃない。ばれないようにしろ」

 アルは付き合いをやめないでいてくれるらしい。

「我が筋肉よー!」

「筋肉言うな! 抱き付くな! あとお前、最初に会った時、俺にもさっきのやつやっただろ、魔力を飛ばすことで何を企んだ!」

「ぎゃー濡れ衣!」

 

最初から時間設定はこうだったんですが、うっかりサブタイトルに仮でつけていた

「一方その頃」そのままでいったあとに(あ、これ語弊があるや)と思って

アキラ召喚当時のサブタイトルを変更しました。


ちなみに、アキラの鑑定は現物を肉眼で見る必要があるので自分自身を

鑑定出来ません。鏡越しもだめ、鏡の鑑定結果が出るだけだったりします。

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