お孫さま、冒険者ギルド体験 テンプレに遭遇
これまでも遭遇していた筈ですがお孫さま、自覚なしです。
今回もある意味自覚無しです。
釣果のお裾分けくらいの、軽い気持ちだったのだ。
プレリアトに戻り、信吉の案内で店の裏にある倉庫へ向かった。
紺色の、ブルーと付くから分類としては青か、青の牛っぽいものを出す。
「………………もう一度気絶してもいいだろうか」
「旦那さま、この状況で残される身にもなってください」
トーマスも信吉も遠い目をしている。何故だ。
いち早く我を取り戻したのは信吉だ。
「若旦那、どうやって仕留めなさったんで? 無傷のように見えるんですが」
「耳から一突きしました」
あの刀、血や脂を纏ったまま鞘に収めるわけにはいかないからどうしたものかと思ったが一度振って払えばあっさり元の刀身に戻った。撥水加工というか、そんな感じだ。あれが自浄の付与というやつだろうか。
「一突きって……」
高さが、とか、強度が、とか色々ぶつぶつ聞こえたが最終的に考えることを放棄したように見えた。
「脳も使うんでなければいいんですけど」
よく考えればあちらでは脳を食材とする国もあった。こちらではどうだろうか。
「信吉」
トーマスがやっと復帰した。
「冒険者連れてギルドで解体依頼を出してこい」
「畏まりました」
また冒険者という単語だ。
信吉に連れられてきたのは活気のある建物だった。イメージとしては、西部劇の酒場のような。上と下を隠さないスイングドア、通りからでも中の様子がわかる。随分賑わっている。これがトーマスが言っていたギルドか。確かインストールした知識から職業別に存在する組合のようなものだったと理解しているが。
酒場のような、と思ったのはあながち間違いでもなかった。中に入って正面にはカウンター、用途別に分けられた受付窓口があるが脇に酒場が併設されていた。
信吉は慣れた様子で依頼窓口へ向かう。
「揚羽屋です、解体作業の依頼に参りました」
「外商担当をお呼び致します、お待ちください」
個人ではないから外商担当なのだろうか。
掲示板のようなボードにたくさんの紙が鋲で留められている。ところどころ紙が剥がされたのか鋲だけが残って空いている部分もあった。口入れ屋を連想する。
「めずらしいですか?」
「えぇ、初めて来ました」
同行者は信吉だけではなかった、西洋風の鎧の一部を纏った青年が一緒だ。彼がトーマスのいう、冒険者だ。冒険家ではなく、冒険者。職業としてあるそうだ。
名前はサイラス。プレリアトの揚羽屋で十年働いているとか。
「あそこは依頼を貼り付けてありまして……」
自分で剥がして窓口へ持っていって受注する形式だそうだ。貼りっぱなしなのは受注しなくても成果をあげれば達成となるものらしい。目的物を可能な限り集めて欲しくて期日だけ設定されているとか、とにかくこの魔物を駆除しろとか。あとは宣伝や伝言のように掲示目的のもの。仲間募集、開店告知等々。
「失礼ですが、冒険者としてのご登録は……?」
「まさか。私はただの旅人ですよ」
「ただの……」
サイラスは少し戸惑っているようだった。何故だ。
「おいおい、どこの坊ちゃんだか知らねぇがただの旅人だと抜かしやがるわりにはご大層なもん、提げてんじゃねぇかよ」
サイラスとの話を聞いていたのか、座っているのにテーブルに寄っ掛かるような状態で酒を飲んでいた男が絡んできた。まだ午前中なのにこの出来上がりっぷり。夜勤明けとかだろうか。
「いただきものです」
軽く柄へ手を遣り応えてみた。
「俺が有効活用してやる、寄越しな」
サイラスが関わらなくていいと耳打ちしてくる。
「少し前にも青藍を寄越せと言ってきたひとが居たんですがこちらではひとが所有するものを強奪するのが一般的なのでしょうか?」
サイラスに問えばかなり驚かれた。
「まさか。犯罪です。すぐに衛兵か我々にお知らせください」
なるほど。法には触れるようだ。
「なにぐちゃぐちゃ話してんだよ! 寄越せっつってんだろ!」
男は声を荒らげ立ちあがるが、同時に頭を掴まれテーブルへと潰された。
「大変失礼した。こいつにはよく言って聞かせる」
新たな人物、彼は素面のようだ。顔は隠していないが西洋風の鎧を着けている。
「ぶへぁ! なっ、なんであんたが!」
酔っ払いの顔見知りのようだ。素面の男は酔っ払いの言葉には耳を傾けず謝罪を続けた。
「聞かなければ腕でも足でもへし折ってわからせる」
「なにを、勝手に! いくらあんたがAランクだからって!」
テーブルに頬を押し付けられたままの酔っ払いが吠える。
「Dランク維持がぎりぎりのお前では到底敵う相手じゃない。第一、この方が誰と入ってきたか、傍に居るのが誰か、見えていないのか」
「あ? 金持ちにごまをすって貼り付く低ラン………………え」
酔っ払いはサイラスの顔を見て、言葉を止めた。
「サイラスさん。AとかDとかは階級かなにかですか?」
「はい。冒険者の世界は実力でのし上がっていくものでして、指標としてギルドが認定するランクがございます。依頼達成の内容と実績、別途行う試験の結果で昇格するか決まります。規定ランクの依頼を達成し続けることで維持は出来ます」
「運営側がその資格があると保障するのに最低限の実績は果たしておけということですね」
「はい。見習いから始まりEからA、Aより上はまた別枠があります」
「別枠ですか」
「はい。身分ある方々からの指名依頼などの兼ね合いで、ただ実力があるだけではあがれません。身上調査と教養のチェックが入ります」
私邸にも立ち入り、機密を知ることもある。どこかの間諜ではないか、身持ちを容易く崩さないか、親類縁者に怪しい者は居ないか、厳しく調べられるそうだ。
「冒険者の方にランクをお伺いすることは失礼にあたりますか?」
「基本的にはあたりません。極端に上か下かだと隠すこともありますが名前と共に名乗るくらいにはオープンな情報です。ちなみに私はSランクです」
「AからEではないから、別枠の方なんですね」
「はい。ご興味がおありでしたらこの機会にご登録なさいますか?」
「遠慮しておきます」
「若旦那さまでしたら別枠からのご登録でしょうに」
サイラスは惜しんでくれるが、世辞なのはわかっている。
信吉が戻ってくる。
「おや、そこで潰されてるのはうちの依頼を受けたくても受けられなくてわざわざいちゃもんつけに来て出禁になったDランクのおひとじゃございませんか。まさかうちの大旦那さまのお孫さまにまで因縁つけたんです?」
めずらしく、信吉が嫌味たっぷり蔑んで、酔っ払いを見下ろしていた。
「へっ? 孫?」
「豪胆なおひとですよ。ステップバイソンの赤を一撃で仕留める若旦那さまに因縁つけて、揚羽屋全店を敵に回しなさるなんて」
絡まれたあとから視線を集めていたのはそれなりに気付いていたが、今の信吉の言葉でがやがやと賑やかだった建物内がしんと静まり返った。
「一撃……?」
酔っ払いの顔が青い、具合が悪くなったのなら一度吐いてしまった方がいいが。
「言っただろ。到底敵う相手じゃないし、入ってきた時の伴は誰か、護衛は誰か」
「あ……あ……」
テーブルに頬をつけたまま、酔っ払いは震え出した。急性アルコール中毒では。だが素面の方が知り合いなら初対面の自分が言うのは差し出がましいか。そもそもギルドの建物内だ、組合のようなものなら職員も居る筈。
「だからうちの依頼は受けられねぇんですよ。うちはランクが低くても認める方は認めてますから」
あの信吉がここまで言うからにはこの酔っ払いは過去相当なことをしでかしたのだろう。
「信吉さん」
「若旦那、お待たせしやした。場所も職人も空いてるからすぐにでもとのことで、本来若旦那さまにお運びいただくような場所ではねぇんでございますが解体処理場までご一緒に、よろしゅうございますか?」
「勿論」
信吉とサイラスに促されその場を離れた。
「あのひと、大丈夫だろうか?」
「自業自得ですよ」
「無茶な飲み方をしたんだろうねぇ、あんなに青くなって、震えまで出ていたよ」
何故か信吉とサイラスが顔を見合わせ立ち止まった。
「自分の酒量は弁えないとねぇ」
夜勤明けで気が緩んだにしても、疲れている時の深酒は危険だ。
「…………若旦那、この信吉、本当に色々心配になってくるんですが」
「え? どうして?」
溜め息だけが返された。
書き溜めた分が途切れる前に続き書いては投げて、と
撮って出しみたいな感じでやってましたが
プロットばっかり進んで清書も推敲も追い着いていないので
今後不定期になるかもです。ご容赦ください。