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恋に金棒  作者: ねっしー
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 高広は頭をひねりながら長階段を一人下りていく。

 すでに監視をするはずの人間は、脱兎のごとく逃げ出し、警棒まで投げ出されて床に転がっていた。

 どんなに訓練をしても、いざ自分の身が死の一歩手前まで進んでいると気がつけばどうなるか。

 逃げるのだろう。

 一方、普通の人でない高広は、いつもと変わらない足取りで階段を下りる。

 いや、いつもよりは、ほんの少しだけ早歩きだった。


 自分にしか彼女達は姿を見せていないと知ってしまった。

 そしてそれ以上に、なぜ自分が選ばれたのかという疑問と、霊感のある人でさえ、うっすらと存在を感じられるほどである言い聞かされたことに戸惑いがあった。


 (まてよ。あそこにあったカメラにはもしかして俺が一人芝居している姿が映っているんじゃないか?)


 高広はまた一つ、自分の残念な姿が見られていることに気が付いて大きなため息をつき、悶えた。

 あのお犬様を担いで階段を上った時も、一人で見えない何かを背負ってあがってくる姿が見えたのだろう。彼らには彼女らの姿が完璧には見えない。だから、どんな姿をしているのかも、そして怒っているのかもわからない。だから怖かったんだ。


 何なら彼女らの家についたが、現在鼻歌まで聞こえるのである。これで本当に怒っているというのかだろうか。

 神様だって言っていた。神様の声は、普通聞こえないのだろう。ああ。また一人でしゃべることになるのか。なんなら虚空に向かって話し続けて階段を上ってやろうか。そう思う高広だった。


「どうもです。なんか空が凄いことになってるんですけど、どうしたんすか?」

「オウ高広!おそいじゃないか!!」


 とうの京子はというと、頭上に高らかと両手を上げ、それをブンブンと振り回し、ついでに腰まで振るという謎のダンスを披露している。あれか。あれが現在空を赤くしている中心か。

 超楽しそうなのを見て、思わずこちらも笑ってしまった高広は、ふと足元に転がる茶色い瓶を見つけた。

 ラベルに書かれた大吟醸という大きな文字と、高級なケーキみたいにフルーツの甘い匂いのする液体がわずかに漏れているのを見た。すべてを察する。


 神様は、なんなら鬼様は、お酒が好きらしい。

 一瞬、鬼殺しではないかと思ったが、聞いたこともない老舗のメーカーが出した物らしく、それはもう、気持ちよさそうに回っていた。


「ごめん!!我慢できずに!!だが、これは久しぶりの供物!!飲まねばなるめええ!!人間どもの中にもいいやつがいたものだ!!この我を忘れていないとは!!」

「そうですか良かったですね。僕いらないですね」


 高広が背中を向けると、途端に寂しそうな顔に京子はなってしまう。

 なんなら赤く長い爪の生えた指先を高広の指先に絡めて、誘うように柔らかくもむ。


「……高広? お前が一番じゃぞ……? おまえの分が無いのは、悪いことをしたと思うておる。ただこれはとても珍しいことなのじゃ」

「そうですか」

「そうじゃ。我を忘れぬ人間の子らに我は、とても気分がいいぞ」

「あのですね、空のあれを何とかできませんか」

「……」

「あと『~なのじゃ!』って言うの、いつもと違って可愛いですね」


 見染めた人にそう言われては酔いもさめるという物だろう。


 こうして平常は取り戻された。高広の名声は異常を鎮めたことでうなぎ上りである。


長らく後場沙汰しておりました。お待たせして申し訳ありません。これと対になるお話を現在手掛けておりましてこちらも更新する運びとなりました。

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