俺をえっちなイタズラでからかうのが趣味の幼なじみから、《10,000pt貯めたら初○○○》と書かれたポイントカードを渡された
手短に自己紹介を済ませよう。俺の名前は唐川 礼央。高校二年生だ。
名前の響きが「からかわれろ」に近いと思った人。それは正解かもしれない。
夏休みに入った直後にエアコンが壊れてしまったせいで、灼熱地獄と化した俺の一人部屋には、美人の幼なじみがベッドに寝転がりながら漫画を読み耽っている。
そう。この幼なじみが俺をめちゃくちゃからかってくるのだ。
無造作にツインテールに結わえた子供っぽい髪型だが、悔しいことに美人でかつスタイルも良い。そんな幼なじみの名は円堂 詩音という。
「おーい礼央。詩音お姉ちゃんが良いモノあげよっか?」
「誰がお姉ちゃんだ。同い年で同じクラスだろ。良いモノってなんだ? 金か?」
詩音にはもう散々からかわれているので、俺は心を無にして返答する。
俺の回答を聞いた詩音は、意外すぎる変化球を返してきた。
「中々良い線いってるかもね! 金、暴力、それに匹敵しそうな享楽ですよ」
「セックス……だと……!?」
扇風機だけが頼りの灼熱地獄のなか、俺は過激な単語に反応してしまった。
すると詩音はあっさり漫画を読むのをやめて、ドヤ顔を見せてきた。
「恋人いない歴=年齢の礼央には、ちょっと刺激的すぎたかな?」
「う、うるせえ。詩音だって恋人いない歴=年齢だろ」
「まあまあ。私が手作りしたポイントカードを進呈してあげるからさ」
「ポイントカード……?」
詩音が胸を強調するように(実際に大きいのがまた悔しい)胸のポケットから、名刺サイズのポイントカードを取り出して、俺に手渡してきた。
そのポイントカードにはなんと《10,000pt貯めたら初S○X》というエロそうな規約が書かれていた。
幼なじみの詩音はいつもこうだ。今日も平常運転である。
恋人いない歴=年齢の俺を、あの手この手でからかってくるのだ。詩音だって、恋人いない歴=年齢なのにな! というか《10,000pt貯めたら初S○X》だと?
「こんなの絶対サックス(Saxophone)か、ソックス(SOx:硫黄酸化物)だろ」
「礼央……。どうしてそんなに穿った見方をするの? 普通にアレだよ」
「……普通にアレって何だ」
「幼なじみが幼なじみをプレゼントしてあげる的な。これは絶対嬉しいでしょ! チキンな礼央くん、喜びたまえ♪」
「ま、待てって! 俺をからかうにしても限度ってもんがあるだろ!?」
どこまで本気か分からない詩音のからかいに、俺は思わず動揺してしまう。
真夏日で死ぬほど暑いなか、汗ばんだ詩音の姿が妙に艶めかしく感じる。
俺の密かな動揺を知ってか知らずか、詩音のからかいは止まらない。
「10,000ptのptはポンコツチキンの略だから、さっそく礼央に500ptあげるね!」
「ポイントもいらねえから! というかチキンの頭文字はCだ!」
「500ptにつきスタンプ一個となります。さあ10,000pt集めてS○Xだ!」
聞く耳持たない詩音は、S○Xカードに小さなスタンプを押した。
あと9,500pt(スタンプ19個)分でS○Xらしい。S○Xって何だよ。
ぶっちゃけからかってこなければ、詩音は異性として好きな部類に入るのだが、残念なことに詩音は、俺をからかうことにイケナイ喜びを感じているようだ。
「ねえ礼央ー。この部屋、暑すぎだよね」
「エアコンが壊れたんだから仕方ないだろ。夏休みなんだし、どっか出かけろよ」
「そうだね。ラブホに行こっか」
無駄に大きい胸の谷間をチラ見せさせながら、詩音は俺のことを煽ってきた。
俺が何をしたっていうんだ。唐川礼央という名の通り「からかわれろ」っていう定め、運命なのだろうか。
「礼央も私も制服姿じゃないし、いけるっしょ! さあさあ、レッツゴー♪」
「お、俺を誘うんじゃねえ! どっか適当なイケメンでも誘ってこい!」
「チキンすぎてウケる。草ですよ、草。500ptですねコレは」
「いや、だからチキンの頭文字はTじゃなくてCだぞ」
「スタンプ押すんで、カード提示お願いします」
「もう勝手にしてくれ……暑い……」
詩音は二個目のスタンプを押して、合計1,000ptを進呈してくれた。
当然の如くラブホに行く気はない詩音が、今度はこの部屋の窓から微かに見えるコンビニを指さした。
「礼央、礼央! コンビニでアレを買って、アレをしよう!」
「お前……マジで言ってるのか? 暑さで頭がやられたのか……!?」
「暑いからこその発想だとも! 暑いからこそ良いってもんじゃないかな!」
やはり暑さで汗ばんだ詩音のことが、悔しいが艶かしく見えてしまう。
というかそもそも、艶かしいこと言ってないか?
「コンビニでアレを買うのか? 誰が買うんだ。そんな使いもしない物を」
「使う? 飲むの間違いじゃなくて?」
「ご、ゴムを使わずに飲むとか、いくら幼なじみだからって発言が過激すぎだろ」
「ちょっと待った! コンビニでジュース買って、乾杯しようって意味だけど!?」
「……そういう意味か! 妙な誤解をした! 何ていうか、その、すまん!」
言葉の衝突事故で無事死亡した俺たちは、暑さによる火照りではない頬の紅潮に襲われることとなった。
自分のペースでからかえない時は赤面するのか……と思っていたところ、詩音に無理やりポイントカードを強奪された。
「い、今のはポンコツすぎでしょー! 2,000ptってことでスタンプ4つ!」
「もうどうとでもしてくれ……マジで暑い……」
合計で3,000pt溜まった俺は、あと7,000ptでS○Xである。
もはやS○Xって何だよという疑問すら考えるのが面倒になってきた。暑い。
不幸は一挙に押し寄せるものなのか、この部屋以外のエアコンも壊れている。
冗談抜きでコンビニでも何でも良いので、どこかへ涼みに行きたい。
この酷暑で詩音も同じ思考に至ったらしく、コンビニに出かけることにした。
ここまでからかわれ続けた俺だが、詩音は一つ良い提案をしてくれた。
「おーい、礼央。私がおごってあげるから買い物カゴは一個でいいよ」
「マジで? 今月小遣いがカツカツだから素直に助かる。礼を言わせてくれ」
「そのかわりカゴは礼央が持ってね。あ、この雑誌はエロ本じゃないよ」
既に買い物カゴに放り込まれていた雑誌を指差して、詩音は笑みを零した。
それに釣られて俺も笑った。実はエロ本を俺に買わせるのかと身構えていた。
幼なじみとはいえ、こうして気楽に話し合えるのは貴重な仲である。
「俺はサイダーにしようかな。詩音は何のジュースを飲む?」
「えー。私もサイダーが良いんだけど。1リットルのやつ回し飲みしようよ」
「間接キスになるぞ? もう高校生だし俺は気にしないけど良いのか」
「ちぇー。全然ポンコツチキンな回答じゃないなー。もう会計してきてー」
お気に召さなかった様子の詩音から財布を受け取った俺は、買い物カゴをレジのカウンターに乗せた。
女子高校生らしきバイトの店員が、レジ袋に雑誌とサイダーを入れていく。
しかし雑誌の裏に隠されていた箱上のモノを見た途端、俺も女性店員も赤面することになった。
箱上のモノなんて形容をしてみたが、0.01なんて書かれたコンドームである。
まんまと詩音に謀られた。しれっとこんなイタズラを仕込んでいたとは。
ここは行きつけのコンビニなのだ。慌てて俺はバイトの女性店員に弁解する。
「あ、あの! コレは違います! まっ、間違えたので棚に戻しといて下さい!」
すぐ真後ろを振り向いてみると、満面の笑みを浮かべる詩音が立っていた。
憎らしい笑みだが、普通に美人なのが悔しい。ツインテが似合う美人。許さん。
コンビニ店内ということで、詩音は耳打ちという形で俺に話しかけてきた。
「へっへっへ。3,000pt進呈でーす♪ 合計6,000ptですねー」
「恥ずかしいから店の中でptとか言わないでくれないか」
「はい、今のもポンコツチキンということで、500pt進呈でーす♪」
「詩音だってこのコンビニは行きつけだろ……。どんだけ強い心臓してんだ」
これにより計6,500pt分のスタンプを、店の外で押されることになった。
ゴム以外の買い物を済ませてきた俺たちは、再び灼熱地獄の部屋へと帰還。
サイダーの回し飲みを茶化されたくないので、さっさとコップに移し替えた。
「ねえ礼央。ゴム買わないとか勇気あるね」
「まるでこれからセックスするかのような言葉は掛けないでもらいたい」
「まあ冗談はさておき……。暑いから上を脱いでも良いですか」
「よろしくないですよ。絶対に脱がないでくださいね」
「うるせー礼央! 乙女のブラを見やがれー!」
詩音が本当に着ている紺色のTシャツを脱ぎ出したので、俺は悲鳴を上げる。
俺をからかうためなら、ここまでするのが詩音という女なのだ。
「や、やめるんだ! 脱がないでくれ、お願いだ!」
「いやまあ、見せても良いやつと思って運動用のスポブラにしたんでお構いなく」
「お構いなくって無理だろ……ってあぁあー! マジで脱ぎやがったー!」
見せても良いやつと本人が言うだけあって、色気のない灰色のスポブラだった。
なのだが、相変わらずスタイルは良く、胸の谷間がよく見えてしまっている。
クラスの男子が見たら大喜びするんじゃないか? 恐ろしい女である。
「お、おまっ……お前、俺をからかうために、マジでそこまでするのか!」
「めちゃくちゃ顔赤くなってて草。3,000pt進呈してあげよう」
「……もはや打つ手なしかもしれん。暑さで何も考えられん」
ひとしきり満足した様子の詩音は、もぞもぞと紺色のTシャツを着直した。
そしてS○Xポイントカードに残された空白欄は、残り一つとなった。
あと500ptでS○Xなので既に危険水域だ。詩音にはさっさとご退場頂こう。
「俺の部屋、暑いだろ? もう自分の家に帰れって」
「おおっとぉ! 残り500pt でS○Xってことにビビったね! これはポンコツチキンですね! 500pt進呈でーす♪」
「くそっ、そうきたか!」
「じゃあポイントカードにスタンプを押してっと……。これで《10,000pt貯めたら初S○X》達成だよ! いやあ、おめでとう礼央くん!」
「おめでとうかどうかは、S○Xの正体が何かによるな」
観念してS○Xを受け入れる覚悟を決めた俺。
俺をからかうことに喜びを見出している詩音のことだ。
もしかしたらマジで○EXとか言い出しかねない。
「やっぱり気になる? S○Xの正体!」
「そりゃあ……金、暴力、それに匹敵しそうな享楽ですよ。なんて言われてるし」
「まずSとはShion、つまり私の名前、詩音のことだよ」
「おっと、頭文字でいくのか。やったぜ。それならS○XがSEXでも安心だ」
円堂 詩音の恐ろしきからかいは、今日のところはこれで店じまいらしい。
俺はほっと胸を撫で下ろして、続きの説明を拝聴する。
「続いて○だけど……なんとEです! ドキドキしちゃうね!」
「いや、どうせEはEndou、苗字の円堂って流れだろう」
「おおー! 正解だよ礼央! さすが幼なじみだね!」
「最後のXだけは分からんから解説頼む」
Shion Endou Xほにゃらら。さて、Xに何が入るのか楽しみだ。
Xから始まる英単語なんてそんなにないぞ。ここから俺をからかえる訳がない。
詩音はニヤニヤとした笑みを浮かべて、声高らかに最後のXの説明をする。
「Xはー……X-ratedでーす!」
「え? それって成人向けとか猥褻な……って意味じゃねーか!!」
「金、暴力に匹敵するShion Endou X-rated(成人向け円堂 詩音)を進呈します」
「待て! X-ratedって形容詞だったはず! 語順はX-rated Shion Endouだ!」
「その慌てようは大草原ですよ。今のだけで10,000ptあげても良いかも」
「誰だって焦ると思うのだが。(残念)美人だからな、詩音は」
俺がポンコツチキンだからいいようなものの、今日のからかい方は少し過激すぎやしないかと思う。ちょっといつもと違う気がしてきた。
「まあ、俺をからかってるのは分かるんだけどさ。他の男子には絶対こういうことしない方が良いぞ。100%勘違いするだろうから。危ないぞ」
「心配してくれてるの? 大丈夫大丈夫。礼央にしかしないって。そもそも今日はからかったんじゃなくて、幼なじみって仲から一歩踏み出してみない? っていうお誘いだし」
「……え、何それ、告白?」
「まあ告白と受け取っても良いし、からかってると受け取っても良いけど」
悪戯っ子ならぬ悪戯美人な詩音が、珍しく頬を赤らめて俺から視線を逸らす。
まさかの展開に、部屋の温度がまた一段と上がったような錯覚を覚えた。
正直なところ、からかってこない今の詩音は、かなり俺のツボである。
冒頭でも述べた通り、いつものからかい癖がなければ、詩音は異性として好きな部類に入るのだ。
だがやはり俺は、詩音が言うようにポンコツチキンなのかもしれない。
ポンコツチキンらしい返事を思いついてしまった。
「こういうポイントカードの特典って当たり前だけど、所有者が特典を欲しいって思った時に利用するもんだよな」
「まあそうだね。ポイントカードの実施店が勝手にポイント使う訳にいかないし」
「ふむ。じゃあ10,000pt溜まったこのスタンプカードをいつ使うかは俺次第か」
「な、なんだってー! じゃあ使用期限は明日まで!」
「それなら明後日まで放置かな。無念、Shion Endou X-ratedポイントカードよ」
「ぐぬぬ、三日三晩寝ながら考えた作戦が〜! 礼央の鬼、悪魔、ポンチキ!」
「ポンコツチキンを略すんじゃない。コンビニで売ってそうな響きになる」
「うっせー! 礼央のこと、これからポンチキって呼んでやる! 覚悟しろ!」
詩音は悔しそうにサイダーを一気に飲み干して、帰り支度を始めた。
俺の本心はといえば、幼なじみから言い寄られて正直ドキドキしたのだが、いざからかわれなくなると詩音っぽくないので、それはそれで寂しく感じてしまった。
だから今のような返答の仕方で現状維持する方を選んで良かったと思う。
などと考えていたら、詩音がいつもの悪戯っ子っぽい笑みで声をかけてきた。
「ねえポンチキ」
「いや、さっそくポンチキ呼びするんかい」
「じゃあポンコツチキン♪」
「どちらにせよ悪意を感じるのだが!」
「ポンチキくんの叫びは置いといて、新たなポイントカードを進呈してあげるね」
「……え?」
まさかの追撃で、新品の手作りポイントカードを詩音から手渡される。
戦々恐々としながら確認してみると、またもや《10,000pt貯めたら初○》という何だかエロそうな規約が書かれていた。
思わず首を傾げながら詩音の顔を見てみると、見事なドヤ顔を浮かべていた。
「その○の欄だけどね。今度は礼央が自由に単語を入れていいから」
「なん……だと……!?」
「初めてのことだったら何でもしてあげる魔法のポイントカードってこと。これは絶対にえっちなことに使われるね! 私の身が危ないかも♪」
「うん、危なそうな単語を初○に入れよう」
「きゃーっ! 礼央がついに男を見せるかー!? どんな単語を入れるの!?」
「初陣」
「はい? ういじん? 初Hとかじゃなくて?」
「《10,000pt貯めたら初陣》だ。自治会のソフトボール大会に俺と共に出るんだ」
「地味に重労働! あ、ちょっと! ポイントカードに何してんの!?」
俺は油性ペンで「○」に「陣」と書き込み、《10,000pt貯めたら初陣》ポイントカードを爆誕させた。世にも奇妙なポイントカードである。
この所業に詩音はわなわなと身体を震わせながら、俺の両肩を掴んできた。
「せっかくの初Hポイントカードになんて書き込みをー!?」
「なんだそのエロすぎるポイントカードは」
「やはり礼央はポンチキだ! 10,000pt決定!」
「さっそく10,000pt達成か。じゃあ来週のソフトボール大会に参加決定だ。初陣を勝利で飾ろうな」
「ふ、ふ、ふざけんな、このポンチキー!」
俺をからかい損ねた詩音は、両肩を掴むのをやめて胸の辺りを叩いてきた。
我ながらポンコツチキンな対応ではあるが、幼なじみの詩音とずっとこうやって莫迦なことを言い合ったりする為の必要な対応だ。
一人満足感に浸る俺の胸をぽすぽすと叩く詩音を見ながら、俺はこの悪戯美人な幼なじみとの仲が続くようにと密かに願うのであった。
お読み頂きまして、誠にありがとうございます。
数ヶ月ほど体調不良が続いて筆を置いていたので、肩慣らしの習作になります。
前作ラブコメ・完結済み作品
「陽キャ美少女の裏アカを知ってしまったが、何故か俺の事ばかり呟いている」
ではピュアなラブコメが読めますので、もしよろしければそちらもどうぞ!




