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一方その頃。 プレリアト

 プレリアトでの宿はいつも決めていた。

 妻には見栄を張ってそんな高い宿に泊まるなと言われるがバトラーのセルジュに対応されたと相手に話せば商談もスムーズにいくのだ。

 だがこの日は違った。

 セルジュは既に違う客についているとほざく若い男を追い出して、セルジュ以外いらないといえば誰も来なかった。

 翌朝、受付で文句を言っているとセルジュを見掛けた。

 そこで知ったのは、これまではただただ偶然だったこと。

 バトラーから指定されるには客側の許可も必要だ。だが今まで一度も、セルジュからそういった話はなかった。しかし毎回セルジュがついていたのだからそういうことだろうと考えていた。

 腹立たしさを抱えながら宿を出ると今度は、獣舎に青い馬が入っていた、すごい馬だったと通行人が話しているのが聞こえてきた。

 もしや狙っていたグランドエクウスではないか、揚羽屋の牧場に出向いても見ることすら出来なかった馬だ。金千枚でどうだと言ったら眉も動かさず短く、帰れと言われた。あとから聞いてその五倍の値段がついていたことを知って恥を掻いた。

 獣舎を覗く。馬が居た。セルジュも居る、馬を撫でている若造。



「今日からよろしく頼むよ」



 セルジュの応対を受け、馬を手に入れたのはこいつか。身の丈に合わない行いはここで挫いてやるべきだ。

 だが若造は傍に居る商人に従い完全に自分を無視した。なんという侮辱だ、だが馬が獣舎から出てきて見たのは、揚羽紋の鞍敷き。まさか揚羽屋の関係者なのか。そう思った次の瞬間、聞こえてきたのは。



「そういえば信次さんと信吉さんは兄弟かい? 随分気安いようだったけれど」

「大番頭は兄弟子でございます」



 待て、あの商人よく見れば、揚羽屋の手代ではないか。それが大番頭と呼ぶのは一人だけ、本店の大番頭。それを、この若造は、軽く名前で呼んでいた。

 地面を這うようにして獣舎から逃げた。

 宿の前で、昨夜部屋から追い出した男から出入り禁止を告げられた。

「セルジュにこだわった理由はおおよそ察しが付きますがそれもうちへの出入りが禁止になればどうなることでしょうねぇ。詐欺だと言われてもうちは一切、責任は持ちませんよ。セルジュが指定したと一言も言っておりませんもの」

「詐欺だと? 誰がいつそんなことを」

「セルジュのサービスを受けていると話して信頼を得ていたんでしょう? 指定もされていないのに」

「ぐっ……」

「出入り禁止については叔父も承諾しています。あぁ、申し遅れました、支配人の甥でございます。まだ私でよかったですよ、他の者への暴言でしたら叔父はすぐにあなたを訴えてました。甥の私だから収めただけのこと」

「甥、……」

「それと揚羽屋の若旦那さまに大層無礼なことを仰ったそうで。あの場には支店の手代さんもいらっしゃいましたし今後おたくのご商売うまくいけばいいですねぇ」

「若旦那……!?」

「揚羽屋の大旦那さまにお孫さまがお出来になったんですよ。まさかそんなことも知らないのですか」

「お、大旦那の、孫……」

「それはもう大層可愛がっておられるとか」

「揚羽屋重郎が……?」

「先日もどこかの商会のぼんくらがやらかして、やっとの思いでとりつけた商談の約束がなくなったそうですよ。商会長さんは大層ご立腹で下手に勘当なんかすると逆恨みで更に若旦那さまにご迷惑を掛けそうだと仰って、田舎の別荘に押し込めたそうで。若旦那さまはそれはそれはお優しすぎるのでそういった話は一切お耳には入れないそうです。当然でございますね、そんなことでお心を痛められる必要は、ございませんものね?」

「あ……あ……」








◇◇◇◇◇◇



 冒険者ギルド、解体処理場では職人たちが盛り上がっていた。

 見たこともないような美しい状態で四体もの魔物が鎮座している。

「いやあ、こいつぁ本当に見事だ!」

「非番の奴も家に居るなら呼んでこい。なに? 酒飲んで寝てる? 水ぶっかけてでも連れてこい! こんな機会滅多にねぇぞ!」

「来ねぇ奴は減給でいいだろ、あと持ち場一段階さげとけ。あぁ、あいつはいい、三カ月ぶりに家族揃って嫁の実家行くって昨日言ってた。あそこの嫁さん見た目はおとなしいが旦那のことになるとおっかねぇからな。何年新婚なんだか羨ましい」

「遅くなりましたぁ、なんかすげぇの入ったって聞いたんですけど」

「おう! 見ろ見ろ! しっかり学べ!」



 その輪に入らず、遠巻きに眺めているのはギルドマスターだ。

「皮剥ぎひとつしないひとがいつまでここにいらっしゃるんです? 部屋に戻って決裁いただかないと書類片付かないんですけど」

 辛辣な言葉を掛けてきたのは外商担当の職員だ。

「あれだけのものを前にして、解体手数料以外利益がないんだぞ!」

「自業自得ですよ。規約通りに行動していれば揚羽屋さんだって融通してくれた筈です。それを反故にしたのはギルドマスターでしょう」

「あんな、一回冒険者が暴れたくらいで、」

 続きの言葉は呑み込んだ。

 職員だけではない、解体職人からも注がれる冷たい眼差し。

「今のご発言も本部へ報告致します」

「なに?」

「ご自分でもおわかりでしょう? 揚羽屋さんと揉めたことで、本部の監察対象になっていることくらい。冒険者は存在が武器そのもの、ランクが低かろうと街中でその力を振るえばその時点で犯罪行為。冒険者資格停止若しくは剥奪、永久追放になるところをあなたは自分の査定に響くから人的被害がないことだけを理由に軽い処分で済ませた。揚羽屋さんくらいになればどういう沙汰がおりたか調べますよ、そうしてギルドは信用を失った。自業自得です」

「まさか、本部の、」

「はい」

 外商担当の職員は、ギルド職員とは別の身分証を提示した。

「冒険者ギルド本部監察官室中央方面特別派遣監察官補、登録一〇二八です」

 監察官室の職員はその身元を隠す為、個人名すら明かされない。特別派遣とは、隠密行動に徹する職員。わざわざそれを明かしたということは。

「冒険者ギルド運営執行法に基づきあなたのギルドマスターとしての権限を停止、後任者が決まるまでの暫定処置としてサブマスター及び解体処理班長に代行を命じます。両名の協議をもってギルドマスター権限を行使してください」

 解体処理班長が軽く挙手する。

「俺ぁ先にこっちをやっちまいてぇ、俺の参加は三日後でいいか?」

「勿論。サブマスターとも協議済みです」

「ありがてぇ! よっしゃ、解体に専念出来るぜ!」

「ギルドマスターは随行員が到着次第本部への移動を開始してください」

 随行員とはいうが強制連行の執行官だ。

「精査ののち、聖職者への告解を経て審判が下ります。例のDランク冒険者は既に連行完了しています。叩かなくても埃が出そうな男ですが、あなたとはどこまでのお付き合いだったのか興味深い話が聞けそうです」

「………………くそっ!」

 せっかく、せっかくここまできたのに。プレリアトのギルドでマスターを勤め、五年も経てばサントルのギルドへ移れる筈だった。それが順当な出世コース。

「もう少し下調べしておけばよかったのに」

「なに?」

「プレリアトのギルドはサントルへ入る職員の最終砦、試金石ともいえます。金の回りがよくて危険度の高いダンジョンもないのに魔物が多く住む草原と森を持つ。ここで強烈な篩いに掛けられるんです、わかっていても大抵の者がボロを出す」

「っ……」

 処理場に見慣れぬ職員が五名入ってきた、随行員だ。

 四人で周囲を固められ、残りの一人が監察官補と遣り取りをしている。

「確かに。身柄、引き受けました」

「よろしくお願い致します」



お孫さまの道行きを妨げる者、いちいち結果出さなくてもさらっと本編中の

感じだけで放置でもいいかなと思ったりしてるんですが、どうしたもんかなぁ。

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