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恋に金棒  作者: ねっしー
8/13

熱い涙

 ずりずりと体が落ちる感触が背中であったので、そっと手でお尻のあたりを持つ。するとマショマロのような感触と共に、形を変える二つの肉がございまして、それを持つのと同時に「あぅ♥」などと耳元でささやかれるので、これはたまらないと思った。大股を開けてこりこりと恥骨を腰に押し付けられ、背中中央には何か突起のある二つの固まりがムニっと形を変えている。


「おねえさん、いけません」

「い、け、ず。なぁ」


 耳をハミハミやられて、咥えたまま引っ張られ、耳たぶをやけに熱い舌が這いまわる。それを止めないでいると耳の穴の中にまで舌が入って来て、小さなタコがのたうつような感覚がした。脳ミソを直接なめ回されるようなともたとうべきそれは、じゅるじゅると音を立てて吸い、思わず変な声が出た。その様子を見ていた研究員たちは悲鳴を上げて階段で転び、我先にと地上に戻る。だが、逃げ遅れたもの、あるいは見とれている者がまだ数人いて、目を真ん丸にし、股間を膨らませてこちらを見ている。

 このまま振り返って下へと戻れば、見られてしまうのだ。お姉さんのケツが。


「犬に戻ってください」

「なぜだい?ここを硬くしておいて、それで満足?」

「見られるのは、嫌でしょう」

「……わかった。でも、見てはダメ」


 少ない間で把握したらしく、後ろで支える手の中で、女の尻が、もさもさと毛の生えた獣の物に変わる。首筋を舐めていた熱っぽい舌先は、長く冷たい物に変わって、プ二プ二とした女性の頬が、毛皮に覆われた髭の長い犬の物に変わる。階段に出来た影には、ふりふりと機嫌よさそうに左右に振られる尻尾があって、彼女が犬に戻ったのを知る。

 くーんと甘えるので、よしよしと頭を撫でて、階段を下りた。


 地下は空気が悪いようで、息がしづらい。それはなにも巨大な犬を背負っているからだけではあるまい。ひしゃげた檻の下に入ると、下ろしてもらいたいのか背中をゲシゲシと蹴り始めた。そっと床に下ろすと巨大な犬は腹ばいに横になって、自らの赤い前足をベロベロと舐める。可哀想にまだ痛いようで、尻尾がぱたりと床に落ちた。きっと薬を持ってくるからねと約束する。


 彼女はこの地下から出ることを許されないらしい。それはこの檻を見るに明らかで、何か酷いことを過去にしたのかもしれないと思った。それでも怪我はかわいそうだ。

 檻を出て行こうとすると、手を引かれる。それは女の手。柔らかで温かいその手が手首をギュッと握って離さず、首筋にはまた甘い息がかかる。


「眠れない夜はぁ、私の元においでねぇ」

「……はい」

「きっとだよ」


 いいえと言ったら、俺はどうされていたのか。足の間に見えた彼女の影はまだ、狼のように長い後ろ爪と、長い尻尾をそのままにしていたのだった。


 牢屋から物理的に後ろ髪を引っ張られながら出て行き、左に曲がって京子のいる個室に向かう。今日の仕事は彼女に話を聞くことにあった。それにかこつけて、自分よりも若い娘に声をかけるのはいささか気が引けたが、随分と綺麗な容姿の京子は、すでに高広の心のうちに巣食っていて、話したい、あわよくば仲良くなりたいという気持ちが勝っていた。


 しかし異変が見受けられる。


 例の透明な扉は、半ば壁から外れて反対側の壁へと立てかけられるようにしてそこにあった。ちょうど通路を塞ぐようにして外されているのだ。

 それを止めていたと思しきボルトは根元から寸断されて、銀色の断面を覗かせている。直径4cmを越えるような見たこともないボルトである。数百キロ、あるいは一トンのせん断応力にも耐えられそうなそれが、根元から。


「お、おはよう」


 京子は毛布にくるまって布団の上にいた。丁度芋虫みたいだ、と思って先ほど座った椅子に座ろうと思うのだが、その椅子はお煎餅のようにぺちゃんこにひしゃげて、ペラペラになり、部屋の中に打ち捨てられていた。

 そこだけ、ダンプトラックが突っ込んだような壊れ方だ。そして何かが違う。

 絵だ。

 そう、あの壁一面に貼られていた絵が、わずかに両面テープの跡を残して壁から消えていた。

 こころなしか、その毛布の芋虫からは嗚咽が聞こえて来て、震えているようにも見える。

「大丈夫?」泣いているのだろうか。ふとそう持って部屋に一歩踏み込むと、ガサガサと足元で音が鳴って、それが破かれた彼女の絵だと知る。


 そっとそれを持ち上げると、涙の痕があった。


「どうして破ってしまったの? こんなに綺麗に描けていたのに」


 そっと彼女の横たわるベッドに近づき、腰かけると、その硬さに驚いた。ベニヤ板でも入っているんじゃないだろうか。


「だ、どういて、高広は、あの狼の方が良いの……!?」


 顔を梅干みたいにくしゅっとさせてしまった京子の顔が布団から出てきた。随分と泣いたらしく目元は真っ赤っか。長いまつ毛は涙によってからめとられて、なんだかおかしい。


「それで泣いていたの?」

「う、うん」


 話し相手がとられたと思って泣いたのか。可愛い所があるじゃないか。可愛いのは見た目だけじゃないのかと、高広はニヤリとした。


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