82使い捨て
登場人物
ガイン 主人公・エルモンドモンスター部隊副大将(★4アルカス)
パワー ガインの兄貴分でエルモンドモンスター部隊大将(★4モサ)
ホーク モンスター部隊長(★4シムルグ)
ボルンガ ホーク隊隊員(★3グリーンドラゴン)
間違えるはずもない、ウル様の匂いだ。
引きずられた方向に向かって匂いが続いている。
しかし、大きな木の根のところで匂いは途切れていた。
(ボルンガ、ウル様の姿を見たと言ったな。
何をしていた?)
兄貴が聞く。
(ここで、ウル様らしき狼が立っているのを見たんだ。)
ボルンがは言うが、匂いの残り方を考えるとウル様は引きずられていたはずだ。
立っていたのであれば、匂いは足跡のように残っているはずだからだ。
ボルンガが見た★4テンロウは、ほぼ間違いなくウル様ではない。
俺は近くの匂いを探す。
歩いている別の狼の匂いも見つかる。匂いだけでは★4テンロウかどうかまでは分からないが、ボルンガが見たウル様に近い姿は、たまたま近くを通ったあるいは敵の狼族だろう。
だが、俺が間違えるはずがないウル様の匂い。
引きずられた場所にしか匂いが残っていないが、なぜこんな場所に匂いが残っているのかが分からない。
(ホーク隊、周りに敵がいないか警戒してくれ。)
兄貴が指示を出す。
そうか。罠か。
俺達がウル様を必死に探しているのをノリクは想定しているはず。
これ見よがしに似た姿の★4テンロウを見せた上で、本物の匂いでおびき寄せて、罠を張って待ち構えていたんだ。
しかも、こんな捜索手段が取れるのはモンスターだけだ。敵は俺達モンスター部隊を標的にしている。
俺は、技の精神集中を始めた。
すると、敵を警戒しに空中に飛んだ隊員に向かって、森の奥から、多くの矢が放たれる。
(敵襲だ。迎撃するぞ。無暗に空中を飛ぶな。矢の的になるぞ。
負傷したものは、無暗に動くな。木の陰に隠れろ。)
兄貴が全員に向かって叫ぶ。
(ホーク隊、木の枝の上に待機。
近づいてきた敵に遠隔攻撃。
強化技の使える者は待っている間に使っておけ。)
ホーク隊長も指示を出す。
当然のことながら、敵の方が風下。
罠を張っているのだから当然だよな。
しかし、木の生い茂った森の中ではこちらが不用意に空を飛ばない限り、弓の攻撃だけでは与えられる打撃も限定的なはず。
敵も俺達に致命的な打撃を与えるためにはどうしてもこちらに近づいてくる必要があるはずだ。
(ブレス)
(モラル)
兄貴やホーク隊長が指示している間に、俺は味方の支援技を発2つ動させた。
これらは近くにいる味方全体の強化技だ。
効果時間が短いのが難点だが、ブレスは全員の物理攻撃命中率やダメージ、モラルは近接攻撃命中率と士気及び恐怖耐性を上げることができる。
集団戦では必須の技と言える。
(ブレス)
(モラル)
その間に、敵の★3ダイアウルフ2匹も技を発動していた。
流石に敵も定石は外さないか。
木の陰に隠れて全部は見えないが、見える敵は、前にいる★4テンロウ、★3キラーウルフ2匹、★3ダイアウルフ2匹、20人くらいの人間。
数は俺達と同じくらいだが、敵はこれで全部とは限らない上に、明らかに敵の方が平均レベルが上だ。
俺と兄貴で早い段階で敵の数を減らさないと厳しいな。
(ストレングス)
(シャープ)
支援が終わり、敵が動き出してきたが、待ち受ける間に俺はさらに強化技を重ねていく。
兄貴も木の陰で、精神集中をしていた。
そうしている間に、十数人の人間と★4テンロウ、★3キラーウルフ2匹、★3ダイアウルフ2匹が近づいてくる。
ホーク隊は全員木の枝の上のはずだから、人間の弓と遠距離技にさえ注意すれば、守ることを考えずに戦えるはず。
(チェインライトニング)
人間が多数固まっている所に、兄貴が技を放つ。
「熊が高度な攻撃技を使ってきます。」
敵兵の声が聞こえる。
本来俺達熊族は攻撃技を苦手としているが、兄貴も俺もその分努力して習得したんだぜ。
「余計な事言ってないで、さっさと制圧しろ。」
後ろにいるローブ姿の奴がボスか。
手下を先に倒さないと攻撃に行くのは無理か。
(トルネード)
ホーク隊長が、攻撃技を続ける。
続いて、ホーク隊の隊員たちも、ウィンドショットなどで敵を攻撃し始める。
弓と技の遠距離攻撃による応酬が始まった。
(ブリザード)
敵ボスが魔法を放ってくる。
横にいる兄貴を狙ったようだが、見ている余裕はない。
当然俺と兄貴の両方が攻撃範囲に入ることがないよう、兄貴とはある程度の距離を取っている。
少しでも早く敵の数を削らないと。
その時、敵の★3キラーウルフ1匹が俺に攻撃しようと前に突出してきた。
何か技のためをしているようだが、その時間が隙になるんだぜ。
(ジャンピングクロススラッシュ)
俺は、キラーウルフに向かってジャンプすると、必殺技のジャンピングクロススラッシュを放つ。
これは、ジャンプアタックのスピードとトリプルスラッシュの連続攻撃を組み合わせた俺が編み出した必殺技だ。
さらに俺にはストレングスとシャープの強化がかかっている。
相手が格下であることもあり、俺は★3キラーウルフを一発で仕留めた。
(1匹倒したぞー。)
俺は叫ぶ。
隊の士気向上のためだ。
(ライトニング)×2
★3ダイアウルフ2匹が、俺に技を放ってくる。
かなり痛いが俺はまだまだ耐えられるぜ。
俺達熊族の最大の強みはタフさだからな。
こいつらは人間の後ろにいるから直接攻撃には行けない。
近い奴から片付けていかないと。
前に出てきた★4テンロウともう1匹の★3キラーウルフが厄介か。
俺は見回すと、★4テンロウが地面が揺れて立つことができずに地面を転がっている。アースクエイクか。
(ガイン大将、そいつ頼むぜ。
俺は仕留める技がないから他に行く。)
ボルンガの声だ。
確か、ボルンガはアースクエイクを持っていたな。
(ボルンガ、任せとけ。)
俺はボルンガに合図すると、ボルンガは精神集中を始めた。
アースクエイクで空中から敵を次々と行動不能にしていくつもりなのだろう。
俺は、地面の揺れの範囲からようやく出ようとしてきた★4テンロウにジャンピングクロススラッシュを喰らわす。
強化技がかけてあっても、さすがに同格の★4だけあって1発では倒せない。
だが、俺の必殺技はしっかり決まり、かなりの深手を負わせた。
(トリプルスラッシュ)
(トリプルスラッシュ)
俺と★4テンロウは、お互い次の技を放つ。近接戦で最も早いトリプルスラッシュだ。
俺の方が早く、テンロウの牙が届かないうちに、俺の牙がテンロウの首を捕えた。
悪いな。貰ったぜ。
俺は★4テンロウの首筋を切って止めを刺す。
これで、2匹。
周りを見回すと、★3キラーウルフが倒れている。
兄貴に倒されたらしい。
さらに兄貴は、何人もの人間を薙ぎ払いでぶっ飛ばしていた。
「この熊ども強すぎます。」
敵兵の声が聞こえる。
「撤退するぞ。」
後ろのボスは、そう言うと★3ダイアウルフに乗って、逃げていく。
(アースクエイク)
そこに、ボルンガが飛んでいき、敵の真上からダイアウルフごとアースクエイクを放つ。
ボルンガ、やるじゃねえか。
しかし、敵ボスは地面に引き込まれる前にフライトを使って空中に逃れると、さらに何か魔法を放つ。
ボルンガの動きが止まり、ボルンガが地面に落ちる。
(ボルンガ)
兄貴が、ボルンガの方へ走っていく。
まだ敵がいるところを突っ切るのはあぶねえ。
俺は敵ボスを睨むと、精神集中をしているふりをする。
いつでも飛び出せるように、そして、敵ボスの魔法の標的が俺に向かうようにだ。
ホーク隊から敵ボスに何発ものウィンドショットが放たれる。
これで倒せはしないが、ボルンガに止めを刺すだけの余裕はないと判断したようで、敵ボスは飛んで逃げていった。
その間にダイアウルフもアースクエイクの範囲から転がって脱出したようで逃げていく。
そのあとを敵兵が追いかけていった。
(全員無事か?)
俺は兄貴がボルンガの傍で回復技の精神集中を始めるのを確認すると、他の隊員に呼び掛ける。
ホーク隊長に確認してもらい、全員の無事を確認できた。
俺は胸をなでおろす。
あとは、ボルンガだけだな。
(まだ敵がいる可能性がある。怪我のないものは木の上から敵襲に備えろ。)
ホーク隊長が指示を出す。
ホーク隊長も大分戦闘慣れをしてきたようだな。
ボルンガにかけられたのは麻痺の魔法のようだ。
兄貴がクリアランスを何回も重ねがけしてようやく動けるようになった。
(今日はこれで撤退するぞ。)
兄貴が言う。
ホーク隊のメンバーの殆どは夜に目が見えなくなるため、追撃は困難だからだ。
(たすけてくれ・・・)
俺達が撤退をしようとすると、後ろから声が聞こえてきた。
振り向くと、さきほど倒した★3キラーウルフが苦しんでいる。
意識を取り戻したらしい。
(俺は裏切ってない・・・)
とりあえず危険はなさそうだが、俺にはキラーウルフが何を言ってるのか理解できなかった。
キラーウルフがしている首輪がキラーウルフの首を絞めているようだ。
(首輪が苦しいのか?)
俺は聞くが答えはなく、前足で首輪を引っ搔こうとしたままキラーウルフは動かなくなった。
俺はキラーウルフの息を確認すると息をしていない。
既に死んでいた。
俺は、もう1匹のキラーウルフと★4テンロウも確認する。
★4テンロウは俺が止めを刺したようだが、もう1匹のキラーウルフも前脚で首輪を引っ搔こうとして死んでいた。
(首輪に絞め殺されたようだな。)
後ろで見ていた兄貴が言う。
(奴ら、味方を使い捨てかよ。)
俺は今まで敵として戦ってきたこいつらに同情すると同時に、こいつらを使い捨てにした奴らへの怒りが込み上げてきた。
(ガイン、こいつらの死体を連れていくぞ。
首輪について調べる必要がある。)
兄貴がそう言うので、俺と兄貴で3匹の狼の死体を背負って、ホーク隊と一緒に戻ることにした。
完全に日が暮れたが、俺達は全員エルモンドの町に無事帰還した。
俺は、ホーク隊長に気付いた課題を話して明日以降検討してもらうことにして、休憩してもらった。
その後、俺達は狼達の死体を館の前に下ろすと、アランさんを呼んで、オーウェル様に報告をすることにした。
オーウェル様が館から出てくる。
「パワー殿、ガイン殿、お疲れさまでした。
全員無事だったそうで何よりです。
この狼達は誰ですか?」
オーウェル様が話してくる。
(俺様達を襲ってきた敵部隊が連れていた奴らだ。
敵部隊は撃退して追い払ったんだが、こいつらが首輪に絞められて苦しみだしたんだ。
どうすることもできなかったぜ。
この首輪は何なんだ?)
兄貴が言う。
「これは恐らく支配の首輪ですね。
これを付けたモンスターは、持ち主に危害を加えることができなくなるだけでなく、持ち主から一定以上の距離を離れると、首輪が締め付けて逃げ出したモンスターを殺すようになっているのです。」
オーウェル様が言う。
(ひでえな。使い捨てかよ。)
俺が言うと、
「これがノリクのやり方です。
一部の限界突破種は幹部にしているようですが、ノリクは殆どのモンスターを使い捨てとしか考えていません。」
(こいつ死に際に、俺は裏切っていない。助けてくれって言っていた。
最後まで逃げずに戦った仲間に対する仕打ちがこれかよ。)
いつかノリクを倒し、お前らの仇も取ってやるぜ。俺はそう思った。